2008年06月13日

幻影師、アイゼンハイム 73点(100点満点中)

げん、えいしッ、アイゼンハイムッ♪ ×5
公式サイト

スティーヴン・ミルハウザーの短編小説を映画化。

と言っても、人気マジシャンであるアイゼンハイムが、リアルな降霊ショーを行い、逮捕の瞬間自らも幻影と化す、という部分が同じくらいで、メインストーリーは全くの別物に変えられている。この種の作品はオチを知らない方が楽しめるので、改変はありがたい限りだ。

原作では、ライバルとの奇術合戦、興行合戦の様子という、奇しくも本国では同時期公開となった類似映画、『プレステージ』を彷彿とさせる展開が中盤のメインとなり、それ自体が大いなる奇術トリックだったとの、意外なオチで驚かされるのだが、今回の映画版も、作品そのものが一つの大きな奇術トリックとして、観客をミスリードさせるものだった、との体裁であり、幾分通ずる部分はあるのかもしれない。

だが本作、前半に繰り広げられるメロドラマは、類型的なキャラクターが決まった筋書きを演じているだけの、極めて凡庸で退屈なもので、かなり退屈である。のだが、その退屈な時間が実は、奇術における、客をイライラさせてテンションのギャップを高めるための、意図的な焦らしと同じ効果を狙って設定されていると、好意的に見れば考える事も可能。

そして、中盤の事件からムードが一転し、権力に対する復讐劇へと展開していくのか、そのためのオリジナル三角関係かと観客に思わせ、今後の展開への興味を惹きつける段を、殊更に印象づけるための準備であると、受け取る事も出来る。つまりは全て、ミスリードのための仕掛けであったという事だ。だからと言って、前半を観ている段階では、退屈である事に変わりはない。もう少し興味を持たせる用意は、あって然るべきだったろう。

皇太子の剣を引き抜くマジックのシーンにて、皇太子の人間性に疑問を抱かせておくのも、ミスリードへの誘導および、彼が辿る運命への必然としているなど、有意に絡められた描写と構成は、後から考える程に細かく周到されている。

最後の最後で全てを引っくり返すだけでなく、復讐劇の進展と結末に対しての興味によって、後半の展開を楽しめる様に作っている事は、前半と違ってよくしたもの。これにより、大オチが無くともそれなりの満足は得られる事となる。そして大オチがあるのだから、満足はそれなりどころでは済まされない。

全ての要素が大オチへの必然ではあるが、特に、主人公アイゼンハイムと敵役の皇太子との間に位置する、ポール・ジアマッティ演じる警部の存在が、極めて有用に配置されている事が、大きなポイントとなる。

皇太子に仕える身ながら、自身が奇術マニアでありアイゼンハイムのテクニックを尊敬しているからこそ、仕事と私情の板挟みになって逮捕に踏み切れず、むしろ主人公の言葉を信じて皇太子を疑ってしまう、との、彼の葛藤と動向が、誰が見ても納得がいく様に設定されている事が、作品のキモとなっている。

この、両者に対する警部の視点、距離感が、いつしか観客の視点と一致しているからこその、大オチとなるのだ。

全てがトリックだったと気づいた警部の、驚きと呆然、騙された怒りとトリックへのリスペクトなど、複雑な感情がないまぜになった表情は、その時観客が抱いた感情と全くシンクロする。アイゼンハイムが警部や皇太子の心理を読んで誘導したのと同様、観客の心理もまた作り手によって誘導させられていたのだ、と気づけばこその同調である。

舞台上で見せられる奇術を、実際のトリックではなく特撮を用いて見せてしまうのは、『怪奇大作戦』の『壁抜け男』を彷彿とさせられる。そう言えば幻影のトリックは同じく『怪奇』の『殺人回路』のギミックだろう。

その様に、奇術を"あり得ない"特撮として見せているのは、奇術のタネが本作の主眼ではないと伝える(これは原作と同じ)と同時に、タネなど最初から存在しないのだと観客に思わせておき、作品そのもののタネ仕掛けからも眼を背けさせる、誘導のテクニックによるものだ。それにより、奇術ショーではなく、ドラマ自体に騙しトリックを仕込む事に成功しているのだ。

そして見事に騙してくれたのだから、劇中の警部同様に、畏れ入る他ない。

時代性および殺伐とした見せかけのドラマを醸すべく、色調が落とされた本編映像と、そこから一転して色鮮やかな風景を眼前に広げる、ラストシーンの牧歌的な色調、そのギャップによっても観客の感情を誘導し、驚きはするが「うわぁ…」と鬱にさせられる『プレステージ』とは真逆の、爽快な余韻を持って鑑賞を終える事が出来る。(人が死んでんねんで!)

だが、同じく時代性を醸すためのギミックとして用いられている、手回しカメラを意識したフィルム速度の変調は、単に見辛いだけでやりすぎだろう。からくりロケットはどう考えても、中の写真が切れると誰でも突っ込んでしまうのも問題か。ウィーンなのに英語台詞なのもご愛嬌。

『プレステージ』レビュー


tsubuanco at 17:19│Comments(2)TrackBack(14)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 幻影師アイゼンハイム  [ 映画鑑賞★日記・・・ ]   2008年06月13日 19:34
【THE ILLUSIONIST】2008/05/24公開製作国:アメリカ/チェコ監督:ニール・バーガー出演:エドワード・ノートン、ポール・ジアマッティ、ジェシカ・ビール、ルーファス・シーウェル、エドワード・マーサン “すべてを欺いても手に入れたいもの、それは君。”
2. 幻影師アイゼンハイム  [ ☆彡映画鑑賞日記☆彡 ]   2008年06月13日 21:05
 『すべてを欺いても 手に入れたいもの、 それは君。』  コチラの「幻影師アイゼンハイム」は、19世紀のウィーンを舞台にエドワード・ノートンが奇術師を演じ低予算のインディペンデント映画ながらも本国アメリカでは好評を博した5/24公開のロマンティック・ミステリ....
3. 幻影師アイゼンハイム  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2008年06月13日 22:59
公式サイト。スティーヴン・ミルハウザー原作、原題The Illusionist、ニール・バーガー監督、エドワード・ノートン、ポール・ジアマッティ、ジェシカ・ビール、ルーファス・シーウェル。最初から目的は決まっている。ジェシカ・ビールの美しさを堪能すること。19世紀末のウィ...
4. 『幻影師アイゼンハイム』 (2006) / アメリカ・チェコ  [ NiceOne!! ]   2008年06月14日 07:56
原題:THEILLUSIONIST監督・脚本:ニール・バーガー原作:スティーヴン・ミルハウザー出演:エドワード・ノートン、ポール・ジアマッティ、ジェシカ・ビール、ルーファス・シーウェル試写会場 : よみうりホール公式サイトはこちら。<Story>19世紀末ウィーン。ハ...
5. 幻影師アイゼンハイム 2008-37  [ 観たよ〜ん〜 ]   2008年07月06日 22:53
「幻影師アイゼンハイム」を観てきました〜♪ 19世紀のウィーン、君主制の末期のこの時代、一人のイリュージョニストが一世を風靡していた。彼の名はアイゼンハイム(エドワード・ノートン)。或る日、アイゼンハイムは、幼馴染のソフィ(ジェシカ・ビール)が皇太子(ル...
6. 幻影師アイゼンハイム■これは警部ウールの物語  [ 映画と出会う・世界が変わる ]   2008年07月20日 07:23
この映画には大きく二つの物語がある。まず、主人公アイゼンハイムとソフィー。そしてソフィーの結婚の相手となっている皇太子。この三角関係の中のアイゼンハイムとソフィーの恋の行方。もうひとつは皇太子に追従することで警察官僚からウィーン市長への出世街道を歩むウ...
7. 幻影師アイゼンハイム■ヒロインは魅力不足  [ 映画と出会う・世界が変わる ]   2008年07月21日 07:51
「幻影師アイゼンハイム」の予告編を見たときに、あるシーンについて「これはもしかしたら、本編のラストシーンではないか」と思わせる、そんなシーンがあり、実際に本編を見ると、ラストシーンそのものではないが、ラストシークエンスの一場面であった。実はチラシに「『...
8. [映画]幻影師アイゼンハイム  [ お父さん、すいませんしてるかねえ ]   2008年08月06日 11:57
エドワード・ノートンが一時期、俳優の前職の都合で日本(大阪)に滞在していたと聞いてから、異様な親近感を覚えています。 ハリウッド俳優らしくないってことの裏返しかもしれませんが。 あらすじを簡単に 19世紀末のウィーンでは、大がかりな「奇術」が流行していた。 中
9. 「幻影師 アイゼンハイム」  [ 心の栄養♪映画と英語のジョーク ]   2008年11月14日 18:22
19世紀末、ハプスブルグ帝国終末期のウィーン。天才と評され絶大な人気を集める幻影師、 アイゼンハイム(エドワード・ノートン)。ある日、評判を聞きつけた皇太子レオポルド(ルーファス・ シーウェル)が観覧に訪れる。ショーの途中、皇太子が同伴していた婚約者を舞台に招い...
10. 映画『幻影師アイゼンハイム』を観て  [ KINTYRE’SDIARY ]   2008年12月10日 08:32
56.幻影師アイゼンハイム■原題:TheIllusionist■製作年・国:2006年、アメリカ・チェコ■上映時間:109分■字幕:松浦美奈■鑑賞日:6月19日、シャンテシネ(日比谷)■公式HP:ここをクリックしてください□監督・脚本:二ール・バーガー□原作:スティーヴ...
11. 幻影師アイゼンハイム  [ ★YUKAの気ままな有閑日記★ ]   2008年12月18日 19:15
レンタルで鑑賞―【story】19世紀末のウィーン。魅惑的なイリュージョンで、大衆の心をつかむ幻影師アイゼンハイム(エドワード・ノートン)の評判を聞きつけた皇太子レオポルド(ルーファス・シーウェル)は、婚約者のソフィ(ジェシカ・ビール)を連れて彼のショーを観覧す...
12. 種も仕掛けも  [ MESCALINE DRIVE ]   2009年01月18日 21:46
エドワード・ノートンとポール・ジアマッティの演技巧者が静かに火花を散らすところも見所だ。 「幻影師ア...
13. 【映画】幻影師アイゼンハイム…警部さん惜しくも髭男爵ならず  [ ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 ]   2009年03月21日 20:04
奇跡の三連休全部休み{/up/}{/up/}…を満喫しようと思っているけど何の予定もないピロEKです{/face_ase2/} で、今日{/hiyoko_cloud/}{/kaeru_fine/}は…嫁さんと娘に付き合ってデパートとスーパーその他諸々でお買い物(近所にできた行ったこと無かったお店5件をハシゴも...
14. 「幻影師アイゼンハイム」(The Illusionist)  [ シネマ・ワンダーランド ]   2009年03月28日 22:27
ピューリッツアー賞作家スティーヴン・ミルハウザー原作の小説を「クラッシュ」や「サイドウェイ」のアカデミー賞製作スタッフらがつくったミステリー・サスペンス「幻影師アイゼンハイム」(2006年、米、ニール・バーガー監督、110分)。本作は一度はあきらめた初恋...

この記事へのコメント

1. Posted by 天そば   2008年06月13日 22:34
伯爵令嬢の芝居がちょっとリスキー過ぎるような気がしましたし、その遺体を主人公が勝手に引き取ってしまえるものなのか、身代わりを用意したのか。。。
まあささいな事ですが。
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月15日 19:47
フェイクの死体くらい、アイゼンハイムなら一晩で用意出来るでしょう。
何せ折りたたみの生オレンジを作れるくらいですから。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments