2008年06月20日

裏切りの闇で眠れ 9点(100点満点中)

裏切ったのではない、表返ったのだ!
公式サイト

フランス暗黒街を舞台としたクライム映画。昨年のフランス映画祭にて『暗黒街の男たち』という邦題で公開された事もある本作、正式公開となる今回の邦題は、明らかに『あるいは裏切りという名の犬』を意識したものだ。

『あるいは〜』の監督オリヴィエ・マルシャルが、主人公のパートナー役として出演している事および、邦題に惹かれて観にきた観客は、『あるいは〜』とは作風も完成度も全く異なる本作に、いろんな意味で驚かされる事となる。もちろん悪い意味も大きいが。

主人公(ブノワ・マジメル)のキャラクター性を説明するプロローグでは、逆光を基調としたナイトシーンの照明にて醸されるフィルム・ノワール的空気と、主人公が行う"仕事"の非情かつ迅速な手際によって、少なからず興味を持たされる事となる。

走行中の車内で行われる仕事場面にて、銃が発射される瞬間のみ外から車を捉えた視点となり、夜の道路を走る黒塗りの車の、真黒なウインドウが轟音と共に一瞬光るという、見せない事で却って想像を引立てる演出は面白い。

その後も、殺人にまつわる描写は、リアリティを基調に置きつつ、映像、演出としての見栄え凄惨さを両立させるべく周到されており、その場その場のインパクトとしては良くしたものだ。

だが、プロローグの殺人場面が、いろいろと思わせぶりな描写がありつつも、結局のところ本筋のストーリーには特に絡んでこない事に始まり、作劇、構成において、意味ありげな伏線や前フリらしき事象、事物、人物らが、結局何もなくスルーされたまま投げっぱなし、との状態があまりに多く、ストーリーの方向性を見え辛くしているのが、まず大きな問題となる。

ボスの妻の妊娠にまつわる揉め事を、ある程度の時間を割いて印象づけておき、更には最後の暗殺シーン直前に、その事を思い出させる様なせ台詞を用意しておきながら、結局ボスや妻の性格を説明する以上の役割を果たしていない、などがそれにあたる。

そうした、何の意味があるのかが曖昧な場面、描写が散在するだけでなく、前段の説明無しに登場する人物が多すぎ、それらがまた、どこに向かっているのかが曖昧な行動をとっていくために、前半部では、誰が何者でどう繋がって、何を考えて何をしているのかが、把握し辛いにも程がある惨状となっている。

これでは観客は興味を失い爆睡し、余計にわけがわからなくなる事必至だ。作ってる側だけがわかっている状態で、知らない人に伝える考えが全く欠けている、自作を客観視する観点に欠けている事が原因であり、それが全ての問題の根源である。

駐車場での強奪シーンでも、この時点で、人物構図や流れがしっかり掴める様に作劇がなされていたのなら、遠くから覗き見ている様な視点の映像や、不安定に揺れる映像、思わせぶりな行動をとる人物達、などによって、一体何が行われるのかとハラハラし、銃撃戦に対しても、誰がどうなるのかに興味を持って、ドキドキしながら楽しむ事も可能だった筈だ。

のだが実際には、状況をつかめないまま思わせぶりな演出だけを見せられてしまうため、全く興味は生じず、銃撃戦になっても、誰がどちら側で誰に撃っているのか、撃たれた人物が誰なのか、何もわからないままな事で、全く盛り上がらない。これで楽しめるわけがない。人身売買シーンなども、ストーリー的な意味は皆無で、ただショッキングなシーンを見せたい事と、裏切り勢力の悪辣さを見せたいだけでしかない。その割には思わせぶりが過ぎるため、落胆が大きくなるのだ。明らかに作劇構成に失敗している。

後半の後半になり、主人公が裏切りを決意し始めたあたりから、やっとストーリーの流れがまとまり、興味もわいてくるのだが、何か特別な作戦でも立てて、意外な裏切り方を見せてくれるのかと思いきや、特に何もなく邪魔者を銃殺するだけで、また拍子抜けとなる。ボスが服役中に筋トレに励んでいる描写を何度も見せたのだから、ボス側の反撃やどんでん返しがあるのかとも思わせて何もなく、ただ撃たれて死ぬだけ。何だそれは。

ボスを裏切るために手を組んだ勢力が、ボス暗殺後に主人公宅を襲撃する場面でも、暗闇を利用した映像演出でサスペンス性を高め、この後何が起こるのだろうと期待するだけさせておいて、意外な反撃やオチがあるなどはなにもなく、ただ逃げて不在だっただけ、では、拍子抜けにも程がある。

主人公が逃亡するシーンでも、警備犬とのやりとりなどで興味を持たせておきながら、結局逃げただけで終わり、逃げた先の描写も特に意味がなくそのまま終わり、では、一体何がしたいのか。

ボス夫婦と友人夫婦の対比も全く活きておらず、裏切りを行う者が嫁の裏切りを許せない、との矛盾も、全くその後の展開に影響せず、その場限りだ。何もかもが不足すぎる。

『あるいは裏切りという名の犬』レビュー


tsubuanco at 16:19│Comments(0)TrackBack(0)clip!映画 

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