2008年06月21日

奇跡のシンフォニー 69点(100点満点中)

真夏のファンタジー
公式サイト

フレディ・ハイモア主演の、母をたずねて物語

『この道は母へと続く』という、日本の名作劇場アニメを意識したであろうストーリー、演出にて作られたロシア映画と、構造的な近似を感じさせられる本作だが、子供だけでなく親の側のドラマも多く語られる、との差異よりむしろ、音楽を題材とし、作品自体の有りようを支配している事が、観客を飽きさせない要因として大きい。

『オリバー・ツイスト』『家なき子』か、とでも形容すべき、孤児ものの定番ストーリーは、全てが都合よく展開していく、御都合主義極まりないものだ。だが、現代のアメリカを舞台としながらも、廃劇場に代表される、時間が止まったかの様な古めかしい場面設定によって、意図的にリアリティを薄れさせる、美術やロケーションの工夫からも、全ては"名作孤児もの"の寓話性を現代に再現するとの狙いによるものだと、見て取る事が出来れば、御都合主義を殊更な難点として感じる事は無い筈だ。

あらゆる局面に音楽を用い、エモーションの表現とストーリー展開の双方を兼ねている事もまた、御都合主義感を軽減させるものとして、大いに狙いが果たされている。何故音楽が流れるのか、との理由付けとして、両親は共にミュージシャンだから、演奏の様子として曲が流れるのは当然で、更にはその二人の間の子供だから音楽の天才であり、ゆえに音楽を自ら学んでいく、と、この時点で既に御都合主義なわけだが、それを言っては話が始まらない。

要は運命なり奇跡なり才能なりを、描写として納得させる事が出来ているかどうかが、単なる御都合主義と誹られるか、確かに御都合主義だが構わない、と楽しまれるかの、分岐点となる。

各人物の演奏や歌唱をまず聴かせる事が、その人物のキャラクター説明の意を成している、との手法を受け入れられるかどうかでも、本作に対する印象は全く変わったものとなるだろう。それは観客自身の観る、聴く姿勢とセンスの問題だ。

冒頭、主人公が麦畑で音楽を体感している描写にて、彼が音楽の天才であると端的に示しているシーンから、その方向性は瞭然である。同じく冒頭の、父と母がそれぞれ別の場所で行っている演奏を、交互に切り返して見せ、聴かせていく構成もまた同様。

まず両者のジャンルの違いを明確とした上で、その違いが社会階級差をも表しているまでは、誰にでも理解出来る筈。その上で、父のボーカルにおいては、メロディや歌唱法だけでなく歌詞の内容も含め、幾分ウェットだが本来は情熱的であるキャラクター性を提示。一方母の側も、バイオリンよりも低音が響き、同じくウェットな情熱を表しやすいチェロによって、二人の内的な近似を比較し、更には、ロックパートのボーカル曲にチェロが融合されて一つの楽曲と化す事で、二人が出会い結ばれる事が必然的な"運命"に他ならない、と示している。

その後に展開される実際の出会い場面が、あまりにスムーズすぎて呆気ないのは、音楽場面によって心情の交錯が既に描かれているからこそである。このやり口はここにかぎらず、全ての展開、描写にて用いられている、本作の有りようを象徴するものだ。だから、これが理解出来ないと、本作を楽しむ事は難しくなる。

二人の音楽的融合をまず冒頭に描き、また終盤にても、同じシチュエーションを繰り返しているのは、それはクライマックス直前の段にて、それまで離れていた二人の気持ちと距離の双方が、この直後に再び結ばれる事への示唆、前段だからこそだ。この事でも、音楽演奏が心情展開を表現している事が顕著となる。

主人公の"音楽の拠点"の変移を導く事となる、黒人の少年と少女との出会い場面が、それぞれの演奏、歌唱シーンである事も、キャラクター説明と運命の推移が、音楽によって同時に行われている事を示す要所となる。この二人と児童福祉局員など、主人公を新しい場所へと誘う存在が黒人ばかりというのも、極めて寓話的であり興味深い。

そうした、意図的に同じあるいは似たシチュエーションを反復させて、運命とその変化を象徴的に見せる手法は、随所に用いられている。先述した冒頭の麦畑シーンでは、自然音を音楽として体感する、ありがちでわかりやすい描写でまず導入の役割とし、続いて都会の喧騒を音楽として体感する場面でも、同様の演出手法を用いる事で、両者のギャップによって強く印象づけ、主人公の天才性にインパクトを持たせている。その流れでメモを失わさせる事で、単なる説明描写ではなく、"天才の運命"を必然とし、ストーリー展開との継目をなくし融合させる、との意図も成功している。

都会の人ごみに逆らい一人歩く様を、孤独や不安の表現とし、後半の音楽院場面では、孤高の天才であり一人浮いている主人公が、だがだからこそ認められ受け入れられている、との、"天才の居場所"をそれぞれ表す構成として用いられているのも、反復の一環だ。"日を数えている"事を福祉局員に伝えるくだりを、子と母とで重ねているなども同様。

ラストの狂想曲にて、冒頭シーンを想起させる"風の音"で演奏を始め、黒人少女のスキャットを後半から参入させるなど、音楽的にも映画的にも、彼が辿ってきた運命の総決算としている事で全てが収束される様な、伏線とまとめの使い方も、意外としっかりしているのだ。

ワシントン・スクエア・パークを、運命的な拠点と設定した点においても、両親の出会いの時点で既に、後に親方として登場するストリートミュージシャンを登場させておく事で、音楽が導く運命を徹底させているなど、全てが必然としてまとめられた構成は、御都合主義の範疇を超えたものとして、充分に評価に値する。

その親方にしても、普通なら単なる悪役、障害物としてのみ配置するであろう人物を、彼には彼なりの人生観や音楽への情熱があるのだと、少ない描写ながらに気づかせるなど、単純ないい人、悪い人として人間を描かない配慮が象徴されたものだ。彼なりに善かれと思っている事が、作劇の要所に感じられればこそ、強く印象に残る事となる。

もちろん演じるロビン・ウィリアムスの演技力も大きい。彼だけではない。主人公に対する根拠のない優越感が、いつしか嫉妬へと化していき、だが憧れをも忘れない、黒人少年の演技や歌唱も素晴らしい。大人顔負けの歌唱力と、同じ声で牧師を呼ぶシャウトを聞かせ、反する子供らしい無邪気さをも表現しきった、黒人少女もまた強く印象に残る。

何より主人公、フレディ・ハイモアの、音楽を奏で、表現する事が、心の底から幸福でたまらないと伝えきる、演技の確かさは見事。その演技に音楽が加わるのだから、感じ入らないわけがないのだ。ただし演奏シーンの自然さに比して、肝心のラストの指揮場面に限って、棒立ちで躍動感のない、素人目に見ても上手いとは思えないアクションに終わったのは、大いに残念。もうひと頑張りほしかった。

同種のいわゆる感動ドラマの様な、殊更な大仰な演出を用いた"泣かせ"を行わない、好感の持てる印象は、音楽による表現を第一義とした、本作の構造によるものとは先述の通り。その音楽を、BGMではなく劇中における現実音楽として聴かせる事で、場面の盛り上がりが自然に音楽の盛り上がりとシンクロし、感動の押しつけを感じさせない作用となっている。これは河森正治が『マクロス7』で試みた手法にも似たものだ。

中盤の展開、アウトローの元でワイルドに音楽を学び、続いて音楽院でエリートの音楽をも学び、両方を自らの基盤とし融合させ、独自の音楽を磨いていく、との展開は、主人公が正と邪の拳を学び融合する『少林寺木人拳』をも想起させる。


tsubuanco at 15:13│Comments(5)TrackBack(18)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by kame   2008年06月24日 12:20
この映画は意外と良く出来ていて、見て良かったな〜と思った作品でした。「泣かせ」がないから見終った後が爽やかだったんですかね。
父と子がそうと知らずに一緒に演奏する場面が好きです。
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月24日 17:34
親子三人が抱き合って泣くシーンまで見せずに、サッと終わらせたのも良かったです。
3. Posted by Ageha   2008年06月25日 01:46
ものすごい演奏を吹き替えでやって
とにかくその神童ぶりが
極端でしたが、
感動の1作でした。

楽器演奏をあそこまでやって
それに対してタクトを振る彼が
小学校の音楽会レベルだったのが
確かにちょっと悲しかったですね。
のだめカンタービレと比較するわけじゃないですが
指揮を侮ってます・・。
4. Posted by つぶあんこ   2008年06月25日 17:39
全く、どうして指揮だけがいい加減な演技だったのか、大いに疑問です。
5. Posted by kimion20002000   2009年03月30日 12:53
異なるジャンルの音楽のリミックスのような展開でしたが、音楽プロデューサーがすばらしいと思いましたね。
あまりにそれがテーマなので正面法なのですが、映画のエモーショナルにとって音楽の持つ存在感は、とても大きいですね。

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