2008年06月24日

REC/レック 68点(100点満点中)

動物に触ったら手を洗おう
公式サイト

ビデオカメラで撮影された映像をそのまま見せる、との体裁による、擬似ドキュメント形式の感染パニックホラー映画。

同じスタイルにて作られている『クローバーフィールド』の存在がつい最近にあるだけに、どうしても比較してしまうのは仕方ない。そして本作、スケールや予算の差は別としても、全体的な完成度としては今ひとつ及ぶものではないのが残念。

最も大きいのは、全編通して観客を飽きさせないための配慮の差だろう。『クローバー』では、事が起こる前においても、少しだけ複雑な事情があるらしき人間模様に対し、少なからずの興味を惹かされる事で、登場人物の説明を基盤としたパーティ場面を、退屈する事なく観る事が出来た。事が起こってからのノンストップに関しては言うまでもない。

一方本作は、事が起こるまで、具体的には現場に移動するまでの序盤の展開が、単なる説明と段取りに終始するのみであり、作中の理由付けとなっている消防士ドキュメントとして見ても、全く興味を惹かれない退屈なものである事が、最初の問題となる。この時点で観る気をなくされては、緩急の狙いどころではなくなってしまう。

先に挙げた『クローバー』のみならず『ブレアウィッチ・プロジェクト』『ノロイ』など同種作品において、これから見せられる映像が、どの様な状況にて存在するものなのか、との、冒頭に説明がなされる定番要素が存在しない事も、興味の方向を上手く誘導出来ていない要因だろう。

中盤に小休止的に展開する、人間同士の揉め事パートも同様。アジア人差別を揶揄するかの様なやりとりや、老夫婦の噛み合わないボケ同士の会話など、意味ありげに見せられるものが、結局その場限りの揉め事に終わり、前段とも今後とも、特に有意な繋がりを見せない。この人間模様の無意味さによって、ただテンションを停滞させているだけの、退屈で冗長な中だるみに終わっている。

薬を買いに外に出た父親や、上に残されたおじいちゃんなどの、何らかの伏線かと思わせた情報が投げっぱなしで、建物内に残った人達が最終的にどの様に感染発症したかも、半数近くが曖昧なままだ。その曖昧さが、主人公の不安感とシンクロして盛り上がるのではなく、物足りなさとなっているのは、重点の置き方が不明瞭な作劇バランスの悪さによるものだ。

視点を単一とした作品スタイルの長所を活かしきれず、逆に弊害が出てしまい、"わからない"事が悪い方向に働いた結果と言える。

だが一方、見どころであるパニック、サスペンス、ホラー関連の描写、表現においては、カメラ視点の手法が活かされた、秀逸なものが多く観られる事も確かである。退屈なところは忘れて、ハイテンションな部分のみ楽しみきったほうがお得だ。

テレビの取材であるとの設定により、カメラを最後まで手放さない理由付けとして、基本的なツッコミをかわしつつ、イレギュラーな事態により撮影スタッフの目的が不明瞭となってしまう事で、映画の目的として見せたい対象と、それを捉えるカメラの視点との差異によって、観客の感情をコントロールするやり口が見事。

問題の老婆のいる部屋に入り込んだ警官と消防隊員をフォローする映像にて、この時点でカメラマンが追っているのは、眼前の警官と消防隊員となる。ゆえに、廊下の奥に見える老婆のシルエットは曖昧な像としてしか映らない。

その曖昧さが却って、マズい事態が始まりつつある事だけは認識している観客の期待と不安を高め、サスペンスを盛り上げる効果となっている。そしてその老婆の状態が"急変"する段でも、普通の映画の様にカメラを寄せることなく、あくまでも引いた視点でフラットに撮り続けている事で、客観的な目撃性を高め、観客の視点とのリアルな距離感のシンクロがなされるのだ。

警官に撃たれ倒れた老婆の姿が、画面の奥に映り続けている間、観客はいつ復活するかとドキドキが止まらないまま焦らされ続ける事となる。そこで巻き戻しを挿んで、更に焦らしを増大させているのは小憎いが、巻き戻し映像がそのまま見られるのはツッコミどころだろう。

同様に、階段手すりに固定された母親が、一瞬目を話した間に急変しているカットもまた、離れた場所だからこそのリアリティが最大となる。階段の踊り場から転落する局面も同じく、いきなり起こる事に驚かされるシチュエーションを、客観的な視点で見てしまうからこそ、リアルなショックとなって体感させられる事となる。

そうした一連の離れた視点の中で、少女が急変するくだりだけは極めて近い距離で見せられて、また驚かされてしまう。いや、実際には、本作における急転による驚かせは、前段から予想はついており、その通りとなるものがほとんどである。

そして本作は、人に近寄ったり、視点を振り替えるなど前フリによる、「くるか、くるか?」とドキドキを盛り上げる"予想"または"期待"と、その予想が絶妙のタイミングで「キター!」と事が起こり喜ばされる、そのタイミングが本当に絶妙である事が、大いなる評価点となる。

先述の少女の発症や、終盤の屋根裏のシチュエーションなどが、その代表と言える。この予想と結果の的確さは、主観映像である事も併せ、ゲームの『バイオハザード』一作目を髣髴とさせる。

尚、その様な同ジャンル作品へとの類似またはオマージュと見られる要素を見出していく事も、楽しみどころのひとつとなる。

まず、スペインを舞台にアパートを警察に封鎖され閉じ込められる、との大元のシチュエーションは、スパニッシュハーレム内のアパートに警官隊が突入する『ゾンビ』『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』に代表される"立てこもり"とは真逆の"閉じ込められ"スタイルなのも面白い。建物内で感染が広がっていく様は『シーバーズ』『デモンズ』か。

幼い美少女が発熱している状態は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』、結果も同様だ。天井裏の子供は『呪怨』だろうか。終盤の赤外線カメラ映像以降の"根源で何かに追いつめられる"展開は、『ブレアウィッチ・プロジェクト』だ。主人公側が二人いる事で、オチを二段オチ的に重ねているのも嬉しい仕掛けだ。最後になって強調される女リポーターの胸元はラストサービス。

必然的に長回しばかりとなる本作において、ゾンビ・感染系映画につきものの噛み付き、食いちぎりシチュエーションを、その長回し内にて行っている事が、映像的に最も驚かされるところであり、最大の評価点と言えるだろう。

何せ本当の事ではないのだから、本当に噛み付いて食いちぎるわけにはいかないが、本当の事に見せないといけない上に、カットが割られない長い流れの中、まず最初は無傷な状態での行動を自然に見せ、いざ噛まれる段では、噛まれている状態、必死に逃れようとしている状態をリアルに、段取りを踏んでいる様には見えない演技をしながら、噛まれた後の状態となるための仕掛けも、これまたバレない様に行わなければいけないのだ。

もちろん実際には途中で割られていたり、CGや合成によるエフェクトもあるだろうが、基本的には現場の段取りが命である事に相違ない。しかも血糊を使うため、NGが出たらまた準備から着替えから全部やり直しだ。考えるだけで気が遠くなる作業を、各シチュエーションにていちいち行っているのだから、その努力とセンスが見事に現れた結果には、目を見張らないわけがない。

ラストに現れる元凶が、パンツだけは履いている事が一番の謎か。

蛇足:
中盤のアジア人差別描写に引っかかるのは、槍玉に挙げられている日本人と中国人くらいだろうが、だが日本人だって、スペイン人とポルトガル人の区別など、普通はつかないだろう。慣習の違いで起こる諍いも、日系ブラジル人移民問題を見るまでもない。人の事はあまり言えないのだ。
『クローバーフィールド HAKAISHA』レビュー


tsubuanco at 20:15│Comments(0)TrackBack(4)clip!映画 

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公式サイト。ジャウマ・バラゲロ、パコ・プラサ共同監督。ハンディカメラの記録という設定の「クローバーフィールド」と閉鎖空間で得体の知れない恐怖に人々が怯えるという「ミスト」を足して2で割ったような雰囲気だが、リアルさという点では、こっちの方が上かも。
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