2008年06月25日

西の魔女が死んだ 45点(100点満点中)08-210

西の魔女から東の魔女まで素敵な夢を届けます
公式サイト

梨木香歩の同名児童文学を映画化。

イギリス人の老婆が一人で日本の山奥に住んでいる、との、現実感の薄いシチュエーションだからこそ浮かぶ、良い意味でリアリティの欠落したビジョンという、原作を読んで生じるイメージを、映像として再現出来るかどうかが、まず前提として要求されるものだろう。

その点では、実際に山奥に撮影用に小屋を新築する事で、ジブリアニメの実写化の様なロケーションを作り出す事には成功している。日本語が話せる白人女性、との条件で採用された、サチ・パーカー演じる"魔女"もまた、適度な片言加減が丁寧語台詞に逆にリアリティを生み、同時に寓話的な空気をも醸しつつ、超然とした存在に感じさせ、キャスティングとしては最適だろう。

食卓に上るのはサンドウィッチやトーストを始めキッシュなど、西欧風の食事で占められ、通常の"田舎のスローライフ"にて象徴的に出される筈の、米飯やオニギリが登場しない事もまた、他作との差別化に貢献している。レタスを捌く際の、瑞々しいシャイシャキ感の表現や、トーストを噛む際の音を強調して、香ばしさや歯ごたえを観客にも体感させるなど、自然系ジュブナイル作品にて必須の"美味しそうな食べ物"の見せ方も必要以上に上手い。

その様に、基本的に洋風の趣きにて"魔女"のテリトリーを描写していると思わせつつ、中盤に登場する寝室では畳間に布団を敷いている、との、奇妙なミスマッチがまた面白い。この寝室の描写が、固執のなさ許容などの魔女の命題を表現し、キャラクター描写としているのも良くしたものだ。

また同時に、主人公まい(高橋真悠)と一緒に寝る場面にて、ベッドだと窮屈だが布団だと並べればいいだけで、絵面的にもピッタリハマる事や、ラストの遺体場面でも構図をとりやすいなど、撮影上の都合までフォローしているのだから、一石二鳥である。よく考えたものだ。

ただし、そうした効率あるいは見栄えにこだわるあまり、それが透けて見えて興醒めとなる点が散在するのは問題だ。

たとえば野いちごを摘む場面、普通に考えれば群生の端から摘んでいく筈が、何故かど真ん中に陣取って摘んでいるのは、明らかに不自然すぎる。絵面的な見栄えがリアリティを損ねている顕著な例であり、自然体を基調とした作品の方向性にも反するものだ。

シーツを洗濯する場面では、まず足踏みの描写が、普通なら"労働の楽しさ"を表現すべく、主人公が少なからず楽しんでいる演出を行うべきが、それが特に成されず、何を考えてその作業をしているのかが掴めない。また、シーツを干す段でふわっと広げるまでの構図は、洗剤のCMかと思わせる程に決まっているものの、干している状態を上から捉えた画面は、そこに会話を被せて長々と見せるに足るだけの構図としては決まっていない、視点の定まらないものでは困る。

後半に主人公が着用するレインコートが、明らかに魔女服を意識したものなのはいいとして、ではその衣装がその場面でどんな意味を持っていたのかは曖昧だ。祖母との口論が決裂した段で、魔女服を脱ぎ捨てフレームアウトする、との、負の面での描写はわかりやすかっただけに、バランスの悪さを感じる。

総じて、事象として見せたい事物と、イメージとして内包させたいもののバランスに問題がある事が、本作の散漫な印象の元となっている。これは、作り手自身が解釈や方向性を定められなかった事に起因するのだろう。

映画オリジナルの人物である郵便屋(高橋克実)の存在に、その曖昧さが象徴されている様にも思える。彼が現実世界と魔女世界を行き来する橋渡し的存在である事は理解出来る。だが、現実世界の異物を魔女世界が拒否した表現であろう、門前でバイクが壊れる描写は、固執のなさと許容を唱える魔女の命題とは反するものだ。

また、現実世界の象徴として存在しながらも、彼自身は魔女に受け入れられているという位置づけは、主人公が"俗物"として嫌悪するゲンジ(木村祐一)のスタンスとの兼ね合いに不和を生じさせ、方向性を不明瞭としてしまっている。郵便屋のくだりは全てカットしても、何ら問題はなかった筈だ。

そのゲンジにまつわる描写、主人公が汚物の様に忌み嫌う相手としては、最初の登場シーンの演出からは、必要とされる"汚らしさ"が大して表現されておらず、必要な"悪印象"は薄い。関西弁を封じられたキムの演技の不自然さも原因。魔女と違い、こちらにはたどたどしさは不要だ。

一方捨てられたエロ本の描写は、妙に生々しくリアルだ。原作からそうだがこの場面、普通の健全な中学生女子であれば、周囲に誰もいない事を確認してから手に取ってじっくり見て、人によっては秘密基地に持ち帰って秘匿するのだが、主人公はそれどころか嫌悪の表情で完全に拒否する、との描写によって、彼女が間違いなく精神を病んでおり、"現実"を拒否している事が瞭然となる、秀逸な展開だ。

ゲンジを拒絶するのは、無神経な現実に傷つけられた事の現れであり、ラストシーンでのゲンジの印象が異なるのは、彼が変わったのではなく主人公が現実を許容する事が出来る様になったからだ、との意味が込められている。勝手に「ヒメワスレナグサ」と呼称していた草の、一般的な呼称をゲンジが言い、それを拒絶せずに納得するくだりでも、主人公の観点の変化が示されている。

「おばあちゃん大好き」と言えないまま別れ、そのまま死なれてしまった。との後悔がポイントとなる後半の展開は、『ドラえもん』での、のび太とおばあちゃんの思い出の後悔を描いたエピソードとも共通する。人情として普遍的な有りようだけに多用され、また人を共感、感動させるものなのだろう。

田舎のスローライフを、俗世の現実に対する反意ではなく、延長上の理想として描き、「自分で考えて決める事」を重視し、拒絶を拒否する寛容なスタンスは、カルト宗教的に偏狭な価値観を押しつけて、そぐわないものを阻害する、『めがね』の欺瞞的な作風とは正対しており好ましい。

だが高橋真悠は正面顔は可愛いが、横から見るとペッチャンコのデコッ八に見えるため、撮る角度に気をつけるべきなのが、あまりに無頓着なため残念な見え方になっている事が多く可哀相だ。



tsubuanco at 16:59│Comments(2)TrackBack(12)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 西の魔女が死んだ  [ 佐藤秀の徒然\{?。?}/ワカリマシェン ]   2008年06月26日 00:01
公式サイト。 梨木香歩原作。長崎俊一監督、サチ・パーカー、高橋真悠、りょう、大森南朋、高橋克実、木村祐一。八ヶ岳山麓の別荘地らしき所に一人暮らしするおばあちゃん(サチ・パーカー)はイギリス人の祖母で未亡人。ちなみに個人名はない。
2. [映画]西の魔女が死んだ  [ お父さん、すいませんしてるかねえ ]   2008年06月26日 10:26
試写会に行ってきましたのでご報告。 まず、サチ・パーカーって誰だよ? http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%81%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%BC あらすじを簡単に 中学3年生になったまいに、祖母が急逝したという知らせが届く。 中学に入って間も
3. [映画『西の魔女が死んだ』を観た]  [ 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 ]   2008年06月28日 10:59
☆悪い映画じゃないんだけど、 なんか、小学校の時、学年で視聴覚室に集められて見た映画のような、純文部省推奨作品的な潔癖感が感じられる作品だった。 ・・・学校で孤立し、登校拒否に陥った主人公の娘(高橋真悠)が、祖父の死後、山間の山小屋で一人住む、英国人だっ...
4. 【西の魔女が死んだ】  [ 日々のつぶやき ]   2008年06月30日 12:39
監督:長崎俊一 出演:サチ・パーカー、高橋真悠、りょう、大友南朋、高橋克実、木村祐一 「魔女が倒れた。 おばあちゃん、ママのママと二年前私は一緒に過ごした時期があった。学校にいることが苦しくて学校を辞めると言い出した時、学校をお休みしておばあちゃん
5. 西の魔女が死んだ  [ 空想俳人日記 ]   2008年06月30日 22:18
いつかしら 心の病 抜け出せる  実は、この原作、梨木香歩さんの、文庫で読んだことあります。が、どんなお話だったか、殆ど覚えていません。女の子と魔女らしきお祖母ちゃんの交流ということくらいしか。  それよりも読み進めるのに非常に難儀したことを覚えてい...
6. 【映画】西の魔女が死んだ  [ 新!やさぐれ日記 ]   2008年07月01日 23:20
■動機 りょう ■感想 「魔女」が支配する緩やかに流れる優しい時間 ■満足度 ★★★★★★☆ いいかも ■あらすじ 中学生になったばかりのまい(高橋真悠)は登校拒否になり、大好きなおばあちゃん(サチ・パーカー)の住む田舎で過ごすことになる。日本に長年住む...
7. 【2008-150】西の魔女が死んだ The Witch of The West is Dead  [ ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!! ]   2008年07月06日 20:00
5 人気ブログランキングの順位は? 魔女が倒れた。 もうだめみたい 人はみんな 幸せになれるように できているんですよ
8. 西の魔女が死んだ (映画)  [ 読書・映画・ドラマetc覚書(アメブロ版) ]   2008年07月07日 15:47
 梨木果歩の原作が好きだったので、見たいと思っていた作品。  とはいえ、原作の内容はすっかり忘れており、こんな展開だったっけ…といった感じだったのだけれど…。  期待しすぎて見に行ってしまったせいか、そこまですごい感動??!ってほどではなかったのが残念...
9. 西の魔女が死んだ  [ 利用価値のない日々の雑学 ]   2008年07月07日 19:43
この原作が100万部を越えるベストセラーだということを、シネコンで見終わった後立ち寄った書店で知ったが、如何に原作に忠実だったのか、それとも原作を越えられたのかは別として、なんて色々な要素を詰め込みすぎた作品なんだろうかと思った。対比が都会の喧騒(という...
10. 【映画】西の魔女が死んだ  [ 新!やさぐれ日記 ]   2008年07月12日 13:15
■動機 りょう ■感想 「魔女」が支配する緩やかに流れる優しい時間 ■満足度 ★★★★★★☆ いいかも ■あらすじ 中学生になったばかりのまい(高橋真悠)は登校拒否になり、大好きなおばあちゃん(サチ・パーカー)の住む田舎で過ごすことになる。日本に長年住む...
11. 満足度ランキング1位 西の魔女が死んだ を観てきました。  [ よしなしごと ]   2008年07月21日 14:59
 ぴあ満足度ランキングで1位となった、感動必須の西の魔女が死んだを観てきました。
12. 【映画】西の魔女が死んだ…映画の評価高。ストーリーの評価は微妙。  [ ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 ]   2009年03月12日 13:11
この週末は夜勤明け以外では久しぶりの二連休で割とゆったりと過ごせております{/face_nika/} 昨日{/kaeru_fine/}はちょっとした買い物に行った後、昼寝{/kaeru_night/} でインターネット{/pc2/}と実に有意義({/eq_1/})な{/face_ase2/}…いや最近こういうゆったり感に欠け...

この記事へのコメント

1. Posted by 巨乳じゃないとダメですか?   2008年06月27日 19:36
サチ婆さんにヤラれたわ。
最初の回想シーンで微笑んだ顔が、あまりに薄気味悪くて思わず爆笑。キモいよ、マジで。あれで「おばあちゃん、大好き」にゃ、なんねーだろ。多少精神が病んでいても「おばあちゃん家に泊まらされるくらいなら、学校に行く」となって然るべき。猪木より強烈な闘魂ビンタも、孫が居ようが室内で煙草をふかす無神経ぶりにも呆れた。
それにしても残念だったのは、アレ系の雑誌愛読者たるゲンジ兄が、主人公に対してエロ視線皆無だったこと。なんで?
「天然コケッコー」のシゲを見習えよ!
2. Posted by つぶあんこ   2008年06月30日 14:48
顔がゲンジの好みじゃなかったんでしょう。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
Comments