170503 歌舞伎座おはようございます。
「まおまお」で~す。
いつもブログを見ていただきありがとうございます。

今回の書籍の紹介はコレです。

山川 静夫『歌舞伎は恋―山川静夫の芝居話』(淡交社,2013) 1,600円(税別)



この書籍をサクッというと


元NHKアナウンサーであり、歌舞伎に関しても造詣が深い著者がさまざまな役者との思い出話を書きつづった1冊。


目次


口上
第一章 歌舞伎は恋
第二章 歌舞伎のたて糸・よこ糸
第三章 歌舞伎ことばあれこれ
第四章 忘られぬ歌舞伎役者
あとがき


歌舞伎関連の書籍を多く書いている著者


歌舞伎に興味を持ったとき、さまざまな書籍が出ていることに気付くと思います。
歌舞伎役者さん自らが書いたものや、評論家が書いたもの、その他にも数多くの人が歌舞伎関連の書籍を書いています。

その中でも独自のポジショニングにあるのが今回紹介する書籍の著者である山川静夫さん。
元NHKアナウンサーであり、紅白の司会も務めたことがあるので、ご存じの人も多いかもしれません。

著者は歌舞伎に関しての書籍を多く書いており、歌舞伎に興味を持ったらいつかは読むことになるであろう1人でもあります。

著者は戦後の学生時代に歌舞伎にハマり、それ以来、歌舞伎の上演中に掛け声を掛ける「大向う」と呼ばれる特異な人の1人に。
大向うは勝手にできる訳ではなく、その資格を有するにはかなりのハードルがあるそうです。

著者の大向うの経験は以前に『大向うの人々―歌舞伎座三階人情ばなし』という書籍を紹介しました
そちらをご覧になっていただくと、並大抵の人ではできそうにないことが分かります。

そんな大向うであり、歌舞伎が好きで好きでたまらない著者。
その著者が今回は自らの歌舞伎経験をエッセイとして書きつづっています。
当書籍のポイントは戦後直後からの歌舞伎に関しての知識。
それに加えて歌舞伎役者さんたちとの交流。

著者の交流されていた役者さんたちは、現在、現役で活躍されている大幹部の役者さんたちの一世代から二世代前の人。
つまり、今の時点で歌舞伎に興味を持った人にとっては、なじみがない役者さんたちが多く登場します。

歌舞伎のすごいところは、それらの役者さんたちの芸を受け継いで、現在があるということ。
つまり、ただの昔話ではない部分も多くあり、より歌舞伎を深く知る上では興味深い話も多いのが特徴です。

拍手の功罪


実際に歌舞伎を観に行くと惜しみない拍手が送られることがよくあります。
決めぜりふや見得を切ったところは、拍手のポイントでもあり、素人の「まおまお」もよく拍手をします。

拍手は役者さんたちと観客の間を取り持ち、一体感を作る上で欠かせないものでもあります。

ところがこの拍手が思わぬところでマイナスに働く場合も。
その1つを当書籍で書いています。

具体的には『勧進帳』という演目の最後の場面です。
弁慶が飛六方という独特の飛び方で花道を去るのですが、そのときに観客からリズムをつけた拍手が起こって、弁慶はその拍手に合わせて退場せざるを得なかったというのです。

観客にしてみれば、宝塚のようにしゃんしゃんとリズムをつけた拍手をしながらの最後という感じだったのでしょう。
著者はこれに対して苦言を書いています。

イメージすると弁慶がリズムに乗った拍手で去っていくというのは、確かに何とも間向けな感じです。
こんなことが今の歌舞伎では起こるんだと、ちょっと驚いたエピソードでした。

大道具製作は別会社だった


歌舞伎の舞台では舞台背景をはじめとして、さまざまな大道具が製作されます。
この大道具を作っているのは松竹であると、ずっと思っていましたが、それは違うことを知りました。

当書籍によると歌舞伎座の大道具は代々「長谷川勘兵衛」と呼ばれる人が受け持っているとのこと。
現在の勘兵衛さんは、なんと十七代目。

そして、大道具は勘兵衛さんのもと、現在は「歌舞伎座舞台株式会社」という社名で活動をしているとのこと。

よく役者さんでは○代目という名跡で呼ばれますが、大道具でもそのようなことがあるのですね。

加えて同じ芝居でも役者さんによって、「型」が違うため、その演じ方によって演じやすい道具を作っているとのこと。
なんでも古典歌舞伎では、寸法が五寸(約15cm)違っても芝居の形が崩れることもあるそうです。

昔のすごい役者さんの思い出


著者が学生時代、知り合いが素人芝居をすることになって、なんと歌舞伎座の楽屋に二代目尾上松緑さんを訪ねに行った。
もちろんアポなし。

当然のことながら松緑さんの番頭さんには追い払われようとします。
そこにご本人が姿を現し、理由を訊いて部屋に著者たちを招き入れてくれ、親切なアドバイスをしてくれただけでなく、舞台も観せてくれたとのこと。

昔の役者さんの心温まるエピソードでした。

馬の役には特別な手当てがつく


演目によっては馬が登場するものがあります。
馬は2人が入り、その上では役者さんがさまざま演技をします。
そのため、馬となる人はかなりハード。

そのため馬に乗る役者さんからは、馬役の人たちに「飼葉料」と呼ばれるご祝儀が出るそうです。
ちなみに飼葉料とは、馬のエサ代のこと。

戦後の歌舞伎演目を支えた北條秀司さん


歌舞伎というと江戸時代の演目ばかりと思われがちです。
しかし、戦後になって書かれた演目もあります。
代表的なのが『井伊大老』というもの。

これを創ったのは北條秀司さんという人。
当書籍によると戦後の歌舞伎をはじめ新国劇や新派などの演劇界で多くの作品を創ったそうです。

過日、『井伊大老』を観る機会がありました。
歌舞伎では花道を使うのが当たり前のようになっていますが、なんと一切花道を使わない演目です。

井伊大老が暗殺される前日を描いたもので、九代目松本幸四郎さんが井伊直弼を演じていました。
従来の歌舞伎とは異なり、派手な立ち回りなどはありませんが、演目終了後にあちこちですすり泣く音が。
実際、本当に素晴らしい内容でした。

著者は北條秀司さんがお亡くなりになった後、鎌倉のお宅にお邪魔し、仕事場を拝見したそうです。
ここのくだりから北條秀司さんの創作活動がいかにすごいものだったかがをうかがい知ることができます。

一般にはあまり知られていない方なのかもしれませんが、彼の残した作品は今でも色褪せない名作揃い。
そんな人を取り上げる著者は、やはりすごいなと思った次第です。

昭和の巨人、真山青果さん


歌舞伎の有名な演目に「忠臣蔵」があります。
この忠臣蔵、歌舞伎の演目では2種類あるのをご存じでしょうか?

有名なのは江戸時代に創られた『仮名手本忠臣蔵』。
これとは別に『元禄忠臣蔵』というものがあります。

主人公は『仮名手本忠臣蔵』では大星由良助、『元禄忠臣蔵』では大石内蔵助となっています。

九代目松本幸四郎さんの書籍によるとこの2人は同様の人物に見えて全く違うため、2人を演じ分けられる歌舞伎役者さんは少ないとのこと。
なぜかというと、『元禄忠臣蔵』は心理描写に主眼を置いたリアルな忠臣蔵。
従来の歌舞伎とは異なるのです。

そんな『元禄忠臣蔵』を創ったのが真山青果さん。
著者は真山青果さんについても紙面を割いて、エピソードなどについて書いています。
これを読むと、先の北條秀司さんや真山青果さんは昭和を代表する新歌舞伎を支えた功労者であることが分かります。

七代目中村芝翫さん


昨年は三代目中村橋之助さんが八代目中村芝翫を襲名しました。
八代目のお父さんである七代目中村芝翫さんについて、当書籍では以下のように書いています。
平成に二十三年十月十日死去した中村芝翫の一生を改めてふりかえってみると、苦難のはてに栄光をつかんだような、ドラマチックな印象が強い。
成駒屋の御曹司として生まれながら、父親の五世中村福助とは五歳で死別し、“大成駒”と呼ばれた祖父五世中村歌右衛門に育てられた。しかし“第二の父”は十二歳の時に亡くなり、次は六代目尾上菊五郎に預けられる。その“第三の父”も十年足らずで失うが、芝翫の芸は六代目の影響が大きい。(P.222~223)

ちなみに七代目のご息女が十八代目中村勘三郎さんの奥さまです。
勘三郎さんの書籍を読むと、奥さまとの結婚の許しを得るために父である七代目中村芝翫さんのもとに行くエピソードがよく語られています。

逆にいうとそれ以外ではあまり知ることがなかったのですが、コンパクトな中に七代目中村芝翫さんのことがよく表現されていると思います。
あ~こんな人生を送って、さまざまな苦労をしてきた末に大成した役者さんなんだなということが分かります。

他にも著者の会話の中でも六代目尾上菊五郎さんからの教えを涙ぐみながら話していることなどが書かれています。

十二代目市川團十郎さんとのこと


著者は大向うとしても活躍しています。
そのような縁で多くの歌舞伎役者さんとの交流があります。

当書籍でもこのようなエピソードが。
十二代目市川團十郎さんが、まだ十代目市川海老蔵だった頃に、“海老蔵を囲む会”というものがあったそうです。
そこでは、『きのね』の主人公であり、十二代目市川團十郎さんのお母様である千代さんと著者との会話があります。

そこで千代さんは著者にこんなことをいわれたそうです。
「息子の芝居を観て、ほめてくださる方はいっぱいいらっしゃいますが、山川さんは正直にわるいところを教えてやってください」(P.230)

こんなことをいわれる著者って本当に千代さんに信頼されていたんだなと思います。


当書籍では往年の歌舞伎役者さんたちとの交流話や、写真が多く掲載されています。
これを読むと昭和に活躍した役者さんたちのことがだんだんとわかってくるので、楽しいですよ。


まとめ


当書籍から分かったことは以下のようなことです。
 1.著者と昭和の役者さんたちの交流はかなり深いものだった。
 2.著者の歌舞伎に対する姿勢はまさに「恋」のような感情であり、
  本当に歌舞伎が好きでたまらないことがよく分かります。
 3.評論家とは異なった視点からの知識は、歌舞伎を観る上で非常に
  ためになります。


本当に歌舞伎が好きで好きでたまらないということが当書籍から伝わってきます。
ここまで歌舞伎を好きな人が書いた書籍ですから、内容は読んでいて楽しいです。
やはり歌舞伎の書籍はこういう内容がいいな~と思った1冊です。


ランキング評価
読みやすさ  3
情報量    4
情報質    4
価格     3
と言うことで「★★★」です。


次回も見に来てくれると嬉しいです。


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