2005年03月22日

旅館の経営学(滞在編)

9b677cd9.JPG国保@TUGです。
前回は探索編でしたが、今回は、実際の滞在を通じて感じたことを分析してみます。

前回述べたとおり、今回の旅行は2件の旅館を訪れました。2つはそれぞれ趣が大きく異なりますが、それぞれ高い客室稼働率を誇っており、成功例と言っていいかと思います。ではこれら2つに共通する要素を成功のポイントを見ていこうと思います。



一軒目、旅館Aは山形の山の中のひなびた温泉街の宿です。
温泉と料理の質を誇るおこもり宿。外装はごく普通ですが、内装は東京のデザイナーが担当し、モダンジャパニーズといった方向性で芸術性を高めることで非日常空間を演出しています。一見旅館ですが、仲居さんがいないなどオペレーションは完全にホテルライク。経営母体が市内の大きな観光ホテルであると聞いて納得しました。

二軒目、旅館Bは石川の伝統的な温泉街にある、先進的な宿です。
こちらは客室露天風呂の発祥の宿だそうです。広い客室には全て露天風呂がついているなかなか高級な宿で、夕食にはその土地の名物である蟹がお部屋で供されます。建物は極めてモダンな和風ホテル風、しかしオペレーションは仲居さんをはじめとする伝統的な旅館のそれです。

この二つに共通するのは、市場のニーズをうまく把握し、そのニーズに合わせた経営を行っているという点です。女性が旅で重視するのは、非日常感と美味しい料理、いい温泉ではないでしょうか?この2つの宿は、これらの点では完璧、しかもそれぞれ独自の方向性を打ち出しており話題性も十分です。

いったん旅館としてのアイデンティティを確立してしまえば、あとは雑誌やWebサイトの掲載や口コミを通じて評判が広がり、プル販売が可能になります。実際、これらの宿は旅行代理店を通さない個人客が多いそうで、結果的に年間を通じて高い客室稼働率を誇り、客室料金の値崩れも免れています。

いかにも理想的な旅館経営ですが、なぜこのような成功が可能だったのでしょうか?

実は、双方の旅館は、過去に経営危機に陥っているそうですが、その際に自分の資源を見直して、強みと弱みを意識した戦略的な投資を行うことに成功しています。設備投資産業である旅館業は常に客を惹きつけるべく設備投資を行っていかなくてはなりませんが、設備投資はリスクを伴います。そこでこれらの旅館は、段階的に、かつメリハリの効いた投資を行うことでリスクを最小限におさえています。

例えば、旅館Aは素晴らしいかけ流しの温泉を持っているものの、景観には恵まれず、温泉街そのものも特に見るべきところがありません。それならばいっそ内装だけで勝負しようと、話題性のあるリフォームを行い、徹底して「おこもり宿」を演出しています。内装に集中した資本投下をすることで、非日常間をかもし出す芸術性の高いデザイナー家具や内装のこだわりインテリアが実現し、滞在そのものが楽しめる宿になっています。またホテル的なオペレーションを採用することで人件費が大幅にカットでき、低価格を実現。さらに大きな観光ホテルと同じ経営であることから、料理人や食材、スタッフをシェアすることで効率的な資源利用が可能になっています。

旅館Bについては、温泉旅館の客が団体から個人にシフトしつつして客が減少している頃、個人客ニーズへの配慮として客室露天風呂という大きな設備投資(当時は平成8年だったことを考えると、これはかなりのリスクだと言えます)を、まずはパイロットプロジェクトとして一部の客室に対してのみ行いました。そしてその斬新さや話題性で客が集まるようになってから、次に他の客室にも設備投資をして客室露天風呂を設置。さらには新館を増設し、その際には洋間などのタイプの違う部屋を作りました。結果、客が自分の好みに応じた部屋を選べるとともに、次はあの部屋に泊まろうというリピートの楽しみも出来たのです。

これらの旅館には明確な戦略性を感じ、コンセプトも明快で分かりやすい魅力を感じます。ただ一歩宿を出ると寂れた感じの温泉街で、滞在を楽しむべく連泊した我々は散策があっさりと終わってしまうとやや退屈してしまいました。滞在型の旅行を提唱している宿ですから、もう少しまち全体としても戦略があればよかったと思います。今後は今までのような個々の旅館や店の努力だけではなく、まちや地域全体を戦略を持ってまとめ、その結果として全ての人が恩恵を受ける。そんな作業が、これからの地域には必要なのではないかと考えます。

MBAというと経営企画のようなバリバリのビジネス畑でロジックを振りかざすというイメージ(少なくとも私は)がありますが、私自身はどちらかというとこのように通常はあまりビジネスを意識されないところにビジネスツールを持ち込んで問題解決を行うことが非常に面白いと感じており、これは今後も私のテーマとなっていくことと思います。

1年以上の間、TUGとしてコラムを書いてきましたが、書くことによって自分自身の成長や振り返りにつながり、自分の興味を純化出来たように思います。自分が何をやりたいのか、これからどうやって生きていきたいのかを考える時間として、MBAでの2年間は大変貴重な機会でしたが、TUGという表現の場があったことでさらにその機会を活かせたように思います。

今まで私の乱文におつきあいいただき、本当にありがとうございました。
これからもお目にかかる機会があるかと思いますが、その際はどうぞよろしくお願いいたします。

国保祥子(Akiko Kokubo)
TUG - -Passion for the Next

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