2004年03月19日

ビジネスモデルの「妥当性」と「正当性」

岡嶋@TUGです。

あるビジネスモデルについて考えてみる際に、ひとつの尺度として「妥当性」「正当性」の観点から覗いてみることができます。
これに関して、慶應ビジネススクールの2学期授業であった『経済・社会・企業』における「Nike」のケースに照らして考えてみたいと思います。


まず、それぞれの定義をしておくと次のようになります。
「妥当性」: ビジネスモデルが成立すること。現実性があること。
「正当性」: 関係するステークホルダーの価値観からみて受け入れられること。

次に議論の前提となる、「Nike」のケースに関する要約は以下のとおりです。

1992年、アメリカにおける運動靴の売上は116億ドルとなり、10年前の3倍にまで成長しているが、その中心的企業がナイキとリーボックである。

両者とも製品のデザインとマーケティングに集中し製造は行わず、代わりに韓国、台湾、インドネシア、タイといった東南アジアの契約企業に製造を
依存している。東南アジアからの製造・調達はコスト面で利点があったが、同時に「労働者からの搾取と人権」といった倫理的な問題を引き起こした。
   
東南アジアの契約企業を利用する、その主要な魅力は低賃金労働だ。

ナイキは、当初大部分の靴を韓国や台湾から調達していた。 しかし、1980年代に韓国と台湾が繁栄すると共に製造業の賃金も急上昇し、そこで、ナイキは韓国や台湾の企業との契約を維持しながら、彼らにより低賃金のインドネシア等に工場を移転する誘因を提供する。すなわち、工場移転を条件に一定量の注文を約束したのである。

韓国の企業は工場をインドネシアに移転した。ところが、インドネシアでの靴生産が拡大するにつれ、1.労働者が虐待されている、2.最低賃金が守られていない、3.児童労働法に違反し、女性労働者の権利を尊重していない、などといった問題が大きくなってきた。

このときのナイキの対応は「インドネシア工場はナイキのものでなく韓国の企業に所有され運営されている」として、批判をかわすものだった。
   
また、これらの問題は下請企業の問題であり、ナイキは総じて良いことをしているとし、「ここインドネシアに、他に仕事もない何千人に仕事を与えた」
とも述べている。
   
このようなナイキの行為・対応にマスコミや消費者の反発が大きくなってきことはいうもでもない。その後、契約企業ならびにその下請けの工場向けに
【合意書】を作成し対応することとなった。
   
一方、リーボックも同様な生産スタイルで、インドネシアにおける同様な問題が起きていたが、リーボックがナイキと違ったことは、以前から人権擁護の公的姿勢をとり、かつ若い活動家に賞を与えるなど、より人権に対する熱意が企業文化として存在していたことから、ナイキほどマスコミや消費者を敵に回すことがなかった。

このケースにおいて、クラスではそれぞれナイキを擁護する立場と、批判する立場に分かれて議論が展開されました。

擁護派は、「ナイキは韓国企業との契約においてなんら違反行為を行っておらず、インドネシアの問題は、韓国企業と工場の問題であって、ナイキの問題ではない」とし、批判派は「ナイキは、インドネシアでの問題を知りながら、なんら対処を行わなかったこと自体が、人権を無視した倫理的問題である」というのが主な主張でした。

さて、ここでナイキのビジネスモデルの「妥当性」と「正当性」について考えてみます。

ナイキは韓国企業とのビジネスにおいて特に違法行為を行っているわけではないので、ビジネスモデルとしては「妥当」であるということがいえます。
擁護派の主張は、この「妥当性」に着目した意見です。

一方、いくらインドネシアの工場が孫受け会社であり、ナイキとは直接関係ないとしても、世間から見れば、大きな意味でナイキの靴を製造しているグループ企業のように映り、ビジネスモデルの「正当性」いう点では、マスコミ・消費者といったステークホルダーには受け入れてもらえなかったといえます。

批判派の主張は、この「正当性」を問題にしている訳です。
つまり、インドネシアにおける人権問題は、「妥当性」では特に問題ないものの、「正当性」ではステークホルダーに受け入れられなかったという2層構造になっているのです。そして、「妥当性」の点だけにおいてナイキが対応したため、マスコミ・消費者を刺激しより問題が悪化してしまったのです。

ここで注意しなければならいことは、ビジネスモデルの「妥当性」は自らコントロールや調整は可能ですが、「正当性」に関しては、ステークホルダーの感情であるため自らコントロールすることはできないということです。

ビジネスをしていく上では、適正な利益を維持し継続すること、つまり「妥当性」を確保することが大前提になります。
しかし、それにも増してステークホルダーと良好な関係を構築する「正当性」に関しても大きな関心を払わねばならないのです。

今回の事例からは、このようなことを学ぶことができると思います。


岡嶋 徹(おかじま とおる)
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