「タマ」

「なんですか、坊ちゃん」

「コレ・・・洗っといてくれ」

司が、視線を反らしながら、弁当をタマの目の前に突き出した。

「なんですか、コレ」

「見りゃ分かんだろ。弁当だ、弁当!」

「そりゃ、分かってますけどねぇ。で、誰のですか?」

「うるせぇ。洗うのか、洗わねぇのか、どっちだ!」

「そりゃ、洗いますよ」

タマは、司から弁当箱を受け取ると、それを包む布をマジマジと見た。

「ほぉ、こりゃ、手の込んだパッチワークだ」

「はぁ?パッチなんだって?」

「パッチワークですよ、坊ちゃん。端布なんかを継ぎ合わして作る布ですがね、なんせ、手間が掛かって、余程趣味のある人じゃ無いと作らない代物ですよ」

タマは、指を縫い目に合わせて這わせ、その丁寧な仕事に感心する。

「使ってる布は、色褪せ具合から、着なくなった服とかなんだろうけど、ちゃんと柄になってるじゃありませんか」

タマが広げて見せると、小さな風車がいくつも組み合わされたような形になっている。

「一つ一つの布が小さい分、掛かった手間は、半端ない。これを作った人は、物を大切にする心を持ってるってことですよ」

包み布しかり。

古びたタッパしかり。

人となりが滲み出る。

「坊ちゃん・・・コレは、どちら様の物で?」

執拗に持ち主を詮索するタマに、司は、顔を歪める。

「アレだ、アレ。友達だ」

「ほうほう、友達ですか」

「人を疑うような目は止めろ」

「疑ってるんだから、仕方ないじゃありませんか」

タマは、深く考え込み、そして、パァと顔を明るくした。

「あの『長命寺』を下さった方ですか?」

「あれは、俺が買ったって、何回言えば納得するんだ」

「坊ちゃんが、和菓子一個を買う為に、店に立ち寄るような人間ですか」

「人を馬鹿にするのもいい加減にしろ」

なんとか誤魔化そうと怒鳴るのも、小さい頃からの癖。

タマは、それ以上何も言わず、ホクホク笑いながら、厨房へと消えた。

「アレは、俺が買ったんだ!」

往生際悪く叫ぶ司の声が、屋敷に響く。

それを聞いても、タマは、笑いしか出ない。

形の歪になった小さな和菓子を、偏屈な坊ちゃんが後生大事に持ってきた時から、彼女は、気付いていた。

司を変えた女性がいる。

決して、逃してはならないと。




















「これ、美味かった」

「良かったです。不味かったらどうしようかと」

空になった弁当箱は、司からつくしに手渡された。

しかし、意外な重みに、つくしの視線が上がる。

「あの、何か入れました?」

「俺じゃねぇ。うちのバァさんだ。この前の菓子の礼だとよ」

「えぇ!そんなの、いいのに」

そう言いながら、つくしは、手の中の弁当箱を見た。

包み布は綺麗に、アイロンがかけられている。

「あの・・・開けても良いですか?」

「お前の弁当箱だろ。一々聞くな」

「そうなんですけど・・・あんまり高価な物が入ってたら、持って帰って貰えます?」

ズッシリとした重みに、つくしの眉が、情けなく下がる。

「は?貰っとけば良いだろ」

「いえ、そう言うわけには」

古書室のテーブルの上で、つくしが弁当箱を開けると、

「うわぁ」

先ほどまで不安げだったつくしの顔が、見る間に華やぎ、嬉しそうに目を細めた。

赤、青、黄色、白に紫。

色取り取りの金平糖が、和紙の小袋に入れられ、ギッシリ詰め込まれている。

添えられたメッセージには、

「ありがとう。美味しかったよ」

と筆文字で書かれていた。

「たった一個の長命寺が、こんな沢山の金平糖になるなんて、まるで、わらしべ長者みたいですね」

屈託無く笑うつくしに、司もつられて笑ってしまう。

なんで、こんなに楽しいんだ?

なんで、こんなに嬉しいんだ?

つくしの笑顔一つで、司は、天にも舞い上がる気分になる。

「でも、ちょっと、貰い過ぎですよね?」

つくしは、チラリと上目遣いで司を伺う。

生真面目すぎる彼女の前で、司は、腕を組んだ。

絶対受け取らない姿勢を露わにする。

「持って帰っても、俺が、叱られるだけだろ」

「ですかね?」

「年寄りが、一回差し出したもん戻されて、良い気分すると思うか?」

司の言葉に背中を押され、つくしは、やっと納得したようだ。

「ありがとうございますと、伝えてください。家族で分けて食べます」

喜ぶ進の顔が浮かび、つくしは、フンワリと笑う。

その顔が、途轍もなく可愛くて、司は、唇を噛んだ。

そうでもしないと、締まりのない顔になりそうだった。

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台風は、温帯低気圧へ変わった模様。
しかし、まだまだ風も雨も、気が抜けません。
山形、風速30メートル以上。
何かにつかまらないと立っていられないほどだそうです。
日本海側の皆様、北日本の皆さま、どうか、お気をつけて。