「場所の提供はするけど、直接、手は、下したくないわ」

陸上部の部室で、部長である小笠原は、渋い顔をした。

話の成り行き上、片棒を担ぐ事になってしまったが、目の前で、作り笑顔を浮かべる蜜石歩と言う女をどうしても信じることが出来ない。

「今更ですわ、小笠原さん。でも、ご安心ください。顔は、見られないようにして差し上げますから」

歩は、ハンカチで口元を押さえながら喋った。

そうでもしないと、この埃っぽい部屋では、くしゃみが出てしまいそうになる。

「そんな事、出来るの?」

「目隠ししてしまえば、何も見えないでしょ?」

「そんな簡単な事?」

「捕獲係りは、私なんですから、方法に口出ししないでください。貴女は、牧野つくしを嫌う人達を集めて下さればいいんですから」

「集めて、どうするっていうのよ」

小笠原は、激しく後悔し始めていた。

この蜜石と言う女、目付きが、ヤバイ。

止めると言えば、今度は、自分が何をされるか分からない。

歩は、つくしに与える苦痛を考えかなら、ニヤリと笑った。

悪魔のような横顔に、小笠原は、ブルリと震える。

「そうですね」

歩は、ポケットから、カッターナイフを取り出した。

カチカチカチ

銀色の刃を、最大限まで出すと、蛍光灯の明かりにかざす。

「一房、千円で如何ですか?」

「はぁ?」

「牧野つくしの髪を一房切るのに、千円。高くは無いと思いますけど」

歩は、つくしのお下げ髪が憎くて仕方ない。

『私の娘は、お下げですもの』

病床の椿がこぼした一言のせいで、歩は、髪を伸ばし、三つ編みにした。

少しでも気に入って欲しい。

娘と、認めて欲しい。

しかし、実母は、腹を痛めて産んだ子供より、たかだか数年育てただけの他人を、最後まで恋しがった。

使用人達までもが、何か、失敗する度に、

『つくし様なら、こんな事はなさらなかった』

と陰口を叩いた。

母の死後、守ってくれるはずの父も、愛妻の呪縛から逃れられず、髪を切りたがる娘に、三つ編みを強要してきた。

見た目を似せようとすればするほど、違いが目に付くと言うのに。

「私が変えられないなら、あちらを変えるまでよ」

ブツブツ呟く言葉の意味を、小笠原が、理解出来るはずもない。

ただ、目の前でカッターナイフの刃の上で、指を滑らす歩が、怖かった。

「分かったわ。集められるだけ集めるから」

逆らわぬのが得策と覚悟して、歩の指示に従う事にする。

やらなくてはいけないなら、いっそ、早く、終わって欲しい。

小笠原は、歩の狂気に巻き込まれ、自分で考える事を止めてしまった。
























「はい、これは、滋さんへ。これは、桜子に」

バイト先へと向かう車の中で、つくしは、今日、貰ったばかりの金平糖を、二人にも分けた。

「わぁ、綺麗」

和紙で出来た包み紙も、向こう側が透けるほど薄く、その精巧さに、滋が、感嘆の声を上げる。

中に入れられた金平糖も、大粒で、手作業で作られたものに違いない。

そんじょそこらで手に入るのとは違う一品に、桜子は、口を尖らす。

「これ、どうしたんですか?」

「頂き物」

「誰からのです?」

桜子は、道明寺司が、食べ物でつくしを釣ったのだと思った。

なんとも、卑怯。

私だって、もっと美味しいものを差し上げれるわ。

そんな想いに、ますます気分が悪くなる。

しかし、つくしは、

「おばぁさん」

と短く答えて、お弁当箱を布で包み直していた。

「おばぁさん?」

「そう、おばぁさん」

「どこの?」

「えっと、話せば長くなる」

その時、スーッと音もなくリムジンが止まった。

バイト先に、到着したようだった。

「じゃ、ありがとねぇー」

「話が、まだ、終わってません!」

「また、明日話す。滋さんも、またねー」

つくしは、桜子が止めるのも聞かず、軽やかに車を降りてしまった。

そして、裏口へ駆け足で入っていく。

「道明寺司に、祖母なんて、いましたっけ?」

「さぁ、聞いた事ないけど。そんなの、桜子の方が知ってるでしょ?」

他人に興味のない滋は、他人の家族構成など気にも留めない。

「使えませんね」

「あんた、口悪すぎ」

手の中の金平糖を見ながら、二人は、溜息をついた。

永林時代は、互いの事を何もかも知っていたのに、英徳に来てから、つくしが、遠い存在に思える。

「あぁあ、先輩、あんなんじゃなかったのに」

「ま、確かに、つくしもつれないよね」

滋は、苦笑し、桜子は、泣きそうな顔になった。

悔しいが、今のつくしは、今まで見てきた中でも、特に生き生きして見える。

「なんか・・・寂しいです」

「そりゃ、あたしも、一緒だって」

走り出したリムジンの中、滋は、金平糖を一粒口の中に入れた。

広がる甘さが、余計、寂しさの色を濃くする。

「桜子、うち寄ってく?」

「・・・少しお邪魔させていただきます」

ずっと、つくしの側にいたから、分かる。

あのキラキラと光る目は、恋をしている。

「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってね」

「それは、相手をもっと調べてからです!道明寺司と言えば、血生臭い噂ばかりですもの」

「そうだけど・・・いつか子離れならぬ、つくし離れしないとさぁ」

分かったような口をきくが、滋とて、つくし無しの生活は、想像できない。

ただ、つくしに依存し過ぎる桜子を、心配もしている。

つくしを介して知り合った二人だが、既に、ちゃんと親友なのだから。

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