2006年11月19日

托卵を企んでいる鳥

subj:やさしい鳥学講座(9)
「托卵への対抗手段」
講師:国立科学博物館研究官 濱尾章二さん
place:国立科学博物館付属自然教育園
category:
date:06/11/12
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○托卵という習性
 "托卵"とは、他の種類の巣に産卵し、ヒナを他の種類の個体に育てさせてしまうという一部の鳥に見られる習性です(鳥類のほかに魚類や昆虫類の一部でも見られます)。世界中で様々な種類の鳥が托卵を行っており、カモの一部でも托卵の習性があるそうです。日本ではカッコウの仲間(カッコウ・ホトトギス・ジュウイチなど)に見られます。

 ホトトギスが托卵する相手はウグイス。ウグイスは一個/日というペースで5個くらいの卵を産むのですが、カッコウは、ウグイスが3個くらいの卵を産み終えた辺りで親の不在を伺って自らの卵を一個生みつけ、ウグイスの卵より先に孵ったカッコウのヒナがウグイスの卵を全部巣から落とし、親の給餌を独占して成長していきます。これは相手の鳥(宿主)の卵を破棄しててしまうケースですが、しかし他の托卵の習性の鳥では宿主の卵も育つ場合もあるそうです。
 
 ところで托卵される側、つまり他の鳥の卵を育てさせられてしまう鳥(宿主)には、托卵に対抗する術(すべ)はないのでしょうか。

○托卵への対抗戦略
 宿主側からみれば、托卵という寄生は大変大きなマイナスです。自分の卵や雛を破棄される場合もあれば、自分の子孫ではないヒナの成長のために給餌しなければなりません。では宿主側には対托卵戦略はないのでしょうか。

 これまでの観察によって、宿主側にも以下のような対托卵戦略があることがわかっています。
 
 1、卵を捨てる
 2、巣を放棄する
 3、再造巣して卵を埋める

 この中で、3の再造巣して卵を埋めるというのは、生き埋め、つまり今までの巣の上に更に巣を造って托卵された卵を埋めてしまう作戦です。卵はかなり親鳥と密着しないと暖まらないので、少しの労力で托卵を排除することができます。しかしこれはも自分の卵も埋めてしまうというデメリットがあります。

○托卵を拒否できない?or拒否していない?
 このような対托卵戦略はあることはあるのですが、それは一部の種に限られる習性だそうです。つまり多くの宿主となる鳥では、托卵という習性に対して積極的に対抗措置と見られるような習性を獲得していません。なぜ、すべて宿主となる鳥は托卵を拒否できない、あるいは拒否していく習性を獲得しないにのでしょうか?

 この托卵排除について、托卵される様々な種類の鳥で調査したデータがあります。それによると自分のモノではない卵が巣にあるばあい、完全にその卵を排除する種とそうでない種があることがわかりました。つまり托卵に対するスタンスは、種によって排除割合が様々に異なるという結果です。
 
 この結果を対托卵戦略の進化という面から見てどう解釈するかで現在二つの説があります。
 
1:「対托卵戦略のスタンスの差は、托卵排除が進化していく途中であるという説」
 この托卵に対するスタンスの違いは、宿主側の托卵に対する戦略が進んでいる最中、つまり進化の途中にあるという説です。進化的なタイムラグが、托卵に対するスタンスの違いだということになります。

2:「托卵排除にはデメリットがある。そのため全ての固体が卵排除をするように進化するとは限らないという説」
 これは托卵排除のスタンスを進化の結果としてみた場合の説で、托卵を積極的に排除しても自分へのデメリットが大きいという考え方です。
 
 もし進化の過程で托卵を排除する個体が増加していった場合、結果として托卵する鳥の減少し托卵をする習性をもつ種の進化の圧力が低下します。そうなると進化的なタイムラグがリニアな違いとして現れる可能性は少ないように思われます。また一方で托卵の排除は自らの卵を破棄してしまうと言う可能性があるために、排除しない方が有利という場合もあります。つまり"バランス"の中で托卵排除をすべきかしないべきかが決まってくるという考え方から言うと、2の説の方が有力な説のようです。
 
 この”バランス”に関して数理モデルによる研究がなされました(takasu,1998)。托卵する鳥の寿命や宿主となる鳥の寿命・托卵されたやすさ(巣の見つかりやすさ)・卵擬態の程度などをファクターとして、コンピュータでシミュレーションしてみると、比較的短時間で卵排除を行う種・行わない種が共存する状態(平行状態)になるという結果が出されました。この結果からも、現在の対托卵戦略のスタンスの差は個別進化によるものであると考えられています。

 つまり現在の托卵する鳥、される鳥との関係性(托卵を排除する・しないに関わらず)は、様々なファクターが関わった結果の進化の末の結果であるという事です。

○宿主は雛を区別できないか?
 ところで、托卵をされてしまう鳥、すなわち宿主は自分の巣の中にある卵や雛を自らの子孫であるかどうか認識できないのでしょうか。

 もちろん進化の結果により托卵される卵が、宿主のモノに擬態しているということもありますが、もし認識できるとしても卵の状態を、初めて産卵する宿主が托卵であると認識できるとは考えられません。

 では生まれてきたヒナではどうでしょうか。近年、托卵されたヒナを見分け育児を放棄してしまう宿主の鳥がいることが、オーストラリアの研究者によって発見され、科学誌「ネイチャー」に発表されました(2003年)。

 この托卵されたヒナの放棄をする鳥はルリオーストラリアムシクイという鳥です。この鳥にはミドリカッコウの一種(Hミドリカッコウ)が専門的に托卵するのですが、ルリオーストラリアムシクイは積極的に托卵に対する対抗手段を講じています。

<ルリオーストラリアムシクイの対抗手段>
・産卵前(巣には卵が一個もない状態)に托卵された場合は、再造巣して托卵を埋めてしまう。
・抱卵中に托卵されたばあいは、巣を放棄する。
・産卵期(ルリオーストラリアムシクイも複数の卵を産みます)に托卵された場合は気づかない。

 さらにこれだけではなくミドリカッコウのヒナが孵った場合、ミドリカッコウのヒナがいる巣ではを11/29(巣)の割合でルリオーストラリアムシクイは巣ごとヒナを放棄し、他の場所で巣作りからやり直していることが観察されました。これはヒナの声を聞き分けていると考えられています。
 
 ではなぜルリオーストラリアムシクイだけが托卵に対して対抗手段を講じているのでしょうか?その原因としては、
・欧州に比べればオーストラリアの托卵率が高く(13〜37%)、強い淘汰率によって対抗手段を獲得した。
・卵擬態が成功していて托卵の排除が不可能だった。
・自分のヒナが一羽の場合、間違って遺棄してもまた産卵できる能力の獲得(トータルで考えるとコストが小さい)。
・オーストラリア独特の気候のおかげで繁殖期が長く(3〜6月)、再営巣しやすい。

などが考えられますが、まだ十分な答えとは考えられていません。

○托卵を受けやすくなる他の要因
 托卵に関しては、他にも様々な研究がなされています。たとえば托卵されにくくする行動に関しては以下のことがアメリカの研究でわかっています。

 ・巣の側で鳴いた回数が多いほど托卵されやすい
 ・木の近くに営巣していると托卵されやすい。

○まとめ
宿主の対托卵戦略
・托卵の排除
・托卵からうまれたヒナの遺棄
・托卵されないように目立つことを避ける
・托卵しようとする敵に対しては直接攻撃を仕掛ける

托卵鳥の共進化
・卵を宿主により似せるように専門的に擬態させる。
・ヒナも擬態させる。
・宿主に発見されないように素早く産卵する能力。

他の要因とのトレードオフ
・木の近くは餌が豊富など

 それぞれが托卵という習性を巡り互いに進化してきました。いわば今見られる鳥の修正は、托卵というシステムを巡って進化し種として生き抜いてきた証なのです。


国立科学博物館付属自然教育園(オフィシャルサイト)

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