2009年06月10日

美容師・戸澤陸太郎(とざわ りくたろう)について

少女は 『 ひきこもり 』 だった



とある理由で、ぼくが美容師を辞めて半年


美容とは全く関係のないバイトをしながらの、昨日も明日もないような毎日


身も心も完全に発酵して、脳から桜が咲いたような生活




でも

どこか後ろ髪を引かれるような感じで、完全にハサミを捨てることはできず


築20年

2t トラックが横を通っただけで震度3を観測する賃貸アパートの一室で
仲のいい友達だけ、髪をカットさせてもらっていたある日



ぼくは、その少女と出会った



地元の埼玉から来てくれた友達に、娘だと紹介されたその少女は

腰まで伸びたロングヘア


聴けば、ほぼ丸2年、母であるぼくの友達と
ばあちゃんにあたる同居中の友達の母
それに、一つ年下の妹

この3人としか口をきいておらず

家の外に出ることすら、何カ月ぶりだという



そんな少女が何カ月かぶりに会った、自分の母の友人だというオトコは


薄汚いロン毛のパーマにヒゲメガネ


『信じるも者も、救えない』


そんな噂が絶えない

通称 ・ 『中目黒のイエス・キリスト』






逃げも隠れもしない感じで、正々堂々と警戒している少女は
もちろん、勤めて優しく笑いかけるぼくの方などまともに見ることなんてできるハズもない



『 あと3カ月で小学校も卒業だし、中学校に行く娘に何かいいきかっけになれば… 』

そう思って


『りくたろうさんなら、もしかしたら… 』



なぁんて


そんな嬉しい期待を胸に、娘を連れて来てくれた、母であるぼくの友達


その想いに応えてあげたい


でも



『 逆に… ぼくで大丈夫!?!? 』


そんな気持ちでいっぱいになるのでありました





とにもかくにも、なんとか家までご招待して、いざヘアスタイルのカウンセリング!




いきなりカウンセリングは難しいと思い

空気を軽くするために雑談に入ろうとするも



これがまぁ〜〜〜〜

びっくりするほど話が弾まない!



衝撃吸収材なら、史上空前の大ヒット!!!!!!!!

バスケのボールだったら完全に不良品




そう!!! 
弾まないのである。




…じゃ、じゃあ

髪…

どうしようか…!?





母である友達を介して聴いてみると

やっと出てきた唯一の言葉は



『 切りたくない 』




………





そっかぁーーーーーーーーーー!!!!

そーーーーーーだよねぇーーーーー!!!!!!!!!!!!!!





そしたらとりあえず、DSの『ドラゴンクエスト』でもやる !?!?!?!?

それともモツ鍋でも食いに行く !?!?!?!?!?!?

近くに美味しい有名なお店があるんだよねーーーーー!!!!!!!!!!!!





しかし、残念ながら


少女は『ドラゴンクエスト』より『ファイナルファンタジー』派であり

お肉全般が嫌いで食べられないらしい






それならファイナルファンタジーを買いに!!!!!



…というワケにもいかないので



『 ちょっとだけなら 』



という条件をとりつけ、ようやくカットを始めるぼく


もはや、逆にピリオドの向こう岸に見事に泳ぎ着いていたぼくは

せめてこの場を盛り上げようと

カットをしながら、一方的にしょーもないギャグを連発する



ダダ滑りすること、スケートの如し!!!!!!!!





…と、思いきや…





笑った !!!!!!!!!!!!!!!!






あんなにリアクションの無かった少女が

ぼくのしょーもない話を聴くと、笑うのだ




調子に乗って、プライベートな話しに踏み込もうとすると、即無言



でも


またしょーもない話をすると、また笑ってくれる




嬉しくなったぼくは

終始しょーもないことだけを言い続ける、絵にかいたようなバカになると決めて

残りのカットの時間全てを、しょーもないバカ話をすることに徹したのだった





カットしてた時間はたったの30分




切った髪の長さは、たったの2センチメートル





カットが終わって鏡を見せながら最終確認する


『 どう!?!? 』





…うん!

正直、全くと言っていいほど変わってない!






そりゃそうだよね!





でも、それでいい






この2センチメートルが

このコにとって、どれほど勇気がいることだったか




『世界・女心が分からないオトコ検定 準2級』



そんなこのぼくでも



それは、十分に分かるから





最後のあいさつにもちゃんと返せずに、駅の改札に消えていく少女を

そんなことを思いながら見送った




電車で1時間以上もかけて遠くの街に来て、見ず知らずの怪しいオトコに髪を切られる

確かに少女にとっては、ものすごく大きな出来事だったと思う



でも


『 娘に何かしてあげたい! 』


そんな友達の想いに応えてあげられたという手ごたえは



正直、全くなかった




これでよかったのだろうか!?



もっと何か、してあげられることがあったんじゃないか!?




そんな想いばかりが湧き上がっていたぼくに友達から電話がかかってきたのは

その日から、わずか2日後のことだった






『りくたろうさん!!!!!!!!!!!!!!!!

H(少女)がね!

今日、自分から学校に行くって言い出して!

行ってきたのよ !!!!!!!!!!!!!!!


久し振りだから疲れちゃったみたいで、午前中で早退してきたんだけど

また明日も行くって言ってて… 』







涙が止まらなかった






『 みんなーーー!!!!

聴いてよーーーーー!!

ぼくは、こんなに凄いことをしたんだぜーーーーーーー!!!! 』




そんな自慢をするつもりなんて全くないし

そもそも、ぼくの力なんかじゃない




それは


ぼくには到底想像することもできないほどの不安に

きちんと自分で立ち向かった、少女の勇気の力であり



そんな少女をずっと支えてきた

母である友達の力である





ただ



きっと、ホントにホントにちょっと

本当に本当にちょっとだけだけど





大好きな “ 美容師 ” という仕事を辞めてしまうくらい
ホントにホントにしょーもないこのぼくが




この少女にとって

何かのきかっけになってあげられたのかもしれない、ということ




娘を想う、友達の想いを、応援してあげられたのかもしれないということ




それが、本当に嬉しかった





少女は、その後も順調に学校に行きつづけたらしく


無事小学校を卒業することになった3か月後





また、友達が電話をくれた







『 Hがね、りくたろうさんに髪を切ってもらいたいって自分から言ってきたのよ



しかも、バッサリショートにして欲しいって!!!!!!!!!!!!!!!!! 』






『 ぼくにカットさせて下さい 』




もちろん、迷わずそう言った








今度は、友達の家にぼくが行くことになり

約束のその日





少女に会うのは久し振りだ





ちゃんとあいさつしてくれるだろうか

今度は、ちゃんと話をしてくれるだろうか




また笑ってくれるだろうか




ちょっとだけ緊張しながら、友達の家に向かう






『 近くまで来たら電話して 』

そう言われていたので、家の近くで友達に電話すると



『 そこで待ってて 』と友達



しばらくその場で待っていると



マンションからものすごい勢いで、誰かが飛び出して来た




少女だ




少女は猛スピードで駆け寄ってくると、驚いてその場に立ちすくんでいるぼくに、勢いよく抱きついてきた





いやいやいやいやいや!!!!!


違いすぎるっしょ前回と!!!!!笑





ビールが飲めないぼくでも飲める、戸惑いと嬉しさのハーフ&ハーフ!


まっ!

いっか!!!!


悪いことじゃないし!!!!




前回は顔すらまともに見てもらえなかった少女に

今日は腕を引かれて歩きながら



そんなことを思った




家について、早速髪ヘアスタイルのカウンセリング

前回と違って、今回は相当スムーズだ



とはいえ、前回から3カ月

前回と全くと言っていいほど変わらない(いや、全く同じだ笑)、腰まである髪をバッサリショートヘアにするのは、やはりちょっと緊張する



これまた前回と全く同じで、しょーもない話ばかりしながらカットしていくぼく




チョキチョキ


チョキチョキ




ただ一つだけ

前回と違っていることがある





それは


話をしているのは


ぼくではなく

どちらかというと少女の方だ、ということ





チョキチョキ


チョキチョキ






一時間後






少女は、見違えるようなショートヘアになった






最終確認の鏡を見せる







少女にとっては、もちろん、生まれて初めてのショートヘア





鏡を渡すぼくにも、一瞬緊張が走る










『 カワイいっ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 』








鏡に映ったショートヘアの自分を見て

もちろんぼくは初めて聴く、とびっきり大きな声でそう叫んで





少女が笑った









この時


この少女の笑顔を見た瞬間に


ぼくはもう一度、美容師に戻ることを決めた









ぼくたち美容師は

髪を切って

人をキレイに、カッコよくすることでお金を頂いている




もちろんそれには

技術や知識、センスも必要だろう



でも




本当にそれだけなんだろうか!?




人が、キレイになりたいと思ったとき

人が、カッコよくなりたいと思ったとき

人が、ちょっとだけ前向きになりたいと思ったとき



人が



『 自分を変えたい!!!! 変わりたい!!!!! 』



そう思ったとき




そんな人たちに、美容師ができること




それは


『 髪を切る 』

『 ステキなヘアスタイルにして差し上げる 』



本当に、それだけなんだろうか!?





その答えは、ぼくはまだ知らない






あれからもうすぐ3年




ぼくはもう一度きちんと美容室で働き始めて

少女は無事中学校に進学、今年高校受験だ





今でも数か月に一度、髪を切らせてもらいながら

少女はいつも、色々な話を聴かせてくれる



国語が得意で理科が大っっっっっっっキライなこととか


担任の先生に付けた面白いあだ名のこととか


たくさんたくさんたくさんできた

同じクラスの友達、一人一人の名前とか







そんな少女の話を聴きながら、今日もぼくは髪を切る





少女の話を、いっぱいいっぱい聴いて

しょーもない、くだらない話をいっぱいして



いっぱいいっぱい笑いながら



今日もぼくは髪を切る





あの日、あの時、あの瞬間

あの笑顔に、今日もまた会いたいから






hair salon Loufreasy
http://loufreasy.com/

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この記事へのコメント

19. Posted by 優子   2013年05月21日 00:02
はじめまして。
とても感動致しました!!
お話頂きありがとうございます。
同じ美容師とし本当に共感出来る事がたくさんあります。
明日はLoufreasyオープン日ですね♪
お会い出来る日を楽しみにしております。
18. Posted by 白井愛子   2012年11月09日 11:41
5 Facebookから飛んで飛んで来ましたが、良い話ですね〜
だいぶ前のブログなので、今コメントで大丈夫なのだろうか・・
17. Posted by hiro   2010年01月30日 13:19
とても素敵な仕事。いや人生を真当してますね!
自分も髪を切る事より、切った方の笑顔にこそ業があると感じています。
こるからもその気持ちを大切にして行きましょう。
16. Posted by mikoko   2009年12月26日 21:04
なんかよかった。
あたしもがんばる。

りくたろうさんも
美容師がんばれ。ニコ

15. Posted by りくたろう   2009年06月22日 16:21
>PeMさん


コメントありがとうございます

ご自身も何かうまくいかない現実の中にいらっしゃったのでしょうか!?

少しでもいいきっかけになれたのでしたら嬉しいです

オレの誕生日、だったんですね笑


ありがとうございます
14. Posted by PeM   2009年06月21日 22:32
あ、奇しくもお誕生日ですね。
おめでとうございます。
13. Posted by PeM   2009年06月21日 22:31
重人さんの所からお邪魔します。

素敵なお話をありがとうございました。
私自身、色々と不本意な近況の中で、色々と出来る事をしてみようと思いました。

やっぱり好きな事を続けたいですもんね。
12. Posted by りくたろう   2009年06月12日 21:48
>pie

そんなオマエを、全オレが抱きしめた笑
11. Posted by pie   2009年06月12日 14:45
全俺が泣いた
10. Posted by りくたろう   2009年06月11日 23:29
>いはらくん


次にオマエの顔を見た瞬間…オレはプッツンするだろうぜ(笑)
9. Posted by りくたろう   2009年06月11日 23:28
>さいたっとさん

誰かと思えば…

いらっしゃいませ(笑)

髪師日記、最近お留守のよぉですよ(笑)
8. Posted by りくたろう   2009年06月11日 23:26
>ぴぃちゃん

そぉです

そぉぉぉぉなんですよ
将来オレが有名人になったら、必ず実写化して頂くよていなんで(笑)、そんときは是非ぴぃちゃんに少女役を(笑)

7. Posted by りくたろう   2009年06月11日 23:24
>くぼちゃん

ドラマのような、ホントの話
6. Posted by りくたろう   2009年06月11日 23:22
>けーすけくん

ふぉふぉふぉ…

どーもバルタン星人です

両手が塞がってるので乾杯のグラスがもてません。完敗。
5. Posted by いはら   2009年06月11日 21:39
そんな深いい話にはさせんぞッ!!
ロードローラーだッ!!!
4. Posted by sai   2009年06月11日 20:37
5 いい話やわぁぁ〜。。。号泣
3. Posted by ぴぃ   2009年06月11日 20:00
めっちゃ泣ける話しやぁん!!(T△T)
2cmの重み…感動したわぁ!

その子のおかげでリクタロは美容師に復帰して、あたしも出会えたわけだo(^-^)o
その子に感謝やなぁ☆☆

2. Posted by クボ   2009年06月11日 01:02
素敵すぎる話!!
1. Posted by けーすけ   2009年06月10日 23:21
誰かの人生のターニングポイントになれる人ってそうはいません
右手にハサミ、左手に思いやりを持ったバルタン星人に乾杯です

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