伝えたい言葉が僕にはある

伝えたい言葉が僕にはあるというラノベをまとめたサイトです。 3万字という制約の中でできる限り奮闘していきたいと思います。主人公は対人恐怖症の大学生。少し前から秋葉原でその性格を治そうとしていたが、ひょんなことがきっかけで出会った少女たちと交流を深めるうちにどんどん成長していって・・・・・・

伝えたい言葉が僕にはある【その十】

チリンチリンといつもの入室音でみほりんさんが入り口にやってきた。

「あら~3人で来客なんて珍しいわね~。ゆっくりしてってー」

彼女は腰に手を当て、にっこりと仁王立ちするとカウンター席に僕達を案内してくれた。

「ありがとうございます」

これまた丁寧にゆいながおじぎをしていた。

「早く座ろう!」

「そうだね。歩きまわって結構疲れてるかも」

きっとそれだけが理由ではないのだろう。一気に気が抜けたようにイスに腰をおろした。

「今日はいつものアレ?」

「あーはい、そうです」

「ご苦労様~あっ何にする?」

僕はメロンソーダ、ゆいなとヒナがそれぞれアイスレモンティーとオレンジジュースを注文した。

「そういえばヒナが拾ってたやつって結局何だったんだろ?」

素朴な疑問が口から出た。

「パンダさんだ」

「それはわかるんだけど、何か文字が書いてるような?」

「そうかー?」

ヒナがずっと握っていた手を開いて紙をテーブルに並べ始めた。

「よく見るとこれ、何かの抽選券みたいだね」

「えっどれどれー? あっ本当ですねーこの街の電気店の企画みたいですね」

「抽選は15日まで……今日までだ」

「なんだ、ガラガラできるのか?」

ヒナは瞬きもせずに大きく見開いた目を輝かせていた。

「そうねーでも抽選券が10枚必要みたいね」

並べられていたのは8枚だった。

「いずれにしても拾ったものはきちんと届けた方がいいですね」

「え~いぃやぁだ~! これはヒナが拾ったんだからヒナのものぉ~!」

「でもね~」

ゆいながすかさず宥めようとした。

「別にいいんじゃん? だってそれ落としたものっていうより

捨てられたもんだろうし。砂浜とかにいっぱいゴミ落ちてるでしょー?

そういうのを拾いにいくと思えばまあ問題ないっしょー」

そこへ話を聞いていたみほりんさんが間に割って入ってきた。

「ん~……一理ありますね。問題は枚数か……」

そう、抽選を一回行なうだけの枚数が足りていなかった。

「それならあたしが昨日買い物したときもらったやつもっていきなよ」

彼女はそう言うとベージュ色の革製のポシェットの中からピンク色の財布を取り出し、その中から抽選券を3枚引き抜いた。

「ほれ」

8たす311だな!」

それを見て誇らしげに解答するヒナ。

「せいかい~じゃあご褒美にさっさと抽選にいってきなー?」

みほりんさんがわしゃわしゃとヒナの髪をなでた。

「おう! じゃあ今すぐいこー!」

「ええ!? 今来たばかりなのにもう出ちゃうの?」

「善は急げだ!」

善かどうかは置いておくとして、どうしてもと一歩もひかないヒナの姿を見て、ゆいなはとうとう折れてしまい、抽選会場へ向かうこととなった。

今日で最終日ということもあり、それなりに列ができていた。

そしておよそ10分後に自分たちの番が回ってきた。

ゆいなが抽選券を受付のスタッフに渡し、それを確認してヒナがぐるんと勢いよくガラポンを回した。2回転したところでころっと玉の出る音がした。

するとにわかにカランカランとベルが鳴った。

「おめでと~ございま~す!」

「ええ!?」

「あ、金玉だー!」

「せめて金の玉とかこう……もっと言い様があったんじゃないのか?」

「えっと金の玉はっと……ん?」

「って無視かい!?」

「豪華ペア2組、本州最西端の旅チケットの当たりだよー!」

「ってうそー!?」

僕とゆいなは目を丸くして見つめ合い、ひなはその場をぴょんぴょんと跳ねていた。

伝えたい言葉が僕にはある【その九】

僕らはほぼ同じ場所にまとまって、ゆっくり移動しながら一緒に清掃活動を行った。

その理由は二手に別れると厄介事に巻き込まれるかもしれないということと、

単純にルートが決まっているためらしい。

自動販売機の近くや、路地裏などを重点的にゴミ拾いしていく。

途中で、「おお~お嬢ちゃんたち、偉いのぉ」と老人から声をかけられていた。

しばらくゴミ拾いをしていると、小学校のような建物のある路地に入ったところで、

「うわっパンダさんだー」とヒナが突然地面を指さした。

よく見るとパンダの絵が入った黄色い紙切れが落ちていた。

「パンダにさんづけはないんじゃない?」

「いや、パンダさんはパンダさんだ」

「そっか……」

それから彼女はちょぼちょぼと小走りでそれを見つけてはしゃがんで拾っていった。

もはや清掃活動そっちのけだ。

「こらーひなー? ちゃんとゴミも拾わないとダメでしょー?」

とうとうゆいなが痺れをきらして注意した。

「うっうぅ……ごめん」

「よろしい。もうちょっとで休憩にするから最後まで頑張っていこー?」

「おー」

ゆいなに励まされ、先を歩いていたヒナはくるりと振り返り拳を高々と突き上げた。

それからはきちんとゴミを拾いながら紙を集めているようだった。

気が付くといつの間にか見知った通りに差し掛かっていた。

「はーい、じゃあちょうどメイドミトリーの前に到着したので、ここで休憩にしましょう」

「やったー! もっとパンダさん集めるー!」

「ん~、休憩してからでいいんじゃないか? 別に逃げはしないだろう。

それに集めるんなら掃除しながらの方が効率的だと思う」

「そっかーじゃあ休憩だな!」

意外にもあっさりと折れて3人は店の中に入った。

伝えたい言葉が僕にはある【その八】



僕は無言で立ち上がり、衣服の汚れた部分を手で払った。

この分なら大した傷もできていないはずだ。

そして何事もなかったかのように元の場所に戻ろうとしたのだが。

「おい、大丈夫か!?」

「あ……」

彼女たちがどうやらついてきていたようだ。

「どうしてあんなやつらに殴られてるんだ! おかしいと思わないのか!?」

「おかしいけど、あの場合ああするしかなかったと思う……」

「それでも男か! 悔しくないのか!?」

「そりゃあ悔しいけど……」

「だったらきちんと伝えたいことは伝えるべきだ!」

「……」

 

何も言い返すことができなかった。

たとえ彼女が撒いた種とはいえ、他人が暴力を振るわれたことを
自分のことのように厳しく責めたてる少女。

そしてどうすることもできなかった自分。

正しいのはどちらなんだろうか。

何かをしてしまえばまた火種がどんどん大きくなってしまう。

今回の件だけでなく、過去の自分においてもそうだ。

人見知りを治そうとしてきたが、結局何も変わっちゃいなかった。

ついに何かに促されるように口を動かしていた。

 

「実は昔いじめられていたんだ。五味って名前が原因でね。

あの頃は毎日ゴミ扱いされていた」

僕は否応なしに過去の記憶を呼び起こしていた。

 

--ようゴミ、なんでこんなとこにいるんだ?

ゴミはゴミらしく隅の方で丸まっとけよ!
 

自分の席がなくなっていて代わりにゴミ箱が置かれていた。

もっとひどいのだと殺虫剤を顔に噴射されたこともあった。
 

--おいそれじゃあゴミじゃなくて虫じゃねーかwww

そういやそうだな、ギャハハハハ! 腹痛ぇーいひひ……

当時から時間が経っていても、あのにやついた顔が今でもたまに思い出される。

 

「どうされましたか? 大丈夫ですか?」

ゆいなに声をかけられ、彼女の不安そうな表情を見てふと我に返った。

「あ、ごめん。ちょっと昔を思い出していたんだ。

だから僕は今まで人と接することをできるだけ避けてきた。

仲良くなれっこない、仲良くなってもどうせ……ってね」

「……」

2人は黙って僕の話を聞いていた。

「さっきのこともそうだったけど、自分から殻を作って、
全部自分が悪いんだと自己完結して、僕はいつもこうなんだ……」

「それで人が苦手になっちゃったんですね」

「うん。他人と関わらなければ損もしないし得もしない。
マイナスがなければそれでいいって思ってた」

 

無論、そんなことはないだろう。人生を豊かにしていくには
人と関わり合うことが重要なんだと気付かされることがこれまでの経験上多かった。

先日もメイド喫茶で過ごす時間を習慣にしていなければゆいなたちと
再会することはできなかっただろうし、さっきみたいに口論になっていた
ひなを救うこともできなかったはずだ。

 

「やっぱり自分一人では何もできないって思った。
ただ、助けてもらうだけではダメで、助けられる時は助けないとっていう意識が
芽生えて、そしたら勝手に動いてた」

自分の両手を見つめながらそう言った。

「それでもなぐられるのはダメだ! 反省しろ!」

ひなが斜め上にスラッシュするようなチョップを僕の脇腹にいれてきた。

「ひなももう危ないことはしないでね~じゃあそろそろお掃除始めちゃいましょうか?」

ゆいながぽんぽんとひなの頭を叩いた。

「そうだね。あ、ごめんね、もってきてもらって」

ゆいなが僕の火バサミをもってきてくれていた。
興奮していて手から離したのを忘れていたようだ。

「いいんですよ。ひなも無事でしたし、ね?」

「うむ。はじめよう!」

何とか危機を回避した3人はその場の周辺のゴミを拾い始めた。

もはやスタート地点なんて関係なかった。どこでだって片付けることはできるんだ。 
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