出任せ系







罪なき者なおもて石を投げる。いわんや罪人をや。
(人生修行中のフリーライターの針小棒大な日々)

559 がんぶりが外れてますと言われたら

その昔、我が家に若者が訪ねてきて
「お父さん、がんぶりはずれてますよ」と
私の心を徒に不安にさせて立ち去ったことを書いた。

518 がんぶり外れてます

その後、若者は現れていない。
ついでに言えば、そんな工事もない。

少し前、建築業を営む知人が事務所に来た時に
その話を思い出して質問してみた。

「ねえ、『がんぶり』って知ってます?」

「がんぶり? 知らない。何それ」

「屋根瓦のナニやらだということは分かるんですが、
 実は昔、こんなことがあったんです……」と
顛末を話すと、知人は合点がいったようで

「ああ、たぶん『かんむり瓦』のことですね」と。

屋根の「Λ」の頂上部にある、筒を半分に切ったような
瓦を「かんむり瓦」あるいは「がんぶり瓦」というらしい。

なるほどね。で、それが外れてると言われたんですが。

「それは明らかにヤバいヤツです。相手にしない方がいいです」

「少し前に話題になった、リフォーム詐欺みたいな
がんぶり詐欺ということですか?」

「詐欺かどうか分からないけど、怪しいですね」

「次にそんなヤツが来たら、どうしたらいいですか?」

「僕を呼んでください」

「すぐに来てくれます?」

「まあ、無理でしょうね」

「ダメじゃん」

「じゃあ、こうしてください」

ある朝、やけに気の良さそうな兄ちゃんが玄関先に立ち
「おたく、がんぶりが外れてますよ」と言われたとしたら

「これは親切に、ありがとうございます。
 兄が(「父」でも「知人」でもOK)近くで
 建築業を営んでいるので、伝えておきます。
 もしよろしければ、同業のことですので
 お宅様のお名前をお聞かせ願えますか?
 兄にぜひ伝えたいと思いますので」

と言えば、絶対に退散しますよ、とのこと。

よーし分かった。

次にがんぶり兄ちゃんが来たら試してみることにする。

だから、あの時の兄ちゃんに告ぐ。

これを読んだら、今週の週末にでも来てくれないか?

558 気づいてしまった

気づいたからには、言わずにおれない。

 Miyamoto_Musashi_Self-Portrait江戸初期(1630年代)

Portrait_of_Itō_Jakuchū_by_Kubota_Beisen江戸中期(1790年代)

上下の写真を見比べてもらえば分かるが、
約160年もの年月を経過したというのに、
このヒト、少し髪の量が減ったくらいで、
ほとんど歳をとったように見えない。

さすが、歴史に名を遺す人はすごい。

……というのは嘘で(当たり前)
上は宮本武蔵、下は伊東若冲。

似てない?

557 救急搬送されました(3)

(前回までのあらすじ)

仕事中、体調が悪くなって救急車で病院に来たものの
点滴を打たれて寝ているうちに体調が回復したのであった。

しばらくすると看護師が現れ、耳鼻科に行くという。

救急病棟から耳鼻科まではかなりの距離がある。
歩いていこうと思っていたら、車椅子を持ってきてくれた。
これで乗せていってくれるという。ありがたい。

「でも」と看護師は言う。

「点滴スタンドがついた車椅子が用意できませんでした」

いやいや。何も謝られることはありません。
こちらこそ申し訳ない気持ちでいっぱいなので、
もう、何でもさせていただく所存です。

「ですので、ここに両足を乗せてください」

車椅子に座ったまま、ベッドの脇の点滴スタンド(写真)
車椅子
を足の間にはさみ、スタンドの5本の足の上に両足を乗せ
そのままの恰好で突き進むのだという。

「すみません、ご協力ください」

もちろんご協力するに吝かな私ではない。

しかし考えればわかるが、そのまま看護師が後ろから押すと
足を乗せたスタンドと車椅子がぶつかり、前に進まない。
そのため、私が常に足を突っ張って
スタンドを前に押しながら進まなくてはならない。
さらに左右に曲がる時は、曲がる方向に対して
スタンドをグイッと足で押し出すというテクニックが
必要になることまで分かってきた。

だから「はい、次の角を曲がりま〜す」という指示に合わせて
素直に左右にスタンドを押し出していたら、看護師が言った。

「お上手で〜す!」

ほっといてほしい。

大名行列の「奴」のように点滴を高らかに掲げた車椅子は
やがて病院の中でも最も人が多い中央待合室に攻め入る。

せめて入院患者さんのような寝間着であれば
多少は悲壮な感じになったのかも知れないが、
あいにく、私はその日、派手なアロハを着ていた。

周囲からは、浮かれたアロハオヤジが
得意げに点滴スタンドに足をかけ、看護師さんを従えて
爆走しているようにしか見えなかったに違いない。

そんな大名行列車椅子は、人ごみをかきわけて
午後の待合室をズンズン突き進む。

ものすごく恥ずかしい。

周囲の視線が痛い。耐え難い激痛だ。
この中で誰か、モルヒネを持ってる方はいませんか?

この辱めが神の戒めだとしたら、私は甘んじて受け入れよう。

耳鼻科でもさまざまな検査をした結果、
「別に変なところはないようです」と言われた。

そして、最後に医師がひとこと。

「どうします?」

ど、どうしますって言われても。
どうもなければ、帰ります。

「では、これを持って会計へ」

なにか釈然としないまま、その場で点滴をブチッと外される。

「もう外していいんですか?」と私。

「大丈夫です。食塩水みたいなものですから」と看護師。

ラベルを見れば、酢酸リンゲルと書いてある。
リンゲル液
生理食塩水にカリウムやカルシウムを加えたのがリンゲル液である(中略)
かつては長時間の手術後で疲労した医師が飲んだ例もあった(中略)
という。いわゆるスポーツドリンクは、リンゲル液を元にして、飲みやすいように食味を調整したものである
Wikipediaより抜粋
そうか。私はスポーツドリンクを葵の印籠のごとく高らかに掲げ、
海を割るモーゼのように待合室を渡ってきたというのか。

とぼとぼと自分の足で歩いて会計へ。

その後、知人にこの話をしたら、即座に断定された。

「それって、軽い熱中症ですよ」

え? そうなの?
熱中症
表面的な症状として主なものは、めまい、失神、頭痛、吐き気、強い眠気、気分が悪くなる、体温の異常な上昇、異常な発汗(または汗が出なくなる)などがある。
Wikipediaより抜粋
でも、別に頭痛はないし、失神もない……と思うし、
体温だって36.5度だったし。

そういえば、と思い出した。

私はいつも爬虫類が裸足で逃げ出すほどの低体温で
どの体温計で測っても36度を超えることは少ない。

もしかして、救急車で測った36.5度はじつは高熱で、
あれは熱中症の症状だったのだろうか。

みなさんもお気をつけを。

556 緊急搬送されました(2)

(前回までのあらすじ)

仕事中、急に目まい、吐き気、手足のしびれに襲われ、
動けなくなってしまい、救急車を呼んだのであった。

ほどなく救急車は最寄りの救急病院へ。

救急病棟のベッドに寝かされ、
新たに計測機器を装着され、点滴をされる。

救急救命士から申し送りを受けた医師が
名前・年齢・症状など、先ほどと同じことを聞く。
私はひとつひとつの質問に答える。

「らりるれろと言えますか?」
「ぱぴぷぺぽと言えますか?」
「がぎぐげごと言えますか?」

すべて最高の滑舌で答える私。

「私の指先を触れますか?」

すべて正確にトレースする私。

「口角を上げてニッコリ笑えますか?」

満面の笑みで応えてみせる私。

「右手と左手で感じ方の違いはありますか?」
「発汗はありましたか?」
「胸の痛みはありましたか?」
「耳鳴りはありましたか?」

すべての質問に「NO!」と答える私。

しかし、この頃になって私は一つの違和感を覚えていた。

先ほどまで感じていた吐き気や手足のしびれがまったくない。
目まいに関しては、横になっているのでほとんど感じない。

あれ? おかしい。

どこかおかしなところがないですか? という医師の質問に
私があまりに何もないと答えるため、医師としても
原因を突き止めかねている様子が見てとれる。

なんだか申し訳ないような気分になってきた。

「お加減はいかがですか?」

自分の全身を一瞬のうちにスキャンし、
見つけた小さな不調を大切に拾い上げ、
まるで宝石のように医師に見せる。

「えーっと、まだちょっと目まいが残っている……かな?」

実は最初に病院に電話した時に
「今日は忙しい」と言われたのももっともな話で、
なぜかこの日に限って救急の患者が
次々と運ばれてきていたらしい。
後で聞いたら、私が病院に到着した時も
救急車が3台並んでいたらしいし、
私がいる間もひっきりなしにドクターヘリが
離発着する音が聞こえてくる。

この「救急の特異日」のようなややこしい日に
どこも悪いところはありませんなどと言ったら、
対応してくれた医師に申し訳ないではないか。

「うーん。はっきりしたことは分からないので
一度CTを撮ってみましょうか」

繰り返される心電計の電子音の向こう側に
救急病棟の緊迫した、そして物騒な会話が聞こえる。
文字に起こすのさえ憚られるような単語が飛び交う。

待っているうちに、どんどん体調が回復するのが分かる。
比例して、ますます申し訳ない気分が高まってくる。

CTの検査室に通されたときには、
わらわらと集まってきた病院スタッフを手で制し、
「あ、大丈夫です。自分で移れますから」と、
自力でストレッチャーから検査台に乗り移る始末。

その後、CT画像をつぶさに調べた医師から
「脳に出血はないようです」と言われたあげく、
「原因は分かりませんねえ」と匙を投げられる。

とりあえず脳でなかったようで安心する。

しかし、医師も医師としての意地があるのであろう。

「念のため、耳鼻科で診てもらいましょう」

耳鼻科の医師の手が空くまで、再び救急救命病棟で待つ。
もちろん、多少のふわふわ感が残っている以外、
どこにも悪いところはないように思われる。

ああ、申し訳ないなあ。

しかし、本当の地獄はこの後だということを
私はまだ知らないのであった。

(つづく)

555 救急搬送されました(1)

昼食後、なにやらフラつく感じがあった。
気に留めずに仕事をしていたら
次第にフラフラ感が強まってきた。

「なんか調子が悪いなあ」

と認識したものの、そのうち収まるだろうと仕事をしていたら、
次は胃がむかむかしてきた。吐き気だ。

少し気になり、「目まい 吐き気」で検索してみた。

と、目まいには3つの種類があることを発見。
 回転性目まい
 浮動性目まい
 立ちくらみ
中でも浮動性目まいは
フワフワ揺れる感じと、頭痛やしびれ、運動まひなどの
神経に関係する症状を伴うことがあります。
だそうだ。これに最も近い。

さらに読み進み、画面を二度見した。
浮動性めまいの多くは、脳の異常が原因で起こります。
のののの、脳の異常? ……ダメじゃん。

でも、しびれがないからまだいいか。

……と思い、トイレに行くため立ち上がろうとしたら、
身体に力が入らず、よろけて倒れそうになる。

慌てて壁に手をつき、ギョッとする。

手がしびれている。

間違いない。これは脳だ。

落ち着け。こんな時はどうすればいい?

あ、そうだ。まず何よりもこれを確認せねば。

「俺って誰だっけ?」

名前は? うん、思い出せる。
生年月日は? よし、大丈夫。
今日は何月何日? えーっと、思い出せない。

でも、それはいつものことだから大丈夫。

声は出るのだろうか。

「あめんぼあかいな あいうえお
 うきもにこえびも およいでる」

大学時代に覚えた発声練習をやってみる。

よし。問題なし。

まだ大丈夫。もし脳に損傷があったとしても
今から病院に行けば何とかなるはずだ。

自分で車を運転して出かけようとしたが、
身体に力が入らず、無理やり運転すると
事故を起こしかねないので、諦めて家内に電話する。

「もしもし? ものすごく体調が悪いんだけどさあ
 ちょっと病院までクルマに乗っけてくれないかなあ」

近くにいた家内は、すぐ来ると言ってくれた。

うむ。これで大丈夫。

力を振り絞って壁を伝いながら事務所の外に出る。
正直、どうやって階段を降りたのか記憶がない。

気が付くと駐車場の自分のクルマの座席で寝ていた。

しばらくして家内が来る。

家内から、先に病院に電話した方が良いと言われ、
救急病院に電話をかけてもらうことにする。
しかしその日はなぜか救急患者の特異日のようで
「今来てもらっても、いつ診られるか分からないので
 心配なら救急車を呼んでください」と言われる。

アドバイスに従って119番に電話をすると、すぐに救急車が到着。
日本の救急医療はすばらしい。

救急車のベッドに寝かされ、血圧計と心電計を装着され、
ペンライトで目をのぞきこまれ、体温を測られる。

「体温、36.5度。血圧、168。脈拍……」

その後、矢継ぎ早に質問される。
お名前は? お歳は? どんな症状ですか?

「目まいと吐き気と手のしびれがあって……」

既往症やのんでいる薬などを聞かれ、病院へ。
まだ頭がくらくらする私を乗せ、救急車は走る。

(つづく)
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