2017年8月7日~8月29日
 走行日数23日間
 累計走行距離1181km(65540km~66721km)

◎道路
 かなりしっかり作られている。エクアドル山岳地帯を縦に貫くE35号線は車線も多いし側道も広い。町中では少々走りづらいこともあるが、体力を度外視すれば全体的に自転車で走りやすい国だと言える。
 とはいえ路面状態はまちまちで、南部に行くほど道路上にひび割れやギャップが増えてくる。下り坂だからとスピードを出しすぎると足元すくわれる可能性があるためダウンヒルには十分な注意が必要だ。
 でもエクアドルに関しての道でそんなことは大して重要ではない。この国ではひたすらにアップダウンが続くアンデス山脈を如何にして走りきるかということが大切。山岳部での平均標高は2500m程度で、一般道なら1500~3500mくらいの幅を上り下りさせられる。ロハの町より北でそれほど困窮する斜度は出てこないが、それでも100km前後の走行距離で獲得標高が2000m超えてくることがザラにある。
 更にロハの町より南に延びるE682号線に入ると舗装状況・斜度共に1段階厳しくなる。パランダの町から20kmで完全に未舗装の道となり、その状況はペルー側国境まで約50km続く。E682号線には道中に町が点在してるので補給・宿の心配は要らないが、ここら辺が雨の多い地域ということもあり、雨でぬかるんだ地面に加えて凄まじい山道・・・という自転車におけるおよそ最悪のコンディションでの走行を余儀なくされる可能性有。
 なおここから個人的な感想なのだが、エクアドルほど「道」を楽しめる国というのは少ないと思う。走るのキツくて大変であることは確かだが、こんなに何処走っててもワクワクした道を抱える国はちょっと記憶にない。エクアドルは自転車で訪れてこそ真価を発揮する国だと思っている。

◎治安
 場所にもよるけど全体的にコロンビアより良くなったかな。標高高い場所に住んでるのはほとんどインディヘナの人たちなのだが、彼らが牧歌的で実に愛想良かったのがそのイメージを後押ししてるのかもしれない。
 大都市ではキトの旧市街が飛び抜けて印象悪い。私は自転車でサッと通過しただけだが、この付近を歩き回るのであれば人通りの多い路地に限定しておかないとトラブルに合いそうな雰囲気ムンムンの道がたくさんあった。
 対して同じ大都市でもクエンカの町はイメージ悪くないんだよね。まぁ夜中に出歩くようなことはしないけれど、纏っている空気がキトとは違うと思ったり思わなかったり。
 意外だったのが他のサイクリストから「グアモテの町はすげー治安悪いぞ」と言われたこと。2日滞在してそんな気配すら感じなかった身としては、その情報の出処について聞いてみたく思うよマジで。

◎ビザ・出入国
 無茶苦茶並ばされたけど入国審査自体は全く問題ない。中米諸国みたいにちょこちょこ入国税とか取ってこないし、窓口たくさんあるので以外と列が進むのは早かった。それでも1時間以上並ばされたので、むしろ置いてある自転車がイタズラや盗難にあわないかが怖かった。なお滞在日数は90日もらえる。
 出国に関しては過疎国境というか他の旅行者とバッティングすることがまずない国境だったので、実にストレスフリーでの手続きとなった。

◎交通事情
 エクアドル人は交通マナー・運転技術共に足りていないと思う。クラックションこそ少ないが、彼らは状況予測というのが出来ないのだろうか、ブラインドコーナーの曲がり道でも平気で反対車線から追い抜きをかます悪癖がある。このためダウンヒルで道路を下っていると、前方からいきなり対向車が飛び出てくることがままあり、無茶苦茶恐ろしい。
 自転車の存在が見えてないのでは?と思わせる左車線からの右折だとか、反対車線に車がいても通り過ぎるまで数秒待つということをせずに自転車の脇ギリギリを抜けていく輩が多かったと感じる。
 簡単に言えばエクアドル人の運転は危ないしムカつく運転手が多かった。もちろんマナー良いドライバーとか交差点でも「先に通りな」とサイン出して譲ってくれる人もいるのだが。
 あ、でもこの国ではバスが危険運転をしてると思ったことは少ない。これはある意味凄いことではなかろうか?

◎特徴
 1、南米では扱いの少ない専門的な高品質アウトドア用品がキトで入手できる。少なくともメキシコ以南で見たアウトドアショップのレベルでは群を抜いており、ここでかなりのギアを入手することが可能。自転車旅行的には関係ないが、クランポンやザイルといった登山系の品が充実していたのはエクアドルの登山需要がそこそこあるからだと思っている。自転車旅行的にはテント・バーナー・シュラフ・マット・ライト・ザック(スタッフサック)・各種ウェアといった辺りのメーカー用品は扱っている。MSRの販売品目なら一通りあった印象で、浄水器とかもあったし他にソーラーパネルなんかも売っていた。中米から南下してきた人にとって貴重な物資確保地点だと思われる。
 2、使用通貨がアメリカドルである。エルサルバドルやパナマと同じく1ドルはアメリカ本国で流通してない硬貨が使われており、エルサルバドルで余って使いどころに困っていた1ドル硬貨をこの国で消費できて地味に嬉しかった。
 つまりこの国ではATMから米ドルの現金が入手できるワケだが、地方都市だとATMが現金を吐き出してくれないことが非常に多いため注意が必要である。実際、私がこの国で現金ゲットできたのは首都のキトと第3の都市であるクエンカでのみであり、他の町で何度か試してみたが上手く現金を入手できずに往生したことがある。

◎気候
 赤道直下の国なのに涼しいどころか下手すりゃ寒い。まぁこれはひたすら山岳地帯を走り続けた結果なので、グアヤキルに代表される海岸沿いの町を走ればこの限りではないかもしれないが。
 標高的に過ごしやすいと感じるのは2000m前後で3000mまで登ると日差しがないとやや寒い。4000mでは晴れててもTシャツ1枚じゃとても過ごせないほど寒い・・・ってそりゃそうだ。2500mくらいで気温15度前後といった感じか。太陽光が強いので、晴れてると数字以上に暑さを感じるが。
 乾季の走行ではあったが、1日中晴れ続けることは少なく空に雲が覆われてることが多い反面、雨自体はそれほど降らないし、降っても小雨程度が多かった。
 あとエクアドルは非常に乾燥していると思う。久しぶりに唇がカサカサになったりとか肌荒れが気になる程度には湿度が低いようであり、気温が低い割に喉が渇いて水分補給をする回数は増える傾向にある。

◎言語
 エスタ、スペイン語。英語で現地人と会話したの、キトとクエンカの外国人旅行者が大量に宿泊するホステル係員くらいじゃないかな?ジェスチャー以上の意思疎通がしたいのであれば、最低限のスペイン語が必要なのは間違いないでしょう。ちなみに私が出会ったインディヘナの人たちは普通にスペイン語で話をしてたけど、現地民族の言語もあるのだそう。

◎宿(野宿)・Wi-Fi
 非常にコストパフォーマンスの高い宿が多い。料金は5~10ドル位が相場だが、高い場所で12とか15ドル支払わされた場所もある。コロンビアより全体的に温水シャワー関連が整っているのが好印象。水シャワーだったのは低地にだったパランダの町のみで、シャワーヘッドに取り付ける電熱式タイプでなくガスによる湯沸かし式も多かった。また、安宿も含めて私が泊まった全ての宿にWi-Fiが設置されていたのは驚いた。部屋まで電波届かなかったり速度がイマイチな宿もありはしたが、エクアドルでネット関連で困ることは少ない。
 またコロンビアに比べて野宿の頻度がやや増えたが、ちゃんと場所を選んでテントを張ればエクアドルで深刻な被害を被る危険性は低いと感じたことが背景にある。
 他の中南米と同じく一定規模の町におけるパルケ(中央広場)ではFreeWi-Fiが使えるのだが、エクアドルではこれが使えない代物で、まともに接続できたことは1度あったかどうか。素直に宿でネットするのが利口な選択である。そういう状況にないときは、アメリカ系ファストフード店へ行くなりそこらのカフェに入る方が良い。
 ちょっと面白かったのが、エクアドルの宿では多くの部屋内に避難経路図が掲げられていたこと。煙感知器を取り付けていた宿も中南米で始めて見たのであり、この国は消防法的なルールがしっかりしている印象を受けた。実際、消防署も予算が多いのか資機材立派でしっかりしてる署が多かった。

◎犬
 かなり好戦的。やはり危険なのはテリトリーを持っている飼い犬の方で、野良においては問題はない。かといってエクアドル国民に犬をリードで繋いでおくとか敷地内から出てこないような対策を期待してはいけないため、必然的に追い回される羽目になる。
 アホだなと思ったのが、自転車だけでなく普通の車やバイクにも喧嘩ふっかけている犬を見たのであり、道路脇で肉塊となってる犬の何割かは無謀な勝負した結果の成れの果てであることが想像できる。
 なおエクアドル犬は犬叩き棒をぶち込んで、なおしつこく追いかけてきた悪い意味で根性ある犬がいたのであり、ちょっとやそっとでは止まらない相手であることを肝に銘じていた。

◎自転車店
 これはコロンビアと比較すると明らかにレベル落ちた。まずお店の絶対数が少なくなったことで、小規模な町では自転車ショップ自体が見当たらない。中規模程度の町ならお店もあるにはあるが、完成車を展示してるばかりで各種パーツの品揃えが非常に悪い。場合によっては細かな部品は全く取り扱ってない店もある。
 首都のキトですらオシャンティな外見とは裏腹に内装はガッカリ系のお店を2~3店舗見ているため、定員の力量は定かでないが、私はエクアドルではなるたけ自転車ショップにお世話になりたくないと思っていた。だって割と大き目のショップにチェーンの1つも売ってないんだぜ!?特に終盤ビルカバンバの町以降は未舗装路の厳しいアップダウンが連発する関係でブレーキシューの予備を持っておいた方が良いのだが、これをエクアドルで見つけるのは割と大変なので注意されたし。手前のロハの町にはレベル高いショップがあった。
 でもその割にロードに乗ったサイクリストは一定数いるんだよね。道路の造りも自転車に優しいし、自転車道路も結構ある。

◎物価・食事
 中米から続くワンパターン料理が基本。1食は1.5~3ドルくらいで食べれるのだが、割と序盤に量が多いワケでも美味くもない食事で5ドルとか取られたことがあり、それ以後はかなり警戒して食事の値段を確認するようになった。個人的には「セコ・デ・ポジョ」というエクアドル初出の料理が好き。
 特徴として中華食堂の数が非常に多く、かなり規模の小さな町でも1軒くらいは「CHIFA」と書かれた中華レストランがある。値段が普通の食堂の倍くらいするのだが、特にチャーハンは非常に量が多いためコスパ的には悪くない。あと中華料理は当たり外れが少ないのも良い。
 ビールは国産のが3種類あるのだが、ピルセナーという主要ビール以外は大きめの町に行かないと販売されていないため、結果的にこの国ではピルセナーばかり飲んでいた。ロング缶だと1~1.25ドル、大ビンだと1.5ドルくらいが相場。他のビールは僅かに値段が高い。
 標高高い町ではインディヘナ料理も何度か食べたが、総じて塩辛いことが多くあまり好んで食べようとはしなかった。飲み物もお店によって無料で付いてきたり有料だったりとまちまちで、全て食べ終わったタイミングでジュース出されたりとイマイチ把握ができないというか。
 全体的には北部より南部の方が物価安い傾向にあるものの、それほど大きな差ではない。食事に関してはコロンビアより値段が上がったが、ジュースに関してはエクアドルの方が安い。インカコーラも結構好きだ。
 あとカメラ壊した関係で一眼レフ探してみたのだが、日本の同製品と比較して1.5~2倍くらいの価格表示となっており非常にお高く手が出なかった。

◎総括
 ガラパゴスと赤道以外にイメージの薄いエクアドルだったが、こんなにも走り甲斐のある国だとは思いもよらなかった。エクアドルで思い出すのは1にも2にもアンデスの山々を走っていたこと。私が思い浮かべていた南米の雄大な自然をはるかに凌駕する、ただただ広くて雄大な山々を見ながらの自転車走行は何者にも代えがたい魅力があった。
 私が自転車旅行で最も面白いと思うのは「自転車で走っているその瞬間」であり、エクアドルという国はそうしたタイプの自転車で走る人にとって最高に楽しめる舞台を用意してくれてる国だと感じた。
 赤道博物館とかそんなモニュメントに行くよりも、アンデスの山々をひたすら走る。それだけで途方もない達成感を得られるし、何処ぞのナショナルパークよりも素晴らしい景色を味わえる。すごいポテンシャルですよ、この国は。
 ただし体ができてない人で、いきなりエクアドルの山岳地帯走ろうとすると間違いなく潰れます。毎日1000mとか2000mくらい坂登るのが当たり前の国なので。それでもこの国を走りたいというのならば、荷物持たない自転車で来るか素直に海岸線を走りましょう。
 そんな風に考えると、エクアドル山岳地帯は選ばれた自転車乗りしか走れない特別な場所みたいで良いじゃないか。現実的には町と町との距離が近いため、走行距離を調節していけばそこまで難しくはないと思えるけれど、ある程度の体力と精神力持ち合わせてないと、楽しさを感じられず苦しさのあまり「やってられるか!」と思ってしまう国だということは想像できる。
 余談だが終盤戦の未舗装路で猛烈な斜度での坂道を登りきった時、私はこれまでの人生で自転車乗りとして最も強くなったと確信した。