2017年12月16日~2018年1月28日  2月16日~3月1日  4月1日~4月12日  4月20日~5月3日  5月6日~6月26日 7月14日~7月25日
 走行日数147日間
 累計走行距離7890km(1回目1506km・2回目1018km・3回目641km・4回目517km・5回目3456km・6回目752km)
 (71925km~73421km・74698km~75716km・77165km~77806km・78316km~79018km・79268km~82724km・83969km~84721km)


◎道路
 この国には側道がない・・・というのは言い過ぎだが、アルゼンチンの道路で側道を走れるような場所は町中のみと言えるほど。普通逆だろうと文句の1つも言いたくなる。なお道路に側道が存在しないということではなく、側道部分は舗装されていない砂利道が広がっているという場合がほとんど。何に使ってるのかと思ったら、重機なんかが走る時にこのスペース使っていた。稀に側道が作られてても車両がそこを走らないようにか100mくらいの間隔でトーペみたいな突起が作られており、毎回それを避けるのが大変。
 路面自体はチリより若干落ちるがかなりの僻地でも目の細かい走りやすいアスファルトで舗装されており、フエゴ島ですら主要道路は完全舗装されているという力の入れようである。
 パタゴニア地域では町と町との距離が長くなるのだが、ガードレールが設置されてる場所の下には大抵用水路なのかトンネルが設置されており、昼食休憩や場合によっては野営地としても使いやすい。
 やたらと検問が多い印象で、州境やある程度の規模の町の入口付近ではよく警察が陣取っている。取り調べる車両は適当に決めてるようで、自転車でも2回ほどパスポートチェックや行き先を聞かれたことがある。

◎治安
 ブエノスアイレスの悪評でやたら治安の悪いイメージがあるアルゼンチンだが。大きな町はともかくとして、この国全体の治安は大都市でなければ悪くないと思う。何というか空気感が緩やかだといえば良いのか、夜の公園とかでも子供が普通に遊びまわってたりランニングしてるおねーさんがいたり。ただし人口10万人を超えるような町になると防犯レベルも上がり1人では歩きたくないような路地も増えるし、明らかにスラムっぽい地区が見受けられたりする。ロサリオの町とかも「夜中1人では出歩くな」と再三注意を受けた。
 なお私は首都であるところのブエノスアイレスを避けるように走行したのだが、これも一重に「ブエノスなんかに行ったら殺されるぞ!」と最終的に30人以上のアルゼンチン人から忠告を受けたためである。彼らは例外なく「あそこは危ないぞ、行かないほうが良い」と言うのだが、自分の国の首都をそこまで危険視するってどうなのよ?と思わないワケではない。
 あとブエノス以外だとメンドーサの町北部が複数の人から「あそこはすげー危険だぞ」と再三注意を受けた。実際メンドーサの町北部郊外で暴行を受けた邦人自転車旅行者の事案がここ5年でも2~3例あり、かなり危険度が高いことを思わせる。

◎ビザ・出入国
 ザルの一言。隣国チリからの出入りすると、チリがやったらめったら厳しかったことばかりが思い出されるほどアルゼンチンの出入国は気軽にできる。でもまぁアルゼンチン自体はチリとは領土問題で敵対関係にあり、決して緩やかな間柄ではないのだそうだ。実際、チリ国境に隣接したキャンプ場では宿泊の際に「ここは国境付近で危険な地区だから十分注意するように」と言った話をされた。個人的には同一建物内に2カ国のイミグレーションが入ってたりと仲良さそうな印象を受けたが。
 あろウルグアイへ出国する時には出国スタンプを押されなかった。不安なので確認したが「これで大丈夫だ」と言われたので、コロン~パイサンドゥの国境はそういうスタイルなのかもしれない。
 ちなみに滞在期間は90日まで。何度出入国しても全然問題としないあたり、この国ではビザランによる長期滞在ということを気にかけていないのだと思われる。

◎交通事情
 クラクションを鳴らす国ではないのだが、私はアルゼンチンドライバーの印象は良くない。というのもこの国ではひたすら地平線へと続く道を走り続けることになるのだが、自転車を追い越す時に対向車がいようが全く関係なしで減速しないアホドライバーが多いから。
 性格悪いヤツだと自転車をはじき飛ばすつもりなのかスレスレを100km/hとかで爆走するわ、完全に「邪魔だからどけ」の意味でクラクション連発してくる気がフレてるとしか思えない輩も多い。これが問題なのはアルゼンチンには側道がないということ。下手すりゃ大クラッシュしても不思議はない。とりあえずアルゼンチンは町中はともかく郊外において完全な車優先社会であるため慎重な走行が求められる。
 本当に町中だと自転車用道路が作られてたり広い側道が整備されたりと安全だし、何より交差点でも車両が止まって「先に通りなよ」と譲ってくれることが非常に多い。何故これが郊外に出るとクレイジードライバーへと急変してしまうのか理解できん。

◎特徴
 1、チリとは比較にならないシエスタ(昼寝)の制度が強い国である。超大都市を除いてそれなりの規模の町でも午後になるとお店が一斉に閉まってしまい、17時、場合によっては19時とかまでシャッター開けない店もあった。
 これに加えて日曜日を完全休養日としているキリスト教圏の国なので、かなりの確率で土曜の午後から月曜日までは一切営業しない店がある。このため西部の人口希薄地帯やパタゴニアを走る場合は曜日を計算して走行しないと泣きを見る可能性が強い。
 ちょっとした規模の町でも大型スーパーが普通にシエスタで休んでいたりするのであり、この制度が現代に合わないとして廃止の方向に進んでいるとかそういうのは、人口5万を超える都市だけの話と思ってもらいたい。田舎じゃ昼過ぎに外を出歩く人が全くいなくなるレベルで徹底されておりますよ。
 かろうじて営業しているのが観光客向けのカフェだとかアイスクリーム屋、あとガソリンスタンドに一部のパン屋とかかな。なお日曜日は個人商店のほとんどが営業してないが、代わりというかエンパナーダというパンを個人販売している家が多いので、手持ち食材がなくてもとりあえず飢えることはないと思う。

 2、アルゼンチン通貨であるアルゼンチンペソの価値が安定していない他、色々と問題がある。数年前まで闇両替が正規レートの数倍の料金で取引されておりウハウハだったのも今は昔。とはいえATMの手数料が下手すると1000円超えてくるこの国では米ドルを両替する利点は未だ大きい。
 しかしそれ以上に驚くのがアルゼンチンペソの為替レートの動きの激しさ。私が最初に入国した時には1ペソ=6.5円だったが、出国前の最終的なレートは1ペソ=4.0円まで落ち込んでいた。これは旅行者的には有り難い話であるが、アルゼンチン国民にしてみれば自国通貨の価値がどんどん下がっていることを示しており、物価のインフレがすごいらしい・・・というかすごかった。入国時には40ペソで購入できたビールは最終的に52ペソと、半年強の期間で3割も物価上がってるじゃねーか。
 一昔前の紙幣は最高額100ペソだったのだが、つい最近になって500ペソや1000ペソ札が作られたとのことで、経済破綻した国々と同じような経路をたどっているのでは・・・と感じる。
 なお貨幣価値は下がっているものの、アルゼンチン政府は今までに2度借入金を踏み倒すという暴挙を行っており「現金は手元にあってこそ」という考えがあるらしい。そのため銀行のATMは現金引き出す人で長蛇の列になっているのが常であり、私が現金引き出そうとしてもATMに「お金が残っていなくて動きません・・・」といった症状が起こりやすい。こうした面倒事を回避するためにも米ドルを持ち込んでおくとお得ではある。闇両替もちょっとだけレートも良いし。

◎気候
 チリと同じく縦に長い国であるため地域によって全然気候が違う。ただ寒いとされるパタゴニアの冬の時期でも何とか自転車走行することはできたため、北半球ほど冬季走行の難易度は高くないことが伺える。フエゴ島も雪が積もるのはウシュアイア近辺の山岳地帯が主で、他はそれほど平坦&強風区域で雪に悩まされる地形でないし。
 夏の時期における北部の暑さは相当なもので、サルタの町では気温計が38℃を指してるのを見て頭クラクラしそうになったことが。というのもそれまで走行していたルートがボリビアの高所4000m地帯のため、夏でも涼しい状況が継続しているのだが、サルタの標高は1000m弱となりそれまでのギャップで相当暑さに苦しめられることとなる。
 ブエノスアイレス州辺りから真冬の時期に突入したが、本格的に寒い時期はかなり短い感じ。少なくともエントレリオス州の7月は全然寒くなかった。まぁこの辺りの緯度は北半球で沖縄とかに該当するので、さもありなんという感じだが。

◎言語
 スペイン語はそうなのだが、結構な割合の人が英語を使うことができる。これは大都市や観光地ではなく普通の田舎町においての実感。割合でいえば2割近くの人が上手い下手は置いといて英語での会話が可能なのでないかとすら思った。要するにこの国では英語オンリーでも他の中南米ほど困る割合は少ない。
 なおボリビアより南部に入ってまた使われてる単語が大きく変化したと感じた。というか重要単語の「お金」くらいはスペイン語圏の国で統一しといてほしいと思わずにはいられない。

◎宿(野宿)・Wi-Fi
 南米全体で考えると割高だが、設備の整い具合云々といった方向で考えるとむしろコスパには優れていると思う。都市部や観光地域のホステルなら1000円以下で朝食付きのホステルを見つけることも可能なレベルで、ネットはかなり満足できる程度に活用できる。動画見るのも余裕程度には。
 それでも基本的にはキャンプ泊を繰り返しており、キャンプ場は大体ホステルの半額程度で宿泊できるし設備の充実っぷりは宿に引けを取らない。というか静かなのでホステルより快適だとすら思ってた。市営の無料や格安のキャンプ場も多いのだが、こういう場所は深夜の4時とかまで大音量の音楽鳴らして大騒ぎする輩がいる傾向強いので要注意。1回何か問題起こして警官と喧嘩しているのを見たこともあり、下手なトラブルに巻き込まれたらたまったもんじゃないと思っていた。一応申しておくと設備が整ってるのは個人経営の方で、市営キャンプ場は「トイレがあれば良し」程度の設備だと思ってもらいたい。
 なおパタゴニア地域だと宿の値段は大体1.5倍程度を見ておけば大丈夫だと思う。
 ガソスタのWi-Fi設置率が優秀なおかげでアルゼンチンではネット環境で困ることは稀である。人口1000人以下っぽい小さな町のガソスタだとWi-Fi無いこともあったけど、全体的な設置率は7割超えてたんじゃないかな。それ以外でも町の中央公園に行けば公共のFreeWi-Fiが飛んでることも多く、かなり充実したネット生活ができた。

◎犬
 もうペルーなんかとは別種の生き物ですよ。お国柄か、飼ってる犬には大型犬が多かったりして「襲ってきたら洒落にならんぞ」とか思ったりもしたけれど、そんな心配する必要がない。
 割と野良犬も多いのだが、どちらの犬からもあまり吠えられた記憶がない。飼い犬には自分のテリトリーに入ったことでかやたらと吠えてくるヤツもいるのだが、そういう犬を飼ってるアルゼンチンのお家はちゃんと庭を柵で囲って犬が出れないような作りをしてる家が半数くらいかな。
 つまり残りの半数は追いかけてはくるのだが、何というかペルーの時みたいな「狂ってる犬感」がないので割と余裕の対処をしていた。なお犬叩き棒の活躍回数は2回ほどである。

◎自転車店
 それなりに立派だしスポーツ自転車人口も一定数いる国ではあるが、ショップのレベルはかなり開きがある。西部はかなりの大都市に行かないと自転車店がないことの方が多い。東部においては割と何処でも見つけられる。サルタでは出発前にチェーンリンクという部品を探してショップを回りに回ったが、5~6店探しても見つからないどころか予約発注することすら断られた。これが隣国チリではどの店にも在庫あったりこともあり、アルゼンチンの自転車ショップはここでかなりイメージが悪化した。ロサリオのショップ店員が非常に親切で色々教えてくれたし、各パーツの消耗度合いなんかも説明して交換時期を示してくれたりと助けられたこともあり、後半このイメージは回復したが。
 なお恐らくはアルゼンチンで普及してるメーカーの部品は非常に安価なので、品質にこだわってないパーツはここで色々買い換えると南米南部では安く済ますことが可能。とりあえずSHIMANOのパーツはどの店でも扱ってるので、基本的な消耗品を見つけるのはそれほど苦労しない。ああ、でもブレーキシュー単品での取り扱いは最後まで見つけられなかったな。
 何度か整備をお願いしたけど親切な店員さんで腕も確かな人もいれば、私の目から見ても「これは酷い」と思える人までいた。まぁそれはどの国でも同じようなモノだと思うけど。とりあえずアルゼンチンでもプロショップでない自転車店に行くことは経験上オススメしない。

◎物価・食事
 アルゼンチンといったら牛肉とワインのイメージだった私。それは間違いではないのだが、この国は全般的に肉が安く、そうした中で牛肉が他国と比較して特に割安感がある・・・というのが正しい。
 南米における牛肉って基本的に「固い」というのが最初に来るのだが、アルゼンチンビーフは日本人好みの牛脂が多くて柔らかい肉を楽しむことができるのであり、いや本当に肉ばっか食べてたなこの国では。
 なおスーパーなどにおいて肉がパック詰めされて販売されてるのは一部の大型スーパーのみで、基本は精肉店(またはスーパー内の精肉コーナー)で欲しい肉の部位と量を伝えると展示されてる牛肉をカットして量り売りしてくれる。このスタイルのおかげでやたらと牛の部位におけるスペイン語を覚えた。
 その他の物価に関してはそれなりに・・・という印象。隣国チリやウルグアイと比べると可愛いモノとは思うけど、やっと探し当てたコーヒー豆が125gで1500円とか言われた日にゃあ本気で購入するのを悩んだぞ私。そんなに良い豆とは思えないんですが。
 基本的に宿泊費は安めの印象で、食関連に関しては外国産品が特に高いというのが私のアルゼンチン評。でも後半の時期は貨幣価値がどんどん下落していき物のインフレが追いつかない状態だったため、どんどん物価が安くなっていくのが有難かった。旅行者的には良いけど、住んでる国民からしたら溜まったものじゃないだろな。
 なおビールは瓶タイプが主流であり、他の国ではあまり見かけない1ℓ瓶をよく見かけた印象。ただこの大瓶さ、お店に瓶を返すことで発生するキックバックの値段がやたらと高くて面倒だったなと思う。場所にもよるけど瓶1本の返金が200円を超えてくるとかどう考えてもオカシくないか?
 
◎総括
 振り返ってみると楽しかったことばかりだったアルゼンチン。その広大な国土の上から下まで相当走り回ったつもりだが、気候や環境が変わってもこの国の陽気で親切な人たちは変わらなかった。自転車を見かけるとぐいぐい声をかけてくるラテンな気質と先進的な気遣いを併せ持つ、南米におけるいいとこ取りをしたようなアルゼンチンは食も充実していたし、走り甲斐がある高い山々や広い世界を感じさせるパンパ、そしてパタゴニアの風と黄金色の土地。なんと魅力的な国だったろうと思わずにはいられない。流石に終盤はもっと他の安全な道を走りたいと思ったけど。
 自転車で走ることにかなりストレスを与えてくる道ではあるが、それでもアルゼンチンは自転車で走ってこその国だった。特にパタゴニアは必死に走り続けても風で煽られ走るの大変、町もないし物価も高い、挙句にクソ寒い冬は日照時間まで短いしさ。そんな厳しい環境で変化の少ない地平線ばかりが続く道を、何処までも自転車で走り続けること。それがこんなにも楽しく素晴らしいものだったと胸を張って言える理由は、この国を自転車で走ってみれば分かる。
 北米から南下してきたサイクリストの多くが南米のゴール地点として迎える国であるが、国の東西で全く様相が異なるアルゼンチンはウシュアイアで飛行機使ってしまうの勿体無いですよ。是非とも北上してみるべきだと私は主張するね、肉がもう食べたくないと思うその日まで。