2023年6月23日〜7月10日
 走行日数18日間
 累計走行距離1179km(134459km〜135638km)

◎道路
 幹線道路の路肩がしっかり取られており走行するのに不安が無い点は非常によろしい。海に囲まれた国の割に内陸部は高原地帯となってる土地が多く、ひたすらアップダウンが繰り返されるため自転車的には割と苦労する。とはいっても1本の峠で1000mとか登るような大型山岳はなく、また基本的に斜度も緩やかであるため疲労困憊で動けなくなってしまうとかそういう心配は少ない。なお日本と同じく車両は左側走行。
 人口の割に人が住んでいない土地の割合が多く、都市部でもないと信号機すら出てこないレベルだが、過疎区域でも多少のガタガタあるものの路面状態は良好であると言える。
 一方で都市から離れると主要道路以外の小さな道は未舗装で構成されてることも多い。私が走った未舗装路は大体走りやすくてしっかりした道だったが、雨の多い時期だったことを考えるとかなり幸運であったように思う。
 幹線道路の場合は10kmも走れば1回くらいレストエリアが出てくる印象で、休憩や昼食といった行為は町中よりもこうしたポイントを選んで実施するよう努めてたかな。

◎治安
 よく聞くような世紀末的無法地帯という程に治安が悪いわけでは無い。聞いたところで「乾燥して住みにくい西部よりも湿潤な気候の東部の方がより治安悪い」とかあったけど。
 少なくともケープタウンを除く普通の町では大量の浮浪者がスーパーや銀行の周辺を徘徊してはいるものの、下手な行動を取らない限りは強盗や傷害といったアグレッシブな事件に巻き込まれる可能性は低いように思う。ただし盗難被害は元よりATMのスキミング被害に関しても相当多いと聞くし、初日にATMで現金引き出した後に周辺で屯ってた人が一斉に機械へ突撃した光景を見て「何か失敗したのでは!?」と、その後1週間くらい不安だったこともある。なので南アフリカではATMは基本施設内にあるタイプを使うのが安心という意味でも正解かと。こちらの立場ではスキミングの装置がどんな形してるとか分からないこともあり、理想は目の前で現金引き出した人の直後に利用することだと思われる。
 んでケープタウンに代表される大都市の治安。結論から言うと町中心部のダウンタウンエリアはそんな危険を感じるほどではない。アフリカ周辺国の都市部と雰囲気そう変わらないというのが私の感想だ。浮浪者から金くれとか食べ物くれとか言われまくるけど、そう言うのはアフリカ都市部における通常運転であり、ケープタウン市内だけが別格という印象はない。
 むしろ怖いのは市内に入るまでの町郊外に当たる部分で、アパルトヘイト時代の名残である黒人居住区域が現代においてタウンシップという名称となり、多くがスラム街の様相を呈している。
 こうした区画が郊外でかなり多くの割合を占めており、もう遠目にも明らかに治安が悪いし地元民にも「絶対近づいちゃ駄目だ」と釘を刺されることが多かった。でも車なら一瞬で通過できるタウンシップエリアも自転車ではそういうワケにいかないのが難しいところ。
 特にケープタウンという町は立地的にアフリカ縦断のスタート/ゴール地点として設定しやすいこともあり、必然的に自転車旅行車の数も多い。悪人側もそれを知っており荷物満載の自転車に狙いを定めて強盗を働く輩が後を絶たないとのこと。こうした点からケープタウン郊外に延びるサイクリングロードは走っちゃ駄目だとされ、では何処を走れば良いのかといえば「1番大きな幹線道路」となるらしい。北部から南下してくるなら「N1号」東部(南部)から入るなら「N2号」ということ。私は喜望峰へショートカットとなる町南部の海岸線通る道は走れないのかと相談した人だが「車ならまぁ。自転車では辞めときな」というアドバイスが返ってきたので素直に従った。とにかく町の中心部付近まで一切他の道路に目もくれず真っ直ぐ進む・・・というのが私の選択した方法だ。それくらい注意しても罰当たらない程度にはケープタウン「郊外」の治安は悪いと思う。他の大都市だとヨハネスブルグは元よりプレトリアとかダーバンなんかも危険だと言われたかな。

◎ビザ・出入国
 日本人なら最大で90日間までノービザで滞在が可能な国。入国じも特に面倒な手続きや質問等もなく、滞在日数だけ聞かれたので「1ヶ月くらいかな」と答えたら、滞在日数30日が付与された。日数の申告次第で追加質問が来るのかは分からないが、多分何日間で答えても普通にスタンプ押してくれそうな雰囲気あったな。
 出国も手続き自体は簡単だったけど、その出入口となるケープタウン国際空港へ巨大なダンボール背負って自走するのは治安的に危険すぎると判断したため送迎サービスを利用した。ちなみに自転車荷物一式含めて料金は200ランド(約1500円)でした。

◎交通事情
 交通量は他の南部アフリカ諸国と比較して10倍以上に増えたけど、側道の広い道が多いため車両の運転がそれほど気にならず走行できるので問題ない。交差点もラウンドアバウト方式を採用していたり、田舎ではそもそもの交通量が少ないために信号機がない状態で三叉路とか十字路がある感じ。それで全然問題ないと個人的には思ったな。
 クラックションも鳴らさないし運転も多くのドライバーが紳士的だが、基本的に何もない広い道が続くため車の速度は非常に速い。ボツワナ・ナミビアと並んで一般道路の最高速度が120km/hの国だったし。
 あと交通量増えたためかトラック等の大型車をオーバーテイクしていく車の姿をよく見かけるようになったけど、先の見えない道でも平気で反対車線に入って抜いていく輩が結構いる。アップダウンの多い国だけど登坂車線は斜度の厳しい坂じゃないと出てこないため、頂上付近の反対側が見えないポイントで猛スピード出して追い越してく車両は何考えてるのだと思うし、側道があるから私もそれほど気にしてないだけで、一部側道のない道でこれをやられたら洒落にならないとは思ってた。そもそもそういう道にはほとんど車両が走ってないのが常だけど、アガラス岬にいく人は終盤の道路が側道なし&交通量多いというコンボなので注意した方がいい。

◎特徴
 電力需要と供給量が釣り合っていない関係で先進国の割に停電が非常に多い。それどころか町の一区画全体が1日のうち何時間か電力供給ストップされる計画停電が実施されてたりして、どうやらこの実施時間もランダムな上にかなり直前のタイミングで伝えられる「非計画停電」らしい。
 ある程度大きな町の宿泊施設とかだと停電中も自前の発電機で賄ったり、電気が落ちても光源とWi-Fiルーターだけは作動させてることが多かった。キッチン設備がある宿の場合、コンロのタイプがガス方式か電気方式かで停電中は自炊ができなくなってしまうことがあるため、ケープタウンみたいな宿の多い町の場合、可能ならば宿泊前にここを調べた上で泊まりたいところ。
 停電中は信号とかも明滅しないので危険では?とか思うかもだが、そもそも南アフリカで信号が設置されてる場所自体がごく僅かなため問題ない。私が信号の事実に気づいたのもケープタウンに来てからだし。

◎気候
 ケープタウン周辺が6〜7月の真冬に雨が多いという地中海性気候であり、なるべくこの時期を避けて訪れたいところだがアフリカの周辺国で走行に適したシーズン(乾季だったり暑い国での冬だったり)が4〜7月となる関係で難しい。個人的に南アフリカは最南端に行くことが目的で他は重要視してなかったことと、雨が多いとはいえ日本の梅雨みたくずっと降り続けるようなタイプの雨ではないと願って南アフリカはあまり観光に適さない時期に突入した。実際結構な頻度で雨に降られており、この時期に南アフリカ突入するという人は走行スケジュールに雨停滞での余裕を持たせた方が良い。
 ここまで南下すると気温も低くて上着が欲しいと感じる寒さの日も多かったが、内陸部はひたすらアップダウンが続く関係で上着あると熱地獄となる程度には暖かくなる。1日における寒暖差も大きな国なので、小まめにウェアリングするのが正解なんだろうな。私は気合いで対処した人だが。
 なお風に関しては全然規則性がなかったと思っている。風向きも風力もてんでバラバラな上に天気予報もあんまり当てにならない感じで、ケープタウンに到着した日なんか40km/hの真正面から向かい風で「どうしようもないな・・・」とか思ってたのに、蓋を開けてみたら風向きはやや追い風でむしろ楽できたこともある。とりあえず北からの風だと乾いて暖かく、南風は湿って冷たい風が吹く。

◎言語
 公用語は英語とアフリカーンス語の2つ。他にも多くの言語が使われているらしく、州によってはそうした言語が公用語に追加されてるとのこと。
 旅行者的には英語が通じるのがありがたいのだけど、南アフリカの人が話す英語はアクセントにクセのあることが多くて聞き取りづらいと感じることも。アフリカーンス語の発音に引っ張られているのではないかと感じたかな。
 ちなみにそのアフリカーンス語。看板等に英語と併せて表記されてることが多くスペルをよく目にするのだが、かなり英語に近い言語だと思われる。調べてみたらオランダ語から派生した言葉らしい。

◎宿(野宿)・Wi-Fi
 ナミビアと比較して料金は下がり設備は良くなったのが嬉しいところ。キャンプ場も豊富にあるが、基本的に市や町で運営しているキャンプ場は料金高くて設備駄目な傾向があるためキャンプ場なら町からやや郊外に位置してたり小さな村でやってる個人経営の場所が狙い目。
 自転車的にはナミビアから南下するN7号線の王道ルートで優良宿泊施設が点在しており、サイクリスト同士の情報交換でそうした宿情報が色々行き交っており、私の泊まった場所もそうしてお勧めしてもらった場所がいくつかある。
 安宿とキャンプ場の料金差が少なく選べるのなら宿で眠りたい私はバックパッカー系の宿がある町だとそちらを訪問していた。なお料金は100〜250ランド(約760〜1890円)まで幅広く泊まったが、全体的には南下してケープタウンに近づくほど値段が上がっていった。
 設備に関してはキャンプ場は千差万別という感じでWi-Fiどころかキッチン設備まで整っている場所がある一方で、まともに動かないシャワー設備がやっとこあるだけの場所も。南アフリカに関してはキャンプ場は「安全の確保」という割合が強かったこともあるので設備が悪く値段が高いキャンプ場でも「仕方ないか・・・」と利用することもままあった。
 とりあえずWi-Fiの速度で気になるほど遅いと感じることはない。少なくとも他のアフリカを経験してきた身としては南アフリカのネット環境は設置率・速度共に全く問題とならない程度に快適な利用ができた。

◎動物
 大型の野生動物は全然見なくなったし、家畜の姿も非常に少ない印象を受けた南アフリカ。ナミビアなんかと比べたら水や緑が多くて生物の環境的にずっと生存しやすい国だと思うんだけどな。
 よく見かけたのはプレーリードッグみたいなリスとかネズミっぽい奴。あと海岸線走ってる時にサメとか鯨のウォッチングポイントとして有名だという話を聞いたし、砂浜にはウミガメが産卵シーズンにやってくるだとか、ペンギンがみられる砂浜というのがケープタウン付近じゃなくても幾つかあるとのこと。
 ヤバい方向の動物ではナミビアから引き続いて毒ヘビが出るらしく、場所によっては毒ヘビに噛まれた場合のエマージェンシー番号とか看板表記されていた。冬なので姿を見ることは1度もなかったが。
 あと南部地域の山岳エリア近辺はヒヒが大量にいるそうで、食料出したまま行動してると盗まれる等のトラブルが頻発してるそうで要注意。実はそんな場所で野宿してたのだけど。

◎自転車店
 ある程度の規模を誇る町ならしっかりしたプロショップがある。アフリカで唯一マラソンプラスが販売されてる国と聞いてたので、個人的興味で現物を探してみようかなとも思ったが発見はできず。
 流石にパーツ関係はヨーロッパと比較すると品揃えが劣るものの、アフリカでしっかりした自転車関連部品を見つける場合南アフリカとナミビアくらいしかチャンスがないともいえるので貴重な存在ではある。
 なおケープタウンがゴールとなるサイクリストは自転車梱包用の段ボール箱を探してショップ行脚する人も多いと思うが、規模が大きな有名店だとそんな人の対応を散々してるためか高額料金で販売しかしてくれないパターンも。色々探して良心的なお店を見つけるためにもケープタウンでの滞在期間は少々長めに設定しとく方が良いと思う。

◎物価・食事
 ナミビアよりは若干やすい・・・という感じかな。北の一部を除いて適度な距離にスーパーがある町が出てくるため、安く済まそうと思えば料金は割と抑えていける。その一方で治安的な不安から宿泊施設を利用する割合が多かったので、全体的には1日ベースの金額高い国であったが。
 相変わらず肉が安かったためバンバン購入して食べていた。ナミビアと貨幣価値がほぼ同じ&料金も大差ないため、初日から物価の把握がし易かったことが地味にありがたい。ケーキに関しては少しだけ南アフリカの方が安い商品が多かった気がする。
 そしてやっぱりというか南アフリカではレストランを利用することがないままフィニッシュしてもうた。正確には最終日のフライト前に残った残金でレストラン利用してるのだが、空港内のお店なんて一般的な場所との剥離が大きく参考にならないというのが私の考え。
 アウトドアも盛んで南アフリカ発祥のKーwayというアウトドアブランドもあり、1回くらいお店覗いてみたかったのだが叶わずじまい。ちなみにここのブランドロゴ、MSRとそっくりでパクリ疑惑が。
 なおビールは非常にお安い物も多く、私の場合は750mlの大瓶タイプで販売されてるライオンとかカステルというビールをよく飲んでいた。場所によって値段に少々幅があるが、前者のライオンビールは常に他の種類のビールより2ランド(15円くらい)安かったのをよく覚えてる。なお大体の場合はライオンが1本16ランド(約120円)である。ケープタウンはちょい安かった。
 流通事情が良くなったからか割と他国のビールが目につくようになったけど、基本的に私は滞在している国のビールを飲むことに拘っているので飲んだことはなかった。決して国産のビールが1番安いからではない。
 一応南アフリカ(ナミビアも)の名産として乾燥ジャーキーの「ビルトン」というのがどこ行っても売られており、肉の保存食として自転車旅行には非常に適している。私も何度か食す機会があったけど、まぁ普通のジャーキーである。つまり美味しい。

◎総括
 ひたすら治安の悪いというイメージが先行してしまう国だけど、先進的でレベルの高い町とアフリカらしい雄大で美しい自然が織りなす魅力に溢れている。何より南アフリカの人々は自転車による旅行という行為をとても喜び応援してくれアウトドアの理解度が(主に白人だが)非常に高い。自転車で長期間旅行するという行為を喜び応援してくれる環境(国)というのはやっぱり嬉しいし楽しいので。
 何にしても大陸における最南端(人によっては喜望峰)への到達というのは、アフリカを南下してきた旅行者にとって非常に大きな節目であり、しかしそれだけでは収まらない魅力が他にも溢れていたことを知った。やっぱり実際に訪れてみないと分からないことだらけだ。
 確かに治安はネックだし、現地の人たちも「南アフリカは治安が悪い」と口を揃えて言うけれど、ビビりながら怯えながら、それでも南アフリカという国を走る価値は確かにあるのだ。