2023年10月5日〜10月12日
 走行日数8日間
 累計走行距離513km(141436km〜141949km)

◎道路
 自転車に理解があるよう振る舞ってるけど、基本車両優先で自転車が走りやすい道などベオグラードの極一部にしか出てこなかった。側道がない道路だけどボスニアと比較して交通量が多いので走ってる際のストレス値が高くなる傾向にある。
 アップダウンは国南部のボスニアとの国境付近に集中しているようで、他の場所でも数百mの小さな丘を登らされることはあっても峠越えと呼べる程の山には出会っていない。最もセルビアはあんまり国内走行してないのでこの意見にもそれほど自信はないが。
 その他セルビアの地方都市はかなり広範囲に石畳を敷いてる向きがあり、自転車的には迷惑この上ない。通り1本ズラすと解消されたりするので上手いこと走りやすい道を選ぶと助かる。
 平坦な土地では直線的に道路を引くタイプの国なので、風向き次第でやたらと走行距離が増える反面、風上に向かって進むと地獄。なお車両は右側走行。
 地図で見るとE-○○と表記された、如何にも自転車の走れない高速道路みたいな名前の道があったりするが、これ普通の一般道路だったり本当に自転車が走れない道もあったりと実際行ってみるまで確認できないことが多いため要注意。Googleマップ等で徒歩モードにした際、明らかにそのルートを避ける形で行き先が示された場合は車両専用道である可能性を考慮した方が無難。

◎治安
 特に問題無いと思う。ベオグラードに限らず規模の大きな町だと落書き多かったり廃墟が無数にあったりするけど、そこまで嫌な感じは受けないかな。でも浮浪者の姿をちょいちょい見かけるようになったし、大型のショッピングモールとかに長時間自転車放置するのは躊躇われる感じがあった。宿のスタッフも自転車敷地内に置かせてもらう際「外に置きっぱなしじゃ盗まれるからな!」という言い方したので、それなりに盗難事案が起きていることを思わせる。

◎ビザ・出入国
 シェンゲン協定加盟国ではないとはいえ、ヨーロッパの国だし楽勝でしょ!とか思ってたけどセルビアは出入国共に結構しっかり質問してくる面倒くさい系の国だった。
 聞いたところではセルビアは滞在登録が必要な国らしく、本来は宿泊施設に泊まった際に宿側がそうした手続きを代行したりしてるらしい。
 ということは野宿しまくってた私は色々と不味いのでは?とか思ったし、そもそも宿泊した宿でも滞在証明書を渡されておらず、セルビア滞在中の予定は向こうにしてみれば完全にブラックボックスという怪しさ満点の旅行者だったわけだが別にいくつか質問受けたのみで普通に出国スタンプ押された。もっと言えばそのシステムを知ったのはセルビアを出国した後だったくらいで、そもそも滞在中に不安に思うこともなかったというね。
 とりあえず後になってから色々調べてみたが、特にこの点でトラブルとなったというレポートを見つけることもなく、おそらくは形骸化したルールとなっているのであろうことが想像できる。注意点としては入国審査の質問で馬鹿正直に「野宿する予定だ」とか言わない方が良いということかな。

◎交通事情
 基本的に危ない運転をするワケではないが、セルビアドライバーのイメージはかなり悪い。その理由を一言でいうと彼らは「待てない」人の割合がやたら多いからだ。
 セルビアの田舎はトラクターや大量の荷物を積載した速度の遅い車両も数多く走っているのだが、ほとんどの道が片側1車線であるため、こうした車両を追い越すには反対車線へ抜けてオーバーテイクする必要がある。別にそれは仕方ないと思うけど。
 これを反対車線の車がいようとカーブの手前で見通し悪かろうとお構いなく抜いていこうとするアホ車両が割と多く、特に自転車なんて存在が目に入っていないのか反対車線に出たところでこちらの存在に気付き、どうにもならず反対車線の道路上で停車する輩とかいる。むしろ停まるからまだマシとも表現できて、そのまま突っ込んできたら冗談じゃなく正面衝突だぞ。狭くて逃げ場のない道路でそういう運転してくるイカれたドライバーがいるため交通量の多い道が本当に怖い。
 ここまで言っておいて何だが、例えばタンザニアみたいにドライバーのほとんどが無茶苦茶な運転してる国とは違い、セルビア人ドライバーは非常に安全運転だしヨーロッパらしく自転車優先の配慮した運転を心がけている人もまた多いのだ。ただし横断歩道の前で待ってても停車してくれる車両は一切いないけど。

◎特徴
 近代史においてずっと民族・領土問題のあった国だが、現代においても南部コソボ共和国との領土問題を抱えており、セルビア側はコソボを自国領土だと主張している。このためセルビア⇄コソボにおける出入国では両国主張の違いからセルビア側でスタンプの押印がなされず(同じ国なのだからスタンプ必要ない!という理屈)、旅行者的には問題となる確率が高い。細かく言えばセルビア→コソボルートは大丈夫だとか情報もあるが、私はそこまで細かく調べてないので何とも。ただこの点については外務省からも注意喚起が出ており、両国における出入国は第三国を経由するのが無難と言える。
例:セルビア→モンテネグロ→コソボみたいな感じ

◎気候
 全体的に西から東への風が吹いているように思う。これは季節に関係なく広域の自転車地図看板に「ここ(西側国境)からベオグラードまでは追い風で快適なサイクリングとなるでしょう」みたいな文言があったことも裏付けできる。
 多少雲量の多い日はあったものの、滞在中に雨に降られることはなかった私だが、天気予報ではセルビア出国日から3日後に1週間以上の期間で国内全域に雨予報出ていたため、単に運が良かっただけではないか・・・というのが正直なところ。
 10月のセルビアはまだギリギリTシャツハーフパンツのスタイルで走行できるが、日が落ちると気温は10度以下に冷え込むし、天気が悪いと上着着ないと厳しい程度には寒い。11月から4月まで雪のためかチェーン規制の看板を多数見かけたため、普通に考えればその頃には降雪が観測される土地なのだろう。そう考えると結構ギリギリのタイミングで走ってたのかもしれん。

◎言語
 セルビア語。文字としてはキリル文字が使用されているため道路標識とかである程度地名の名前を把握するとかが難しいという問題はあるが、大抵の場合はラテン文字も同時表記されてるので気にしなくて大丈夫。
 ボスニア語・クロアチア語・更にはモンテネグロ語ともほとんど同一の言語であるのだが、ここら辺は旧ユーゴスラビアの解体に伴ってそれぞれの国名が付く言語に分かれたと言ったところだろう。
 英語の通用度はボスニアより若干上がったかな?という感じ。ベオグラードみたいな都市部では英語オンリーで困ることはないものの、ちょっと地方に出ると通用率がガクッと下がるのもボスニアと同じ。

◎宿(野宿)・Wi-Fi
 主要都市や観光地ならホステル系の安宿が散見されるが、ベオグラード以外は総じて1泊1500円以下で泊まれる宿泊施設を見つけるのは難しい。というか私が宿泊した宿がやたら安かっただけの可能性が強く、2023年現在では最安値で2500円くらい見ておくのが普通だろう。
 なお野宿するのは難しくない国であり、結構な数の綺麗な河川が流れているため暑い時期に走行しても水浴びする場所に困りはしない。あらゆる場所に地元民が集まるカフェバーが点在してるため充電やWi-Fiに関しても気にする必要はなかったし、無料ネットで使いたいのならスーパーよりガソスタで試してみる方が良いのはバルカン半島諸国の特徴なのかな?
 宿自体は最低値段の底辺宿かと思いきや、親切で融通の効くスタッフにしっかりした設備となかなかレベルが高く予定よりも長居してしまったり。ちなみにこの宿でヨーロッパにおける動画のデータ全てアップロードしたのだけど、ものの数時間で完了したのでWi-Fiの速度が相当速かったことを思わせる。

◎動物
 農地が広がる土地も多く、あまり大型の野生動物が出てくる雰囲気はないかなと思う。南西部に入ると山岳地帯となるため熊などの動物も生息してるらしいが、まぁ姿を見なかったし出会うこと自体が非常に稀なのだということは分かる。他には鹿の姿を見かけたくらいか。
 なおセルビアも犬が非常に凶暴で襲いかかってくる国で、首都のサラエボで迷っている時に犬に追いかけられ自転車後輪のタイヤに噛みつかれたりした。犬叩き棒でぶん殴ってやるべきだったと思う。

◎自転車店
 ボスニアよりは自転車人口が多くスポーツバイクに乗ってる人も幾らか見かける。首都のベオグラードじゃなくても大きめの都市ならスポーツバイクを取り扱ってるショップがあったし、サクッとみた限りではそれなりにパーツも取り揃えられてた印象。
 あとベオグラードにはデカトロンの店舗があったので消耗品補充したくて寄ってみたのだが、取り扱ってる種類が少ないというか在庫切ればかりで半分近く部品が無かったように感じた。需要が高くて供給が追いつかないというよりは、大して人気がないため売れ行きが悪く、それ故新しいパーツも入荷しないという状況に思える。
 それでもボスニアよりは様々な場所にショップがあるためトラブル対応しやすい国だと思う。

◎物価・食事
 ボスニアより若干安いかな?という印象。少なくともスーパーにおける食材ラインナップは確実にセルビアの方が充実してる。東欧諸国全般で見られる挽肉を円柱状に丸めた形のチェバピという名物料理があるのだが、これがスーパーでもよく売られており好んで食べていた。
 旧ユーゴスラビアでの中心的な国だった歴史背景もあるのか、食材以外に関しても内陸国にもかかわらず隣国より物の流通事情が良かったと思ったし、値段も僅かに安いと思う。サラエボにはメトロという大型業務スーパーもあって、アジア食材コーナーで味噌とか蕎麦が売っていたのもポイント高い。
 アルコールとしては100円もしないで飲めるビールの他に、ラキアという蒸留酒が有名でバルカン半島における私の初ラキア体験がここセルビア。非常にフルーティーな香りに似合わず強烈なアルコール度数を誇っている。そういや自分で購入してないから値段知らないや。
 そろそろレストラン入っても何とかなる程度に物価下がってきた気もするが、それでもセルビア国内で食堂すら利用したことは1度もないままフィニッシュ迎えたためレストランに対して何もいうことは出来ず。

◎総括
 土地面積の割に滞在期間が少なくアッサリ通過してしまったイメージの強い国。実は友人のサイクリストから「セルビアは無茶苦茶嫌な国だった」と話を聞かされており、旧ユーゴスラビア崩壊の歴史的にも「セルビア人のセルビア主義が最初の原因」とか歌ってる論調見たこともあって、セルビア入国時にはかなり緊張していた。
 何日か滞在してそこに住む人々が優しく親切であることを実感し、もうちょいセルビア色々走ってみても良かったな・・・とか思ったのだが、その時には既に出国までのルート走り始めていたことと、その後ずっと悪天候が続く予報から「走れる時にガンガン走っておくべきだろう」という考えにシフトしていたことも大きい。結果的に隣国ボスニアで雨停滞となったので、まぁここら辺は巡り合わせというべきだろう。
 ともあれ入国前に抱いてた悪いイメージを払拭し、セルビアという国に対して笑顔で語れることになった。それはとても嬉しいことで、この国を走れて良かったと思っている。