2023年11月26日〜12月6日
 走行日数11日間
 累計走行距離627km(143747km〜144374km)

◎道路
 もしかすると道路上における走りやすさという点でヨーロッパNo.1を誇れるかもしれないレベル。ほとんどの道に広くて走りやすい側道が整備されており、車両を気にせず走行できる点が素晴らしい。かなりの山岳国だが急峻で登りきれないような斜度の坂は出てこず、一定の無理がない斜度で登り続けられる峠となっており、自転車的には1度リズムを作ってしまえばむしろ楽して走れる国だとすらいえる。ただし12月だと標高の高い山は場所によって冠雪&凍結しており、危うく滞在期限をオーバーするどころか動けなく危険もあったので要注意。なお車両は右側走行。
 私の走った範囲では都市部であっても自転車道路が整備されてたりとインフラ具合も良好な反面、山の斜面に町があることが多くて市内の移動が大変だった。アテネに関しては平地に造られた町だけど、余りにも人口&交通量が多すぎて自転車で走るのに適した町とはいえない。まぁ首都ってのはどこも似たような傾向があるので仕方ないっちゃ仕方ないか。

◎治安
 これは良くない。少なくともヨーロッパ圏においてピンポイントでギリシャより治安の悪そうな町はあっても、全体的な雰囲気ではギリシャ以上に治安が悪かった国の記憶がない程度には。
 観光地はそんな感じないのだが、普通の地方都市とか行くと次から次に私の姿を見て子供が「金くれ」と寄ってくるし、貧困に依るものか浮浪者の姿をみる機会も一気に増えた。
 こういうの見てるとやはり経済破綻した影響が大きく残っているのかと思うし、ギリシャでよろしくないのはその一方で裕福な人たちの数も東欧諸国では群を抜いて多いという点にあると思う。目の前で見える格差は治安の悪化を招く・・・というのは様々な国で見てきた現象だが、ギリシャもそういった傾向にある国だよな。
 首都のアテネは中心街まで入ってしまえばツーリスティックで嫌な感じは受けないものの、その周辺部分は非常に嫌な雰囲気を醸し出してる場所も多かったため、中心地から10〜20km圏くらいの範囲は充分に注意した方がいいと思う。

◎ビザ・出入国
 シェンゲン協定に属する国であるため基本的にはノーチェックで移動できることになる。なのだが地図で見るとすぐ分かるように、ギリシャは陸路で隣接してる国がシェンゲン協定の非加入国ばかりであるため実質的にシェンゲン協定のメリットが無い。海路で繋がってるイタリアみたいな国ならワンチャンあるかもしれないが、基本的に国際フェリーは乗船する際にパスポートの掲示があるものだ。
 ということでヨーロッパを走るサイクリストにしてみれば、必死で滞在期限内にシェンゲン協定の国から抜けたと思いきや、シェンゲン飛び地のギリシャがあることで余計な計算が必要になるわギリシャを走りたければ事前の走行スケジュール調整が必要になるわとロクな事がない。むしろ多くのサイクリストはギリシャを走ってみたくとも滞在期限が迫っているため入国スルーしてしまう弊害となっている始末。私も1度目のヨーロッパではギリシャに入国せずブルガリアからトルコへと移動した人。
 今回は最初からギリシャの走行を念頭に入れてヨーロッパ走行スケジュールを組んでいたのだが、最初はギリシャの滞在日数を「30日くらい欲しいな」とか思っており、それがどんどん短くなって最終的に残日数11日間となって入国した。こんな感じで全く余裕のないスケジュールとなることも珍しくないと思うので、ギリシャのシェンゲン協定なんて辞めてしまえ!というのが私の正直な意見。出入国の話ほぼしてねぇ。

◎交通事情
 基本的にマナーを守るしクラックションも慣らさない行儀の良い国なので特に文句はない。特徴として他の東欧諸国に比べオートバイの数が非常に多い事が挙げられる。それも途上国で見るような小型バイクじゃなくて大型ツーリングバイクの割合が高い。
 そんなのが2〜30台とか列をなしてツーリングしているのはまだしも、結構なバイクが凄まじいスピード違反で道路目一杯に使った余裕のない走り方してるため、ちょっとカーブの先とかにいると大クラッシュ引き起こしそうな不安があった。私がエンジン音でバイクが近づいて来るのは分かるけど、向こうは自転車の存在に気づいてないだろうからさ。
 他だとアテネの市内で後方確認もせず自転車いるのにバックしてきた車がいたり、交通量が増えるとヤバめの車両も増える。それは仕方ないけどアテネの車両は全体的に危険な運転手の割合が高いと思ったぞ。

◎特徴
 西欧文明の起源となる古代ギリシャ文明発祥の地・・・という由緒正しく歴史のある国だけど、旅行者的には国家が債務不履行により財政破綻したことの方が影響を感じる。似たようなことはアルゼンチンやスリランカでもあったけど、西欧諸国の一国として観光的にも人気の高いギリシャのデフォルトはインパクトが強かった。
 現在においては国全体が貧しいというより、貧富の格差が大きく治安の悪化に繋がっている遠因となっている印象を受ける。アテネは首都なのでともかくとして、それほど大きくない地方都市でも子供や物乞いが旅行者見かけると積極的に寄ってきたりと良い雰囲気とは思えない。なまじ観光人気が高い事が弊害になっているのだと考える。

◎気候
 前半の峠を越えるまでは日中の気温が10度に届かないほどの寒さもあった一方で、カランバカ(メテオラ)の辺りからは明らかに気温が上昇し気温も20度越えることが多かった。一応警戒して朝はフリース着て走り出すのだが、間もなく暑くなってしまいTシャツ1枚となるほどには。
 珍しくアイスバーンの道路を進むことになった一幕があったが、標高でいえば1600mを越えるくらいで路面の冠雪&凍結が見られた感じで、その翌日も雨まじりの雪が1日続いたにも関わらず路面は通常の状態に戻っていたため、私が訪れる数日前に強烈な寒気が襲った末の凍結であり、通常ならば11月や12月頭で道路が凍結することは稀だと考える。この時期に似たような緯度・標高を走る方がいたら「運が悪いと路面凍結に出会うかも・・・」くらいの心構えは必要かと思うが。
 全体的に北や西からの風が吹いていたが、コリントス湾が近づいてからは南風に吹かれる事が多かった。風の温度が明らかに違うためハッキリ認識できるのが面白いところ。

◎言語
 由緒正しき歴史あるギリシャ語。基本的に看板の文字は全く読めないのだが、英語で併記されてることが多いため何とか対処できる。一部でやたら好まれ使用されてるイメージのギリシャ文字だが、文字はともかくギリシャ数字をこの国で見ることは遂に1度もなかった。ゲームのナンバリングといえばギリシャ数字が使われてる印象なんだけどな。
 英語の通用率はかなり高いが、田舎だと普通に全く英語話せない人も多い。ただギリシャの人は他国と比べて自転車旅行者に話しかけて来る割合が低く、あんまりこの国の人と会話をした数が多くないためサンプル数的にちと怪しいところはある。1日で1〜2組くらいしか会話してない印象かな。むしろギリシャは他の旅行者と話すことの方がよっぽど多かった。

◎宿(野宿)・Wi-Fi
 物価が完全に西欧料金の割に安宿の値段は良心的だと思う。首都のアテネには10€以下の激安系もあったし、超絶観光都市のカランバカでもホステルは1泊16€であった。西欧の国ではそもそも宿を利用してないので料金把握してないが、例えばクロアチアなんかは1泊25€で宿泊したことを考えるとギリシャは宿代かなり頑張ってると思うし、その割に設備レベルは非常に高い。アテネのホステルではキッチン設備がない宿を引いてしまったけど、宿自体の設備は悪くなかった。
 町と町の間は山岳地帯か広大な農地となっているパターンが多く、前者なら野宿は簡単だが後者だと身を隠す良い場所がなかなか出てこず以外に苦労するかもしれない。ただギリシャはやたらと廃墟が多い国だったので、そうした建物をお借りしてやり過ごすことは難しくない。キャンプ場は観光地の周辺にだけやたら沢山揃っているが、利用しなかったので何とも言えない。
 助かったのがWi-Fiの設置レベルも西欧レベルに返り咲いた点で、適当なチェーン店系のスーパーやガソスタに行けば簡単にFreeWi-Fiが使える環境に。何故か1日だけ全くWi-Fiが見つからずという日もあったけど、基本的にネット環境で苦労することはない国だと言える。

◎動物
 動物はかなり姿を見なくなった印象だ。かなり山奥ならば羊の放牧行っているのを何度か目撃したが、他の家畜はほとんど姿を見ていない。山の途中で謎の野良牛と出くわしたりとかしてるけど。
 地味に大型犬の割合が増えて吠えて襲いかかって来る恐怖感が段違いに。特にギリシャは山で生活してる人が犬を多頭飼いしており、その内1匹が反応すると他の犬まで反応し徒党を組んで襲いかかって来るのが頂けない。それが全部デカイ犬だから尚のこと。
 それと細かいところで12月だというのにギリシャでは蚊に刺される事が複数回あり、久しぶりに蚊取り線香が活躍した。冬の時期でこの結果ということは、夏季における自転車旅行は相当かに悩まされる事が想像できるかな。

◎自転車店
 結構ショップの数は多いし専門パーツを備えた店もある一方で、全体的な取り扱い部品のグレードは低かったし店員も不親切で印象がそれほど良くないというのも事実。長期自転車旅行者としては低グレードの部品ある方がありがたいのでむしろメリットなのだけど、その割に26インチのタイヤを見ることは1度もなかった辺りが不満といえば不満。
 アテネの中心部に何店か自転車ショップが軒を連ねた自転車街もあり、マラソンプラスが取り扱われたりと良質な品揃えだったため、ギリシャで何かしらの部品を取り揃えたいならアテネはオススメできる。
 季節的なものかもしれないが、ギリシャでは地元のサイクリストと出会うことも少なくて、むしろ自転車旅行者とすれ違った回数の方が多いかもしれない。もっと自転車人気ある国だと思ってたんだけどな。

◎物価・食事
 バッチリ西欧価格でとても高い。特にそれまで値段の抑えられてた東欧諸国からやって来た身としては、あまりの価格差に頭がクラクラしてしまう。
 ある程度冷静になってくると、実は西欧諸国でもどちらかといえば値段が安い方に分類できる感じであり、少なくともイタリアやオーストリアみたいな物価よりは大分マシ。ドイツと比べるとやや高いな・・・位の感覚だといえば分かる人には分かるだろう。
 値段も安いが質も悪かった東欧の国々とは違い、生鮮食品の管理もしっかりしてるしやはりギリシャは西欧の国なんだなと細々したポイントで感じる事が多い。ドイツ系スーパーのLidlも全国展開していた(旧ユーゴスラビア諸国やアルバニアでは無かった)し。
 ペットボトルタイプのビールは姿を消して通常のビール缶が販売されるようになったのはやや残念。1番安いロング缶でも75セント(約120円)くらいしたのでアルコールに関してはやや値段高いイメージがある。多くのビールで1€超えてたし、種類も少なくちょっと残念だった。
 総じて値段が上がった関係でとてもじゃないがレストラン等は利用できなかったけど、先進国になったことで割引商品を利用する事で安く切り抜ける・・・みたいな先進国での買い物スタイルが再び通用するようになったため、全体的にはそこまでお金使わずに済んだかな。少なくとも初日に降ろしたユーロ紙幣が200€も手元に残る程度には。

◎総括
 見所は多いし非常に走りやすい道で構成されてて自転車旅行にオススメの国である一方、ヨーロッパにしては治安が悪いし、シェンゲン協定の飛び地という土地であるため滞在日数の制限がキツい。オマケに西欧の土地を夏の時期に合わせてヨーロッパ全土を走ろうとするとギリシャに到着するのが秋から冬の時期になりやすく、地中海性気候とのコンボで雨に翻弄されやすかったりする。
 要するにギリシャ単独で旅行するならともかく、ヨーロッパ全体で考えるとギリシャを含む東欧地域をメインとするか西欧地域を主眼に据えるかで走行計画から季節まで大きく変わってくるワケですが。その際にギリシャのポジションは割と厳しいと言いますか。
 ここら辺の考え方は色々あるが、欧州全体として南に位置してるギリシャは多少寒くなってもまだ耐えられそう、西欧の国々は宿泊施設が高いためテント泊が厳しい環境でも宿に泊まるスタイルに移行しやすい・・・といった理由から自転車旅行においてギリシャはルート選択の際、注視されにくいどころか、最悪スルーされてしまう国の筆頭だと思う。せめてシェンゲン協定の縛りがなければ。
 ただそこできっぱり「ならばギリシャには行かない!」という選択ができればどれほど楽か。この国はそれだけのマイナス点を抱えてもなお訪問して良かったと思える魅力を持ってる国だった。
 ということで長期自転車旅行者にとって訪問する事が非常に悩ましい存在であるギリシャ。ヨーロッパ4度目の訪問でようやくこの国に訪れる事が出来たワケだが、それでもギリシャを心ゆくまで堪能するには全然時間が足りなかったのであり、どう転んでも扱いの難しい国になってしまうのであった。