2024年8月13日〜9月11日
走行日数30日間
累計走行距離1384km(154962km〜156346km)
◎道路
かなり悪い。主要幹線道路でも所々に未舗装路が混じって出てくるし、そうでなくとも路面の質が悪く亀裂や凸凹が無数に存在する。カラコルムハイウェイ(以下KKH)じゃない道路でそのレベルなのでもっと田舎走っていたら更に評価は低くなった気がする。
一応主要道は車線の数も多いし側道もしっかり作られてることが多い反面、その側道は路面の整備をしてないためかガッタガタで走るのがストレスになるレベルの路面状態になっていることも多い。なので結局側道があっても白線の上を走ることが多かった。なお車両は日本と同じく左側走行。
南部は平地が広がっており北部は山岳地帯と分かりやすい土地であり、自転車的には多くの人が1度は走ってみたい道と評されるKKHを目指すかと思われる。イスラマバードから中国との国境まで幾つかルートがあるため、ガチガチの山岳路から比較的平坦で楽できるルートに難易度選べるのが魅力だと思う。詳しくはカラコルムハイウェイについてを参照。
斜度が急な坂を出してくる国であり、上り坂の途中でちょいちょい10%を超える角度の坂がお出ましする。これに加えて峠は上り坂一辺倒ではなく結構な頻度で下り返しが挟まれる傾向にあり、路面の悪さも相まって数字以上に疲労する道という印象だ。
◎治安
普通に走っている分には問題ないよう感じるが、細々とした点からみるに結構治安悪いことが窺える感じ。基本的にギルギットより北の土地なら治安の心配をする必要はないものの、フンザでも2013年に外国人が多数犠牲になるテロ事件が発生したこともある。
というかパキスタンの治安イメージが悪いことの1つにこの爆発テロ事件が多発していた時期があるためで、確かに10年程前までは年間のテロ件数が凄まじい数に上っており危険視されていた。現在はかなり数も減って落ち着いてきたとされているが、私がパキスタン滞在中にも南部各地でバスが襲われて29名もの人死にが出たりと完全に終息したわけではない。
もっと単純な意味での危険度においてもド田舎にも関わらず「自転車に付けてるバッグは全て外して閉まっとけ」だとか「ここの敷地内は安全だけど他でキャンプはするなよ」といった忠告を受けることがあり、聞いたら貧困から来る盗難や強盗といった事件は結構多いのだそう。実際私がパキスタン入国する数日前にラホール近郊で野宿していた自転車旅行者が深夜に襲われ身ぐるみ剥がされたというニュースが界隈に流れてたりしている。ラホールなんて超大都市の側で野宿するなよ・・・という気持ちもあるが、まぁそうした事件が発生するような場所だと思って気を引き締めた方が良いのは間違いない。
◎ビザ・出入国
実は数年前まで海外長期旅行をするにおいて入国するのが最高難易度レベルで難しかった国である。というのも当時パキスタンビザは自国の大使館(日本人の場合は日本のパキスタン大使館)でしかビザ手続きが出来ず、様々な国を訪問途中に「じゃあ次はパキスタンへ行こう!」という計画を立てることが実質不可能だったのである。
このルールが変わったのが2018年で、パキスタンがeビザでの取り扱いを開始したことで第3国に滞在しながらPCやスマホで気軽にビザ手続きができるようになり状況が一変した。私もこの恩恵を受けてパキスタンに入国した1人である。
・・・あるのだが実はこのビザには大きな落とし穴が存在しており、隣国インド国内でビザの申請をしようとするとビザのサイトページにアクセスできない。両国の関係を考えれば分からなくもない措置かもしれないが、そんなこと知らなかった旅行者はとんでもない迷惑を被るのでやめて欲しいです。
なおVPNを活用して無理矢理ページにアクセスすることは可能だが、各種手続きを済ませても最後のクレジットカードによる入金処理でトラブルが起きると聞き、私の場合は日本の家族に連絡を取って手続き代行してもらう形で対処した。快く手伝ってくれた妹には頭が上がらない。
なおツーリストビザは滞在日数30日及び90日が選択できるのだが、90日の長期滞在を選ぶと高確率でパキスタン大使館にて面接を受けなくてはならないらしく、私は安全を取って30日シングルビザを選択した。結果的に滞在時間は全然足りなかったのだがそこは仕方ない。
まぁ色々書いたけど2024年8月にパキスタンビザルールが変更されてビザの手続きが簡略化。手続き料金は無料、滞在日数も90日まで延長されたらしいので今後パキスタンへ訪問する人は少なくとも滞在日数で悩まされる必要がなくなり羨ましい限り。
私の場合は30日間の滞在日数ではKKHからの帰り道でオーバーステイしてまうことが確実だったため、ビザの申請ページから延長手続きを実施したのだが、謎の「スポンサーの証拠書類をあげないと申請が通りません」という要項がクリアできなくて結局諦めた。延長費用の20ドルはしっかり持ってかれて悔しいな。
なおパキスタンの陸路隣国は全て事前にビザの取得が必要な国ばかりであり、パキスタンでの滞在期間の短さを考慮すると次の国への移動プランをしっかり練ってから入国する方が焦らなくて良いと思う。
私が出入国したワガ国境はインドとの間にある唯一の国境であり、敵対関係にある両国だけあってチェックは厳しいし、この国境を活用している地元民というのをほとんど見かけない。
なお毎日国境閉鎖された後にフラッグセレモニーという国旗降納のイベントが実施されている。
◎交通事情
運転マナー悪いしクラックションもよく鳴らす国だけど、インドから来た当初は「なんて常識のある運転するんだ!」くらいに思ってしまったのも事実。数日で錯覚は解けたけど。
都市部と田舎の交通量差が激しい印象で、初日ラホールの町中を走ってた際にはあまりに車両(バイク)が多く1つの巨大な動物に飲まれているような感覚を覚えた。それに対して北部の山岳地帯まで行けば場所にもよるが10分に1台とかの交通量となる場所もある。ただし交通量少ない場所を走る車両は総じて異常な速度で走っているため結構怖い。カラコルムハイウェイの路面の悪さから反対車線へエスケープすること多いのだが、そういう状況でも平気で突っ込んでくる車がいるということは頭に入れておいた方が吉。
とはいえ基本的に町中の方が遥かに危険だったし、バイクの他にオート三輪やトゥクトゥクといった小型の車両が無茶な運転をする傾向にあって嫌だ。そもそも町中にも関わらずスピード出し過ぎな車両が多く、大通りを横切ることが出来ずにいつまでも状況伺っている・・・といったことが頻繁に起きる。それでもインドより10倍マシというのが情けないというか何というべきか。
◎特徴
あまり自由に旅行をさせてくれない系の国である。宿泊施設においては安宿だと外国人は宿泊拒否されることがままあるし、アフガニスタン近郊やKKHでも一部の道路は人力による通行が認められていない。この場合警察車両(バイク)に張り付かれながら走行するか、そもそも走行自体できず警察トラックに自転車ごとピックアップされて移動を余儀なくされるかの2パターンがある。私の場合はバブザール峠がこれに該当した区間だったが、他にもアボッターバード〜べシャム〜チラスのルートは自由に走れないとされており、つまりKKHの前半戦はどうルートを取ろうとも自走できない区間があるということを示している。
宿に関しては田舎よりも都市部の方が自由度低い傾向にあり、私のルートだとラホールの町やイスラマバードに隣接しているラワールピンディーでは特に外国人が利用できる宿泊施設が限られていると話を聞いてイスラマバードに宿を取ったという裏がある。他だと観光で有名なペシャワールの町等も宿が選べず苦労が多いと聞いた。
面倒なのがこれ北部地域は比較的マシな状況という点で、南部の都市になるほど治安的な不安からか束縛の度合いも厳しくなるということ。私が走った地域はパキスタン国内では全体的に外国人旅行者も多い地域だったワケだが、そうした理由の1つに「比較的自由な旅行ができるから」という点があったことは強調しておくポイントだろう。
◎気候
暑さの最盛期は5・6月だが、残暑が続く7・8月はモンスーンの時期であるため暑さも残りつつ湿度も高くなるという大変不快指数が高くなる時期。これが9月になると晴れの日が増えて気温も下がりかなり凌ぎやすくなる。なお北部の山岳地帯は1年を通して雨量が少なく標高の高さから南部とは全く異なる気候・・・というのが通説だけど結構フンザで雨降られたな。
旅行者的に人気なのはフンザを始めとする北部の山岳地帯だが、ラダックと異なり冬季における道路通行止め箇所が比較的少ないことから冬季においても観光人気が高いし閉鎖されてる施設も(ラダック比較で)少ないとされている。ただし中国との国境であるクンジュラブ峠の国境は例年5月1日から12月の第1週(前後まで)しか開放されてない国境である。
8月後半でもラホールを始めとする南部低地は耐えがたい暑さが続いており、気温は普通に35度を超えてくる。深夜になっても温度が下がらず高湿度の状態が続くためなかなか身体も休まらないほど。
それに比べて北部の夏は天国のような環境だが、雨量が少ないとはいえモンスーンの時期には稀に豪雨が降りそれが引き金となって土砂崩れを引き起こす等の災害が定期的に発生してるらしい。実際私が走行する2週間ほど前に土砂崩れが発生しギルギットまでの道が1週間ほど通行止めになっていたと情報教えてもらったし滞在中にも小規模な土砂崩れで半日くらい通行止めが発生したことが2〜3度あった模様。パキスタンは滞在期日数が30日間と短かかったので自転車旅行的にはKKHを走るとなると「時間に余裕を持たせたルート選択」が非常に難しい。(現在は90日滞在ができるようになったのでこの問題は解消した)この季節における走行はそれなりにリスクがあるということだ。
◎言語
ウルドゥー語というのが主要言語。なおインドの公用語の1つでもある言語。厄介な点が使用文字にアラビア文字が基本として用いられている言語であること。そして外国人の旅行者がまだまだ少ないパキスタンでは大都市や観光地ならともかく、田舎だと看板も食堂のメニューもウルドゥー文字だったりする。こうなるともう手も足も出ないというのが本音。右から読むのが正解だっけ?
パキスタン人自体は英語話者の割合が高くかなりの人が英語での意思疎通ができる一方で、これも田舎に行くほどその確率が下がっていくので全体的に地方の田舎だと難易度が上がる。ただしフンザ地方に入ると一気に英語使用率が上がるため、その点に関してはあまり問題とはならないのが救い。
◎宿(野宿)・Wi-Fi
基本的に大都市から離れるほど値段は低くその割に設備は綺麗でコスパが上がっていったと思う。私の場合はラホールとイスラマバードが最も汚い宿だったのだが、ドミトリーだったし黙ってても客が来る環境というのもあるかもしれない。あと設備は綺麗でも従業員が適当というのはパキスタンあるあるの様子で、チェックインの際に部屋を見せてもらったら前の人が使ったまま部屋がグチャグチャという状況で「10分待ってくれ、片付けするから」と待たされることが多かった。何が言いたいかというと、使ったシーツだとか枕カバーを毎回洗濯・消毒するようなことは行われてないし、何ならカバーが黒ずんでいるとかシーツに穴が散見されるというのは当たり前だということ。途上国の安宿なんてそんなものだと思っているが、南京虫の可能性があるためシーツの穴には注意しておきたい。
基本的に宿泊費は安く1000〜2000ルピー(500〜1000円)の予算で安宿なら最後のラホール除いて泊まることができた。放っといても向こうから割引してきたりとか色々あったので、全部の地域で同様の価格とは思っていないが参考までに。
Wi-Fiの設置率はド田舎の宿を除けば大体設置されてる印象だが、速度と安定さが揃っている場所はほとんどない。フンザ地域まで入るとそもそも電気が安定して通電していることも少なく、状況次第で1日の半分近く停電してることもある。ちょっと良い宿だと自家発電機を持ってたりして停電するとそちらに切り替えてくれたりするが、燃料の関係だろう夜遅い時間になっても発電機を回し続けてた宿には1度も当たっていない。そういえばパキスタンではX(旧Twitter)が規制されてて国内からアクセス出来ない仕様となっている。私はイランで教えてもらったVPNを活用することで回避していたが、この事実全く知らなかったので危なかったと感じてる。
宿の値段が安いこと、イスラマバード以南の地域は暑すぎたのと治安的な不安もあって野宿はほとんど実施していない。イスラマバード以北はそれほど問題なくキャンプできそうな雰囲気だったが、走っている道がほとんど崖下にある狭い道なので人気のない場所でテントを張る・・・という行為自体がそもそも難しい。結局人様にお願いして敷地等の場所に1晩テントを張らせてもらえないか?とお願いするスタイルで泊まったことが何度かあった程度。
◎動物
それほど印象に残った動物は見なかったように思う。犬も大人しくあまり追いかけられることはなかったし、牛や羊・ヤギといった家畜をよく目にする一方でイスラム教国家らしく豚の姿を見たことは1度もなかった。割と馬に乗っている人を見かけた一方でロバの存在感はあまりない。
フンザ地域ではツノの長いヤギで雪豹と共にアイベックスという動物がシンボルになっている様子だが、どちらも実際に見かけたことはなかった。プラタで見た大型動物はせいぜいヤクくらいじゃないかと思う。
◎自転車店
大都市なら多少は部品を取り扱ってるスポーツ系の自転車ショップがあるといった程度。田舎でも自転車取り扱ってる店自体は見かけたが、どこもオモチャ屋がついでに取り扱ってるとかそのレベルで期待してはいけない。
とりあえずイスラマバードで訪問したショップは店長も親切で色々相談にも乗ってくれた良いショップだったので、パキスタンでトラブルあったらProbike Islamabadに向かうのは1つの正解だと思う。在庫がない部品も数日で取り寄せてやるよ!と言われたし。
◎物価・食事
これは文句なく安い。2024年現在でここまで物価安な国も珍しいと思う程には。パキスタンルピーの通過価値はとんでもなく下落しているようで、何年か前まで1パキスタンルピー=1円くらいだったのが現在はその半分くらいで落ち着いている。つまり1ルピー=2円ということで、邦人旅行者から見れば全ての物価が半額に値下がりしている計算になる。もちろん通過下落に合わせて値段のインフレが発生しておりそんな単純な話にならないのが常だけど、こうした影響もあってか世界的なインフレにも関わらず物価安が比較的続いている国といっていいと思う。
ただし食材の種類や料理のレパートリーが多いという訳ではないため、食の好みが合わないと他のメニューに逃げられず結構悲惨なことになる。私も後半は飽きが来ていたパキスタン料理だが、それ以上に困ったのはこの国ではまともなコーヒー豆が一切売られていなかった点だ。ほぼデカい外資系のスーパーですら堂々と陳列されてるのはインスタントばかり、僅かに粉タイプがあった程度で最後までコーヒー豆を見つけることは叶わずパキスタンでは全くコーヒー飲んでいない。オシャレ系カフェに行けばコーヒー自体は飲めるけど、チャイの10倍近い値段でロクな豆使ってないことが見て取れたので利用はしていない。結局パキスタンではココアパウダーとミルクパウダーでココアばかり作ってたぞ。
適当な屋台飯なら100円以下で楽しめるし、比較的ちゃんとした食堂でカレーとチャパティセット注文しても200円とかその程度。チャイだけはインドより若干高くて20〜30円くらいが多いかな?なおパキスタンの一般食堂では具材を注文すると勝手にチャパティが付いてくるスタイルなのだが、このチャパティ代金は別計算となっておりその値段も向こうから教えてくれないので事前に確認しておかないと会計の際に揉めることになりがち。
米食も無いワケではないのだが、ビリヤニと炒飯もどきみたいな米、他はチキンライスのほぼ3種類に限られており、せっかく豊富で味わい深い様々なカレーがあるのにカレー&ライスという選択肢が実質存在しないのが日本人的に悔しいところ。ちなみにローカル食堂ではカレー系にスプーンが出てくることはまず無く、チャパティをちぎってカレーや具材を挟んで食べるローカルスタイルとなる。
なおイスラム教の国であるためアルコール類を楽しむことは実質不可能と思って良い。大都市の一部には外国人相手にしたリカーショップやバーも存在すると話に聞いたが、旅行者相手というより駐在員とかを対象にした施設でしょう。フンザの自家製ワインも普通に観光する分では見つけることは難しいし。
その代わりというかイスラム教国らしく甘味の種類が充実している。独自の練り物を陳列してるタイプのお店も好きだったが結果的にケーキばかり食べていた記憶が。1ピースで80円、小型のホールなら400円しない程度のお値段ながら途上国にありがちな「砂糖入れすぎ激甘テイスト」ではなくレベルが高い。坂登ることが多く疲れていたためか比較的大きな町ではケーキを楽しむことが1つの楽しみになっていたほど。
◎総括
所謂「政府や警察といった組織側は課題や問題が多いけど、国民はとてもフレンドリー」というイランとかに似たタイプの国だと思っている。ちなみに隣国インドは「ルールやインフラは案外しっかりしていたが、国民が酷い」というエチオピアに近い印象で、元々同じ国だったのにここまで正反対の印象を受けるとは面白い。
治安や自走不可能な地域が多かったりと不満がない訳ではないのだが、それを補って有り余るほどに雄大な自然に囲まれた北部の土地は、時間が許されるならもっと色々な道を走ってみたかった。それに加えて配慮は足りないが底抜けに親切でフランクなパキスタンの人々は、時に面倒臭く時に心底助けられてこの国の魅力を一層強く感じさせてくれた。
そういう意味でこの国に滞在中にビザルールの変更で90日まで滞在可能になった・・・というのは非常に喜ばしいことであると思う反面、私もその恩恵を受けて思う存分パキスタンを走り回りたかったぞ!と思わずにはいられない。
まぁ以前は居住国でしか取れなかったビザがeビザでネット取得が可能となり、今回はその簡略化と滞在期限の延長。確実にパキスタンという国は旅行しやすい国へと変わってきていると思うので、次は是非とも警察による監視と外国人の宿泊施設制限を解除してやくれませんかね?そこんとこどうでしょうかと期待したい。