2019年11月 7日〜2019年12月 1日 (第1回)
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2023年12月 6日〜2023年12月12日 (第2回)
2024年 1月18日〜2024年 4月21日 (第3回)
2025年 1月24日〜2025年 4月 3日 (第4回)
訪問国数 8カ国
走行日数 190日間(第1回25日間・第2回7日間・第3回88日間・第4回70日間)
累計走行距離 11735km (第1回1251km・第2回178km・第3回5278km・第4回5028km)
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他地域と同じく私が走行してきた各国において、独断と偏見で点数評価してみた。
道 路 | 交 通 | 物 価 | 食 事 | 宿 | 治 安 | 総 合 | |||
イスラエル | 6 | 7 | 4 | 5 | 4 | 1 | 27 | ||
ヨルダン | 4 | 4 | 8 | 7 | 8 | 6 | 37 | ||
トルコ | 6 | 7 | 6 | 9 | 7 | 6 | 41 | ||
イラン | 6 | 2 | 9 | 1 | 9 | 3 | 30 | ||
サウジアラビア | 8 | 4 | 4 | 3 | 4 | 10 | 33 | ||
カタール | 9 | 5 | 3 | 3 | 4 | 10 | 34 | ||
UAE | 6 | 5 | 5 | 3 | 2 | 9 | 30 | ||
オマーン | 7 | 3 | 6 | 3 | 8 | 10 | 37 | ||
日本 | 8 | 9 | 3 | 9 | 2 | 10 | 38 | ||
※最低1点、最高10点 物価は安いほど点数高い
自転車乗りとしての視点から感じる国の特徴であり、国の善し悪しについては意識していない。物価が高い国は宿も高くなる傾向があるし、点数が高ければ良い国という意味では勿論ない。あくまで1旅行者が感じた感想である。
なお各点数は私が訪問した当時の状況を元にするのが信条だが、流石にイスラエルに関して治安1を付けざるを得なかった。訪問当時の印象的には治安3くらいだった気がするけれど。
<中東の分類>
そも中東という地域は区分が曖昧であり、エジプト等の北東部アフリカなんかも中東として扱われることがあったりする。トルコなんかもアジアやヨーロッパとしての土地な一方で中東というのも間違いではないのが難しいところ。とりあえず私のブログではアラビア半島の国々及びイスタンブールより東に位置するトルコ、イラン、イスラエル、ヨルダンを指して「中東」として取り扱っている。
地域的にはアラビア半島とそれ以外として特徴が大きく異なる感じで、イスラエルを除く全ての国がイスラム教を主としているのだがアラビア半島の国におけるイスラム教の戒律厳しさはハッキリ一枚上にあったと感じる。
<食>
トルコは世界3大美食の国に挙げられるし、実際多様な食事を楽しめる国だったが。それでも中東の国全体で評価すると色に関してはかなり残念な地域であると言わざるを得ない。
イスラム教の関係で酒が飲めないとか豚肉が食べれないというのは別に構わないのだ。そうじゃなくて色に対してのレパートリーが乏しく、また酒の代わりに甘味を欲するためか異様に砂糖を使った激甘お菓子が幅を効かせている。これも激甘なのが悪いんじゃなくて、甘さ控えめとかの多様性が薄いことが問題でして。
特にイランを筆頭として食堂でのレパートリーが非常に乏しく、首都クラスの大都市でもないと毎日同じようなメニューを食べる羽目になってしまう。彼らに言わせると僅かばかり使う材料が変わっただけで「な、違うだろう?」ということらしいが、正直大差ないと私は思ってたぞ。BBQはBBQなんだってば。
個人的にキツかったのが朝食で、パンにクリームチーズかバターを塗って甘味と併せて食べるだけの簡易なメニューが多く、エネルギー使う自転車旅行には明らかに塩分もカロリーも足りていない。でも糖分だけはチャイをはじめとしてやたら摂取してる。というか夕食を除いて全体的に砂糖ばかり摂取するパターンとなりがちで、常に運動してる状況じゃなければ「勘弁してくれ・・・」と思ってしまうほど。
アラビア半島だと米食がメインとなることも多く、カブサと呼ばれる炊き込みご飯を皆で混んで食べる機会に恵まれこれが大変美味しかった。ただしイスラム教の地域では素手(右手のみ)で食事をするのが基本であり、海外のパラパラに崩れる熱々の米を食べるのには多少の慣れが必要だったり。
ちなみに豚肉が食べれない反面、ヤギとラクダの肉がテーブルに乗ることが多い。ヤギはともかくラクダは砂漠地域でないとなかなか機会に恵まれない食材だと思う。なお肉質は非常にプリプリでゼラチンを食べてるような錯覚に襲われる。普通に焼くだけでは繊維が噛みきれないままとなる場合が多く、中東でラクダ肉を食する場合は圧力鍋で長時間加熱することで食べやすくするのが基本。レバーを始めとした内臓系も食べたがコリコリと歯応えがあって他の肉とは一味違う。
なお牛の生育が厳しい土地であるためか乳製品にはヤギの乳を使っていることが多い。牛乳よりややクセがあり匂いが強いミルクだが、味が濃厚で慣れると牛乳よりイケる感じ。ヤギチーズなんかも然り、中東でヤギは家畜の食材として鶏肉に次いでメインとなってる印象がある。
<宿・キャンプ場>
アラビア半島の国々は石油で潤う物価高の国である上、サウジアラビアとカタールには「安宿」という安価な宿泊施設が存在せず宿泊しせつを利用すると非常に高く付く。それ以外の国は都会や観光地にはそれに対応した安価な宿泊施設が存在しているので長期的な旅行をしてても手が伸びる価格で宿泊することが可能。加えて物価の高い国は国土の大部分が砂漠で構成されており、テント泊を実施する難易度が非常に低いためテント泊をメインに据えるタイプのサイクリストならなんだかんだ中東全体で宿泊問題に悩まされることは少ない。むしろイスラエルの方が問題となるような気もする。
宿の設備的にはどの国も一定以上のサービスを確保している印象で、料金に対してサービス度合いが悪いなと感じたのはサウジアラビア。いやサウジの宿は私がお金払ってないんだけどさ。それに関しても必要なものは揃ってるけど内装がボロかったり動きが悪い(ホットシャワーの出が悪いとか)といったレベルなので、基本的に不足を感じるレベルではない。
それとアラビア半島のいくつかの国ではLINEに代表されるアプリで通話サービスがシャットアウトされる仕様となっている。このため電話によるやり取りはSIMカードを購入して通話することしか出来ず実質母国への電話連絡は不可能で、外国人が自国の家族等に電話連絡するハードルが高い。
完全車社会であるため道だけでなくサービス関係の施設も車を対象とした場所が多い。キャンプ場もこれに倣って車での訪問のみを想定しておりキャンピングカーのスペースやコテージは存在しても小さなテントを張るスペースはなく車と同じ料金を支払わなければ利用できないキャンプ場も多かったりと自転車には優しくない。キャンプの需要自体はそこそこあり、それに応える形でキャンプ場も点在しているだけに残念である。
<気候>
イスラム教は砂漠やサヘル地帯の気候と相性が良い宗教とされており、そうしたことを示すかのように強烈な厚さと日差しが降り注ぐ大変厳しい気候の土地である。
ユーラシア大陸に位置する国々は結構山がちな土地も多く、猛烈な暑さで有名なのはイラン東部の砂漠くらいなのだが、それでも夏季に走行するのは相当厳しい地域が多い。加えてアラビア半島の国に関しては夏季どころか冬の12〜3月以外のシーズンはマトモに自転車で走ることができないレベルで気温が上がり、熱中症どころか生命の危険となるレベル。なお4月のイラン南部、バンダレアッバースの気温は30度ちょっとだったの対し、3月後半のオマーンで36度まで気温が上昇したのであり、やはりアラビア半島の方が気候的な厳しさが大きい感じ。
また面積の多くを砂漠に覆われている地域で、このため風による影響が他地域よりも甚大となる。季節によってある程度風の吹く方向が一定ならばルート選定を考慮することで避けられる問題もあるのだが、私の経験では風向きが安定してることは少なく、その強さに関しても突如出鱈目な強さで吹き荒れたりと読めないのがもどかしい。一応ペルシャ湾から陸路に向かって吹いてるイメージは持ってたけれど、こうした点すら定かではない。
トルコを除いてほぼ全ての地域で晴天が続き雨に降られることはごく僅かしか無かった。一応この地域における雨季というべきか雨が降りやすい時期は1〜2月だそうで、この期間にはアラビア半島の雨量極小な国でも降られる可能性があることを考慮に入れておきたい。サウジアラビアでは数回土砂降りの雨にぶち当たった。
<注意点>
イスラム教の国における戒律を理解し対応する必要がある。難しいのは同じイスラム教の国でも戒律の厳しさには強弱があるという点で、分かりやすい「アルコールの禁止」という点ではトルコみたく普通のお店で販売されている国がある一方で、サウジアラビアみたく一切販売が禁止されてるどころか国内にアルコール類を持ち込んだだけで犯罪となってしまう国まである。
基本的にイスラム教の生まれたサウジアラビアを頂点として、アラビア半島の国々は戒律が厳しい傾向にある。意外にもイランは戒律がそこまで厳しい印象ではなく、イスラム教徒の国というよりペルシャ人の国という歴史的な関係が尾を引いているというか影響してるのを感じたり。
イスラム教の国を他宗教の外国人が旅行するにあたって注意すべき点は
1、アルコール関係
2、衣類関係
3、食事関係
に大別されると思う。アルコールに関しては先に述べた通りだが、飲酒可能な国でも人前や外で飲むことが法律違反である国がほとんどだし、何ならビール等の商品を周囲から見えるよう剥き身で運んでいることが問題となる。このため購入時には黒いビニール袋で覆われて渡されることがほとんどだが、持ち運び並びに愛飲には充分注意されたい。
2の衣類関係では女性のアバヤに代表される全身を隠す服装が有名だが、男性であっても膝が見えるような短パンのズボンを履くことは推奨されていない。戒律緩い国だと「まぁ外国人だから」とスルーされることもある一方で、厳しい国では関係なく怒られるのでイランやアラビア半島の国なんかでは長ズボンを着用しておく方が無難。モスクの入場や場合によってはスーパーに関してもハーフパンツでの入場お断りと示していることがある。なお履物に関してはサンダルでもなんら問題はないのが不思議。むしろ現地民は多くがサンダル履きだったな。
3の食事に関してはムスリムは豚肉を食さないというのが有名だが、イスラム教が主体となってる国ではそもそも豚肉が取り扱われてないので気にする必要がない。他にも幾つか制限があるそうで、他国でイスラム教徒が食事をする際に問題のない食事を指して所謂「ハラル」と呼ばれている。まぁこの辺はイスラム教の国内でわざわざ明文化されておらず(当たり前のことなので)旅行者的に特別注意しておく必要はない。
それよりは食事時のマナーとして大皿を皆で囲み食器を使わず素手で食べるのがイスラム式だが、この際左手を使って食するのはご法度なので気をつけたい。飲み物を左手使って飲むくらいは皆さんやってたけれど、どの程度まで左手を活用して良いのか曖昧な感じなので極力使用しないよう努めていた。なお左手を使わないのはトイレで用足す際に水洗いしたお尻を拭く等で使うのが左手なので「不浄の手」として扱われているからだとか。
<ラマダン>
中東では2024年、2025年と2度のラマダン(断食月)を期間いっぱい体験することになった。地味に2015年もラマダンをマレーシアで体験しており、そうした経験からラマダンにおける厳しさの比較をしておきたい。
なおラマダンというのはイスラム教におけるラマダン月で実施される「日中における断食」を指す期間のこと。イスラム教はカレンダーが太陰暦で表されるため1年は354日となり、我々の感覚からすると毎年10日くらい日にちがズレていく。つまりラマダン月も毎年10日ほど手前にズレていくこととなり「毎年この日からラマダンなので注意!」とはならない。参考までに2025年のラマダンは2月28日〜3月30日だった。なので来年は2月17日くらいがラマダン開始の目安。
イスラム教における戒律の厳しさは発祥国のサウジアラビアを頂点として、それに次ぐ形でアラビア半島の国々、それ以外のイスラム教国とサウジから距離が遠くなるにつれ段階的に緩くなっていく感じ。もちろんそんな簡単ではない全体的な印象として。
特にラマダンの場合はアラビア半島国の場合、外国資本のファストフード(マクドナルドとか)ですら関係なく日中の営業は一律シャッター閉めて営業していない。これが海を渡るとイスラム教を国教としているイランでも他宗教や外国人の利用者もいるから・・・といった体で営業しているお店が多い。流石に断食してる人に配慮して期間中の飲食店は日中カーテン等で中が見えないようなっているが。
ラマダンの日中営業してないお店は16〜17時を目安に営業始める店が多く、遅い営業開始の代わりに深夜3時ごろまでシャッタ開けているパターンとなる。親切なお店なら入口に張り紙とかで「ラマダン期間中の営業時間は○時〜◯時」とか表記されているが、こういうのが無い店だと営業時間は全く読めない。Googleマップとかもラマダンの特別時間には対応しきれていないので本当に人に聞くしか正しい営業時間が分からない。
日中の飲食が禁止されているが、その時間帯に食料を購入したり日没に合わせて事前に料理をすることは問題ないため食料品を扱うお店やスーパーは普通に営業している。というかラマダン期間中はむしろ「ラマダンセール!」と銘打って食材の特売がされてることも多い。ラマダン期間中モスクでは毎日日没と同時に礼拝者へ食事が振る舞われるし、様々な場所で断食を終えた人たちが宴(酒無し)を楽しむ姿が散見され、むしろ食事量自体は増える傾向にあるのだとか。
いずれにしてもアラビア半島でのラマダン(ドバイ除く)はカフェ等の休憩に使える施設が軒並み閉まってしまう関係でかなり苦労する。自炊を主体とするサイクリストなら食事自体はあまり影響はない。安宿が存在しないサウジアラビアやカタールでは充電や休憩が出来ないといった影響が大きい。これらの国を訪問する際は事前にラマダンの時期を確認しておき、予備の充電器や食材の携行を心がけて対処する必要があるだろう。
<道>
全体的には都市部を除けば走りやすく快適な道が多い。特にアラビア半島は側道が広くて安心感があり自転車に優しい道路だったりする。山や坂の割合も少なくて平坦路が多くペースも上がり易いし。
そういった点ではトルコやイランも結構頑張っている印象なのだが、如何せんイスラエル・ヨルダンを含めてこちらの地域は山が多くアップダウンの連続となり体力的に消耗するのが玉に瑕。特にトルコ東部とイラン西部では3000m級の高さまで迫ることがあり、私が走った時期(1〜3月)もあるが夜中はー20度位に冷え込むこともあって難儀した。このレベルまで寒くなると道路上に残雪だけでなく路面が凍結することによるスリップの可能性が出てくるため非常に危険である。
なおアップダウンの厳しさではヨルダンが筆頭に上がるのだが、いずれも標高の高さで攻めてくるというより2000mとかその程度の高さ以下の山々が連なってひたすら登り降りを繰り返させる系の大変さだといえる。坂道は標高じゃないということか。
自転車に対しての理解度はアフリカと並んで世界最低水準であり、何処の国を走ってもドライバーの無茶な運転とマナーに辟易すること必死。ただし道路自体の整備具合が違うため随分マシだという評価になるのだが。
そもそもイスラム教は男性でも正規の服装がズボンではなくスカートというのかワンピースタイプの両足が分かれていない被り物スタイルが多いため自転車との相性が悪く、それだけが原因じゃない気もするけど自転車における需要も人気も低い傾向にある。暑い国が多いので剥き身の自転車じゃやってられないというのも大きいか。
こうした点から車両優先の社会が構築されており、道に関しても歩行者はともかく自転車のことを全く想定していない町となってて走りにくいことこの上ないパターンが多い。形だけの自転車道が作られてて「ちゃんと配慮してますよ!」と見せかける感じは日本と似ている気もする。
なので交通マナーの悪さも相まって都市部における自転車の走りにくさは世界でも随一というレベル。その割に側道がしっかり広く取られている国が多いので、郊外における走りやすさに関してはこれまた世界でも有数の高レベルという両極端な構成してるという印象だ。
<総括>
ワールドサイクリストの中でも中東というのは宗教の違いからか(世界を走る自転車旅行者は多くがヨーロピアンのキリスト教文化圏)訪問する人が少ない土地だと思う。それは比較的自転車旅行における情報がない地域ということでもあり、特にアラビア半島における日本人の自転車走行レポートは他地域に比べ極端に少ない。サウジアラビアとか2019年まで実質訪問不可能な国だったので仕方ない部分もあるが。
だが訪れるサイクリストが少ないことは決してマイナスではないと感じさせてくる地域でもあり、多くの日本人が中東という地域から想起される「危険な国」というイメージとは対照的に平和で治安も良く人々は親切で大変よくしてもらったのが印象的だ。
ほぼ全域がイスラム教を国教とする地域で、日本人的に馴染みがないことから敬遠される向きがあると思うが、異国を旅行していてこれほど親切を受けた「地域」は他にないと言えるほど旅行者に対してのホスピタリティに溢れている。これはイスラム教の「旅行者に対して施しを与えよ」という戒律もあるだろうし、旅行者の訪れる総数が少ないことで現地民が「旅行者擦れ」していないという点もあると思う。そうした意味でも地球上に残された数少ない「自転車で訪れやすいが旅行者の少ない地域」として貴重な存在ではないか。
・・・とまぁ理由を並べてみたが、中東を走ることはとても楽しい!というのが唯一にして全てでもあるんだよね。イスラム色の強いこの地域における独特な文化や人たちとの出会いを楽しんでほしいと思わずにはいられない。ただし無茶苦茶暑くて厳しい気候の土地が多いので訪問する季節はよく吟味して。
個人的にはユーラシア大陸を走行する際に冬季の滞在先として「アラビア半島を走る」という選択肢がもっと増えてくれたらこれほど嬉しいことはないと思ってる。