サンダー・イン・ジ・イースト/ラウドネス order

thunderintheeast
THUNDER IN THE EAST/LOUDNESS (1985)

 すぐれた音楽作品に、バンドの出身地域や国など一切関係するものではないのだが、なぜか私は洋楽専門で、日本のバンドはほとんど聴かずに来た。十代の頃、最初に出会ったハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドがKISSであった所為、なのかもしれない。
 とは言っても、まったく日本のアーティストを聴かなかった訳ではない。多少は聴いたのだが、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルと言う音楽に、力強さや迫力を強く求める傾向のある私には、どうも日本のバンドの音は、線が細くて馴染めなかった所がある。作品の完成度や個性或いは演奏技術などは、欧米のアーティストに決して引けを取るものではない事は分かっても、感覚的に馴染めなかったのだ。
 スポーツを見ていれば理解できると思うのだが、日本(或いは東アジア)の選手に比し、欧米の選手のプレイで、こんなの日本人にはできない、と思わせる様なものが多々ある。主にリストの強さなど、筋力的な部分だと思う。楽器演奏と言うのは身体を使うものなので、この筋力の違いと言うのは如実に音に現れる。特にハード・ロック/ヘヴィ・メタルの様な音楽は、基本体力勝負的な要素が強いので、この筋力の違いが音の違いとして非常に目立つ(殊にドラムやベース)。私の感じる欧米ミュージシャンと日本人ミュージシャンの音の違いは、楽器や録音機材・スタジオなどの違いによるものではなく、この「身体」の違いに起因するのではと思うのだが(まったくの私見です)、理由はどうあれ、上手いとか如何とかではなく、単純に欧米ミュージシャンの出す音は強く迫力があり、私は、如何もこうした辺りに非常に惹かれる。ので、洋楽専門となったのではなかろうかと、自己分析する次第である。

 そんな、音楽の「音」に関しては非常に欧米偏重の私だが、このバンドに関しては、まったく違和感が無い。バンドの名は、ラウドネス(意は、音の大きさ・強さ)。日本が世界に誇る、一流ロック・バンドである。おそらくは世界中どこへ行っても、ハード・ロック/ヘヴィ・メタル好きならば、聴く聴かないは別として、まず知らぬ人はいないであろう様な、そうした存在だ。
 ラウドネスのデビューは古く、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの世界的なムーヴメントが巻き起こっていた当初の1981年(昭和56年)。もとは、レイジー(ディープ・パープルの楽曲に由来)というアイドル・バンドに所属していた、高崎晃(g)と樋口宗孝(ds)を中心に結成された。アイドル・バンドと言うと、失礼ながら、音楽的には如何なの?となりがちであるが、元々小学校の同級生やその友人たちが自ら結成したバンドで、「アイドル」は、当時非常に人気のあったイギリスのアイドル・バンド、ベイ・シティ・ローラーズの様にしたかった事務所側による後付けだ(レイジーを見出したのは、ムッシュことかまやつひろし)。メンバーは其々「スージー」「ミッシェル」「デイビー」「ファニー」「ポッキー」のニックネームを付けられ、アイドルとしてのその置かれた状況に大分戸惑ったという。実際、私も当時、お揃いの衣装と振付で演奏する彼らをテレビで何度も見たが、のちにこの中のメンバーがかなり本格的なメタル・バンドを結成したことを知り、驚いたのを覚えている。尚、レイジーのヴォーカルを務めていたのは「ドラゴンボール」で有名な、「ミッシェル」こと影山ヒロノブである。
 このレイジー解散後、「スージー」こと高崎晃と「デイビー」こと樋口宗孝が、高崎の幼馴染の山下昌良(b)と彼の推薦した二井原実(vo)と共にラウドネスを結成するのだが、高崎晃は、私の記憶が確かならば、レイジー時代からギター演奏の能力の高さは評判になっていた。

 アルバムであるが、当初より世界指向であったバンドの、本格的な海外(アメリカ)進出第一弾。前作「DISILLUSION 〜撃剣霊化〜」(1984)が当初日本語で歌われ、後に英語バージョンが出されたのとは異なり、ATCOレコードからの至上命令もあって当初より英語で歌われた。作品全体としても、前作はテクニカルで複雑な演奏・楽曲で、且つ何方かと言えば欧州的ウェット感やダークさが顕著であったのに対し、大分演奏も楽曲もシンプルで、全体にアメリカンなドライさや明るさが漂う。この辺りは、当時大人気のオジー・オズボーン・バンドの一連の作品をプロデュースしていた、プロデューサーのマックス・ノーマンの意向であったらしい。この変化に関しては、いろいろ見解はあるのであろうけれど、好みの問題は別として、これはこれで「正解」であるのではなかろうかと、個人的には思う。今回、本作同様、ラウドネスの名作とされる前作と、何方を紹介しようかと迷ったのだが、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルに余り馴染みのない方々を念頭に置いた本blogでは、やはり本作の方が相応しいように感じた。前作は十分に世界レヴェルに達した作品だと思うが、何方かと言えばコアなファン向きで、本作の方がより多くのリスナーに訴えかける内容の作品ではないかと考える。実際、このアルバムはアメリカのビルボード誌のアルバム・チャートで74位にまでなった。これは日本のロック・バンドでは「快挙」とされる成績である。ちなみに、国内ではオリコン4位になり、第27回レコード大賞の最優秀アルバム賞も受賞している。純粋なメタル・アルバムが、である。これも、「快挙」。
 売れればいい、という訳ではない。チャートの順位と作品の内容は、必ずしも比例関係にある訳ではない。しかし、芸術作品として、多くのリスナーに受け入れられるという事は、やはり素晴らしいことなのである。芸術は、人々の人生を豊穣へと導くものなのだから。

 前作についても少し触れたが、前作が世界レヴェルなら、本作は世界レヴェル・オーヴァーである。少なくもこの当時―1980年代前半頃―、雨後のタケノコ的に世界中でハード・ロック/ヘヴィ・メタル・バンドが出現し、数え切れぬほどのアルバムがリリースされていたが、其の中で本作は、同年発表のハロウィンの「WALLS OF JERICO」、イングヴェイ・マルムスティーンの「MARCHING OUT」、セルティック・フロストの「TO MEGA THERION」、アンスラックスの「SPREADING THE DISEASE」、スレイヤーの「HELL AWAITS」、そしてメガデスのデビュー作「KILLING IS MY BUSINESS... AND BUSINESS IS GOOD!」等の名作に比しても遜色なく、他からは群を抜いていると思う。少なくも、私が知る中においては、そうである。あくまでも個人的見解だが、一般的評価ともそう大きくずれてはいないのではなかろうか。楽曲、演奏、プロダクション、どれをとってもハイなレヴェルだ。特に、高崎晃のギターは格が別。完全に、世界のスーパー・ギタリストの仲間入りを果たしている。タッピングを多用したそのプレイは、基礎的な部分を含めたテクニック、そしてセンス共に群を抜き、スピードや旋律、オリジナリティなど含め、そのギタリストとしての総合力は非常に高い。多くのハード・ロック/ヘヴィ・メタル系ギタリストが、彼を高く評価した或いは彼に影響を受けたとされているのも頷けるプレイである。
 その他全般、作品の完成度は高い。まあ完成度でいえば次作「SHADOWS OF WAR」(1986)、次次作「HURRICANE EYES」(1987)の方が高くまた聴き易くもあると思うが、ロックには重要な要素である所の「荒削り」感とのバランスは本作の方が非常によいと思う。何れにしろ、ビギナーの方々にも安心してお勧めできる内容だ。強いて難を言えば、そのパワフルでドスの効いた歌唱そのものは非常に素晴らしいのだが、ヴォーカルの英語が余りに「ジャパニーズ」であることが少々気になることくらいである(他人の英語をとやかく言える私ではないが―)。英語に関しては、二井原実はレコーディング前に一人先に渡米し、相当厳しいレッスンを受け、相当に苦労したという(彼は現在非常に英語が堪能だそうです)。

 でも、こんな世界的バンドの母体となったレイジーを見出した、かまやつさんは、やはりスゴイ人だったんだなと、改めて思う。

 2019 11/18

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お気に入り度:♭♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭♭
重度:♭♭♭ 硬度:♭♭♭ 暗度:♭♭ 技巧度:♭♭♭♭ 旋律度:♭♭♭ ポップ度:♭♭
〔本作当時のメンバーは全員関西出身(高崎、二井原、山下は大阪、樋口は奈良)。旭日(あさひ)をイメージしたジャケット(上画像はアメリカ盤で日本盤と若干異なる)は、当時の彼らの心意気と内容の高さを示している様で純粋にデザインとしてインパクトがある。当時の海外ハード・ロック/ヘヴィ・メタル・ファンには新鮮・斬新であったであろう。30年を経た後もこのジャケットにサインをねだられることが多いそうだ。バンドは、この後多くのメンバー・チェンジを繰り返す事となるが、現在、49歳で亡くなった樋口宗孝を除きオリジナルのメンバーで活動中 official

*レイジー:かまやつさんに見出される切っ掛けになった演奏はディープ・パープルの「BURN」(なんとYouTubeで聴ける。かまやつさんベタ褒め)であるのを見ても、彼らが当初からハード志向であったことが窺える
*ベイ・シティ・ローラーズ:スコットランド出身のロック・バンド。タータンチェックの衣装に身を包み、1970年代にポップな楽曲でワールド・ワイドにヒットを連発。日本でも大大大人気であった
*ATCOレコード:アメリカの大手アトランティック・レコードのレーベル
*タッピング奏法:ピッキングする方(右利きなら右手)の指を指板上で弦に叩き付け音を出す奏法。ジャズでは1950年代からあったそうだがロックでは1970年代以降に一般化した
*SHADOWS OF WAR:米ソ冷戦只中であったのでアメリカではアルバム・タイトルが「LIGHTNING STRIKES」に改題されたリミックス盤となった(曲名・曲順も異なる)

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