アマング・ザ・リヴィング/アンスラックス order

amongtheliving
AMONG THE LIVING/ANTHRAX (1987)

 「アンスラックス=炭疽」である。炭疽(たんそ)は、炭疽菌により引き起こされる人畜共通の感染症。バンド名に冠したのは、単純に「メタルっぽい」かららしいが、この名が一時問題となった事があった。
 それは、ご記憶の方も多いと思うが、2001年のアメリカ同時多発テロ後に続発した「アメリカ炭疽菌事件」の際である。2001年9・10月に炭疽菌入り容器の入った封筒がテレビ局、新聞社、議員事務所などに送りつけられ、5人が死亡し17人が被害を受けたバイオテロが起き、アメリカ中がパニックになった際だ。バンドは無関係ながら当然注目を浴び、メンバーは、「子犬いっぱいのバスケット(Basket Full of Puppies)」に名前変えようか、などと冗談で答えていたが、実際は可也のショックを受けていたらしく、本気で改名を考えたそうだ。だが、音楽仲間やファンから励まされ、思いとどまったという。

 行き成り脇の話から入ってしまったが、今回ご紹介するはそんなアンスラックスの3rdアルバム。彼らアンスラックスは、メタリカメガデスそしてスレイヤーと共にスラッシュ「BIG 4」とされ多大な人気と影響力を持つバンド。他の三バンドが西海岸出身であるのに対し彼らは東海岸出身(ニューヨーク)で、その所為か否かは分からぬが、何所かあっさりとした無機的なにほいがする。また彼らの大きな特徴だが、一般にメタル・バンドはバンド・ショットなどで、メンバーが腕組みしコワイ顔でカメラを睨みつけている様なイメージがあるが、アンスラックスは結構笑っている印象がある。作風も、どこかカラッと明るく、AC/DCに通ずるような「おバカ」感が濃い(ディスりではない)。良い意味で深刻さが無く、おふざけなイキフンが漂い、一種独特な「かろみ」がある。大きな魅力だ。
 スラッシュ・メタルは、ヘヴィ・メタルとハードコア・パンクの融合とされるが、アンスラックスは可也そのハードコア的な要素が強く、これもまた彼らの大きな特徴。アンスラックスで楽曲制作の中心となるドラムのチャーリー・ベナンテと、リズム・ギターのスコット・イアンは、本作制作前に「ストーム・トゥルーパーズ・オブ・デス(S.O.D)」という、可也ハードコアなバンドでアルバムをリリースしていたりもする。本作は、まだ「普通」なメタル要素が濃かった前作よりそのハードコア色が顕著である。音は重くなったが、メロディはやや後退し、パンク的突進感が目立つ。なので、若干聴く人を選ぶところがあるかもしれないが、メタル或いは広くロックの名作の一つと言える完成度の高さを持つ作品。チャーリーも、インタビューの中でこの作品がバンドのキャリアを築いたと、ナンバー1アルバムに挙げている。

 前作から参加しているヴォーカルのジョーイ・ベラドナは、スラッシュ・バンドでは珍しく可也正統派に近い歌いあげるタイプで、これも他のスラッシュ・バンドとは大きな違いとなっている。彼はカナダ系ネイティブ・アメリカンの血を引き、ステージでも有名なウォーボンネット(羽根冠)を付けたりもしている。
 その影響であろう、本作には「INDIANS」と言うそのものずばりのタイトルの曲が収録されている。ヨーロッパからの入植者によるアメリカ先住民に対する侵略や略奪を告発する内容だ(と思う。英語自信なし)。ライヴでは、この曲の後半で「War Dance!」の掛け声に続き上記ウォーボンネット姿でジョーイが登場するのが定番だ。


「INDIANS」1987年のオフィシャルMV
この頃はメタラーも必ずしも黒Tではなかった

パイセン、アイアン・メイデンの「RUN TO THE HILLS」と同様な内容の曲であるが、ジョーイの出自を思えば、こちらの方が重みを感じないでもない。名曲である。他に、ロシア人だって同じ人間、SDIより平和を、と米ソ対立を批判する「ONE WORLD」など、冷戦只中のこの時代らしい曲もある。メタルはパンクと異なり、社会的内容の楽曲は少ないが、この頃は、多かった。世界の核兵器数がピークであったとも言われる1980年代、何時核戦争が起こっても不思議ではないような、そんな空気感が何処か漂っていた時代だ。ゲイリー・ムーアアイアン・メイデンジューダス・プリーストも、メガデスもメタリカも、スパイ衛星や核戦争・核兵器について歌っていた時代である。

 最後に、このアルバムの私的な聴き所を書かせて頂くと、それはドラム。音楽的知識の貧弱な私は何と表現して良いのか分からないが、チャーリーの、メタル的或いはロック的な中には収まり切らない独特のセンスを漂わすプレイ。ジャズ的でもないしフュージョン的でもない。アンスラックス自体、可也広い音楽性を感じさせるが、チャーリーも同様で、彼独特としか言いようのないフィーリングだ。ストロークやリズムの正確さ、アタックの強さまたキレの良さ、フレーズの豊富さや構成の巧みさなど、基礎的部分のレベルの高さは勿論なのだが、それだけだったら他にも素晴らしいドラマーは幾人も存在する。それだけでは説明できない、良いドラマーなのだが―。・・・だめだ、あれこれ考えても言葉が出てこない。単純に、カッコいい、としか言えない。
 ああ、我が語彙力の乏しさが、うらめしい。

 2020 7/1

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お気に入り度:♭♭ ビギナーお薦め度:♭♭♭
重度:♭♭♭ 硬度:♭♭♭♭ 暗度:♭ 技巧度:♭♭♭♭ 旋律度:♭♭ ポップ度:♭♭♭
〔当時のメンバーは上記三人の他にフランク・ベロ(b)、ダン・スピッツ(g)の計五人。因みにフランクはチャーリーの甥。アートワークはチャーリーによると「ポルターガイスト2」がモチーフだそうだ。
なお本作は、前年に事故で亡くなったメタリカのベーシスト、クリフ・バートンに捧げられている〕

・参考:チャーリ・ベナンテが選ぶANTHRAXのアルバムベスト10(VICE 2016年11月記事)

*炭疽:「炭のかさぶた」の意。感染力も死亡率も高い。経口感染、創傷感染、吸入感染があるが、ヒトからヒトへの感染はしない。抗生物質で治療可能
*炭疽菌(Bachillus anthracis):バチルス科バチルス属の細菌。1850年に発見された。生物兵器として研究される
*アメリカ炭疽菌事件:微生物研究者ブルース・イビンズの単独犯行とされたが当人は2008年自殺しており結論付けられたのは2010年
*S.O.D:アンスラックスの2ndアルバム制作後遊びでやっていた曲をマネージャーが気に入ってアルバム制作に発展。1stアルバム「SPEAK ENGLISH OR DIE」は三日で作った。これも名作だ
*ウォーボンネット(War bonnets):ヘッドドレスとも。現在では広くインディアンの象徴的アイテムとなっているが元来はスー族、クロウ族、シャイアン族などの平原に暮らす部族のもので、勇気や名誉の証として部族の男性に贈られた
*SDI:戦略防衛構想。1983年に米レーガン大統領が提唱。敵(旧ソヴィエト)の大陸間弾道ミサイルをレーザー・ビームやミサイルで迎撃する。偵察衛星や迎撃衛星なども使われるのでスター・ウォーズ計画と呼ばれた

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