Yahooニュース記事より
山下ふ頭で初の10万人規模ライブ、しかし…苦情300件で調査の市職員も「不快な音だった」
「重低音がひどい」「なぜ開催許可したのか」
「重低音がひどくて子供がずっと泣いていた」「なぜ開催を許可したのか」――。横浜市中区の山下ふ頭で7月下旬に行われた野外ライブで、市に寄せられた騒音に関する苦情や意見が約300件に上った。市は主催者側に原因究明を要請し、再発防止策を講じる方針だが、一体何が起きたのか。(松岡妙佳) 【図】こんなところまで…ライブの「騒音」が伝わったとされる範囲
野外ライブは7月26、27日午後6時〜9時、人気バンド「Mrs.GREEN APPLE」が開催した。ふ頭の特設会場(約13ヘクタール)で行われ、2日間で計約10万人の観客を見込む大規模イベントだった。
市港湾局によると、ふ頭でイベントを実施する場合、経済活性化や公益性の観点から市が実施の可否を判断する。同ライブは、2027年に市内で開催される国際園芸博覧会の告知も担っていたため、市が後援したという。
ふ頭ではこれまでも、DJイベントや花火のドローンショーなどを開催してきた。ただ10万人規模の音楽イベントは初めてで、市は主催するユニバーサル・ミュージック合同会社に条例で定められた音量60デシベル以下の順守を求め、リハーサルでは実際に曲を流して確認した。市街地側に音が流れないようスピーカーは海側に向けて設置し、当日の音量は基準値を上回ることはなかったとみられる。
だがライブが始まると、SNS上などで騒音の苦情が殺到した。2日目は一部スピーカーの電源を切るなどしたが苦情は続いた。騒音被害はスピーカーが向く神奈川区や鶴見区のほか、川崎市にも及んだとみられる。
市職員は鶴見区に出向き、ドラムやベース音が混ざった「ズンズン」という重低音を確認。「不快な音だった」と振り返る。110番も相次ぎ、神奈川県警によると、夜間帯の「騒音苦情」は通常1日40〜50件だが、この2日間に限っては計400件と突出していた。
ユニバーサル・ミュージック合同会社は翌28日、「当日の風向きにより、想像以上に広範囲に音が拡散した。ご迷惑をおかけする結果となり、おわび申し上げます」と謝罪した。
市は現在も主催者側と協議を続け、原因究明を行っているといい、今後、再発防止策をまとめる。山下ふ頭再開発調整課の担当者は「ふ頭の再開発を進める一方で、周辺に迷惑をかけないイベントのあり方を考えたい」としている。
上空の風が影響か
今回の野外ライブについて、大阪教育大の西川泰弘特任講師(環境安全科学)が当日夜の気象庁の観測データを基に、音の伝わり方を分析した。騒音の原因は「上空の風」だったといい、鶴見区や川崎市など10キロ・メートル以上離れた地点でも音が伝わった可能性があることを確認した。
気象庁のデータによると、上空の一部では南西からの風が吹き、ライブ会場から川崎方面に向かう「追い風」になっていた。西川氏によると、無風や向かい風の場合、音波は上空に向かって進むが、追い風の場合は地面に向かい屈折するという。西川氏は「風が音波を屈折させ、上空から音が降り注ぐ状態になった」と語る。
障害物の影響を受けにくい「重低音」の特徴にも着目し、「家の中にいても聞こえる音だった」と話す。
音の広がり方は気象条件によって予測が難しいため、西川氏は「音を出す方向や会場周辺に防音壁や吸音設備を設けるほか、低音を強調しすぎなければ、拡散リスクは下げられる」と指摘する。



