kikuzakaのblog

白石晴久と申します。KikuzakaのBlogには下記の三つのシリーズがあります。 ①「スマイルカーブ」:スマイルカーブと言う簡単なツールを使って、物事を解説しています。 ②「コラム」:私が都市銀行の常務を退いた後、社長を3年間務めたIT会社で、社内コラムに書いたものを一般用にアレンジしたものです。 ③「経営ワンポイント・レッスン」:経営のワンポイント・レッスン的な事柄を書き綴ったものです。 本ブログとは別に漢字名の兄弟ブログ「菊坂のブログ(http://bunkyou.blog.jp/)」もあります。

東京都文京区菊坂(現本郷4丁目)出身なので、ブログ名をkikuzakaとしました。

初めての方で、ブログの概要を知りたい方はKikuzakaBlogをご覧下さい。本ブログで多用するスマイルカーブやアングリーカーブとは、仕事(ここでは製造業)の流れの順に、製品の企画・設計・開発(上流工程) ⇒組立・製造(中流工程) ⇒サービス・販売(下流工程)、の各段階の付加価値(利益と考えて下さい)を結んだものです。詳しくはちらをご覧下さい。



ソニーが来年(2021年)4月に、組織変更とソニー・グループへの社名変更をする予定だと報道されています。本ブログ「KikuzakaBlog」は、経営や経済問題を柱に構成されていて、書き続けてきた記事数は188になります。特徴的なのは、突然特定の過去ブログが読み始められることで、この動きを見ていると、なるほどあれかと、ある時流に思い至ります。今回は、本ブログの記事「ソニーの戦略と三つの経済性」が最近になってかなり読まれ出して、ソニー関連の報道によると考えています。また、それに関連する記事コングロマリット・ディスカウントと三つの経済性も一緒に読まれることが多い状況です。

 

ソニーの今回の組織変更を一言で言うと、事業持ち株会社から純粋持ち株会社への体制移行です。事業持ち株会社とは、自分自身の事業を行いながらグループ企業の経営管理を行う会社で、一方の純粋持ち株会社は自分自身の事業は持たず、グループ会社の経営管理を本業とする会社です。今回のソニーの場合は自分自身の事業とは言えませんがエレクトロニクス事業の間接部門が本社に残っているので、これを子会社に移管して純粋持株会社になるようです。グループ経営体制の強化が狙いでしょう。

 

 ところで、昨年ソニーは株主のファンド(サードポイント)から半導体事業と金融事業を分離するように要請を受けていました。その根拠は後述するコングロマリット・ディスカウントです。従って、グループ経営に特化しコングロマリット・プレミアムを目指すことが今後のソニーの経営戦略の方向性です。結論を先取りすれば、三つの経済性(1)を発揮できるか否かに掛かっています。この辺りをコンパクトに論じたのが上述したブログ記事「ソニーの戦略と三つの経済性」(2019)で、コングロマリット・ディスカウントについての記事が「コングロマリット・ディスカウントと三つの経済性」(2019)です。

今回はこの二つのブログ記事を更新・加筆した上で融合させて、あくまでも定性的に考察してみたいと思います。

 

(1) 三つの経済性には規模の経済性、範囲の経済性と連結の経済性があります。まず、「規模の経済性」とは、規模が大きいことにより得られるメリットで、いわゆるスケールメリットです。「範囲の経済性」は、企業内で、ある事業の生産要素(ノウハウ、情報を含む)を他の事業へゼロコストもしくは低コストで転用することによる経済性です。書籍のネット販売という生産要素を活かして、他のジャンルへ販売を拡張したAmazonは範囲の経済性を活かした代表例です。前述の二つの経済性は単一企業に於けるコストに係わるものですが、「連結の経済性」は、異なる企業間における経済性で、コスト面に加えシナジー効果やラーニング効果といったアウトプットにも経済性が生じます。情報・ノウハウを核に異なる企業が結合して、情報・ノウハウ・技術の共同利用等によって経済性を高めます。詳しくは三つの経済性とスマイルカーブをご覧下さい。

 

ソニーはエンターテイメント企業

意外に聞こえますが、ソニーは電子機器メーカーというよりもエンターテインメント企業になっています。

2019年度の決算を見ても、エンターテインメント事業(ゲーム、音楽、映画)の売上高と営業利益に占める割合は5割弱と中心的事業に育っています(注2)。エンターテインメント事業にはゲーム、音楽もありますがスパイダーマン・シリーズを代表として映画部門が気炎を吐いています。この意味からすれば1989年のコロンビア・ピクチャー買収は結果的には成功だったと位置付けられるでしょう。 

(注2)2019年度の連結売上は84,603億円、エンターテインメント事業のそれは38,393億円、連結の営業利益は9,176億円でエンターテインメント事業の営業利益は4,489億円となっていて、売上の45.4%、営業利益の48.9%を占めています。なお、事業間のシェアを見るために、ここでは売上と営業利益は「全社(共通)及び セグメント間取引消去」前の数字を使用しているため、決算上の数字とは異なっていることにご留意下さい。(出典:ソニーのホームページ)

こうした流れもあり、ソニーは米国のヘッジファンドから、半導体や金融(生保、銀行、損保等)部門の分離を求められているのです。そのヘッジファンドの要求根拠は、現状ではソニーの事業間の相乗効果が出にくく、このままではコングロマリットのディメリット、すなわちコングロマリット・ディスカウントが大きいということのようですが、この点を戦略的にどう捉えれば良いのかを今回は考察します。まずはこのコングロマリット・ディスカウントについて考察してみましょう。

 

コングロマリット・ディスカウント

 

コングロマリット・ディスカウント(Conglomerate Discount)とは下記注3に記載してあるとおりですが、要はいくつかの事業会社を所有している企業集団(コングロマリット)全体の市場価値が、各事業会社単体の企業価値の総和を下回っている状態を言います。

 

(注3) 多くの産業を抱える複合企業(コングロマリット)の企業価値が、各事業ごとの企業価値の合計よりも小さい状態のこと。多角化は業績変動を減らすなどの利点がある一方、事業の全体像や相乗効果が見えにくい場合は市場評価を下げやすい。(日経新聞きょうのことば、20181220)


コングロマリット・ディスカウントを図にした下図1をご覧下さい。ある企業集団
ZにはAからEまでの事業があるとして、左端の列にそれらを描いています。そして、各々の事業の一般的市場価値をその右隣りの棒グラフで表示しています。棒グラフ全体が、各々の事業の市場価値の合計になりますが、それを一般的市場価値と表記しているのは単体を独立企業と見立てて企業価値評価(注4)を客観的に行うということです。これに対して、企業集団全体としての市場価値が右側のZで表されるように「各事業の一般的市場価値」の合計を下回る場合、矢印で表記した分がコングロマリット・ディスカウントなのです。

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(注4)企業価値算出の手法にはいくつか考えられますが、20194月に電子書籍『ィスカウントキャッシュフロー入門: IFRSになっても使える/企業価値算定を中心に』を出版していますので、ディスカウントキャッシュフロー(Discounted Cash Flow)分析に関心のある方はご覧ください。

 

コングロマリット・ディスカウントの背景

 

コングロマリット・ディスカウントに関しては、これまでソフトバンクや東芝が代表例として挙げられていますが、私は日本の企業集団の多くに当て嵌まっているのではないかと懸念しいています。最近では、ソニーを始めNTTや日立も同様な指摘を受けています。一方で、コングロマリットの成功例としては、これまで米国のGEが良く挙げられていましたが、付言するとそのGEも最近では元気がありません。
このコングロマリット・ディスカウントが生じる一般的な背景としてはいくつかの点が指摘されています。

(1)組織の縦割りにより各事業会社が個別最適に走っている、

(2)収益の良い事業に業績を依存する結果、他事業の最適化を怠っている、

(3)事業間の相乗効果をグループとして追及していない、等です。
上記のうち①と②は、実は、経営環境と乖離した企業文化や価値観に深く根差している例が多く、現状の経営の延長線では、なかなか癒しがたい点です。あまりオープンではない企業文化に浸っていると、まず自身の置かれている状況を組織として認識出来ていないことが、本当にあるのです。これを改めるには解体的出直しが必要ですが、この状況に浸かってしまった経営陣による方向転換は難しく、そのきっかけは市場からの圧力や積み重なる業績不振による危機しか無いような気がしています。

 

コングロマリット・プレミアムを目指して

 

今回ソニーはファンドに追い詰められた部分もあるとは思いますが、主体的にコングロマリット・ディスカウントを解消しコングロマリット・プレミアムを目指す体制を取りました。すなわち、純粋持ち株会社を創設し企業グループ全体の企業価値最大化を図ろうとしています。報道によれば約20年前にも組織再編成の動きはあったものの実現しなかったそうです。
私はソニーの内部事情を全く知りませんが、これまでのビジネス経験から次のように推察しています。ソニーでは、祖業の流れを汲むエレクトロニクス事業が保守本流で、しかし、収益の柱になっているのが新参のソフトビジネスであるエンターテイメント事業です。加えてグループ内には、異業種の金融事業もあります。こうした体制ですと、企業文化的に一枚岩になるのは難しいのが一般的で、組織の縦割りが生じている虞も大きく、そうであればグループ視点でのシナジー創出は難しくなり、コングロマリット・ディスカウントが生じているのでしょう。正に前項の①から③のいずれか、もしくはすべての事象が生じている可能性があります。

 

三つの経済性

 

 この流れでソニーの問題を上述の「三つの経済性」で捉えると、切り口が明瞭になって来ます。
 エンターテインメント事業においては、大ヒットした映画のキャラクターをゲームに、その反対に大ヒットしたゲームのキャラクターを映画に活用出来ます。さらには、ゲーム・映画のキャラクターのグッズ販売も出来て、キャラクターという知財(IP)を複数の事業で共有するという範囲の経済性が大きく効いています。ついでながら、上記の大ヒットが規模の経済性を産み出していることは言うまでもなく、範囲の経済性と規模の経済性は相互に好影響をもたらしています。

ファンドはこのようなシナジーが半導体事業および金融事業との間には無いので、それらを売却せよと迫っているようですが、この要求に対しては「三つの経済性」で対抗して行くことが得策だと思います。

確かに、金融事業とは大きなシナジーを認められませんが、例えば、半導体事業とエンターテインメント事業には連結の経済性(注5)が望めそうです。と言うのは、ARVRを軸にソニーのもつセンシングデバイスとその技術をエンターテインメント事業に活かすことで両事業の相乗効果を期待できます。これこそが連結の経済性で、今ソニーが追及すべき方向性です。もちろんARVR企業との連携や垂直統合も前提になるでしょうが、そうなれば、それら企業との連結の経済性も取り込めます。ソニーの元役員の友人にこの話をしたところ、半導体はほぼスマートフォン向けなので、なかなか難しいとのことでしたが、ここはブレークスルーする必要があります。

ただし、こうした三つの経済性に関して極めて重要な留意点があります。それは三つの経済性はお互いに作用を及ぼし合っていて、どれか一つの経済性だけを追求しようとしても、なかなか叶わない経営環境になっていると言うことです。これに関してはブログ記事「エコシステム相互作用三つの経済性」で詳しく説明してありますが、日常ベースでは気付きにくいことでしょう。なお、この前提にはエコシステムの構築かそれへの参画がありますが、それには、オープンな企業文化が大前提です。今後、IoTが進展して行くと、そこには共創的エコシステムが活躍する膨大な数の舞台が用意されて行きます。当然多くの企業の命運はこの舞台の展開次第で揺れ動きます。この視点で、グループ全体の経営資源配分を全体戦略に沿って整合的に最適化しなければなりません。
この経済性の相互作用を追求する上でソニーにとって辛いのは、何といっても規模の経済性がものを言う金融ビジネスにおいて優位に立っていないことで、なおかつ他の事業とのシナジーを見出しにくいところです。とりわけ、資産を長期運用して行く保険事業は今後ネックになって行く虞があります。金融ビジネスに関して、Edyはグループシナジーを出し得た可能性もありますので、2009年におけるEdyの実質的売却は今となっては得策ではなかったかも知れません。

 

(注5)連結の経済性は、異なる企業間における経済性と注3で書いていますが、ソニーがコングロマリットであると考えて半導体事業とエンターテインメント事業を異なる企業とみなしています。ちなみに、ソニーはエンターテイメント分野等でマイクロソフトと提携しています。

 

三つの経済性を追求して行く延長線上にありますが、 これまでのフロービジネス中心の体制からストックビジネスの比重を増して行くことが必要です。この点、既にあるゲームビジネスはゲーム機をプラットフォームとしてゲーム関連売上を計上出来るビジネスモデルです。一方でエレクトリック事業は、ヒット商品の有無で収益が変動する、いわゆるボラティリティの高いフロービジネスです。ここで狙いたいのはアップルのように自社製品をプラットフォームとしたストックビジネス主体への転換で、そうすれば収益の安定に寄与しグループ強化へ繋がって行きます。この辺は是非アップルの戦略記事を参考にして下さい(アップルビジネスモデル転換)

この経済性を明確にして、それに沿った戦略や施策を展開して行けば、当該ファンド以外の投資家は、その価値を十分に理解し、その結果として株価も上がり、ファンドの気勢を削ぐことが出来るかもしれません。この「KikuzakaBlog」のフレームワークからは以上の方向性が指摘出来ます。

 

大敵は縦割り組織文化

 

さて、以上のように見て来ると、世界のソニーには相応の技術力やマーケティング力はあるとの前提で、持ち株会社ソニー・グループの今後の大敵は、あるとすれば縦割り組織文化でしょう。良い悪いは別として、洋の東西を問わず組織が出来れば自ずと境界線が生じます。コングロマリット・ディスカウントの背景として既に、

(1)組織の縦割りにより各事業会社が個別最適に走っている、

(2)収益の良い事業に業績を依存する結果、他事業の最適化を怠っている、

(3)事業間の相乗効果をグループとして追及していない、等です。

3点を指摘しましたが、これらのいずれか、もしくはすべてが発生していると今後の経営環境で共創的エコシステムを構築して行くことが難しくなります。これを克服し、さらには三つの経済性の相互作用を活用してコングロマリット・プレミアムを獲得して行くことこそがソニーに求められていることです。

いずれにせよ、コングロマリット・プレミアムを目指すには全事業を統合した戦略の実現が不可欠です。ただ、ここで見方を変えて考えると、純粋持株会社になれば、企業再構築のため子会社売却・整理するダイベスティチュア(divestiture)戦略も当然視野に入って来ると推察しています。

 

 付言すると、8年以上も前の記事「ソニーが台湾企業と提携」もついでに読まれていますが、この記事は当ブログの「スマイルカーブで読み解くシリーズ」で最初に書いた思い出深いものです。この提携がその後どのように展開しているかをフォローしていませんが、当該提携を素材にスマイルカーブと三つの経済性を応用するのに最適だと思料して書きましたが、それは現在のソニーにも当てはまります。

 

最後に今回のコロナ禍で社会に「新たなベクトル」が加わり、それは当然にして経営にも付加されるものですから、新体制の設計に当たっては経営次元を一つ追加しなければなりません。当ブログの「コロナ禍生物的危機」を参照して下さい。

 

 

 (他のスマイルカーブ関連のブログ記事はこちらです。)

 


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新型コロナウイルスの脅威は当初の予測を超えて瞬く間にグローバルな危機になりました。今回の世界的ウイルス感染危機は人命に関わる深刻なものですが、本記事では感染そのものに立ち入らず、それとは違う危機の虞(すなわちリスク)とそのインパクトについて書きたいと思います。そのウイルス感染が社会・経済・政府等へ与えるインパクトは大きく、かなり深刻な事態になると憂慮しています。

 

 

今回はグローバルな生物的危機

 

 先日あるテレビ番組の対談で、『ITバブル、リーマンショック、今回のコロナウイルスショックとある程度定期的に経済危機は来ますよ。』とのコメントがありました。タイミング的には、その通りですが、今回のリスクはリーマンショック等とは根本的に異なる点に注目しなければ本質を見失います。下図1のとおり、前回のリーマンショックは資本主義の内部から生じた金融危機でしたが、今回のパンデミック危機は言わば資本主義の外から、しかも自然界から、襲来したグローバルな生物的危機です。従って、各国は資本主義や自由主義を超えて国境・都市の封鎖、人の移動制約、店舗への休業要請等の「自由の一部制約」に踏み込み、さらには基本的な権利である教育をストップすることにまで及んでいます。そして、図1のとおり、経済的観点からすると総需要を大きく減少させる一方で供給力も毀損する極めて深刻な事態です。供給力に関してはピンと来ないかもしれませんが、一例を挙げれば毎日越境通勤のマレーシア人30万人を活用して来たシンガポールが、マレーシアによる国境封鎖により苦境に陥っているとの報道もあります。

リーマンショック時はまず需要が大きく落ち込んだのですが、今回は需要と供給が同時に大きく減少します。人命に関わることですから、一連の措置は止むを得ないのですが、この危機が、今後の世界を決めて行く一大要因になるとの予測が今回の趣旨です。図にすると従来の危機とは次元の違うことを実感出来ると思います。

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さらに言うと、今回の危機は今後の自由主義の変革にも繋がって行く可能性もあります。例えば、今回の措置で個人監視に対する国民意識の壁が低くなった可能性があります。もし、個人監視を行うとした場合でも、それに対しては、目的を感染症対策や医療・保健衛生等に限定しての監視権限を、治安機関から独立した公的医療・保健機関に付与すべきでしょう。また、国民は自分の情報を知る権利を当然にして持つべきです。そのようにして、政府が個人監視を行う権限を監視出来る仕組みの確立が一番です。

殆どの政府、社会、企業等にとって今回の事は真に想定外(注1)と言えます。それ故、各国ともパニックに陥ったかの如く、人の移動を制約し、店舗を休止し、国境を閉じました。今後、この危機がどのように終息して行くかは、まだ見えませんが、いずれにせよ今回の経験から、政府、社会、企業等の関係や枠組みが変わって行く可能性が大きくなって来ました。このことはグローバルベースで突き詰めると世界の秩序にも影響を及ぼす可能性もあります。また、自由主義圏内における「互助、協力」のベースもどの方向へ進んで行くのか予想が難しい状況です。

 

(注1) ただ、次の例のように想定をしていた機関はありました。

①米ジョンズ・ホプキンス大学は2018年に、呼吸器系に感染するRNAウイルスを最大の脅威に挙げて警鐘を鳴らしていました。出典:日本経済新聞社 202045日朝刊
②米国の疾病対策予防センター(CDC)
1年前に予行演習をして感染問題に取り組んでいたようですが、本番では検査キットにおける手違いでワークしませんでした。出典:202059日 NHK BS1 20時 「コロナ危機なぜ拡大?

 

 

世紀の大課題

:新たなベクトルと衝撃波的ショックの並行対処

 

前項の内容を言い換えますと、今回の危機を受けて、社会・経済・政府等に関わる意思決定変数の一番目に新型コロナウイルス関連政策が据わっていることが本質です。これは今後の社会・経済・政府等の構造や関係に、「新たなベクトル」が加わり、これまでのフレームワークが大きく変革することを示唆します。このベクトルとは、感染症対策も含めた人命を守る産業・政策・価値観を高めていく方向性で、それに沿えば、いわゆるパラダイムシフトが起きます。

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ただ、今回はそれに加えて、各国が同時に個人の行動を制約し①経済活動を低下させ、その結果として②巨額な財政支出を強いられるという「衝撃波的ショックがあり、この余波も短・中期的に尾を引く可能性が大きいのです。つまり、世界は下図2のように、「新たなベクトル」と「衝撃波的ショック」に同時並行で対応していなかなければならない世紀の大課題に直面して行くわけです。

これに対しては、社会(個人)・経済(企業)・政府等が一致して解決して行くことが強く求められます。例えば、財政危機に対しては、消費税の引上げ等の策を社会が甘受する必要も出て来るでしょうし、感染症対策の一環で新たな行動様式を受け入れる必要性もあります。また、危機対応の国策に沿って、企業が政府から規制、要請、命令等を受けることも想定されます。

 

 

当面のトレードオフ関係 :経済か社会か

 

 課題の一つの「新たなベクトル」に関しては、社会・経済・政府等の再構築の方向性の意見に大きな違いはないはずですが、「衝撃波的ショック」に関しては社会が先か経済が先かと言ったトレードオフ関係にある点には注意が必要です。つまり、経済も大事だとの主張をしばしば見かけますが、これは長期的には当然なのですが、とにかく当面の問題として感染問題を片付けなくてはいけないのが辛いところです。新薬、新ワクチンの開発には時間が掛かりますから、現存の承認済み医薬品で効果発現する薬を早期に見出し、検査体制を確立することが急務で、これが無いと以前の様な社会や経済に戻れません。この治療薬さえあれば人命を救えて今回のように自由を制約する必要性は大きく低下します。前述の財政危機に関しても、結局は経済成長で対応していく他はありません。まずは感染症に対する人々の恐怖を取り除き、経済を復興させることです。

 

 

巨大なシステミックリスク

 

 当面の世界主要国の企業業績が同時に大幅に悪化する事態は、金融で言う“システミックリスク”で、社会・経済・政府等に与える影響の大きさは計り知れません。もちろん、これまでも世界恐慌や世界大戦のような事態もありましたが、現在はグローバルサプライチェーンで有機的に繋がれた時代です。直列に繋がれた経済回路がそこら中で遮断される怖しさは火を見るより明らかです。この事態は、企業倒産や大量失業に続き不良債権を産み本当のシステミックリスクを惹起する虞も強いのです。繰り返しになりますが、企業業績の同時・大幅悪化は莫大な負の相乗効果があることを忘れてはなりません。

 

それでは、今回の危機によってこれから起こることを次の図3以下で見ていきましょう。今回の危機によって「経済の停止」が生じましたが、それに起因する事象群と、下部のボックス内にある「生物的危機」への対応事象群を図示しています。これら事象群に関しては、概ね前者が「衝撃波的ショック」に後者が「新しいベクトル」に対応しています。

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まず起きるのがキャッシュ不足

 

 キャッシュ不足はすでに顕在化しています。この事態に関連して、既に補助金や国民全員への現金配布が予定され巨額の財政支出が見込まれます。また、別項で説明しますがキャッシュ不足問題が悪化すれば企業淘汰・企業倒産の懸念が強くなります。

今回は人の活動や移動がグローバルに停止していて、消費活動は大きく低迷しますので、レジャー・飲食・小売関連企業等ではすぐにキャッシュ不足が広がりました。また、非正規も含めた雇用の減少となれば消費者の手元キャッシュも不足します。このように、足元のキャッシュ問題が真っ先に問題化することが今回の特徴です。意外に見落としがちなのは医療法人に対する資金的援助で、これが途絶えると医療エネルギーの損壊に繋がってしまいます。

前述した政府や地方政府による補助金付与等は飽くまで入り口段階の話で、今後の企業や個人の資金繰りに関して、金融機関に本腰を入れて対応する責務があります。これに係わる不良債権問題については後述しますが、今後の金融機関融資においては貸出先のフリーキャッシュフロー分析(注2)がより重要になって来ます。

実は、このキャッシュ不足問題が個人や企業ベースで話は止まれば良いのですが、これが新興国を中心とする国家財政のデフォルトに発展するとインパクトは何倍にも拡大されます。

このキャッシュ不足問題に付言しておくと、自粛期間やその余波が長く続けば続くほど問題は悪化します。それに対して財政措置を続けるならば巨額の財政支出になり、さらなる財政危機を招くことにもなります。その意味では、本年2月末に「1,2週間が極めて重要」で始まった政府の対応が、4月の緊急事態宣言に至るまで、政策の逐次投入になったことは、問題を悪化させています。逐次投入で時間が長くなればなるほど、家計や企業のキャッシュが枯渇し持たなくなってしまいます。企業経営でもそうですが、危機対応の際には、通常十分な情報は揃いません。そうした危機へ向けては、国家の周到な事前準備と胆力が必要とされます。

 

(注2)拙著「ディスカウントキャッシュフロー入門: IFRSになっても使える/企業価値算定を中心に」ご参照。

 

 

次第に顕在化する供給力不足

 

 至るところで、企業の操業がストップもしくはカットされましたので、供給力が当然にして毀損されています。さらには物流も世界で停滞していますので、サプライチェーンの大混乱が生じる虞が大きいのです。企業としても大きな不確実性に直面し、今後の投資は大収縮し、将来的にも供給体制がその分損なわれます。さらには、人的資源も供給力の源ですから、今回の危機で大量の雇用蒸発があると、それに見合っただけのノウハウ蒸発にも繋がり供給体制の収縮になります。現状、先物価格がマイナスを記録するほどダブついている石油ですが、万が一、中近東で感染症が拡がり油田地帯が封鎖されれば原油の産出が止まり石油の供給不足という事態も起き得ます。冒頭でも触れましが、通常の不況は需要が落ち込むのですが、今回はそれに加えて供給も同時に落ち込むところが極めて深刻な事態なのです。

こうして起きるのがモノ不足です。どうなるかと言うと、まず消費者のところに来なくなるモノや食料が出てくるのです。今回のマスク・殺菌剤等が店頭から消えた出来事は、原因は供給力不足ではありませんでしたが、人々の記憶に新しいところです。こうした事態に怯えて消費者が買い占めに走ると、事態はさらに悪化してしまいますので、消費者に自重を求める以外に、一時的な配給措置等の検討が必要かもしれません。

一方の企業に関しては、原材料、部品、必要な部材等が来なくなる、すなわち、サプライチェーンが途絶するリスクがあります。しかも、何時、何処でそれが起きるか想定が難しく、自社の供給体制を維持するのが難しくなるのです。一つの供給元から部品や原材料等が来ないと工業製品は製造出来ません。現に、医薬品の中には原料である原薬の輸入が滞ったことで出荷調整を余儀なくされていることもあるようです。

しばらくの間は生産がなくとも、実体経済には各段階(生産、卸、小売等)に在庫がありますので、それらがバッファーとなり供給力不足は遅れて顕在化しますし、そうした事態は散発的に起きる虞がありますので、その分注意が必要です。従って、国家レベルでも企業レベルでもコンティンジャンシー・プランの準備が必要ですし、企業は仕入れ先や販売先の多様化に着手することが求められるでしょう。後者に関しては次項で展開します。

 

 

変わるグローバルサプライチェーン

 

以上のことを受けて、経済面の喫緊の課題の一つは仕入れから販売までのサプライチェーンの大混乱への対応とその後の再構築になります。ただし、サプライチェーンの再構築には時間が掛かるため、この変化はゆっくりと進展して行きます。

さて、経済的コストを中心に考えてきたグローバルサプライチェーンは、生物的危機に直面し、これから変化して行かざるを得ません。一つの供給元がストップするとサプライチェーンが途絶すると言うのは本来的なグローバル体制ではなかったことになります。繰り返しですが、それはコストベースから考えたグローバルサプライチェーン体制だったわけです。今後、予想される動きは、一つは感染症リスクも含めたカントリーリスク分散の観点からのグローバルサプライチェーン再構築で、地産地消もこれに含まれます。もう一つはコア生産の国内回帰で、これはこのブログで一貫して主張して来た事です(注3)

企業経営の面からは事業継続プラン(BCP)が最重要ファクターに躍り出ます。BCPで求められていたのは調達面で言えば一次、二次以降も含めた調達先の状況把握ですが、正直な話、今回の危機を契機に「うちの会社は、こんなところから買っていたのか!」と気付く経営者も多いはずです。ここをしっかりと押さえていなかった企業は、手元の原材料在庫の減少とともに困難に直面することもあり得ます。BCPの教科書には社会リスクとして「感染症の蔓延」が記載されていますが、実際にこの蔓延リスクに備えている企業は多くないと考えています。

さて、サプライチェーン戦略は本来企業戦略の一部ですが、冒頭で示した「新たなベクトル」に沿って、サプライチェーン問題から企業は全体戦略の見直しを迫られます。この不確実性の極めて大きい局面においては、因習的な経営計画や戦略を立てても有用性は極めて低いと考えています。その際には、固定的な環境想定に基づいて経営計画や全体戦略を構築するのではなく、フィード・バックを組み込んだ立案が必須です。これに関してはブログ記事「これからの経営計画 ― フィード・フォワードからフィード・バックへ ―」を是非ご覧下さい。こうした波を乗り切れない企業は淘汰されて行くこともあり得ます。

 

(注3) サプライチェーンの途絶が主題ではありませんが、主張の一例は8年前の「海外生産移転で失うもの」で、興味のある方はご参照下さい。

 

 

産業・企業淘汰と再編成

 

 ここからは中長期的な話になりますが、前述のように世界的に経済が同時に停止し、主要企業の業績が同時に大幅に悪化するのですから、次に来るのが企業倒産、銀行の不良債権増加です。実体経済と金融の負の連鎖が生じるリスクで、あの「失われた20年」以上の事態が再来する可能性が大きいのです。今回は、銀行も政府も時間と資源の乏しい中で、どの産業もしくは企業を残すかの選択を迫られるかも知れません。国民も実感するように医療、薬品等の重要性は広く認知されるでしょうが、他の産業や企業の全てを救う事は難しいと思います。従って金融機関の融資は選別的になって来ますので、業界間の競争は厳しいものとなって来ると思われます。また、これまでスタートアップ企業には比較的円滑に資金が流れていましたが、ここでも選別の目が厳しくなることも考えられます。

そうは言っても、好むと好まざるに拘らず金融機関の不良債権問題が生じ、システミックリスクの発生する虞が大きくなります。これまでの異次元金融緩和環境で銀行等の金融仲介機能は弱っていますので、金融機関が本来の融資機能を強化することが急務です(金融仲介機能についてはブログ記事「銀行のスマイルカーブ(後編)」をご覧下さい)。こうした危機に際しての融資の本旨は、コロナ禍が無ければ健全であった企業の救済です。冷徹な見方ですが、このプロセスにおいて将来に禍根を残す虞があるのは、コロナ禍がなくとも元々破綻する状況だった企業までも救済対象になり、結果として不良債権が積み上げられて行くことです。

このようなプロセスを経て、産業・企業の淘汰と再編成が進展して行くことになりますから、こういう時こそ将来へ向けての国家の設計図が必要です。それには国際分業の視点も不可欠でしょうし、経過措置としての企業の国有化も含まれて来ます。今後の国家戦略に関しては、観点は異なりますが、ブログ記事「新たな国家戦略」が参考になるかも知れませんので、関心のある方はご参照下さい。

 

 

変わる雇用形態

 

 上記の様に産業や企業の淘汰、再編成があると当然にして雇用危機が懸念されます。ILOの報告によれば、『世界の労働人口の約38%にあたる125千万人がレイオフ(一時解雇)や給与削減のリスクに直面している。』との新聞報道(日本経済新聞社202048日朝刊)もありました。もしこうした大量失業が起きると、その過程で雇用の流動化がありますが、流動化の在り方は今までと異なるものになって来ると想定されます。例えば、データ解析能力を軸に2つ以上の非競合企業と雇用関係を結ぶ展開も出てきそうですし、今回かなりの企業が学習したテレワークが分野に応じて広く根付き、この面からも雇用形態が変わって行く可能性もあります。余談になますが、テレワークに関しては、これまで若手の言うことに懐疑的で聞く耳を持たなかった高齢者幹部も今回の事態を経験して、採用せざるを得ない企業もあるのではないでしょうか。

これからの雇用の軸としては個人と企業と言うより、職務遂行能力と企業の関係となって行く蓋然性が高いと思っていますし、そうなれば雇用の流動化は進み今回の様な危機への社会全体の対応力は向上します。この延長線として、長年言われ続けている、働き方改革が実現すると良いと思います。ここでは、雇用政策当局、企業、教育機関のみならず、個人の努力も大いに求められて行くでしょう。

 

 

再生可能エネルギーへの方向性

 

 社会構造や経済体制がどの様に変わっていくかを見通すのは簡単ではありませんが、間違いのない方向性の一つは再生可能エネルギーへ向けた再構築でしょう。新型コロナウイルスに限らず今後の感染症対策にとって欠かせない方向性で、前回のブログ記事「新型コロナウイルスの社会へのインパクト」の内容を一部再掲します。

「次の点を考えるとウイルスに関わるリスクは今後増大して行くと思えるからです。それらは、

コロナウイルスはSARS(2002)MERS(2012)、そして今回のウイルス(2019)と、最近では一定間隔で発生している事実、

気候変動に伴い、融解する永久凍土(ツンドラ)や氷から未知の古代ウイルスが地上に蘇るとの説があること、

気候変動により、ウイルス等を媒介する動物(例えばコウモリ)が移動し感染症が拡大するリスクのあること等、です。

はコロナウイルス発生の傾向を現すもので、はやや中長期的なものですが、今後状況が好転するより、悪化する要因であることは人類への警鐘だと捉えるべきでしょう。」

この警鐘は環境問題への本腰を入れた取組みを求めるものですし、とりわけ再生可能エネルギーへの道を強力に主張しています。ウイルスは自分で動くのではなく、環境変化や人・動物によって動くのです。 

 

 

備えあれば患いなし  医療先進国へ

 

 今回は国全体で油断がありました。幸い、SARSMERSともに日本は殆ど被害を受けなかったので新型コロナウイルスも同様ではとの甘い考えは広く存在したと思います。その点、韓国はSARSの被害を受けたので、その学習効果として体制を整備していたと伝えられています。実は、2009年から2010年にかけて日本でも大流行した新型インフルエンザをご記憶の読者もおられると思いますが、これは学習の好機でしたが備えを怠ったと言われても仕方がないでしょう。当時は、これまでの医療体制の延長では危機管理が出来ないとの意見も多く出ていましたが、大きな改善はありませんでした。

今後、国家として感染症を含めた医療先進国を目指し、その際には、政治に左右されにくい感染症対策・研究等の統治体制を確立することが求められます。今回の騒動でも専門家会議による警戒レベルの引上げの遅れがあり、後のゴタゴタに繋がりました。ここで感染症に話を限定すれば、今後に向けて不可欠なのは、将来の新たな感染症も含めて、治療薬、検査キット、ワクチンの迅速な提供が出来る体制です。今回の出来事では、あるメガファーマが中国で見せた遺伝子検査キットの素早い整備が際立っていました。

こうした体制確立のためにはオープンな体制が必要で各研究機関やメガファーマ等を有機的に統合・連携して行く必要があります。そうした官民医の連携体制があれば今回の対応の様に、遅れや単発的動き等を回避出来、内外に対し説得力のある政策を打ち出せて、社会的不安の解消にも繋がります。「新しいベクトル」に沿って日本にも米国の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and PreventionCDC)のような権限を付与された政府機関を設ける必要があります。これまでひたすら病院のベッド数削減を迫ってきた医療政策は、明らかに適切な軌道修正をしなければなりませんね。

付言すると、民間や個人ベースの感染を防ぐための継続した努力も医療先進国の重要な柱の一つとなります。その意味からすれば今回の危機で個人が学習した衛生観念は貴重な資産になるでしょう。

 

 

Divided Digital

 

今回図らずも露見したことは日本のデジタル総合力の弱さで、それは台湾等と比較しても明らかでした。個々の企業や機関では一応、デジタル化されているのが現状でしょう。しかし、デジタル総合力強化を目指す際には、書類・ファックス・ハンコ等アナログから完全には脱しきれない政府やオープン・イノベーションの不得手な日本企業にとって立ちはだかる壁は高く厚いのでしょう。しかしながら、学校も含めて、こうした文化に浸かったままで来てしまったことは、いまさら嘆いても致し方がありません。

この状況は、「Digital Divide」ではなく、縦割りの「Divided Digital」です。この問題点は構造的なものですが(注4)、とにかく、国家のベースをデジタルにおいて、今回の危機を梃子に改革を推進して行くことは必須です。そして、政府・企業・組織等の縦割り文化も変化させることが必要です。

このDigital関連で言えば、今回の教訓も踏まえて「医療現場のデジタル化」も展望する必要があります。5GIoTをも活用して医療従事者が患者と接触する回数を極小化するために「非接触看護」を実現したいものです。医療崩壊を防ぐ重要性を国全体で、いや世界全体で痛感しているのですから。また、東京都が下水に含まれる新型コロナウイルスの量から感染の実態を調べる調査を開始したとの報道がありますが、これなども5GIoTを活用し全国に拡げることも有用でしょう。

 

(注4)この構造的問題点を経済の面からアプローチしたのがブログ記事「日本経済の構造的問題点」です。長い記事ですが関心のある方はご覧下さい。

 

新たな法的整備

 

最後に、ここまで今回の危機によるインパクトを説明してきましたが、「新しいベクトル」のためには「一部自由の制約」を避けることは出来ないと考えています。個人の行動制約、国境封鎖、営業停止、企業への緊急業務命令、一部緊急の配給措置等の新たな法的整備が立法府や行政府の責務になって来ます。ただし、これは前述のとおり、感染症対策や医療・保健衛生等に限っての措置であることは踏み外せません。

 

本記事の締め括りに、全く観点の違う話に触れると、今回のコロナ禍で世界中が痛感したのは生物兵器の恐ろしさでしょう。この点からすると、本論考の対象外であった国防の概念や方向性も変わって来るかも知れません。

 

(他のスマイルカーブ関連のブログ記事はこちら)


 1ヶ月前には想像できなかった形で新型コロナウイルスに対して全世界が反応しています。人類にとって初めて大規模接触をする存在で、自分や家族等に伝染るかも知れないし、ワクチンも無く死亡者も出ていて、社会や医療機関も不馴れなので、人々の恐怖の的に簡単になってしまいます。この不確実性に対して世界中が過剰反応とも思える動きをしています。つまり、正しい恐怖が全く摑めない状況です。ですから感染を断つために可能な範囲で人とヒトとの接触を極小化する策が取られています。一部地域で拡がるエピデミック(epidemic)の状態から全世界ベースのパンデミック(pandemic)の状態への拡大を防ごうとする体制です。

●今後増大が懸念されるウイルスリスク

 こうして各国が過剰反応していることに根拠が無い訳ではありません。次の点を考えるとウイルスに関わるリスクは今後増大して行くと思えるからです。それらは、
①コロナウイルスはSARS(2002年)、MERS(2012年)、そして今回のウイルス(2019年)と、最近では一定間隔で発生している事実、
②気候変動に伴い、融解する永久凍土(ツンドラ)や氷から未知の古代ウイルスが地上に蘇るとの説があること(2018年12月15日AFP通信 温暖化で解ける永久凍土) 、
③気候変動により、ウイルス等を媒介する動物(例えばコウモリ)が移動し感染症が拡大するリスクのあること等、です。
①はコロナウイルス発生の傾向を現すもので、②と③はやや中長期的なものですが、今後状況が好転するより、悪化する要因であることは人類への警鐘だと捉えるべきでしょう。

●目指すべき医療先進国

 国家としては感染症を含めた医療先進国を目指し、その一環として政治に左右されにくい感染症対策・研究等の統治体制を確立することが求められます。今回の騒動でも専門委員会による警戒レベルの引上げの遅れがあり、後のゴタゴタに繋がりました。ここで感染症に話を限定すれば、今後に向けて不可欠なのは、検査キット、ワクチン、治療薬の迅速な提供が出来る体制です。今回の出来事では、あるメガファーマが中国で見せた遺伝子検査キットの素早い整備が際立っていました。現在の感染研中心の体制では今回の様な事が繰り返されるのは自明の理です。
こうした体制確立のためにはオープンな体制が必要で各研究機関やメガファーマ等を有機的に統合・連携して行く必要があります。こうした体制があれば今回の対応の様に、遅れや単発的動き等を回避出来、内外に対し説得力のある対応を打ち出せて、社会的不安の解消にも繋がります。これが人類のため、とりわけ自国民のためでもあるし、後述のとおり経済基盤の強化にも繋がります。
付言すると、民間や個人ベースの継続した感染を防ぐ努力も医療先進国の重要な柱の一つとなります。
さらに言うと先進国が協働して、検査・ワクチン・治療薬を一刻も早く完備すべきです。これらを完備しなければ今回の新型コロナウイルスの危機は終了しませんし、前項で指摘したように次の来襲も大いに懸念されますので、その意味から今後の政治や経済はここに力点を置いてまなじりを決して先進国が結束すべきです。その意味では早期にG5でもG7でも開催し動き出さなければなりません。

●企業戦略に本質的変更圧力

 一方で視点は企業へと変わりますが、今回の出来事が与えるグローバルなサプライチェーンへのインパクトは大きいと考えます。メーカーに6年間身を置いた立場からすると、従来の様に規模の経済性を追求する結果、例えば中国に、生産拠点や調達先を集中するリスクは極めて大きくなります。これからは生産拠点や調達先の国内回帰や国・地域分散を図る動きが出てくるでしょう。この意味では感染症対応の先進国にも生産や調達先が流入する蓋然性は高いでしょう。この機に、IoT(先進国製造業の未来参照)や3Dプリンタ等を活用して、地産地消が進められるでしょうし、企業ではこの体制にステージアップすることが急務です。正にBPR(Business Process Reーengineering:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が求められます。
こうしたことからメーカー等に於いてさえ、感染症の問題は単なる事業継続計画(Business Continuity Plan)の問題ではなく本質的な戦略変更を迫る存在になるでしょう。
このことは今回のコロナウイルスの発生源である中国にとっては極めて大きな負のインパクトになることを示しています。

ミクロレベルの考察

 切り口を変えて以下では今回の出来事をミクロレベルで考察してみましょう。一連の出来事が社会に大きな影響を与えていますが、それらを考える際には、ヒト・モノ・カネ・情報の切り口でひとまず整理すると分かりやすくなります。

●ヒト 人心の萎縮が懸念事項

 まずヒトに関してですが明らかに、外国からの観光客数は減少しています。さらには日本からの入国を制限する外国も現れて、旅行はもちろんビジネス等にも直接的もしくは間接的に悪影響が出てくる虞が大きい状況です。この影響をウエブ等を活用していかにミニマイズ出来るかがポイントでしょうがそれにも限度はあります。世界の工場である中国では権力で人の流れを抑えているので、中国の生産に支障を来しグローバルなサプライチェーンに悪影響を及ぼしかねません。
さらには国内ではイベント中止や教育を停めるという強硬措置も取られ人々の外出自粛に繋がっています。国民の3大義務の一つが停まる事態は重いと言わざるを得ません。
ヒトに関わる一番の影響は今後尾を引く虞のある人心の萎縮が全国各地に拡がることです。企業人であれば不確実性に対して投資等に消極的になりますし、消費者としても消費活動も低調になってしまいます。仮に、1億人の人が平均1万円消費を減らせば、それだけで1兆円の最終需要が減少します。日本の個人消費は凡そ300兆円超ですから、そのインパクトの大きさが分かるでしょう。さらに言えば、個人消費減の波及効果で総需要の減少はそれ以上に大きくなります。
ただし、今回の騒ぎにはメリットもあって、それは人々の衛生観念が大幅に向上し来年以降のインフルエンザ等の感染症予防に大いに役立つと期待出来ることです。欧州を襲ったペストの渦中にあっても、細心の注意を払った人々は命を落とさずにすんだ、と聞いたことがあります。また、感染した場合、職場を休み易くすることも今後の予防には貢献します。感染症対策は国だけでなく民間や個人ベースの継続した努力が不可欠です。

●カネ 金融仲介機能の発揮を

 次におカネですが、主要各国中央銀行による超金融緩和でマクロ的にはカネ不足の状況ではありません。しかし、個別企業レベルで見ると、例えば観光業でキャンセルが大規模に続出すると、資金繰り倒産の危険性が高まります。一企業が倒産するとそこからの入金を見込んでいた企業の資金繰りも苦しくなり連鎖倒産のリスクも高まります。この連鎖倒産が感染症と同じ位怖い存在なのです。そうした事態においては通常民間金融機関の出番となりますが、ここ暫くの間、金詰りの状況を経験していないため、民間金融機関で大量の後向き資金繰り案件を適切に捌けるかと言う懸念がありそうです。ここにも長期化した異次元金融緩和の弊害(ここでは金融仲介機能の低下)が示現するリスクがあります。

●モノ サプライチェーンの再構築を

 次にモノですが、ヒトの所でも触れたとおり、今回の事で広範囲にモノが滞ればグローバル経済におけるサプライチェーンが毀損する虞があります。これは経済を萎縮させ、企業収益や投資活動、雇用者所得が減少に向うリスクがあります。さらに今回の事件が、個人消費と言った最終需要を縮小させるだけで無く、生産や流通にも支障を来すようなことになれば、その影響度は大きく、経済復旧には時間が掛かってしまいます。前述の通り、企業経営ではBPRの考えでサプライチェーンを再構築する一方でBCPにおいてこの切り口を強化しなければなりません。
今回のマスクの様に一気に需要が沸騰すると、随所にボトルネックが発生し必要な所に資源が行き渡らなくなり、大小様々な障害が起きてきます。こと程左様に、消費財のみならず、原材料・部品等にボトルネックが発生するかも知れない危険性が潜んでいます。

●情報 正しい恐怖のためのツール

 情報に関しては世界の感染状況がリアルタイムに近く伝播されて状況を把握出来ますし、それに対する各国の反応を知ることが可能です。ただ、この感染状況が速いのか否か、どこまで拡大するのか、コロナウイルスの危険性が高いのか、といった一番知りたい情報は当然ながら伝わってきません。感染者が一人増える度に首長の会見を放送するのは不必要どころか社会的不安を煽るのではないかと感じています。重要な動きがない限り、必要な情報をイラストで説明すれば良いのではないでしょうか。報道管制は絶対にダメですし、少しリスクは孕みますが予定調和的な当局と報道のコラボが必要かも知れません。いずれにせよ、今回のような状況下では情報は正しい恐怖のために活用すべきです。例えば、台湾においてマスクの店頭在庫状況をリアルタイムで地図上に表示するシステムが展開されていることが報じられていました。これは、一部とは言え社会的不安の解消に貢献したと思われます。尤も、こうしたシステムを迅速に立ち上げるには、普段からの情報収集・蓄積・分析システムや他のシステムとの接続性といったものを確保しておかないと不可能です。モバイルの5GはIoT、AI、ロボットを束ねるインフラと考えています。日本の公的機関も本格的にIoT等に取り組む必要性が強いのです。
情報で留意すべきは、このような厳しい状態において、流言飛語を発する輩がいることです。愉快犯本人はスリルに満ち社会を騒がせ楽しいでしょうが、世間に与える悪影響は測り知れません。今回はトイレットペーパーに関してデマを流した者がいましたが、偽計業務妨害罪等で厳しく罰することが必須でしょう。

 2009年に新型インフルエンザが大問題になったことを記憶されている方も多いと思いますが、この時の経験や知見が今回の出来事に活かされている様には思えませんし、体制も整備されて来たとも言えません。今回は全世界が大騒ぎした分、その相互作用で各国の対策がエスカレーションしている様に思えます。そのために、感染症問題は国際的注目を浴びますので、ここまで考察して来た様に、今度こそパンデミックに対応出来る医療先進国を目指すべきでしょう。

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