2006年10月05日

A Distant Shore/Tracey Thorn

Tracey Thorn Solo

トレーシー・ソーン(Tracey Thorn)は62年ブルックマンズ・パーク生まれ、80年にクラスメイトのジーナ,ジェーン,アリスの4人で結成したグループ、マリン・ガールズ(Marine Girls)でデビュー、80年発表の1st「BEACH PARTY」と82年発表の2nd「LAZY WAYS」という2枚のアルバムを残して83年に解散しました。

その後、ご存知、エブリシング・バット・ザ・ガール(Evrything But The Girl)の歌姫として活躍することになるのですが、その前に発表した最初で最後のソロ・アルバムがこの「A Distant Shore(邦題:遠い渚)」です。

今ではお洒落なカフェなどでも定番BGMとして流れるほど有名なアルバムとなりましたが、当時の評価は今ほど良くはなく、一部の評論家筋から絶賛される程度のものでした。

このアルバムは基本的にトレーシーの歌とアコースティック・ギターだけで制作されており、とにかくナチュラルな透明感のあるイメージの作品です。

今思えば、パンク以降に生まれたニューウェーヴというムーブメントは、ある意味で、パンクの「歌が下手でも構わない」「楽器が下手でも構わない」というスタイルを引きずり、アイデア勝負で「ブラック」「ファンク」「ジャズ」「民族音楽」「クラシック」「レゲエ」「テクノ」「キャンディーポップ」などの要素を無作為に吸収し、大きく膨れ上がったものだという気がします(それがまた、面白いところでもあるわけなんですが・・・)。
つまり、装飾品が重要であった音楽なんだと思うわけです。

そんなニューウェーヴ・ムーブメントが動き出した頃に、まだ学生であった彼女が、いち早くボサ・ノヴァに着目し、ここまでシンプルな作品を発表したのは驚きです。

同じ頃、イギリスではウイークエンドやワーキング・ウイーク、フランスではアンテナなどが、同じくボサ・ノヴァやジャズの要素を盛り込みアルバムを制作していますが、この作品ほどシンプルなものは無かったように思います。

それもそのはず、なんと180ポンドという超低予算で制作されたということで、ゲストを招いたり、機械的な作業などする余裕がなかったのでしょう。
それがかえってこの作品の「飾らなさ」を生み、名作と呼ばれる一枚になったのですから、結果的には大成功ですね。

現在、日本ではネオアコ(ネオ・アコースティックの略で日本でのみ通用する言葉)というジャンルの中に入れられることが多いのですが、この作品は、ヘタクソでフォーキーな要素もあるものの充分良質なボサ・ノヴァであると言えます。

また、EBTGになってからの声質と比べてみると幾分線が細く、シンガーとしては完成される前のものではありますが、それ自体がこの作品の小気味の良い味となっているように思います。

これを書いていてふと気がついたのですが、EBTG結成までのトレーシーとベンの作品は随分「海」に関するキーワードが多いんです。
今作が「A Distant Shore」で、マリン・ガールズの「Marine」と、1stの「BEACH PARTY」、ベン・ワットのソロが「North Marine Drive」と、みごとに「海系」のキーワードで固められています。

日本で「海系」と言えば、サザン・オールスターズやTUBEなど、元気で汗を感じさせるものがほとんどであるのに対し、イギリスではこういった静かな「海」のイメージで想像されることが多いようですね(もちろん、元気なイメージのものもありますが・・・)。

4曲目のベルベット・アンダーグランド&ニコのカバー「Femme Fatale」も原曲とは違ったどこか哀愁を感じるアレンジですごく気持ちが良いです。

すでに、定番化した感のあるこのアルバムですが、未聴の方はぜひ一度聴いてもらいたいすばらしいアルバムです。
/BLマスター

uknw80 at 16:37│Comments(6)TrackBack(0) Everything But The Girl | ☆ネオアコ系バンド

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この記事へのコメント

2. Posted by Tamore   2006年10月11日 11:56
トレーシー・ソーンには、このスタイルであと2枚ぐらい録音してから、EBTGに行ってもらいたかったなあ、、、ってものすごい勝手な事言ってますが。
ベン・ワットの器用さが、どうにも苛立たしいのさ。「好きな人の好きな人は嫌いなタイプ」って感じです。
3. Posted by OZAKU   2006年10月11日 16:14
遅くなりましたが・・・。(笑)聞いてからコメントしようと思ってたら遅くなっちゃいました。

よけいなものをそぎ落としたシンプルなサウンドが逆に新鮮な1枚ですよね。普段はノリノリ、コテコテが好きな私ですが、たまにはこういうのもいいなあ。

トレイシーのクールなんだけど、ダルそうなヴォーカルが好きです。やっぱ一番は「Night And Day」ですね。昨夜ヘッドホォンで思いっきり浸って聞きました〜。(笑)
4. Posted by BLマスター   2006年10月11日 19:51
Tamoreさん、まいどです。
う〜ん、確かにこの手のシンプルな曲はもっと聴きたいですね。
このスタイルのアルバムなら、私も恐らくあと2枚くらいは買うと思います。
90年代の終わり頃のEBTGはハウス調で、何もあんた達がやんなくても・・・って感じでしたから、めげちゃいましたものね。
で、ベン・ワット、この頃はがんばってるんで許してあげて下さいよ〜(笑)。
5. Posted by BLマスター   2006年10月11日 19:59
OZAKUさん、まいどです。
多分、普段ノリノリや、コテコテの曲を聴いておられるからこそ、たまに聴く超あっさりが気持ちいいんですよ。
私も最近はエレクトロニカ系の曲を聴くことが多いので、久々に電子音から解放されて心が洗われるようでした。
たまにはアコースティックで脱力系の音を聴きたいですね。
う〜ん、ダルそうなのに爽やかです。
6. Posted by Tamore   2006年10月11日 23:24
>で、ベン・ワット、この頃はがんばってるんで
Meet Me In the Morningとか、Come On Homeとか、好きです。
ところで、トレイーシーは、ベン・ワットと引き合わされた学生時代、ヤング・マーブルジャイアンツやウィークエンドのアリソン・スタットンの大ファンだったそうです。と、ライナーに書いてありました。笑。確かに体臭的に「ダル」を身につけてるところは似てるかも。
「Femme Fatale」は、プロパガンダのも好きなんですよ。まあ、誰がやっても大抵好きなんですけど。
7. Posted by BLマスター   2006年10月12日 17:09
Tamoreさん、お返事ありがとうございます。
プロパガンダの「Femme Fatale」はZTTサンプラーに収録されてましたよね。
いきなり「ビフォ〜」から始まり鼓笛隊系のドラムが入るとこなんか、私も大好きです。

あと、トレーシーの「ダル」系の感じはまさしく似てますよね。
ヤング・マーブル・ジャイアンツ〜ウイークエンド、スタットンが抜けてからのザ・ジストなんかもこのあたりの流れを感じます。
どれも好きですが、やはりトレーシーの透明感のあるダルさ(?)が個人的には一番好きです。

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