2007年03月09日

Le Mystere Des Voix Bulgares

Le Mystere Des Voix Bulgares

[ Le Mystere Des Voix Bulgares ] と聞いてピンと来ない方もおられるでしょうが、日本では「ブルガリアン・ヴォイス」として知られているブルガリアの女性合唱団のことで、正式には「ブルガリア国立放送合唱団」という名前がついているそうです。

私がこの合唱団を知ったのは、80年代初頭にコーヒーのTVCMに使われた本作の1曲目に収録の「PILENTZE PEE(ピレンツェ・ピー)」という曲。(ちなみに、3、10曲目もCMに使われています。)

何とも形容のしがたい気持ちの良いハーモニーで「コオ〜オ〜ヒイ〜〜マア〜〜(コーヒー豆)」と空耳的に聴こえる一節が、強烈に頭の片隅に焼き付いてしまったのです。

この頃、クリネックス・ティッシュのTVCMに使われていた曲を含む「芸能山城組」のアルバムを彼女たちと勘違いして買ってしまったのですが、後に、芸能山城組が難解なブルガリアン・ヴォイスのハーモニーを解読し、それを意識して作ったものであることがわかりました。

次にブルガリアン・ヴォイスを聴いたのが、デヴィッド・シルヴィアンの「美しき予兆」というビデオの中で、シルヴィアンのポラロイド写真のコラージュを紹介しているバックに使われていたのです。

それから後、なぜか4ADレーベルから発売された輸入盤(ジャケットも違いますが中身は同じでした)の本作をようやく手に入れ、しばらくはブルガリアン・ヴォイスの気持ちのよさに浸り込みました。

彼女たちの素顔を知ったのは、さらにその後のこと、細野晴臣氏がこの合唱団を探しにブルガリアを訪れるという内容のNHKの番組があり、決して有名な人ではない普通のおばさんたちの合唱団がこのハーモニーを奏でていることを知り驚きを覚えたのです。

ブルガリアン・ヴォイスの魅力は、日本の民謡や演歌のコブシまわしにも似た東洋的な発声法と、賛美歌のような西洋の教会音楽にも通ずるコーラス、さらに、どこか中近東の音階のようなものも存在し、また牧歌的でもある、そんな不思議な響きにあると思います。

元々、地理的に東西文化の交差路に位置するブルガリアの伝統音楽には、スラブ、ラテン、ビザンチン、トルコなどのさまざまな音楽文化が入り交じっているそうで、独自のハーモニーを持っていたとのこと。

ブルガリアン・ヴォイスのハーモニーの基本は、最低でも3人が必要だそうで、主旋律とそれに並行した旋律、さらにそれらとは別に下の方で一本調子の旋律があり、これらが組み合わされない限り歌にならないそうです。

しかし、一本調子の旋律は時として主旋律、もしくは副旋律の音とぶつかり、不協和音を作ってしまいます。
楽典的に言えば、本来、不協和音は御法度ですが、モンゴルのホーミーやスコットランドのバグパイプもメロディーと別に一本調子の音(バグパイプではドローンといいます)が鳴っており、その不協和音により独特の印象に残るフレーズを生み出しています。

実はバグパイプに似た楽器(構造はほとんど同じ)は東ヨーロッパ各地に存在しており、その起源は、不協和音により空気を激しく振動させることによって農作物の成長を促進させるという西アジアの呪術的なものに源を発していると考えられているそうです。
雷の多い年は稲の穂がよく実るという言い伝えもこれと同じ理屈ですね。

ブルガリアの合唱法の起源も、同じく西アジアの音楽伝統からきたものだと考えられており、呪術的なものに源を発しているのではないかと考えられているようです。

そんなブルガリアン・ポリフォニーを、現在のようなブルガリアン・ヴォイスのかたちへと洗練させたのはフィリップ・クーテフ [ Philip Koutev ] というお方。

ブルガリア東部に生まれたフィリップ・クーテフは、ブルガリア国立アカデミーを卒業し、近代的な西欧音楽の作曲家として活動を始めたのですが、フィールド・ワークで民謡を収集するうちにそれらに魅了され、自身でも合唱用にアレンジをするようになったそうです。

そんな彼によって1952年に組織されたのが「ブルガリア国立放送合唱団」。
現在ではクーテフ亡き後を受け継いだドラ・フリストヴァの指揮の元、メンバーも入れ替わり(時には男声も入っています)ブルガリアン・ヴォイスとして知られています。

ブルガリアン・ヴォイスのプロモ的な映像
TV出演時のライヴ映像

本作『Le Mystere des Voix Bulgares』は、そんなブルガリアン・ヴォイスを世界的に広めるきっかけとなったフィリップ・クーテフ率いるブルガリア国立放送合唱団の第1作目です。

このアルバムの録音はマルセル・セリエというスイス人が15年以上の年月をかけてブルガリアで録ったものだそうで、音質的にはテープレコーダーのヒス・ノイズが混じるなど、決して良いとは言えませんが、これほど心を揺さぶられる響きは他にはありません。

これ以降もブルガリアン・ヴォイスとして『Le Mystere des Voix Bulgares, Vol. 2』『Le Mystere des Voix Bulgares, Vol. 3』(レコード会社、ジャケット違いも多数存在します)、中世の楽器だけで演奏するサル・バンドとのコラボ作品『神秘ブルガリアン・ヴォイスIV』、元UKのエディー・ジョブソンのプロデュースによる『Voices of Life』などの作品を発表し、ケイト・ブッシュの『The Sensual World』『The Red Shoes』やCobaの『Boy』、姫神の『風の伝説 』など、数多くのアーチストの作品にもゲスト参加していますが、とりあえずは本作を聴いてみて下さい。

できれば、可聴範囲を超えた周波数を聴くことができるという、生でのライヴを聴いてみたいところですが、本作でも充分にその独特の「響き」を感じ取っていただけるはずです。

アマゾンで5曲目までは試聴可能ですので、ぜひ1曲目だけでも聴いてみて下さい。
/BLマスター


追記:
ブルガリアン・ヴォイスのハーモニーについて非常に詳しく説明されたホームページがありました。

ブルガリア関係勝手にリンク

関心を持たれた方は読んでみて下さい。タメになりますよ。

uknw80 at 17:59│Comments(2)TrackBack(1)この記事をクリップ!☆その他の国のニューウェーヴ 

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1. バグパイプのこと  [ バグパイプ@Web ]   2007年05月28日 14:25
バグパイプのことや、関連する情報を紹介しています。

この記事へのコメント

1. Posted by Jun   2007年03月19日 18:23
ご無沙汰してます。
こちらの記事、参考になります!ありがとうございました。
2. Posted by BLマスター   2007年03月19日 23:16
Junさん、まいどです。
こちらこそご無沙汰してしまって申し訳ありません。
お役に立てたようで嬉しく思います。
これからもお役に立てる記事をめざしてがんばりますので、よろしくお願い致します。

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