2007年07月05日

Mister Heartbreak/Laurie Anderson

Mister Heartbreak/Laurie Anderson

今日紹介するローリー・アンダーソン [ Laurie Anderson ] は、アメリカのアーチスト。
元ヴェルヴェット・アンダーグランドのルー・リード [ Lou Reed ] の現奥方としても知られていますね(1998年結婚)。

1947年シカゴに生まれ、幼い頃からクラシックのバイオリンを学び、一時はシカゴ・ユース・シンフォニー・オーケストラのメンバーを務めたこともあるそうです。
その後、1966年になってニューヨークに移住、本格的に美術史と彫刻を学び学士号を取得、数年間の美術教師をやっていたとか。

72年頃から、現代音楽に属する、少々小難しい感じのパフォーマンス活動を開始し、81年の1stアルバム『Big Science』に収録された「O Superman」で全英チャート2位となる大ヒット、一躍有名になりました。

「O Superman」のプロモ映像

この曲がチャートの2位なんて…と思うような不思議な曲ですが、当時のテクノロジーの中で生起する愛と死について歌う意味深な歌詞を持つ曲で、イギリスでヒットしたのもわかるような気がします。

彼女は、どちらかというとミュージシャンではなく、演劇的なアプローチでアーティスティックなショーを楽しませてくれるマルチな芸術家です。
しかも、決して小難しい”お芸術”ではなく、ユーモアと笑いを含んだ、観ても聴いてもワクワクさせてくれる非常にわかりやすい芸術なのです。

絵画に置き換えて言うなら、絵に興味がない方が見てもわかりやすく面白い「エッシャーのだまし絵」に似ているところがあるように思います。

現代音楽的に言えば、わかりやすいという意味で、ジョン・ケイジやフィリップ・グラスなどと全く正反対に位置するエンターテイメント性の高いアーティスティックな音楽です。

私は、過去に二度、彼女のステージを見ているのですが、ステージに仕込まれた様々な仕掛けとパフォーマンスに魅了され、あっという間の2時間を過ごした記憶が残っています。

ステージの後ろにある巨大なスクリーンの映像とシンクロしたライヴという発想も、当時としては非常に斬新なスタイルだったのですが、他にも曲ごとに様々な仕掛けが用意されていました。

例えば、ローリーの演奏するバイオリンをよく見てみると、ボディーにテープ・デッキの再生ヘッドが付いていて、弓は馬の尻尾の毛ではなく磁気テープを張ったもの、そこに「YES」という言葉が収録されていれば、テープを逆さに”弾く”ことで「SAY」、「NO」は「ONE」へと変化します。
もちろん、テープを動かす速度をゆっくりにすれば悪魔のような低い声で、早く動かせばヘリウム・ガスを吸ったときのようなハイトーンで再生されるというわけです。

他にも、ローリーの着用する白いスーツの袖や胸、足などに、ドラム・マシンのパッド部分がバラバラに仕掛けられており、ダンスをしながら各所を叩くことで、リズムを奏でるというパフォーマスンスも見せてくれました。

また、時には奇妙なマスクを全員が被ってのパフォーマンスや、ステージの上から電話の受話器だけが降りて来て、これをマイク代わりに使ったり、大きなレンズを持ってどでかい顔で歌ったり、演奏者全員にビッグサイズの楽器とビッグサイズのYシャツが用意され、子供がはしゃいでいるように演奏したり、口の中にマイクを仕込み、頭蓋骨をコツコツ叩いてみたり、ネクタイに仕掛けられた鍵盤で曲を演奏したり、クイズ・コーナーのような楽曲があったりと、とにかくバラエティーに富んだステージングで一時たりとも目が離せませんでした。

『Home Of The Brave』のダイジェスト映像を使った「Language is a Virus」のプロモ映像
「Smoke Rings」のライヴ映像

曲と曲の間のMC一つをとってみても、ローリーの声がハーモナイザーを使って野太い男の声のように加工されており、後ろの巨大スクリーンの映像や字幕とシンクロするといった凝りようで、ありがちなロック・バンドのライヴとはひと味もふた味も違っていました。

TV番組出演時のハーモナイザーを使ったトーク映像

もし、今、このライヴがこのままの状態で行われたとしても興味深く観ることができると思います。

これぞ、まさしくニューウェーヴのお手本とも言える一つの形ですね。


今日紹介する『Mister Heartbreak』は84年に発表された彼女の2ndアルバムで、二度の来日公演は本作からの曲が主に演奏されていました。

プロデュースは曲によって、ビル・ラズウェル [ Bill Laswell ] 、ローマ・バラン [ Roma Baron ] 、ピーター・ガブリエル [ Peter Gabriel ] が、ローリーと共同で担当しており、キング・クリムゾンやデヴィッド・ボウイの作品でおなじみの変態ギタリスト、エイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] 、坂本龍一のツアーやトーキング・ヘッズの作品で異彩を放つ変態パーカッショニスト、デヴィッド・ヴァン・ティーゲム [ David Van Theghem ] の他、ゴールデン・パロミノスのアントン・フィア [ Anton Fier ] 、ピーター・ガブリエル、ビル・ラズウェル、ナイル・ロジャース [ Nile Rodgers ] など超豪華な顔ぶれで制作されています。

しかも、最後の曲「Sharky's Night」には、なんと『裸のランチ』で知られる前衛小説家、ウィリアム・バロウズ [ William S. Burroughs ] が朗読でゲスト参加までしているのです。

ちなみに、アメリカ本国でのライヴでは、私の大好きな変態ギタリスト、エイドリアン・ブリューやウィリアム・バロウズなども参加してたようですが、残念ながら、来日公演では二度とも彼らの参加はありませんでした。
とはいえ、二度とも変態パーカッショニスト、デヴィッド・ヴァン・ティーゲムの天才的なパフォーマンスが観れただけでも感動だったのですが・・・。

私にとっては、そんな二度のライヴのせいか、本作がローリー・アンダーソンの最高傑作に位置づけられており、楽曲、参加アーチストなどの点でも思い入れの深い作品となっています。

また、日本語で歌われる「KOKOKU」というオリエンタルな曲も収録されており、よくある西洋人の誤解を含んだ日本の感覚でないところも、うれしいところです。


しかし、基本的に、彼女の作品はすべて歌を聴くという目的のために存在しません。

彼女自身も、メロディーを重要視するような作り方はしておらず、どの曲も詩の朗読のような歌(ラップではありません)に、女性コーラスの印象的なメロディーが断片的に付いている程度。

曲の構成に目を向けてみても「イントロ〜Aメロ〜Bメロ〜サビ〜間奏〜」といったわかりやすい構成ではなく、ほとんどシンクラヴィアで制作された1本調子なバッキングの上に個性的なアーチストの演奏が被さることによってメリハリが付けられています。

そう言う意味では、特に、エイドリアン・ブリューとデヴィッド・ヴァン・ティーゲムが大活躍しているので、この二人による演奏を聴くだけでも損はないでしょう。

「Sharkey's Day」のプロモ映像
(↑ブリューとデヴィッドのファンの方はこの曲は必聴です)
「Excellent Birds:featuring Peter Gabriel」のプロモ映像
(↑ピーター・ガブリエルのファンの方はこの曲が必聴です)

もちろん、彼らの演奏を含めたすべてが、わかりやすくもアート性の高いローリー・アンダーソン作品の一要素なのですが・・・。


恐らく、一度通して聴けば、その不思議な魅力に、アートに興味のない方でも魅了されてしまうのではないでしょうか。

できれば、本作と合わせて、ビデオ作品(ライヴ・ビデオ)の『HOME OF THE BRAVE』をご覧いただきたいところですが、残念ながらDVD化はまだのようで、ビデオは品切れとなっていました。

2000年に発表されたベスト盤『Talk Normal: The Laurie Anderson Anthology』をお聴きになるのも決して悪くはないと思いますが、本作『Mister Heartbreak』を1枚通してお聴きいただくだけでも、私の言う「わかりやすいアート性」を充分にご理解いただけると思います。

既存のロックやポップスとは感覚が違いますが、エイドリアン・ブリュー、デヴィッド・ヴァン・ティーゲム、ピーター・ガブリエル、ローマ・バラン、ウィリアム・バロウズあたりに興味をお持ちの方には特に自信を持っておすすめします。

とりあえずは、アマゾンでの試聴とYouTube映像をご覧になって下さい。

きっと新しい発見が出来ると思いますよ。
/BLマスター

追記:
ローリー・アンダーソンのオフィシャル・ウェブサイトではトップページを開いて放っておくだけで次々に彼女の曲が流れます。(流れる曲はランダムに選曲されます。)
ちょっとしたローリー・アンダーソン専門のジューク・ボックス感覚ですよ。

ぜひ、こちらも覗いてみて下さい。
 ↓
Laurie Anderson Official Website

uknw80 at 18:34│Comments(10)TrackBack(0)☆米国のニューウェーヴ 

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この記事へのコメント

1. Posted by TY   2007年07月06日 02:02
僕もライヴ行きましたよ。『Home Of The Brave』の映像もこの間DVDに落としたばかりでした。
デヴィッド・ヴァン・ティーゲムの単独ライヴも、INK STICK芝浦に観に行きましたね。丁度プライヴェート・ミュージックから二枚目のソロ・アルバムを出した時です。その後NYでも、ピーター・ゴードンとのラヴ・オブ・ライフ・オーケストラの再編ライヴというのも観ましたよ。
2. Posted by かづ   2007年07月07日 16:07
このアルバム大好きでした。
来日公演は行けなかったんですよ。
悔しい、残念。
でも映画は観に行きました。
タイトルは『0&1』だったかな!?
あの映画と『HOME OF THE BRAVE』は別物なんですか?
あの映画のDVD欲しいんですけど、DVD化されてないですよね!?
3. Posted by BLマスター   2007年07月07日 23:36
TYさん、まいどです。
私も先日、やっと『Home Of The Brave』をDVDに落としたとこなんですよ(笑)。

ところで、デヴィッド・ヴァン・ティーゲムのライヴは確か、東京だけでしたよね。
大阪住まいの私は、かなり悔しい思いをしたのを覚えています。
いつもながら関東の方が羨ましいです。

でも、もちろん、ソロ2作は持っていますよ。
なぜか、両方ともLPレコードなんですが・・・(笑)。
4. Posted by BLマスター   2007年07月07日 23:44
かづさん、まいどです。
うっ、逆に『0&1』という映画を知らないです(恥)。
ローリーの奇妙な輸入物のビデオは何本か持っているのですが・・・。
しかし、タイトルが違う以上、中身は違うと思いますよ。
『HOME OF THE BRAVE』は完全にライヴ・ステージの映像です。

で、アマゾンでLaurie Andersonと検索した限りでは『0&1』という映画は見つかりませんでした。
私も見てみたいです。
5. Posted by かづ   2007年07月10日 20:14
わかりました!
昔、映画館で買ったパンフレットを引っ張り出しました。
『HOME OF THE BRAVE』を日本で劇場公開した時の邦題が『ローリー・アンダーソン 0&1』です。
そのうち私のブログでパンフレットの画像をUPしますね。
6. Posted by F-ROCK   2007年07月10日 22:29
はじめまして♪

布袋寅泰の影響でニューウェイブにどっぷりハマってしまってる30代オトコです(笑)

いつもROMってましたが初の書き込みをさせていただきました☆

というのも“O Superman”という曲、
1997年〜98年頃にデヴィッド・ボウイがライブでレパートリーとしていた曲なんです!!

オリジナルは誰なんだろうと思ってたんですが、
やっとその謎が解けました☆☆☆

しかもルー・リードの奥さんだったとは!!
ボウイとルー・リードの関係は言わずもがなですもんね〜!!

これからもいろいろと紹介してくださいね!
楽しみにしてます♪
7. Posted by BLマスター   2007年07月10日 22:31
かづさん、ご連絡ありがとうございます。
なるほど、そうだったんですか。
私の持っている『HOME OF THE BRAVE』は、輸入盤、日本盤(字幕入り)とも『HOME OF THE BRAVE』というタイトルですので、それは知りませんでした。
ということは、フィルム・ライヴ状態ですが、すでにローリーのライヴはご覧になっているわけですね。
メンバーは多少違いますが、ほんとにあのまんまのライヴでしたから…。
大阪では、鳴り止まないアンコールの声に答えて(予定になかったようで)、客電が点いてからローリーが一人で登場し、バイオリンをギターのように使って弾き語りを聴かせてくれましたよ。
私の中では歴史に残るすばらしいライヴでした。
8. Posted by BLマスター   2007年07月10日 22:39
F-ROCKさん、初めまして。
コメントありがとうございます。
あらら〜、そうだったんですか。
ちょうど、その頃のボウイのライヴは見逃していましたので、面白い情報を知ることができました。
ありがとうございます。

ぜひ「O Superman」のボウイ版も聴いてみたいですね。
もし、オフィシャルの音源で、この曲が収録されているものをご存知でしたら教えてくださると嬉しいです。
9. Posted by F-ROCK   2007年07月13日 17:50
ボウイの「O Superman」に関しては
実はブートレグ版でしか聴いたことがありません…
オフィシャルなものはおそらくないと思います。

ボウイはオフィシャルなライブ音源が
キャリアの割りに少ないんですよねぇ…

一応“ボウイの”と書きましたが、
実はメインで歌っているのはボウイバンドの女性ベーシスト、
ゲイル・アン・ドーシーです。
ボウイはむしろコーラスって感じ!?です(笑)

私がやってるブログに
「O Superman」の音源アップしましたので、
よければ聴いてみてください♪
10. Posted by BLマスター   2007年07月14日 21:15
F-ROCKさん、まいどです。
あらら、やっぱりオフィシャルには収録されていないのですね。残念です。
ゲイルというのは、あの、スキンヘッズの女性ベーシストですね。
それは、ぜひ聴いてみたいです。
早速、今からお邪魔しますね。
情報ありがとうございました。

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