2008年08月30日

The Jazz Defektors/The Jazz Defektors

The Jazz Defektors

今日紹介するのは1987年発表のジャズ・ディフェクターズ [ The Jazz Defektors ] 唯一のフル・アルバム『The Jazz Defektors』です。

彼らはたった1枚のアルバムしか残しておらず、また、音源の権利の問題でしばらく再発売されることもなかったため、本作はしばらく知る人ぞ知るレアなコレクターズ・アイテムと化していたのですが、ようやく一昨年、別バージョンが一曲追加され、新たにリマスタリングが施されたリイシュー盤が発売されました。

個人的には、レアな初回盤を持っていることがちょっとした自慢だっただけに複雑な心境ですが、おかげで本作を紹介する機会を得たわけですから良しとしましょう(笑)。

本作は、ジャズ系のニューウェイヴというより、サンバ、マンボ、スウィングなどの要素を巧みに取り込んだ「踊れるニュー・ジャズ」と言った方がしっくりくるのかも知れません。
「踊れる」ということに焦点を絞っているものの、当時チャートをにぎわしていたポップスのようなディスコライクなリズムではありませんし、シンセサイザーやシモンズなどの電子楽器も生楽器の代用品程度にしか使っていませんからね。

しかし、これが実にかっこいいんです。
いや、シブいと言った方がいいのでしょうか。

とにかく通ウケのするサウンドで、今聴いても全く古くささがありません。

黒人が歌っているのにも関わらずアメリカっぽい黒さを感じませんし、ベースがジャズだというのにテクニック志向のいやらしさも感じません。

言ってみれば、ジャズとポップスを絶妙なバランスで配合し、(一周まわって新しい)踊れるアレンジを施した大人向けのシブいサウンドなんですよね。

本作のミキシングを担当しているのは、なんとスタイル・カウンシル [ The Style Council ] のポール・ウェラー [ Paul Weller ] とミック・タルボット [ Mick Talbot ] 。
噂によれば、2人はかなり深い所まで関与したそうなので、実質スタイル・カウンシルのプロデュース作品と言っても過言ではないんだとか。
いや〜、さすがです。

須永辰緒氏が「アシッド・ジャズ前夜に突如現れたモンスター・アルバム」と大絶賛したのもうなずけます。


さて、ここで彼らのプロフィールを紹介するとしましょう。

時は1970年代の半ば、マンチェスターのクラブ「ラフターズ」では毎週15分間だけジャズのレコードを回すトーナメントの時間があったそうです。
もちろん、この当時にアシッド・ジャズなどのクラブ系ジャズはまだ存在しませんから、リー・モーガンやアート・ブレイキーあたりのいわゆる本物のジャズ(笑)で20歳にもならない若者が踊っていたわけですね。

この15分間のジャズ・トーナメントは噂を呼び、いつしか90分に拡大。
このことがきっかけで、若いDJたちは、50年代、60年代にまでさかのぼってジャズを研究するようになり、同時にダンサーたちもお気に入りの曲に合わせた思い思いのスタイルでステップが踏めるようになったそうです。

後にジャズ・ディフェクターズを結成する”スワプス”ことマーク・スワビー [ Mark Paul Swaby ] 、”PC”ことポール・カミングス [ Paul Cummings ] 、”ソルツ”ことアンドリュー・アンダーソン [ Andrew Anderson ] 、”ウィルキンス”ことバリントン・ウィルクス [ Barrington Wilks ] の4人は、そんな中で多感な時期を過ごし、DJたちと共にジャズのリズムを、そしてジャズのステップを学んでいます。

しかし、80年代に入ると新しいディスコ・サウンドが全盛となり、ジャズ好きな若者たちは「フィーヴァーズ」というクラブに場所を移して、火曜日の夜に集まるようになったんだとか。

そこへ現れたのが白人ファンク・グループ、ア・サーティン・レシオ [ A Certain Ratio ] の面々。
彼らは、「フィーヴァーズ」でたまたま目にしたジャズ・ディフェクターズのダンスを気に入り、ロンドンのゲイ・クラブ「ヘヴン」でのライヴに出演の際、一緒に出演してくれないかと誘ったのです。

このライヴの出演がきっかけで、その後、スペシャルズ [ The Specials ] の「What I Like Most About You Is Your Girlfriend」などのプロモーション・ビデオの仕事が彼らの元に舞い込むようになり、徐々に知名度を上げていきます。

The Specials「What I Like Most About You Is Your Girlfriend」のプロモ映像

しかし、ここまでのジャズ・ディフェクターズはあくまでもダンス・グループ。

彼らはこの後、サーティン・レシオから分家したカリーマ [ Kalima ] のライヴでダンサーとしてだけでなく、バック・コーラスをも努めることになったのです。

さらに、たまたまこのライヴを観に来ていたのが、セックス・ピストルズ [ Sex Pistols ] の映画『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』で知られる監督ジュリアン・テンプル [ Julien Temple ] 。
このステージを観てジャズ・ディフェクターズを気に入ったジュリアンは、当時製作に取りかかっていたコリン・マッキネスの50年代の小説『Absolute Beginners(邦題:ビギナーズ)』の映画化に際して彼らの起用を決定。

ちなみに『ビギナーズ』はデヴィッド・ボウイ [ David Bowie ] シャーデー [ Sade ] 、キンクス [ Kinks ] のレイ・デイヴィス [ Ray Davies ] 、エイス・ワンダー [ Eighth Wonder ] のパッツィ・ケンジット [ Patsy Kensit ] などが出演した当時としては珍しいミュージカル映画で、それまでじわじわと盛り上がりかけていたジャズ・ブームを一気にメジャーなものへ持ち上げた立役者的存在です。

『ビギナーズ』のサントラはこちら→『Absolute Beginners
(注:サントラにジャズ・ディフェクターズの曲は収録されていません)

映画の中でジャズ・ディフェクターズは、脇役のダンサー役での出演だったのですが、少ない登場シーンでその実力と存在感を見せつけ、86年に『ビギナーズ』のプロモーションのために来日、そのついでに渋谷のクラブでダンス・ショーに出演し、流行に敏感な若者たちに大好評を得ています。

その後、ダンス・グループとしての活動に限界を感じ始め、バンドを組むというアイデアを温めていた時に舞い込んだ仕事が、シャーデーのツアーのサポート(いわゆる前座、もしくはオープニング・アクトですね)。

早速、4人は楽器の演奏が出来る友人たちを集め、オリジナルを4曲作成、10人編成のバンドとしてステージに立ったのです。

実はこのステージ、ツアーに同行したわけではなく、ツアー初日のマンチェスター公演のみの出演だったらしいのですが、それでも彼らにとっては大きな一歩だったことでしょう。

翌年には「JD'S Club Circuit in Japan '87」と題したツアーで本作を引っさげて再び来日を果たし、札幌、大阪、名古屋、東京の四都市で堂々たるステージ・パフォーマンスを見せてくれました。

↓ 1987/10/20 INK STICK芝浦FACTORY LIVEの映像
「Life(Part2)/Invisible You」のライヴ映像
「Ooh! This Feeling」のライヴ映像
「Another Star」のライヴ映像

余談ですが、私の実姉は、この時の大阪公演を観に行っておりまして、セピア・トーンでまとめられた、まるでどこかのファッションブランドのカタログのようなツアーパンフレットが、なぜか今、私の手元にあります(笑)。
外タレとしては比較的小さなハコをまわるツアーのはずなんですが、意外にしっかりしたパンフレットが制作されていることに今更ながら驚いてしまいます。
ま、これもバブルの産物なのかも知れませんね(笑)。


しかし、この後、彼らは方向性の違いから2つに分裂し、共に活動場所を失ってしまいます。

残念ながら、これ以降の彼らの足取りはつかめていませんが、唯一、ドラムのマイク・ローレンス [ Mike Lawrence ] に関しては下記のスウィング・アウト・シスター [ Swing Out Sister ] のビデオ・クリップで発見することが出来ました。

Swing Out Sister「La La (Means I Love You)」のプロモ映像

もう少し10人編成で頑張っていれば間違いなく大スターになっていたはずでしょうにもったいない話です。

とはいえ、本作のような名盤が今になってリイシューされたのは嬉しいことです。

彼等のファンだった方はもちろんのこと、スタイル・カウンシルシャーデートーマス・ラング、そして、リー・モーガンやアート・ブレイキーあたりがお好きな方には超おすすめです。

興味を持たれた方はぜひ手に入れて下さい。
後悔はさせませんよ。
/BLマスター

uknw80 at 22:52│Comments(0)TrackBack(0) ☆英国のその他のアーチスト | The Style Council

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