2008年12月31日

Beauty Stab/ABC☆

Beauty Stab/ABC☆

ABCのデビューアルバム『The Lexicon Of Love(邦題:ルック・オブ・ラヴ)』(1982年発表)は、個人的に80年代のアルバムの中でベストテン入りするほどの名盤でした。

『The Lexicon Of Love』をフルでお聴きになっておられない方からすれば、大ヒットしたシングル「The Look Of Love」の印象が強く、少々ミーハーなイメージを持っておられる方もおられるかも知れませんが、当時最先端の電子楽器を使って一曲ごとに丁寧に作り込まれた、どれをシングルカットしてもおかしくないファンキーかつゴージャスな音作りと、それらをコンセプチュアル・アルバムのようにまとめ上げた見事なまでの編集技術はお世辞抜きにすばらしいと思います。

トレヴァー・ホーン [ Torevor Horn ] の斬新なプロデュース、アン・ダッドレー [ Anne Dudley ] のゴージャスなオーケストラ・アレンジ、ニック・プリタス [ Nick Plytas ] のイカしたキーボードのおかげと言えばそれまでですが、当時、新人だったマーティン・フライ [ Martin Fry ] の並外れた才能をしっかり感じ取ることができる、まさしく80年代を代表するポップスの名盤の1枚と言えるでしょう。

今日紹介するアルバム『Beauty Stab(邦題:ビューティー・スタッブ)』は、そんなデビュー・アルバム『The Lexicon Of Love』発表の翌年に発表された2ndアルバムで、前作のストリングスをフィーチャーしたゴージャスなファンク・ロックから大幅に方向転換し、ソリッドなギターが際立つロックテイストたっぷりの作品です。

とはいえ、いわゆるロックなアルバムではなく、70年代のアート・ロック的な意味合いのロックで、前作に比べればギターが前面に出てはいるものの、電子楽器を使用していないというわけではありません。

重くクラシカルなストリングスをバックに歌い上げる「By Default by Design」あたりで微かに前作のイメージが残っているものの、シングル第一弾となったパワフルな「That was then but this is now(邦題:そして今は…)」や、8ビートのリズムから突然3拍子に変化するギミックが取り入れられた「Love's A Dangerous Language」、チープなリズムボックスとピアノ、シンセサイザーで叙情的なエレポップ風に仕上げられた「S.O.S」、ピアノをバックにしっとりと歌い上げられた「United Kingdom」など、固定のジャンルに収まりきらないバラエティーに富んだ楽曲が収録されています。

「That Was Then But This Is Now」のプロモ映像
「S.O.S.」のプロモ映像
「Unzip」の映像(音のみ)

しかし、大ヒットした前作の印象が強かったためかセールス的には伸び悩み、当時の音楽誌でもあまり良いレビューは書かれていなかったように記憶しています。

実際、前作にハマった私は、発表されたばかりの本作『Beauty Stab』がどうも好きになれず、当時、アルバム1枚を通して聴くことはほとんどなかったように思います。

また、LPレコード時代に手に入れた『The Lexicon Of Love』『How To Be A Millionaire』『Alphabet City』はCDで買い直したというのに、本作だけは最近まで買い直す気になれなかったのです。

しかし、ABCというグループの作品をほぼ全て聴き、その幅広い音楽性を理解した後に本作を聴き返してみると、実に味のあるアルバムなんですよね。

結局、今更ながらCDで買い直したんですが、発表当時に聴き込んでいなかったためか、妙に新鮮な感覚でじっくりとアルバム全体の流れを楽しむことができました。

私の感覚的には初期〜中期のロキシー・ミュージック [ Roxy Music ] の楽曲をタイトにしたような曲を、ソリッドなギターと80年代のシンセサイザーやサンプリング・ストリングスなどで味付けしたアート・ロック的なイメージを持っています。

『The Lexicon Of Love』は、ファンキーなレパートリーの中にもどこか後期のロキシー・ミュージックを感じさせるジェントリーさがあったので、そういう意味では、時代を逆行したようなアルバムと言えるかも知れません。

もちろん、初期のロキシーにあった良い意味での不協和音的な煩雑さはありませんが、実は、本作のクレジットをみると面白い共通点を見いだすことが出来るんですよ。

まず、ドラムのアンディ・ニューマーク [ Andy Newmark ] とベースのアラン・スペナー [ Alan Spenner ] は後期ロキシーで活躍したことで知られるセッション・プレイヤーです。

さらに、本作に至るまでにベースのマーク・リックレイ [ Mark Lickley ] 、ドラムのデヴィッド・パーマー[ David Palmer ] が脱退したことで、正式メンバーはボーカルのマーティン・フライ [ Martin Fry ]、ギターのマーク・ホワイト [ Mark White ] 、サックスのステファン・シングルトン [ Stephen Singleton ] の3人となっています。

つまり、本作におけるオリジナル・メンバーは、後期ロキシーがフェリー、マンザネラ、マッケイであるのと同じく、ボーカル、ギター、サックスというトリオ編成で、そこにアンディ・ニューマークとアラン・スペナーという後期ロキシーのリズム・セクションが加わっているというわけです。

さすがに、メンバー構成を同じにするためにリックレイとパーマーの首を切ることはないでしょうが、偶然というにはあまりにも出来すぎた話です(笑)。

余談ですが、当時「音楽専科」という雑誌に連載されていた志摩あつこさんの漫画『8ビートギャグ』で「熱血!マーティン先生」というお話があったのですが、マーティン・フライ先生の頭の上がらない上司がブライアン・フェリー教頭という設定でしたから(笑)、私同様、マーティンが ロキシーのフォロアー的なイメージを持っておられる方は大勢おられるのかも知れません。

よく聴けば、インストものの「Beauty Stab」や「Hey Citizen」のサックスの絡み方は初期ロキシーのそれを感じさせますし、「King Money」や「Unzip」などは中期のロキシーのフェリーが歌っていても違和感はないように感じます。

ま、恐らく、ロキシーのファンであろうABCのメンバーと本家ロキシーのゲスト・プレイヤーで制作されたアルバムなのですから、ロキシーっぽさが出たとしても不思議はありませんよね。

そういう意味では、マーティンの音楽的なルーツが露呈した作品ですし、当時、マーティンが一番やりたかったことを具体化した作品であると言えるでしょう。


ところで、発表当時、この大幅な方向変換について、マーティンは次のようにインタビューに答えています。
「たくさんのグループがかごの中の鳥のようなことをやっている。でも、我々は変わってゆくポップ・ミュージックをクリエイトしていきたい。もし、ストリングスでコーティングした音楽と金ラメ・スーツの音楽を求めている人がいるなら、スパンダー・バレエのレコードを買えばいいよ。」

う〜ん、どうやら「かごの中の鳥」とはトレヴァー・ホーンによって行われた過剰プロデュースのことを差していることは間違いないようです。

スパンダー・バレエ [ Spandau Ballet ] が金ラメ・スーツを着ているところまではさすがに想像できませんでしたが(笑)、なんと、面白いことに、スパンダー・バレエも過去に一度だけトレヴァーがプロデュースを担当しており、ABCと同じように決裂しているんですよ(詳しくはこちら

大ヒットとなった『True』発表前の82年のシングル「Instinction」がそれなのですが、アルバム『Diamond』に収録されたバージョンとはかなり印象が違い、よりポップでキャッチーなアレンジが施されているように感じます。

私は、1人のリスナーとしてトレヴァーのプロデュース作品が大好きで、当時の彼の関与した作品にストリングスでコーティングした派手なサウンドを求めていたのは確かですが、もし、自分自身のバンドがプロデューサーの「かごの中の鳥」になってしまったとしたら、たとえ、オリコンチャート1位になれるとしても、いずれ不満は爆発することでしょう。

もちろん、プロデューサーは売れる音楽を作ることも仕事であるわけですから、そういう意味ではトレヴァーの仕事は一流であったと評価をすることができます。

とはいえ、アーチストとしては、自分たちのサウンドを世間に認めてもらった上で売れたいわけで、舵の利かない舟に乗ってまで売れたくはないというのも理解できます。

ま、現実は、案外、性格の不一致的な部分だったのかも知れませんが…。

なお、本作のプロデュースは、前作『The Lexicon Of Love』でエンジニアを努めたゲイリー・ランガン [ Gary Langan ] とABCの共同名義。

ゲイリーは、この後すぐトレヴァー・ホーンの主催するZTTレーベルアート・オブ・ノイズ [ The Art Of Noise ] のメンバーとして活躍するのですが、メンバーの素顔を公開する前の87年に脱退しています。

その後は、エンジニアやプロデューサーとしてザ・ザ [ The The ] やスパンダー・バレエ、ヒュー・コーンウェル [ Hugh Cornwell ] などを手がけ、最近では、今年発表されたABCの新作『Traffic』 のプロデュースも担当。

2004年のトレヴァー・ホーンの音楽歴25周年記念コンサート(プリンス・トラスト)にABCとして参加しているくらいですから、もう一度大ヒットを狙ってトレヴァーを起用してもよさそうなものですが、マーティン的にはゲイリー・ランガンのプロデュースがよほど気に入ったのでしょうね。

おかげで『Traffic』はどこか本作に似た臭いを感じ取ることのできるなかなかの傑作に仕上がりました。
機会があれば、ぜひこの新作も聴いてみて下さい。


そんなわけで、本作はABCのアルバムの中では比較的知名度の低いアルバムですが、内容的には決して駄作などではありません。

大ヒット作直後の方向変換による前作とのギャップがファンに受け入れられなかっただけのことで、あえて流行の音ではなくギターサウンドを中心に置いた本作のサウンドは、今聴いても古くささを感じさせないよく出来たアルバムです。

今、聴くのならば、懐かしさで聴く『The Lexicon of Love』よりも、本作の方が聴きやすいような気もします。

また、これまでアルバムごとに音楽性を変化させてきたABCの歴史から見れば、ここでの変化はエレポップ化した3rd『How To Be〜』の時ほど大きなものではありません。

ひょっとすると、ヒットチャートを賑わす流行の音から身を引くことで、本作のように長く楽しめるアルバムを完成させることが出来たのかも知れません。

レコードラックに本作を長く眠らせておられる方は、久しぶりに引っぱり出して聴いてみられてはいかがでしょうか。

きっと新しいABCの魅力を見つけることが出来ると思いますよ。


なお、今回紹介しているCDはデジタル・リマスタリングが施された98年発売のリイシュー盤で、ボーナストラックとしてシングル「That Was Then But This Is Now」のB 面に収録されていた「Vertigo」という曲が追加されています。

アルバムの流れからすると蛇足ではありますが、レア・トラックがCD化されることは喜ばしいことです。

ただし、アルバム単位でお聴きになるときは、あくまでもボーナス・トラックであることをご理解の上聴いてやってくださいまし。



そんなわけで、この記事が今年最後のレビューとなってしまいました。

ここのところ、本業の方が何かと忙しく更新ペースが落ちていたんですが、来年はもう少し頑張って、最低でも月2回くらいは更新したいと思っておりますので、これからもよろしくお願い致します。

それでは、みなさん、良いお年を…。
/BLマスター

uknw80 at 00:38│Comments(3)TrackBack(0)ABC 

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この記事へのコメント

1. Posted by hasebon   2009年01月01日 17:15
新年早々、ABCファンの間で黙殺?されているこのアルバムが紹介されていてびっくり!です。

実は初めて聞いたABCのアルバムがこれで、ABCの先入観がなかった自分としてはかっこよく、むづかしいアルバムでした。

自分にとっては聞き込んで好きになるタイプのアルバムで中学生当事は大人の感じがするレコード(実はカセット!昔はカセットもメーカーからでてましたよね)でした。

昨年私もリマスターCD買いまして改めて良さを確認した次第です。それまではベストにこのアルバムの好きな曲が入っているからいいやみたいな感じで。

しかしコンセプトアルバムのこれはCDで一気に聞くべしと思いました。ラストの「ユナイテッド・キングダム」ABCの最高のバラードだと思います。

最新アルバム「トラフィック」の一曲目、このアルバムの曲と同じにおいがしませんか?「トラフィック」今一番のお気に入りですよ!機会があったら紹介お願いします。
2. Posted by ピザ味   2009年01月02日 00:59
4 BLマスターさん御無沙汰しておりますが、今年も宜しくお願い致します。
ABCの持ちネタとしてはCDでは入門編的な「THE ULTIMATE COLLECTION(3CD)」とアナログ盤(12゙Mix)の「Be Near Me」と「When Smokey Sings」、オムニバスDVD「The Very Best Of DANCE HITS(The Look Of LoveのPV収録)」とマーティン参加のトレバーホーンの25周年記念DVDしか無いので多く語る資格は有りませんが個人的には3大スタイリッシュ&ダンディズムを感じさせるバンド(1.ROXY MUSIC 2.ULTRAVOX)の一つとしてABCは重要な存在ですね。
また1人であってもマーティン=ABCには変わり無いと思うのですが「ナツメロLive(苦笑)」では無い方向で新たな作品作りに頑張ってほしいものです。
PS.昨年は夢にまで見たJohnfoxxのLiveが観れました!
今年はUltravox(第兇Midge期)とMagazineの再結成Liveが有るのですが是非、来日して欲しいものです。


3. Posted by 加藤博文   2009年04月26日 20:39
はじめまして。
突然のご連絡失礼いたします。
PVfree.net、管理人の加藤博文と申します。

サイト名:PVfree.net
URL:http://tvs.uah.jp/pv/

この度は、相互リンクのお申し込みのため御連絡させていただきました。

既にこちらのサイトの方にはリンク(http://tvs.uah.jp/pv/link/dir-8.html)
を設置して紹介させていただいております。

よろしければ相互リンク宜しくお願い申し上げます。

加藤博文

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