2009年05月02日

everything could be so perfect… [ Special Edition ] /Anne Pigalle

everything could be so perfect…/Anne Pigalle

今日はZTT Boxアクト[ Act ] の『Laughter,Tears and Rage [ Deluxe Edition ] 』に続いて、ZTTの復刻シリーズ第3弾として今年2月に発売されたアン・ピガール [ Anne Pigalle ] の『everything could be so perfect… [ Special Edition ] (邦題:青春の彷徨)』(生産枚数限定盤)を紹介したいと思います。

実はこのアルバムは今でも私の大好物で、以前、廃盤となった通常盤CDの方でも紹介したことがあるのですが、前回のアクト同様、流通量そのものが少なく、リイシューに関しても望む声は多かったものの、アン自身が拒否していたため実現には至らず、常に品薄で中古盤にも高価なプレミアがついていました。

今回の奇跡とも言えるリイシュー盤は、1985年にZTTレーベルから発表された同名のアルバム『everything could be so perfect…(邦題:青春の彷徨)』に収録されていた8曲(CD発表時は本作にも収録されている「Like We Do」が追加された9曲)に、12inchシングル盤の「He! Staranger(邦題:異邦人)」と「Why Does It Have To Be Way...(邦題:何故に...)」に収録された曲を全て加えた合計16曲入り、まさしくZTT時代のアン名義のコンプリート盤とも言える内容のスペシャル・エディションCDです。

私は本作のLPとCDに加えて「He! Stranger」の12inchは持っていたのですが、「Why Does It Have To Be Way...」の12inchだけは当時でも見つけることができず(タイミングを外してしまっただけですが…)歯がゆい思いをしていただけに、このリイシューは感涙ものでした。

さらに、オリジナル盤(LP)の8曲の歌詞(英、仏詩のみ)、2003年にイアン・ピールが行ったインタビュー(原文と和訳)、本作発表に際しての高橋健太郎氏の解説が載っているブックレットが付属しており、私の知らなかった発表前後の裏話やZTT以降の活動も知ることができたんです。

しかも、これだけスペシャルな内容で2,300円!
ま、紙ジャケ仕様であることに関しては好き嫌いの分かれるところだと思いますが、当時の日本盤CDの裏を見ると3,300円の定価がついていますし、高価なプレミアのついた中古盤に比べれば確実にお得感はありますよね。

いや〜、ここのところ毎回言ってますが、こんな豪華な復刻盤を安価で企画して下さったZTT Japanさんにはほんとに感謝です。


さて、アン・ピガールについて私が知っていたことは以前のレビューにだいたい書かせていただいておりますので、まずはそちらをお読みいただくとして、今回は、この復刻盤に付いていたブックレットから新たに知り得た情報とボーナストラック8曲に関して書かせていただきます。
(ちなみに、以前書いたレビューはこちら


まず、私が勝手にアンのデビュー・シングルだと思っていた「Hot Sagas」はニック・プリタス [ Nick Plytas ] との共同名義で、オン・ユー [ On-U Sound Records ] の主宰者として知られるエイドリアン・シャーウッド [ Adrian Sherwood ] のプロデュースのもと、1982年にイルミネイティッド・レコードというところから発表された4曲入りのマキシ・シングルだったということ。

電子ファンク〜ジャズ的なニックの演奏を、ダブで有名なシャーウッドがプロデュースしているわけですから、さぞかし面白い音源だったことでしょう。

ま、アンのソロ名義である本作もほとんどがニックとの共同作業によって制作されていますので、実質的には大差ないとも言えるわけですが、残念ながら「Hot Sagas」はさらに入手困難なシングルで、未だに試聴すらできておりません(持っておられる方がいらっしゃったら、感想を教えて下さると幸いです)。

もう一つは、同じく82年にアンとニックのユニットであるヴィア・ヴァガボンド [ Via Vagabond ] 名義でスティッフ [ Stiff Records ] から発表された「Who Likes Jazz?」に関しての話ですが、このシングルでは音楽的な部分でアンは関与しておらず、名前を変えたり、ジャケット・デザインのアドバイスしたりというコンサルタント的な形で参加していたということ。

ちなみに、ヴィア・ヴァガボンド名義の「Who Likes Jazz?」をお聴きになられたF-ROCKさんの情報によると、『ジャ、ジャーズ♪』というコーラスは入っているものの、ボーカルトラックはなく、基本的にニック・プリタス名義の「Who Likes Jazz?」と同じオケが使用されているようです。
(『The Stiff Records Box Set』←こちらのボックス・セットに収録されているそうですので、興味を持たれた方はご覧ください。)

ひょっとすると、『ジャ、ジャーズ♪』の部分にアンの声も重ねて使っている可能性はありますが、ニックのソロの「Who Likes Jazz?」で聴かれるボーカル・パートをアンが歌っていたわけではないようです。


さて、この後、ヴィア・ヴァガボンドのデモテープを数々のレコード会社に送ったところ、唯一、興味を示したのがZTTのポール・モーリィ [ Paul Morley ] だったことは以前も書いた通り。

しかし、ZTTが契約したのはヴィア・ヴァガボンドというグループではなくアン・ピガール個人でした。

このことに関しては、ニックがZTTと契約することを拒否したから、もしくは、デモテープを送ってから契約が成立するまでの間につき合っていた2人が破局してしまい、活動を続けられる状態ではなくなったからという理由が考えられます。

そういえば、ニックは本作の発表までにABC☆の1stアルバム『The Lexicon Of Love』で後のZTTの面々と一緒に仕事をしていますから、そこで馬が合わなかったのだとすれば拒否する理由も理解できなくもないですし、ZTTとの契約が成立してから本作を発表するまで2年以上もの月日が経っていますから、様々なトラブルが発生して制作が遅れ、すったもんだの末につき合っていたカップルが破局したのだとしても不思議ではありません。

いずれにせよ、ポール・モーリィがアンの歌を気に入ったわけですから、彼が聴いたヴィア・ヴァガボンドのデモテープはアンがボーカルをとっている歌ものだったことは間違いないでしょう。

さらに、本作のクレジットに目を通してみると、オリジナル盤に収録された8曲中「Looking For Love」を除く7曲がニックの作曲となっています。

「Looking For Love」のプライベート・ライヴ映像?

ここで疑問を感じるのは、契約の時点でアンだけを引き抜いたにせよ、制作段階の前後でアンとニックが別れたにせよ、本作にここまでニックが関与しているのは不自然だということ。

実は、本作のブックレットのアンのインタビュー記事に下記のようなことが書かれていました。
『もしかしたらトレヴァーがもっときちんと曲をプロデュースしてくれていたら、ヒットしたのかもしれない。何曲かトライはしたのよね。「Why Does It Have To Be Way...」って曲は、バンドと一緒に作りはじめて、トレヴァーがちょっとプロデュースをやってくれたんだけど、うまくいかなかったの。一度バンドの方がうまくいかず、ゼロからやり直したんだけれど、トレヴァーはまるでこの曲はボートに乗っているみたいだって言ってたわ。バラバラの個性がぶつかってしまったのね…。』

なお、本作のクレジットによれば、「Why Does It Have To Be Way...」だけがトレヴァー・ホーン [ Trevor Horn ] のプロデュースとなっており、それ以外の曲はルイ・ジャーディム [ Luis Jardim ] のプロデュース曲で、アレンジがリチャード・ナイルス [ Richard Niles ] 、ミックスがスティーヴ・リプソン [ Steve Lipson ] 、アラン・ダグラス [ Alan Douglas ] 、ボブ・クラウシャー [ Bob Kraushaar ] 、ボブ・ペインター [ Bob Painter ] 、そして、ニック・プリタスは作曲、演奏の他に、ミュージカル・コーディネーション( Musical co-dination )として名を連ねています。

つまり、当初はトレヴァーが全面プロデュースの予定だったところ、「Why Does It Have To Be Way...」をプロデュースしてみた時点で自分に合わないことを悟って投げ出し、一旦保留する形になった…。

その後、ヴィア・ヴァガボンドとして完成していたデモトラックに他のZTTの面々が手を加え、アンのソロとして発表した…、ということなのでしょうか。

ちなみに、今回追加された楽曲の中に「Why Does It Have To Be Way(Piano Version)」という曲があるのですが、ニックのソロをお聴きになられた方なら、これがほぼニックの打ち込みによるデモ・バージョンであるだろうことがおわかりいただけると思います。


さて、この後、アンは本作に続くセカンド・アルバムを制作することをZTTから要請されるのですが、一時的に音楽活動そのものに興味を失ってしまった彼女はこれを拒否、今度はアメリカに渡って絵画や写真の仕事をしていたそうです。

しかし、音楽活動自体はアメリカでも行っていたようで、彼女のコンサートを観に来たドナルド・キャメルという映画監督に気に入られ、彼の映画に出演することが決まっています。

残念ながら、映画の話はドナルドの自殺によって白紙になってしまったそうですが、恐らく、アンにとっては音楽も絵画も写真も女優も自己表現の手段のひとつだったのでしょうね。

さらに、2000年以降は再びロンドンに戻って写真や絵画を続けながら、音楽活動にも力を注いでおり、TDSというエレクトリック系アーチストと組んで『Amerotica』というアルバムや『L' Histoire D' Anne Pigalle』というDVD作品も発表しています。

ちなみに、この2作品は現在もアンのオフィシャル・サイトを通じてのみ販売しているようですが、日本から購入するのは少々手間がかかりそうです。
できれば、なんとか日本でも購入できるようにして欲しいところですね。

ま、とりあえず、マイスペースのアンのページで新曲を聴くことはできますので、興味を持たれた方はご覧になってみて下さい。


あと、本作とは関係ないのですが、今回の記事を書くにあたってYouTube映像を検索していたところ、昔の伊勢丹のCMにアンの曲が使われていたことを知りました。
しかも彼女自身が出演しているんですよ(驚)。

アンの風貌から察するところ、恐らく90年代半ば頃のCM映像だと思うのですが、音源自体がCD化されていない上、関西在住の私はにとっては初めて見る映像であるため、確かなことはわかりません。(ご存知の方がいらっしゃったら教えて下さると嬉しいです。)

他にも、最近のライヴ映像などを見つけましたので、合わせて紹介しておきますね。

伊勢丹TVCMの映像「Tango Contre La Monte」」
「The Pleasureground」のプロモ映像?
「The Pleasureground」のライヴ映像(アカペラ?)
「Children Of The Revolution」のTVライヴ映像



さあて、ここからは収録曲の解説をさせていただくとしましょう。(今回は話が長いな〜。笑)

まず、基本的に、トラック1〜8まではLP発売時と同じ曲が収録されており曲順も同じ。
一応、2008年リマスター盤ということになっていますが、既発曲に関しては、元々がかなりクリアな音質であっただけに、音量レベルが以前のCDに比べて若干大きくなっている以外は、さほど大きな変化は感じませんでした。

なお、追加曲であるトラック9〜12の4曲は12inchシングル「He! Staranger」、トラック13〜16の4曲は12inchシングル「Why Does It Have To Be Way...」にそれぞれ収録されていた曲で、以前のCDに収録された16.の「Like We Do」以外は初CD化音源ということになります。

ただし、9.「He! Stranger - One」と10.「He! Stranger - Two」は、元々12inch盤の中で1曲として扱われていました。
なぜ、2曲に分けたのかは不明なのですが、ひょっとすると、ちょうどこの分け目のところで少し長めのブレイクが入るので、マスタリングの機械的な問題でここにマーキングが入ってしまったのかも知れません。

ま、個人的には2曲に分けるのは不自然なような気もするのですが、何か意図があって分けた可能性もありますね。

いずれにせよ、9.と10.を合わせて7分強となる大作ですので、本作の一番の見せ場と言えましょう。

「He! Staranger」のプロモ映像


11.「He! Stranger ( Than Fiction )」は、同曲のピアノ・バージョンで、アンの歌声と生ピアノ、そしてニック・プリタスの十八番であるハモンド・オルガンで構成されています。

シングル・バージョンのような、いかにもZTT的なゴージャスさはありませんが、実に華麗で美しいバージョンです。

「He! Stranger」がヴィア・ヴァガボンドのデモ・テープに入っていたのだとすれば、恐らくこのバージョンに限りなく近いものだったことでしょう。


12.「Johnny」は、手持ちの12inchシングルのクレジットではニック・プリタスのプロデュースとなっており、ZTT色をほとんど感じさせない生のジャズっぽいバッキングの曲です。

語りかけるようなアンの歌唱法のせいか、シャンソンっぽいイメージもあり、ZTT以降の彼女の楽曲に最も近いスタイルだと思います。


13.「Why Does It Have To Be Way...(Single Version)」は、その名の通りシングル用に制作されたテイクで、アルバム・バージョンに比べてストリングス・アレンジのメリハリが強調されており、わずかに4秒ほど短くなっています。

「Why Does It Have To Be This Way...」の映像(音のみ)
「Why Does It Have To Be This Way…」のライヴ映像
(ニック・プリタスがピアノで参加!)


14.「Faut-ll Vraiment Que Ce Soit Comme Ca」は「Why Does It Have To Be Way...(Single Version)」のフランス語バージョン。
ボーカル・パートが違うだけでバッキングは同じ(だと思います)ですが、個人的にはこちらのバージョンの方が彼女のイメージに合っているように感じます。


15.「Why Does It Have To Be Way...(Piano Version)」は、11.のようなピアノ・バージョンではなく、比較的簡素な打ち込みと生ピアノ、アンの歌によるデモ・バージョンのようなイメージの曲です。

リズム・マシンの音がニックのソロで聴かれるものと非常に似ており、ZTT色を全く感じませんので、ひょっとするとポールの聴いたヴィア・ヴァガボンドのデモ・バージョンをそのまんま収録したのかも知れません。


16.「Like We Do」は、既発の日本盤CDにもボーナスとして追加されていたのですが、3拍子のリズムに印象的なストリングスのフレーズが乗っかる、実にアンらしいイメージの楽曲です。


さて、今、本作をこうして聴き直してみると、アンが当時のZTTのアーチストの中ではかなり異端な存在であったことがご理解いただけると思います。

いわゆるZTTの音ではあるのですが、そこからイメージする言葉は「アンニュイ」であったり、「ジャジー」であったり「クラシカル」であったり…。

かといって、この頃の音源をフレンチ・ポップやジャズ、シャンソンの枠に収めるのも無理がありますし、ポップスやロックというカテゴリーにも収まりません。

まさしくニューウェイヴだったわけですね(笑)。

とはいえ、ピアノやオルガンが楽曲の芯にあり、ストリングスなどで味付けされている曲が多いため、今聴いてもさほど古くささは感じないと思います。

未聴の方はぜひこの機会に聴いてみて下さい。

このレビュー記事をに興味を持たれた方なら、きっと気に入っていただけるはずですよ。


ところで、私は今回の復刻シリーズで、本作とアクト『Laughter,Tears and Rage [ Deluxe Edition ] 』の2枚を購入したのですが、それぞれ以前のCDのジャケットと見比べてみてちょっとした違いに気がつきました。

使われている写真が同じであることは間違いないのですが、裏表共に少々画質が荒く、わずかにレイアウトを変更した上で紙ジャケ化されています。

恐らく、昔のジャケットからカラーコピーした写真をトリミングしてサイズに合うように拡大したのでしょう。

オリジナル盤を持っている私としてはこの点だけが残念なのですが、それでも復刻盤発売に際してのZTT Japanさんの苦労が感じ取れました。

できれば表ジャケットくらいはオリジナルに忠実であって欲しいところですが、贅沢は言えません。
ZTTレーベルの作品はレアな12インチ盤が多いだけに、今後もこのようなレア・トラックを網羅した復刻盤を企画していただきたいと思います。

ZTT Japanさん、期待していますよ。
/BLマスター

uknw80 at 23:49│Comments(4)TrackBack(0)◆ZTT レーベル | ☆その他の国のニューウェーヴ

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この記事へのコメント

楽しく見させていただいてます。頑張ってください
2. Posted by www   2009年05月27日 18:08
www
3. Posted by F-ROCK   2009年09月25日 16:44
BLマスターさん、ご無沙汰しています。

とりあえず聴いてもらったほうが早いと思い、
ヴィア・ヴァガボンド名義の「Who Likes Jazz?」をYouTubeにアップしました。

http://www.youtube.com/watch?v=BQzFtn94AnA

前回の私の説明で間違いないとは思うんですが、
実際お聴きになって確かめてみてください♪
※間違いがありましたらご訂正もお願いしますね!
4. Posted by TAKA   2009年10月28日 14:44
5 いや〜、物凄く詳しく書かれてますね。感動を通り越してカルチャー・ショックを受けました。

アンの復刻は嬉しいですね。

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