- Mick Karn

2008年04月17日

Polytown/Polytown ( Torn/Karn/Bozzio )

Polytown

今日紹介するのは、それぞれ音楽業界屈指の変態プレイヤー(とんでもなく個性的という意味です。笑)として有名な、デヴィッド・トーン [ David Torn ] ミック・カーン [ Mick Karn ] 、テリー・ボジオ [ Terry Bozzio ] の3人による、ポリタウン [ Polytown ] という非コマーシャルかつ、実験的な単発ユニットのかなりアバンギャルドな作品『Polytown』です。

このアルバム、サウンド的には、全くのインストもので、フリー・ジャズやプログレ、ニュー・エイジ系の音と取れなくもないのですが、逆に、どこにもカテゴライズしにくい奇妙奇天烈な音とも言えます。

恐らく、メイン・ストリーム系の音楽を好まれる方には全くウケない音だと思うのですが、楽器を演奏される方や、この3人のいずれかのファンの方にはそうとう面白い音だと思います。


ミック・カーンとデヴィッド・トーンの名前は、当ブログではかなり登場しているので、今更説明する必要はなさそうですが、一応、簡単に紹介しておきます。

ミック・カーンは、元ジャパンのベーシストで、真っ当な音楽理論を学んだプレイヤーには決して考えられない不思議な音階を奏でることで有名です。
また、ベース界のロールスロイスとの異名を取る「ウォル [ Wal ] 」製の、世界で一つというチューリップ・ウッド・ボディーのフレットレス・ベースから生まれるファットな音も相まって、彼の超個性的な変態ベース・フレーズを形成しています。

彼のプレイは、ソロ作品の他にも、ゲイリー・ニューマン [ Gary Numan ] ミッジ・ユーロ [ Midge Ure ] 、矢野顕子、土屋昌巳、ピーター・マーフィー [ Peter Murphy ] 、ビル・ブラッフォード [ Bill Bruford ] 、ビル・ネルソン [ Bill Nelson ] JBK(ジャンセン・バルビエリ・カーン)デヴィッド・トーンケイト・ブッシュ [ Kate Bush ] 、ジョン・アーマトレーディング [ Joan Armatrading ] 、ノーマン [ No-Man ] 、詩人の血、竹村延和、D.E.P.、半野喜弘などとのセッション作品でも聴くことができます。

デヴィッド・トーンは、独自の「ループ・ギター」と呼ばれる非常にエフェクティヴなギターで有名なギタリストで、ソロ作品の他にも、デヴィッド・シルヴィアン [ David Sylvian ]ミック・カーンJBK、ビル・ブラフォード [ Bill Bruford ] 、トニー・レヴィン [ Tony Levin ] 、マーク・アイシャム [ Mark Isham ] 、アンディ・ラインハルト [ Andy Rinehart ] などとのセッションでもトリッキーなプレイを聴かせてくれます。

ミック・カーンのライヴ映像
(ギターがデヴィッド・トーンです)
マーク・アイシャム「The Grand Parade」のプロモ映像
(トーン、ミック、テリーがバックを努めています)

そして、この2人に勝るとも劣らない個性的な演奏をするドラマーがテリー・ボジオ。

テリー・ボジオは、75年に、フランク・ザッパ [ Frank Zappa ] のバック・バンドにチェスター・トンプソン [ Chester Thompson ] の後任として加入し、テクニカル、かつ、パワフルなプレイで注目を集めました。

ザッパ・バンドの頃の映像
エイドリアン・ブリューやパトリック・オハーンも居ますよ)

ザッパのバックでは、なんと、3年間で19枚というアルバムに参加(ザッパは、アルバム発表数でギネス・ブックに載っていたくらいですから、これでもほんの一部なんですが…笑)、その後、ビル・ブラッフォードの後任としてザッパ・バンド時代の盟友エディー・ジョブソン [ Eddie Jobson ] が在籍するU.K.にも参加し、1980年にウォーレン・ククレロ [ Warren Cuccurullo ] 、パトリック・オハーン [ Patrick O'Hearn ] らと共に、当時の嫁、デイル・ボジオ [ Dale Bozzio ] をボーカルにしたミッシング・パーソンズ [ Missing Persons ] を結成。

ミッシング・パーソンズの頃の映像

しかし、2人の離婚がきっかけとなりミッシング・パーソンズは解散、その後はジェフ・ベック [ Jeff Beck ] 、スティーヴ・ヴァイ [ Steve Vai ] 、トニー・レヴィン、スティーヴ・スティーヴンス [ Steve Stevens ] らとのセッションでも活躍しました。

彼のドラムの特徴は、とにかくテクニカルでタイト。
しかも、音数、手数がやたら多く、かなりジャズ寄りなロック系のプレイです。

また、最近の彼のドラム・セットは、ものすごい数のドラムとシンバルで構成されており、「要塞」という呼び名もついています(笑)。
数年前の話では、6個バスドラムに27個のタム、スネア、30枚以上のシンバルという巨大なセットで、まさに「要塞」。
恐らく、バンドにおける個人のドラム・セットとしては世界最大級なんじゃないでしょうか。
しかも、近年、ますます規模は大きくなっているのだとか。
もちろん、どこかのヘビメタ・バンドのように装飾品として並べているわけではなく、微妙なチューニングによって音階を作ったりするために必要なのだそうで、全てのパーツをワンステージに一度以上叩いているそうです。

いや〜、ローディーさんたちが苦労しているところが想像できますよね。

YouTubeで彼の「要塞」を組み立てる行程の映像、それを叩いている映像を見つけましたので、興味を持たれた方はご覧になってみてください。
見所はずらっと並んだタムとスネア、シンバル・スタンドの形状、そして、ペダルの数とハイハットの位置でしょうか。
とにかくすごいです。
初めて見る方は、驚きを通り越して、笑っちゃうくらいですよ(笑)。

テリー・ボジオのドラム・セットのセッティング映像
テリー・ボジオのドラム・ソロ映像1
テリー・ボジオのドラム・ソロ映像2

さて、こんな超個性的な3人ですが、彼らはそれぞれ、担当楽器の本来の役割以上の音を出すという共通点があります。

トーンは、本来のギター・パートに加えて、サスティーンやリリースの長いシンセサイザー的な音色を、ミックは、本来のベースの役割に加えてメロディー楽器的な音を、テリーも、本来のドラムの役割に加えてメロディー楽器的な音を受け持っています。

この3人が、売れるアルバムを作ることを意識せず(あくまでも私の想像ですが…)、個性派アーチスト同士の実験的なコラボとして発表したのが本作なのですから、面白くないわけがありません。

曲によって、3人のうちのいずれかの個性が強く出た曲がありますが、全体的に見ればそれぞれの個性がバランスよくミックスされたアルバムです。

プロデュースと作曲は、全曲この3人の名義になっていますので、恐らくは、すべて、スタジオでのセッションから生まれた曲なのでしょう。
そういう意味ではインプロ(即興)っぽい要素も多分に含んでいるのですが、決してだらだらとした抑揚のない曲になってはおらず、むしろ、各プレイヤーの個性的な演奏を引き出すための計算がされたメリハリのある楽曲が多いように感じます。

わかりやすく言えば、フリー・ジャズで言うところの各パートのソロ部分を組み合わせたような構成の作品ですね。


しつこいようですが、メイン・ストリーム系のポップスではありません。

とはいえ、小難しいイメージの芸術作品というわけでもありません。

考えてみれば、ギター、ベース、ドラムという当たり前のバンド編成なんですが、決して当たり前の音ではないのです。

むりやり解説を付けるなら、3人の変態凄腕プレイヤーが、それぞれの個性をぶつけあって音を楽しんだ、興味深い娯楽作品といったところでしょうか。

とにかく、3人3様のプレイを興味深く味わうことのできる傑作です。

残念ながらYouTubeでは、本作に収録された楽曲の映像を見つけることはできませんでしたが、アマゾンで10曲中、5曲目まで試聴可能ですので、興味を持たれた方は、ぜひお聴きになってみてください。
/BLマスター

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2007年08月22日

Bestial Cluster/Mick Karn

Bestial Cluster/Mick Karn

今日紹介するのは、元ジャパン [ Japan ] の変態ベーシスト、ミック・カーン [ Mick Karn ] が1993年に発表した3枚目のソロ・アルバム『Bestial Cluster』です。

眉毛を生やすようになってからは初のソロ・アルバムですね(笑)。

一応、念のため付け加えておきますが、ここで言うところの変態とは、一般的なバンドにおける常識的なベース・ラインを奏でるベーシストではなく、ミック以外には考えられない超個性的なベース・ラインを奏でるベーシストであることを表現しているわけで、、決してミックを変態呼ばわりしているわけではありません(変わり者であることは間違いないと思いますが… 笑)。

ミックのベース・ラインの特徴は、ベース界のロールス・ロイスとも言われるウォル [ Wal ] のフレットレス・ベース(ウォル側からの申し出による希少なアフリカ産チューリップ・ウッドを使った特注品)によるファットな音色もさることながら、ウネウネしたどこか中近東〜オリエンタルな匂いのする独特の音階を奏でるところでしょう。

本来、ベースの役割とは、バンド・アンサンブルの中で、低音部分とリズムを担当する影の力持ち的存在なわけなんですが、ミックのベース・プレイの場合は、それに加えて独特のメロディー・パート的な要素が加わります。

この独特のメロディー・ラインは、ひょっとすると、彼がギリシアのキプロス島出身であることや、元々楽典的な知識を持ち合わせていなかったことなどが複雑に絡み合って生まれたものなのかも知れませんが、それにしても不思議な音階です。

80's UK New Wave的な見地から他のフレットレス・ベース奏者と比べるとするなら、元ブランドXのパーシー・ジョーンズ [ Percy Jones ] や、ポール・ヤング・バンドのピノ・パラディーノ [ Pino Palladino ] あたりがやや近い雰囲気ですが、彼らは楽典的な基礎がしっかりしているためか、どちらかというとジャズ〜フュージョン寄りなプレイに聴こえてしまいます。

恐らく、この2人はコード理論的にもしっかりしたテクニカルな演奏をしているはずですから、ミックのように耳だけで楽曲に合うフレーズを探ったり、ベースで作曲したりしているわけではないのでしょう。

悪く言えば、ミックは非常にアバウトな感性で演奏するベーシストなのです。
ジャパン在籍時代も、とりあえず曲の雰囲気がつかめるデモテープを持ち帰り、それに合わせて持ち前の「耳」と「勘」だけでフレーズ作りを行っていたのではないでしょうか(私の勝手な想像ですが)。

しかし、そのおかげで、既存のスタイルに縛られることのない唯一無二な個性を持つベース・フレーズが生まれているわけですから、決して悪いことではなかったのです。
いや、むしろ、ミックのもともと持っていた感性を、音楽理論で抑え込んでしまうことがなかった、と言った方が正しいのかも知れません。

いずれにせよ、彼に任せておけば、放っておいてもミック・カーンとしか言いようのないベース・フレーズが生まれてくるはずなのです。


ミック・カーンは、ジャパン在籍時代の82年に他のメンバーに先駆けてヴァージンから1stソロ・アルバム『Titles』、87年に2ndアルバム『Dreams Of Reason』を発表しています。

ソロ以外の活動としては、81年にゲイリー・ニューマン [ Gary Numan ] との事実上の共作『Dance』、84年に元バウハウス [ Bauhaus ] のピーター・マーフィー [ Peter Murphy ] と結成したユニット、ダリズ・カー [ Dari's Car ] 、その他、同じく元ジャパンのスティーヴ・ジャンセン [ Steve Jansen ] にリチャード・バルビエリ [ Richard Barbieri ] 、矢野顕子や、ウルトラヴォックス [ Ultravox ] のミッジ・ユーロ [ Midge Ure ] 、キング・クリムゾン [ King Crimson ] のビル・ブラッフォード [ Bill Bruford ] 、ケイト・ブッシュ [ Kate Bush ] 、ジョン・アーマトレーディング [ Joan Armatrading ] 、詩人の血、ノーマン [ No-Man ] などとのセッション・ワークをこなしています。

ゲイリー・ニューマン「She's Got Claw」のプロモ映像
ケイト・ブッシュのバックで演奏するミック・カーンのライヴ映像
ソロ・ツアー時の「Dalis Car」のライヴ映像

ミックは、そんなセッションの中で、デヴィッド・トーン [ David Torn ] という最高の相方を見つけます。

トーンはループ・ギターなどの空間系のトリッキーなギター・プレイを得意とする、これまた超個性派の変態ギタリストで、そんな二人の組み合わせは、まさしく「鬼に金棒」「デヴィッド・シルヴィアンに坂本龍一」的な関係なわけで、1+1=2ではなく、無限大に変えてしまうほどの名コンビ。

本作『Bestial Cluster』はそんな名コンビの良さが最大限に引き出された、ミックのソロの中でも特にすばらしいアルバムです。

しかも、それを支える参加メンバーは、ミックと共にJBK(他にもいろんな名義で活動しています)でも活動している、ミックのクセを熟知したスティーヴ・ジャンセンとリチャード・バルビエリという、これまた名コンビ。
言わば、デヴィッド・シルヴィアンのいないジャパンにデヴィッド・トーンが参加しているわけですね。

このメンツで制作されたアルバムは他にも何枚かあるのですが、ミック・カーンの個性が最大限に引き出されているという点では本作の右に出るアルバムはないでしょう。

今、ミックのアルバムでオススメを1枚だけ挙げるとするなら、私は間違いなく本作を選びます。


さて、肝心の内容の方ですが、1曲目の「Bestial Cluster」は、それまでのミックのソロには見られなかったファンキーでノリノリのインスト曲で、珍しく部分的に歪んだ音を使っています。

ドイツのTV番組出演時の「Bestial Cluster」のライヴ映像

この当時はトレース・エリオット [ Trace Elliot ] というメーカーのベース・アンプを愛用しており、「ウォルのベースとこのアンプさえあれば、エフェクトは要らないよ」というような発言をしていたはずですので、このオーバードライブ機能を使ったのではないかと想像します。

また、それ以外の曲も非常にミックらしい雰囲気が出ています。

特に、個人的にお気に入りなのが6曲目の「Saday, Maday」と2曲目の「Back in the Beginning」。

これらの曲に関しては「これぞミック・カーン!」とも言うべき独特のウネウネしたベース・ラインを聴くことができ、レイン・トゥリー・クロウ [ Rain Tree Crow ] で抑えられていたミックらしさが一気に爆発したようにさえ感じられます。

しかも、前作『Dreams Of Reason』では控えられていたミックのボーカルも充分に楽しんでいただけるのです。

一聴すると難解なイメージの曲もなくはないのですが、全体を通して聴けば、ストーリー性すら感じさせてくれるすばらしい完成度だと思います。

ミック・カーンに関心を持たれた方は、本作だけは絶対に外さないで下さい。
「これぞ、まさしくミック・カーン!」といえる傑作中の傑作です。


ちなみに、前2作はジャパン時代の契約の延長だったのか、大手ヴァージンからのリリースでしたが、本作からドイツのCMPレーベルに移籍、しばらくはトーンと共にこのレーベルに腰を据え、アルバム・セールスに縛られることなく、のびのびと活動しており、次作『Tooth Mother』でもミックらしさを満喫していただけると思います。

また、本作の発表以降も、ソロとJBKでの活動の傍ら、UKやミッシング・パーソンズ [ Missing Persons ] のテリー・ボジオ [ Terry Bozzio ] 、ジャコ [ Jakko ] 、小林明子 [ Holi ] 、ジュディマリのYUKI、B-52'sのケイト・ピアソン [ Kate Pierson ] 、四人囃子やプラスチックスの佐久間正英、ルナシーのSUGIZO、一風堂の土屋昌巳、ビビアン・スー、シンプリー・レッド [ Simply Red ] の屋敷豪太、半野喜弘などなど、数えきれないくらいの有名どころとセッション・ワークをこなし、その後も相変わらず彼へのオファーは尽きないようです。

SUGIZOのライヴに出演したミックの映像
ミック・カーンのインタビュー映像

最近のソロでは、本作の頃ほど個性を発揮しきれていないのが残念なのですが、それでも、控えめながらしっかりとミックらしさが出ているところはさすがです。


恐らくミックは、これからも旧友デヴィッド・シルヴィアンと一緒に仕事することはないと思うのですが、できることなら、彼らの今の音で、(ジャパン時代の楽曲を再演するような再結成ではなく)再びレイン・トゥリー・クロウのような再結成を見せていただきたいと思います。

それがもっぱらの私の夢です。
/BLマスター

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2007年04月17日

Door X/David Torn

Door X/David Torn

本作『Door X』は、1990年に発表されたデヴィッド・トーン [ David Torn ] のソロ名義のアルバムです。

本作は、なぜかウィル・アッカーマンやジョージ・ウィンストンなどでおなじみのウィンダム・ヒル・レーベル [ Windham Hill Records ] からリリースされており、当時、本作をタワー・レコードのロック・コーナーで探し回っても見つからず困り果てたことを思いだします。

結局、店員さんに探してもらい、ウィンダム・ヒルのコーナーで見つけた時にはその意外さに驚いたのですが、調べてみれば、この頃のウィンダム・ヒルはニューエイジ系の音楽にも精通していたようで、本作はその中でもかなりアバンギャルドなもののようです。

デヴィッド・トーンのギタープレイは非常に特徴的で、独特のフィードバックとエフェクト使いによる「ループギター」と言われる奏法により、まるでシンセサイザーのパッド系の音色のような浮遊感のあるエフェクティブな音色を奏でます。

ちなみに、「ループギター」という名称は、多種多様なエフェクターを用い、通常のコードワークを主にしたギターではあり得ないエフェクティブな音色を奏で、楽曲において幅広い役割を持つギタープレイのことで、この手の音の一部分をループして同じ箇所を何度も再生するだけでもアンビエント系の楽曲になることからこの名で呼ばれています。

彼のギター・プレイは、こういった音色の他にも、ピンク・フロイドのデイヴ・ギルモアを思わせるクリーントーンもあり、これもまた気持ちよいのですが、「ループギター」というプレイにおいては世界的に第一人者であり、まさしく唯一無二な存在と言っても過言ではないでしょう。

彼は、元ジャパンのメンツや、キング・クリムゾンのメンツなどとも非常に親交が深く、これらのバンドの枝分かれした数々のバンドやユニットでもその才能を発揮していることでも有名です。

私の個人的な(勝手な)彼の位置づけとしては、ロバート・フリップ [ Robert Fripp ] とエイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] 、そしてデイヴ・ギルモア [ David Gilmore ] 、ビル・フリゼル [ Bill Frisell ] という四角形の中の中心に位置し、エイドリアン・ブリューと並んで最も敬愛する変態ギタリストになっています。

本作『Door X』は、そんな彼のソロ・アルバムの中で、個人的に最高傑作と感じている作品で、すべての楽曲において彼の変態ギターを堪能できる秀作です。
なお、昨年10月に紹介した『The Collection』はCMPレーベルでのベスト盤であるため、本作『Door X』の楽曲は収録されておりません。

このアルバムの参加アーチストは、盟友とも言える元ジャパンの変態フレットレス・ベーシスト、ミック・カーン [ Mick Karn ] を始め、同じく数々の作品で共演しているキング・クリムゾンのタコ足ドラマー、ビル・ブラッフォード [ Bill Bruford ] 、布袋寅泰のツアーにも参加したマルチ・キーボーダー、アントニー・ウィドフ [ Antony Widoff ] 、スムース・ジャズ界の貴公子と呼ばれるイケメン・トランぺッター、クリス・ボッティ [ Chris Botti ] など、一癖も二癖もある個性的なメンツで、ジャズやプログレ、ブルース、ニュー・エイジとも取ることの出来る摩訶不思議な音を構築しています。

このような表現で説明すると、いかにも小難しそうなイメージを持たれるかも知れませんが、ウィンダム・ヒルからリリースされているにもかかわらず半数以上は歌ものですし、それなりに音楽を聴いていらっしゃる方なら決して退屈することのない面白いアルバムで、決してテクニックご披露大会的な作品ではありません。

はっきり言って、トーン自身が歌うボーカルは特に上手いわけではないのですが、それでも伸びのある特徴的なハイトーンは味わい深いものがあります。

しかし、聴きどころは何といってもトーンのギターワークと、それを取り巻く個性のキツい参加アーチストの競演です。

特に、ジミヘンの名曲をカバーした「Voodoo Chile」は本作の最大の見せ場で、トーン独特のループギターと、どこかブルージーながらサスティーンが長く気持ち良いソロ、さらに、ミックの変態ベースやブラッフォードのタコ足ドラムなどが、それぞれの個性をしっかりと主張し合いながら演奏している様は非常にエキサイティングです。

さらに、同じメンツで演奏される「Promise」ではAORチックなメロディーのバックに、やはりそれぞれの個性のキツい音が重なり合い、独特の不思議な音を聴かせてくれます。

残念ながら、本作はアマゾンでも試聴できませんし、本作に収録された楽曲をYouTubeで発見することもできませんでした。
しかし、彼のプレイしている映像は存在しますので、この機会に紹介しておきます。

デヴィッド・トーンによるスタインバーガーのデモ演奏の映像
ミック・カーン「Daris Car」のライヴ映像

デヴィッド・トーンがお好きな方はもちろんのこと、ミック・カーンやビル・ブラッフォードあたりがお好きな方にはぜひ聴いていただきたいトーンの最高傑作だと私は思います。
/BLマスター


追記:
あと、本来はこのブログで紹介すべきではないのかも知れませんが、DTMや多重録音で音楽を作っておられる方にオススメしたいのが、デヴィッド・トーンのサンプリングCD『DAVID TORN - Pandora's Tool Box』です。

Pandora's Tool Boxこれは、デヴィッド・トーンのエフェクティブでトリッキーなループギターを全70トラックも収録したサンプリング音源で、お手持ちのサンプラーやハードディスク・レコーダーに取り込むことで、彼の特徴のある音色をあなたの楽曲の中に加えることができます。

クリムゾンやジャパンの系列に属する音楽を作っておられる方にはぜひ使っていただきたい貴重な音源です。

ちなみに、このパッケージのカバーアートは、盟友ミック・カーンの彫刻をモチーフ使ったもので、ここでも彼らの親交の深さがうかがえますね。

このサンプリングCDのデモサウンドは下記で聴くことができますので、興味を持たれた方は一度聴いてみて下さい。
 ↓
DAVID TORN Pandora's Tool Box(Q Up Arts社デモリンク)

このサンプリングCDはこちらで購入できます。
 ↓
DAVID TORN - Pandora's Tool Box

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2006年11月16日

The Collector's Edition/Mick Karn

Mick Karn The Collector's Edition

本作は、1996年に発表された、このブログではおなじみの元ジャパンの変態ベーシスト、ミック・カーン [ Mick Karn ] がドイツのCMPレーベルに移籍してからのベスト盤的内容で、本来ミュージシャンが持っていて当たり前の音楽的知識を身につけてからのミックを知るには持ってこいのアルバムと言えるでしょう。

これまでに紹介したミック・カーンの記事の内容とかぶるのですが、彼はジャパン在籍時代にはコード進行的な知識は一切持っておらず、逆にそれが功を奏したのか、ジャパンの3rdアルバム『Quiet Life』でフレットレス・ベースに持ち替えてからと言うもの、爬虫類を思わせるミック独特のウネウネベース奏法が生まれ、特に個性派アーチストたちから引っ張りだことなりました。

まさしく「ベースが歌う」という意味を感じ取って頂けるベースラインを奏でるミック・カーンは、かなり希少な個性派ベーシストの一人です。

ジャパン以外で他のアーチストの作品に参加したのは、ジャパン在籍時代のゲイリー・ニューマンの『Dance』という作品が最初で、ウルトラヴォックスのミッジ・ユーロや、バウハウスのピーター・マーフィーとの『Dari's Car』、キング・クリムゾンのビル・ブラッフォード、UKやミッシング・パーソンズ、VAIで知られるテリー・ボジオ、そして、ジャパン解散後はほとんど相方と化している同じく個性派ギタリスト、デヴィッド・トーンらとのセッションで徐々に本来ミュージシャンが持つべき音楽的知識を身につけて行ったのです。

そのせいもあるのか、最近の作品では、昔のミックらしいウネウネベースフレーズが聴けなくなって来たのが残念なのですが、さすがに『The Collector's Edition』と銘打った本作ではその存在感あるプレイを充分に堪能してもらうことができます。

ちなみに、このアルバムでもほとんどの楽曲にトーンが参加しており、サウンド的には、先日紹介した同じくCMPでのベスト盤的内容のデヴィッド・トーン『The Collection』と姉妹作品的な感覚もあるのですが、さすがにそれぞれのソロ名義だけあって、どちらも各自の個性が発揮された楽曲を選んでおり、同じ曲は収録されていません。

それぞれのソロアルバムだけでなく、他のアーチストの作品や単発もののユニットにペアで参加し異彩を放っている二人だけに、どちらも非常に興味深い内容で、既存のポップソングに興味がなくなって来たという方にはぜひ聴いて頂きたい作品です。


1.「Little Less Hope」は『Tooth Mother』からの一曲で、SEの後、いきなりミックらしいウネウネのベースと、トーンらしいトリッキーなギターを聴くことが出来る、マイナー進行ながらポップな楽曲です。
この曲ではミックの低いボーカルを聴くことも出来ますよ。

2.「Bestial Cluster [Alternative Edits]」は『Bestial Cluster』の一曲目に収録されたパワフルなタイトル曲のバージョン違いで、いつものミックのベース音とは違ってかなり歪んだ個性的な音を使っています。
ミックのソロライヴでは一曲目に演奏され、のっけからノリノリ、インストながら大変ポップに仕上がっており、アート系のサウンドが苦手な方にでも自信を持ってお勧めできる分かりやすい楽曲です。

「Bestial Cluster」のJBKでのライヴ映像

3.「Bandaged by Dreams」は、テリー・ボジオ、デヴィッド・トーンとの共作『Polytown』からの一曲で、シンプルな編成ながら異彩を放つ楽曲。
『Polytown』の中では比較的メロディアスな曲ながら、このアルバムの中ではかなりアート寄りなので一般ウケはしないかも知れません。
しかし、この3人の個性のぶつかり合いは、単なる足し算では終わらないところがミソ。

4.「Feta Funk」は、ミックお得意の中近東っぽいサウンドがクローズアップされた『The Tooth Mother』からの一曲。
これまた、ミックのよく使う奏法のリバース・ベースも多用され、ナターシャ・アトラスの雰囲気のあるボーカルが変拍子の楽曲を引き立てています。

5.「Liver and Lungs [Alternative Mix]」は『Bestial Cluster』に収録された曲のバージョン違いで、デヴィッド・リーブマンのソプラノ・サックスがフューチャーされた、これまた変拍子かつ、ムーディーな楽曲。
ベースが歌っているという表現がぴったり当てはまります。

6.「Saday, Maday」は、同じく『Bestial Cluster』からの一曲で、サックスやボーカルパートはあるものの、基本的に頭に残るメロディーラインはミックのベースがほとんど。
やはり、異国情緒漂うミックらしいドラマティックな楽曲です。
スティーヴ・ジャンセンのドラミングもかなりいけてます。

7.「Corridor」は、マイケル・ホワイト、マイケル・ランバート、デヴィッド・トーンとのユニット『Lonely Universe』からの一曲。
トランペットのせいかフリージャズ的な要素も多分に含んでいますが、やはりミック×トーンのコンビ芸のすばらしさを痛感できる秀作です。

8.「House of Home」は、アンディー・ラインハルトの『Jason's Chord』からの一曲で、
アンディーの美しいピアノにミックとトーンが巧い具合に自分たちの個性をかぶせ、ほっと落ち着ける、ある意味で牧歌的な雰囲気を作っています。

9.「Drawings We Have Lived」は、今作唯一の未発表曲で、旧友リチャード・バルビエリも参加する現代音楽的な楽曲。
デヴィッド・トーンのループ・ギターが非常に心地良く響きます。

10.「Red Sleep」は、再び『Polytown』からの一曲で、テリー・ボジオのドラミングがすばらしい楽曲です。
比較的落ち着いた楽曲において、まるでドラムソロを叩いているようなドラミングと、滑らかなミックのベース・フレーズの対比は特にすばらしく特筆ものです。

11.「There Was Not Anything But Nothing」は、『The Tooth Mother』の最後に収められた楽曲で、旧作『Dreams Of Reason』を思わせる吹きもの系が中心のエピローグにふさわしい曲です。
ドラムは入っていませんが、ミックらしい重たさが感じられ、なかなかの秀作です。


ただ、さすがに彼のソロ名義のプロモやライヴ映像を探すのは難しいので、このアルバムに収録していない楽曲で、ジャパン以外の映像を数曲ピックアップしておきます。

元LUNA SEAのSUGIZOライヴでの「Sons of Pioneers」の映像
ミックのソロライヴでの「Dalis Car」の映像(トーンも参加)
JBKのライヴでの「Plaster The Magic Tongue」の映像
土屋昌巳のライヴでの「Sea Monster」の映像
イタリアの歌姫アリーチェのライヴに参加した映像(スティーヴも参加)

以前のミックのインタビューで「ヴァージンにいた頃はセールスも良くはなく、アルバム制作において完全な自由はなかった。しかし、CMPに移籍してからは、こんなボクでも稼ぎ頭だからね。やりたいことをやらせてもらえるのさ。」という風なことを言っていました。

小さいレーベルならではの、フットワークの軽さが活かされたというわけですね。
ぜひ、自由でのびのびしたミック・カーン・ワールドを堪能して下さい。
/BLマスター

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2006年10月24日

The Collection/David Torn

David Torn the collection

デヴィッド・トーンはセッションミュージシャンとしても有名な、知る人ぞ知る、唯一無二なループ系のギターを弾く変態ギタリストです。

ちなみにループ系ギターというのは、多種多様なエフェクターを用い、通常のコードワークを主にしたギターではあり得ないエフェクティブな音色を奏でることで楽曲において幅広い役割を持つギターで、この手の音の一部分をループして同じ箇所を何度も再生するだけでもアンビエント系の楽曲になることからループ系という名称で呼ばれています。

私が彼の名を知ったのは、デヴィッド・シルヴィアンの初のソロライヴでのことで、その弦楽器としてのギターの使用範囲を遥かに超越した見事なプレイは、私の脳裏にくっきりと焼き付き、以来、彼の参加作品を買いあさるようになりました。

その後、ジャパンのシルヴィアン以外のメンバーと行動を共にするようになり、ミック・カーンのソロや、ミックも参加するビギニング・トゥー・メルト、JBKなどのアルバムにもかなりの部分で参加、キング・クリムゾンのビル・ブラッフォードやトニー・レヴィン、元ミッシング・パーソンズのテリー・ボジオらとのセッションでも変態ギタリストぶりを発揮しています。
中でも特にミック・カーンとは親密で、アルバムやツアーはもちろんのこと、数々のセッションで共に参加し、盟友ぶりを見せています。

今回紹介するアルバムは1998年に発表された作品で、ドイツのレーベルCMPからリリースされた80年代〜90年代の彼のセッションから代表的な曲を一枚につき1曲づつ収録したベスト盤的な内容のものです。
ある意味で、CMPレーベルのカタログ的な作品なので、こういった曲がお好きな方には非常にお得感もあるのではないかと思います。

1.「Shofar」は、94年に録音されたトーンのソロ『Tripping Over God』からの1曲で、全てトーンのギターの音だけで構成されたアンビエントな小曲です。

2. 「Jason and Martha」は、92年のAndy Rinehartのアルバム『Jason's Chord』からの1曲で、盟友ミック・カーンも参加しているわりにはアバンギャルドさがなく、しっとりと聴かせる落ち着いたボーカル入りの楽曲。Kurt Wortmanのドラム、パーカッションが民族的な響きで小気味良い味を出しています。

3. 「Thundergirl Mutation」は、ミック・カーンの名盤『Tooth Mother』からのド派手な1曲。これはまさしく変態ベース×変態ギターを象徴するすばらしい楽曲で、非常に音数の多いGavin Harrisonのドラムや、地味ながら雰囲気作りに貢献しているリチャード・バルビエリのシンセサイザー、中近東寄りな女性ボーカルまで、見事にコンビネーションを聴かせる一番のオススメ曲です。

4. 「Rope Ladder to the Moon」は、マーク・ナウシーフとMiroslav Tadic(ごめんなさい、読めません)の『Snake Music』からの1曲で、生楽器だけで構成されたジャズ〜ニューエイジ寄りなボーカル作品。インプロ(即興演奏)的な要素も感じ取ることができ、興味深い楽曲です。

5. 「Zavana」は、マーティー・フォーゲルの89年の作品『Many Bobbing Heads, at Last ...』からの1曲で、ニューヨーク系(ジョン・ゾーンのような)のフリージャズ的なインプロ曲。
アコースティック楽器の中にあって、トーンのエフェクティヴなギターが馴染んでいるのが不思議ですが、何よりアート指向な側面を感じさせてくれるアバンギャルドな楽曲です。

6. 「Snail Hair Dune」は、トーンが、ミック・カーン、テリー・ボジオと組んだ93年のPolytownという3ピースのユニットからの1曲で、究極の変態プレイヤーが3乗になるとこうなるのかと驚かされた楽曲です。意外にもそれぞれ見せ場を作り、その掛け合いによって成り立っているのでゴチャゴチャ感がなく、新しいフリージャズとでも言うべきシンプルでアバンギャルドなインプロ大作です。

7. 「Passenger」は、トーンがマイケル・ランバート、マイケル・ホワイト、そしてミック・カーンと組んだ88年のLonely Universeというユニットからの1曲で、実験的な要素を多分に盛り込んだニューエイジ的な楽曲。ミックのリバース・ベース(逆回転系の音色)が実に気持ちよく響きます。

8. 「Drowning Dream」は、92年のミック・カーンの傑作中の傑作『Bestial Cluster』からの1曲で、スティーヴ・ジャンセン、リチャード・バルビエリも参加し、無国籍な雰囲気のアバンギャルド・ポップスといった趣の楽曲。ボーカルもミックが担当しています。

9. 「Tiny Burns a Bridge」は、95年のトーンのソロ『What Means Solid, Traveller?』からの1曲で、これも全てトーン1人で制作した中近東的なものと、ブルージーなものが同居する不思議な楽曲です。

10. 「Kids」はマーク・ナウシーフというドラマーの83年の作品『SURA』からの1曲で、かなり中近東寄りな(というか、本編はそのもの)楽曲です。部分的に環境音楽的なパーツとジャズ的なパーツがコラージュされているところが粋ですね。

11. 「Merciful」もマーク・ナウシーフのユニットDarkの88年の作品『Tamna Voda』からの1曲で、やはり中近東っぽい雰囲気(シタールのような奏法の部分もあります)のあるインプロ的なアコースティック・ギターの上にトーンらしいエフェクティブなギターが絡みます。

12. 「Nursing Emphysema」は、ウェス・マーティンの93年の作品『Three Pound Universe』からの1曲で、ピンク・フロイドでギルモアのギターの代わりにトーンが弾いているところを想像してもらえるとわかりやすいと思います。落ち着いたプログレっぽい歌ものの名曲ですね。

デヴィッド・トーンは、92年に聴神経腫を患い、現在でも右の耳に聴覚障害を持っているのですが、それでも頭の中で出来上がったステレオ感のある音を想像することが出来るそうで、それ以降も実に完成度の高い作品を残し、現在では他のアーチストのプロデュース業もこなしています。

好き嫌いのはっきり分かれる作品ですが、興味を持たれた方は聴いてみられてはいかがでしょう。
アマゾンで5曲目まで試聴することが出来ます。
/BLマスター

追記:
トーン氏の闘病の様子について、ブルースターさんがこちらの記事で詳しく書いておられます。
彼のプレイに関して興味を持たれた方はぜひご覧になっていただきたいと思います。

uknw80 at 16:18|PermalinkComments(6)TrackBack(1)

2006年10月04日

Dreams Of Reason/Mick Karn

Mick Karn Dreams Of Reason

この作品は87年発表のジャパン解散後初のソロ、ミック・カーンにとっては2枚目のソロアルバムです。

このアルバムの目玉は、何といってもデヴィッド・シルヴィアンが2曲もボーカルで参加していることでしょう。

ジャパン解散時からミック・カーンとシルヴィアンの不仲説が飛び交い、解散の原因になったとまで報じられた2人ですが、解散後、この2人が一緒にアルバムにクレジットされたのは、この『Dreams Of Reason』と、ジャパンの事実上の再結成作品『Rain Tree Crow』のみです。
また『Rain Tree Crow』ではシルヴィアンの意向でミックの特徴的な変態ベース・フレーズが抑えられており、本来のミックらしいプレイとシルヴィアンの歌を同時に聴くことができるのは、このアルバムのみなんです。

前作『TITLES(邦題:心のスケッチ)』のLPではA面がインストもの、B面が歌ものと分けられ、単品の楽曲をまとめた作品集的なアルバムでしたが、この『Dreams Of Reason』はまるで1枚のコンセプチャル・アルバムのように作られています。
わかりやすく言えば、アラカルト料理と、コース料理の違いですね。

また『TITLES』はベースのフレーズにこだわり抜いた作品であるため、ベーシストのソロらしい「くどさ」を感じるところもあったのですが、この作品ではベースのフレーズ作りだけにこだわらず、アルバム全体の雰囲気を重要視しているのか、バランスよくミック・カーンらしいエッセンスを散りばめてあるように感じ、プレイヤーがアーチストになった瞬間がこの作品と言えるような気がします。

まず、プロローグ的な「First Impression」では、重たいベースフレーズと少々民族的なパーカッションとドラムが入り、徐々にブラスセクションやシンセサイザー、ピアノなどが重なって行き、これから始まるミック・カーン・ワールドの予兆を感じさせてくれます。
続く「Language Ritual」も、1曲目と同じライン上にあるリズム体の上に、ミックの吹くオーボエ(?)やサックス、サウンド・ロゴ的なピアノなどが絡むという展開で、まるでサスペンス系の映画のサントラのような印象です。

そして、シルヴィアンがボーカルを担当し、シングルカットもされた曲「Buoy」。
このアルバムの中では一番ポップなこの曲にリバース・ベース(テープを逆回転させたようなアタック感のない音)を持ってくるセンスはさすがですね。
また、この楽曲は、ジャパン作品やシルヴィアン作品の色はあまり感じさせることなく、あくまでもミック主導型の作品であることを強く感じました。

4曲目の「Land」はLPで言えばA面最後の曲で、ジャパンの未発表曲だったリチャード・バルビエリのインスト曲に似たイメージの、これもまた映画のサントラ風の小曲(とはいえ4分半はあります)。
ここまでは、「Buoy」を除いて、ミックの特徴的なベースは控えめで、彼のもう一つの担当楽器でもある、サックスやオーボエなどの吹きもののアンサンブルに重点を置いているように感じます。

5曲目「The Tree Fates」はお待ちかね、やっとミックの変態ベースが聴ける楽曲で、ボーカルを入れてもおかしくないくらいのドラマティックな展開の秀作です。

6曲目「When Love Walks In」はシルヴィアンの歌うもう一つの楽曲で、個人的にはこの中で一番好きな作品です。
どちらかと言えば地味な印象のある曲ではありますが、ミックのベースやシルヴィアンのボーカル、曲の中での強弱の付け方やバッキングの音色、どれをとっても非常にバランスがよく、ミックのコーラスも活きています。

7曲目はタイトル曲の「Dreams Of Reason」は、吹きもの系のアンサンブルをメインにした4分弱の小曲で、まさしくこのアルバムを象徴する1曲です。

最後にこのアルバムを飾るのはエンディングにふさわしい、パイプオルガンに聖歌風のコーラス隊が絡むホラー映画のサントラのような楽曲「Answer」。
彼の彫刻作品をご存知の方ならわかる、ミックらしい作品です。

ミック・カーンの彫刻作品のサイトはこちら
ミックの彫刻作品をバックにしたインタビュー映像

以上のようなストーリー性すら感じる作品がこの2ndです。

ミックの個性的な変態ベースを堪能したい方にお勧めするなら『TITLES』や『Bestial Cluster』、ミック・カーンという1人のアーチストを知りたい方にはこの『Dreams Of Reason』か『The Tooth Mother』をお勧めします。

なお、このアルバムに収録される楽曲の映像がありませんでしたので、代わりにいくつかミックのベースプレイを堪能出来る映像をピックアップしました。
興味を持たれた方はぜひご覧下さい。

TV番組でのJAPANのライヴ映像
JBK(シルヴィアン以外のJAPANのメンバー)のライヴ映像
元LUNA SEAのSUGIZOライヴでのミックの映像
土屋昌巳のライヴでのミックの映像

彼のベースにハマってしまうとなかなか抜け出せませんよ。
私は、もう普通のベースでは満足出来なくなってしまいました。
/BLマスター

uknw80 at 15:58|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2006年08月05日

DANCE/GARY NUMAN

GARY NUMAN DANCE

このアルバムはゲイリー・ニューマンのソロ名義になっていますが、ジャパンのベーシスト、ミック・カーン(Mick Karn)との共作といっても過言ではないでしょう。

それはこのアルバムを聴いてもらえばわかることなのですが、それまでのゲイリー・ニューマンの作品とはかなり毛色の違うものになっています。

というのも、かの変態フレットレス・ベーシスト、ミック・カーンの圧倒的な存在感のあるウネウネしたベースフレーズがほぼアルバム全体に染み渡り、ある意味では、このアルバムが発表される1年前に出た、ジャパンの「Gentlemen Take Polaroids(邦題:孤独な影)」のアウトテイク(アルバム未収録曲)かと感じるほどリズムが変化しているのです。

ゲイリーの使用するシンセサイザーに関しても、愛用のアープ・オデッセイはもちろん使っているものの、デヴィッド・シルヴィアンが好んで使っていたシーケンシャル・サーキットのプロフェット5や、リンドラムもかなりの曲で使用され、しかも、7曲目の「Boys Like Me」のみではありますが、ギタリストとして、当時ジャパンを脱退したばかりのロブ・ディーン(Rob Dean)までゲスト参加していて、まるで「GARY NUMAN+JAPAN」といった感覚のアルバムです。

とはいえ、一聴してゲイリーの音色とわかるあの独特のシンセの音はどの曲を聴いても健在ですのでご安心を・・・。

2004年の「Night Talk」のライヴ映像

あと、歌詞においても変化が見られ、それまでの夢見がちな歌詞とは一転し、当時の大失恋の痛手からか、現実的でアンハッピーな内容となっています。

言わば、幻想アンドロイドがヨーロピアン・ダンディーに変身したといった趣です。

また、何度も言うようですが、当時のミック・カーンの変態ベースフレーズは解放弦を多用しているため、それぞれのヴォーカリストのキーに合わせることができなかったと考えられます。
そのため、ダリズ・カーではピーター・マーフィーの声を活かしきれなかったのではないかと思うのですが、このゲイリー・ニューマンとのコラボに関しては非常にうまく合っているように感じます。

彼の爬虫類を思わせる粘りのあるヴォーカルスタイルは、低いキーにおいて線は細いながらシルヴィアンの声と似たところもあり、ミック・カーンとの相性が抜群に良いのです。

このアルバム以降、それまでワンパターンだったゲイリー・ニューマンの曲調は幅が広がり、この次に発表された「I,Assassin」ではこれまた個性的なフレットレス・ベースで定評のあるピノ・パラディーノ(ポール・ヤングの1stなどで有名)らの力を借り、ファンキーなサウンドアプローチをするようになったのは、ミック・カーンとのコラボに新境地を見いだした結果なのではないでしょうか。

このアルバムには他にも、ゲイリーと以前から親交の深いクイーンのドラマー、ロジャー・テイラーや、バイオリンでナッシュ・ザ・スラッシュがそれぞれ3曲づつ参加しており、曲調の幅を広げるのに一役かっています。

ミック・カーンの変態ベースのファンの方にはぜひぜひ持っておいてもらいたい作品です。
/BLマスター

uknw80 at 18:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2006年07月20日

The Waking Hour/Dalis Car

Dalis Car

JAPANのミック・カーンとBAUHAUSのピーター・マーフィーがそれぞれのバンド解散後の1984年に結成し、たった1枚のアルバムを残して決裂してしまった幻のバンドがこの「ダリズ・カー」です。
実は、LINN DRUMというリズムマシーン担当で、ポール・ヴィンセント・ローフォードという人も正式メンバーとして参加しているのですが、あまり有名でないためか上の2人のユニットとしてとらえられることが多いようです。

ミックもピーターも大好きな私の感想としましては、ミック・カーンの1stソロアルバム「TITLES」のアウトテイクに、ボーカリストとしてピーターが参加しているといった雰囲気です。

勝手に私が推測するに、ミックの当時の演奏を考えると、まったくの独学でベースを覚えたため大変個性的なメロディーを奏でることで有名なのですが、実は、このフレーズには、解放弦から突然ハイポジションに飛ぶというような弾き方が多いので、カポタストでも取り付けない限り移調ができないんです。

たまたまジャパンではデヴィッド・シルヴィアンの音域にピッタリ合っていたため、ミックとしても気にせず解放弦を使いまくってフレーズを作っていたのですが、その手法ではピーターの広い音域には対応できなかったんだと思うんです。
さらに、ミックのフレットレス・ベースはデヴィッド・Jのそれと違い、中近東寄りなメロディーを奏でるリード楽器的な役割も果していますから、ピーターにすればバウハウス時代とずいぶん勝手が違うはずです。

しかも、ピーターは殆ど楽器が弾けませんし(簡単なギター程度)、ポールはリズムプログラミング専門ですから、曲作りにおいてミックの独壇場となるのは当然のことでしょう。

それゆえ、ピーターは本来の自分らしい音域で歌えずかなりのストレスだったのではないでしょうか?

ミックとしては、音楽理論的なことがまだわかっていない時代のことで、なぜピーターが求めている音域で歌えないのかわからなかったのかも知れません。

しかし、このアルバムが決して悪い出来というわけではなく、むしろ、その緊張感が伝わってくる唯一無二な傑作なのです。

「Dalis Car」の奇妙な中近東寄りなポップ感とピーターの緊張感のある低いボーカルや、「His Box」や「The Judgement Is The Mirror」の呪術的ですらある曲作りは特筆ものです。

美しい「The Judgement Is The Mirror」のプロモはこちらで観ることができます。↓
The Judgement Is The Mirror

ベースとボーカル以外はすべてプログラムされた無機的なものであるにもかかわらず有機的に聴こえるこの作品は、ミックとピーターならではの傑作です。

未聴の方はぜひお聴きになってみて下さい。
ゾックッとしますよ。
/BLマスター


追記:
2007年10月23日現在、上に紹介した盤は品切れ中のようですが、下記のUS盤(同内容)は販売中でした。

お探しの方は、下記の盤もチェックしてみて下さいね。


uknw80 at 14:33|PermalinkComments(2)TrackBack(0)

2006年07月14日

TITLES/MICK KARN

Mick Karn TITLES

ジャパン在籍時(錻力の太鼓発表後「82年」)のミック・カーンの1stソロアルバムがこれです。
ベーシストのソロらしく、ベースの存在感はかなりのものです。
とはいえ、こんな変態チックなベースを弾く人は他にいないので、存在感があって当たり前なのですが、それにしても気持ちのいいベースです。

というのも、実はこのアルバムの発表当時、ミック・カーンはまだベースの基礎を知らずに弾いていたというのです。
ということは、驚くべきことにジャパンのアルバムはすべて我流のベースラインということになりますね。
この数年後、キング・クリムゾンのビル・ブラッフォードらとセッションした際に、ビルが「もっと低いのを鳴らしてくれ」と言ったところ、ミックは地面に対して一番低い弦(一番高い音が出る細い弦)を弾いて笑われたり、コードを知らなかったりと、とてもあれだけのベースを弾いていた人間とは思えないくらいの楽典的な知識の薄さに周りのアーチストは驚いたとか・・・。

ジャパン時代には、デヴィッドが持って来た曲に対して仮セッションを行って肉付けする際、ミックはラジカセに録音して一旦自宅に持ち帰り、次の日にはほとんど出来上がった状態のベースフレーズを作って来たと言います。

きっとミックはすごく耳がいいんでしょうね。
彼のベースがフレットレス・ベース(ベース界のロールス・ロイスと言われる「Wal」のチューリップ・ウッド製)であることも大きな特徴ですが、楽典的な知識も知らずに、聴いた感覚だけで、ベースをいじってて気持ちいいフレーズを乗せることができるのですから天才的です。

逆に楽典的な知識や、ベースの基礎を知っていたらこんな気持ちのいい変態フレーズは産まれなかったのかも知れません。

最近のアルバムでは、独特のミック・カーン節とも言えるフレーズが少なくなって来たのは、いろんな音楽的な知識を吸収してしまったからなのかも知れないですね。

そういった意味でもこのアルバムは傑作です。
恐らく、1曲目「Tribal Dawn」の始めの5秒を聴くだけでもその変態フレーズがよくわかってもらえると思います。

話が長くなりましたが、このアルバムはLPで言うところのA面4曲がインスト、B面4曲が歌ものという構成で、9曲目「Sound of Waves」はボーナストラックです。

アルバム自体は全体的に、どこか中近東〜オリエンタルな臭いのするメロディーを感じることができるのですが、彼の生まれがキプロス島であることも影響しているのかも知れません。(ちなみにミック・カーンの本名はアントニオ・ミカエリデといいます)

私個人的には「Tribal Dawn」「Savior, Are You With Me?」「Sensitive」がおすすめ曲ですが、他の曲も決して悪い出来ではありません。

残念ながら、このアルバムはアマゾンで試聴が出来ませんので、下の映像で、ミックの変態ベースプレイをご堪能ください。

「Angie Bowie & Mick Karn」
(ちなみに横のおばちゃんはローリング・ストーンズの「Angie」に歌われたミック・ジャガーの元彼女であり、元デヴィッド・ボウイの奥方でもあるアンジー・ボウイです。)
/BLマスター

uknw80 at 16:06|PermalinkComments(0)TrackBack(0)
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