☆米国のニューウェーヴ

2008年10月29日

Earthquake Island/Jon Hassell

Earthquake Island/Jon Hassell


今日紹介するのは、1979年に発表されたジョン・ハッセル [ Jon Hassell ] の2ndアルバム『Earthquake Island』です。

ジョン・ハッセルは、ブライアン・イーノ [ Brian Eno ] デヴィッド・シルヴィアン [ David Sylvian ] ピーター・ガブリエル [ Peter Gabriel ] 、ライ・クーダー [ Ry Cooder ] などのアーチストの作品でも超個性的な音色のトランペットを聴かせてくれるアメリカはテネシー州メンフィス出身のアーチスト。

実は、私が、ジョン・ハッセルというアーチストの名前と独特の音色が一致したのは、84年に発表されたデヴィッド・シルヴィアンの1stソロ・アルバム『Brilliant Trees』が最初で、この作品の彼の音色に惚れ込んでしまったのがきっかけなんですよ。

それまでにもイーノとのコラボ作品『Fourth World, Vol. 1: Possible Musics』で耳にしていたはずなのですが、やはり、崇拝しているアーチストの作品は聴き込み方が違うのでしょうね(単に探究心がなかっただけかも知れませんが…)。

David Sylvian「Brilliant Trees」を使った映像作品
David Sylvian「Awakening」を使った映像作品

彼の独特の音色を私なりに説明すると、昆虫の羽音、もしくは、コカコーラなどのガラス瓶を吹いた音にハーモナイザーをかけたかのような音色で、音程の揺らぎ具合が非常に心地よく、どこか、中近東やアラブ系の民族音楽を思い出させます。

初めはリリコン(※)などで電気的に作られた音色だろうと思っていたのですが、クレジットを見るとトランペットとあり、どのようなエフェクトを使用しているのか興味をそそられてしまいました。
((※)今で言うウインド・シンセサイザー。見た目はソプラノ・サックスのような管楽器型のコントローラーの単音シンセで、昔はウインドシンセの代名詞的な使われ方をしていました。あ〜懐し!)

とはいえ、私は管楽器を演奏する技術は持ち合わせておりませんでしたので、友人の持っていたYAMAHAのWX7というウインドシンセやYAMAHA DX-7にウインドコントローラーをつけるなどして、いろいろな音色にハーモナイザーやコンプレッサーなどをつないで実験してみることにしたのです。

結局、Roland D-50(アタック部分に生楽器の波形がサンプリングされたタイプのデジタルシンセ)の「尺八」の輪郭を金属的にいじった音色に3度か5度上下した音を重ね、ウインドシンセでコントロールすることで似たような音色が得られることがわかったのですが、ここでさらに疑問が生まれました。

「尺八」と「トランペット」ってずいぶん音が違いますよね?
むりやり言葉で説明するなら、尺八がアタック感のない「フオォ〜」で、トランペットが金属的な「パァー」ですものね(笑)。
さて、本当にハッセルはトランペットを吹いていたんでしょうか?

この謎は、後の「ミュージックマガジン」と載っていたレビューで解くことができました。

どうやらハッセルはトランペットを、マウスピースを付けずに吹いたり、マウスピースを逆に付けたりして吹くことがあるらしく、それにエフェクトをかけることでこの独特の音色を出しているようなのです。

管楽器に詳しくない私には、そんな状態で音を出すことができるのかという新たな疑問が生まれたのですが、可能だとすれば尺八的な音色が出ていても不思議はありませんね。

う〜ん、なんとニューウェイヴィーなトランペット奏者なのでしょう。

しかし、こういったアバンギャルドな奏法だけがハッセルの音色ではありません。

彼の他のソロ・アルバムや参加作品を何枚か聴いてみると、曲によっては、先述の尺八を加工したような音色だけだけではなく、曲によっては、マイルス・デイヴィスに代表される、いわゆるジャズ系のトランペットの音色でジャズを演っているんですよ。

ニューウェイヴを経由してハッセルを知られた方は、実験的なニューエイジ系のアーチストという印象を持っておられる方が多いと思うのですが(私もそうでした)、立派にジャズのトランぺッターなんですよね。


前置きが長くなってしまいましたが、本作『Earthquake Island』は、そんなジョン・ハッセルのソロ2作目にあたるアルバムで、生楽器による民族音楽的なリズムにハッセルのトランペットとシンセサイザーが融合した実験的なアルバムです。

しかし、小難しい雰囲気の音の学問的な作品ではありませんので、イージーリスニング的にさらっと聞き流していただくこともできるでしょう。

基本的に、ポップスのような起承転結はないのですが、アフリカ、中近東、アラブ、カリブなどを思わせる民族音楽的なアプローチのリズムが反復されたバッキングに、現代音楽〜フリージャズ的なアプローチのベースとギター、時折聴こえる原住民の雄叫びのような声、アープとポリムーグと思われるストリングス系の音などが乗っかり、それらの上をハッセル独特のトランペットが自由に飛び回ります。

言わば、ジャズ、民族音楽、アンビエント・ミュージックの狭間にある作品で、既存のジャンルにピタリと当てはめるのは難しいサウンドです。

この浮遊感は彼独特のもので、ダーク・ファンタジー映画のサントラにでも使えそうな不思議な無国籍感があり、クセになってしまうんですよね。

テープの切り貼りコラージュやラジオのチューニング音などが入っていないものの、個人的には、どこか、同時代のホルガー・シューカイ [ Holger Czukay ] の作品『Movies(当時の邦題:ペルシアン・ラブ)』に似た心地よさを感じてしまいます。

後年の電子楽器を多用した作品でも例のトランペットは聴けるわけですが、本作の生楽器による土着的な響きは呪術的でもあり、奇妙なトリップ感があります。

さすがに、この時代のPVのようなものはYouTubeで見つけることは出来なかったのですが、87年のライヴ映像で本作の雰囲気に似たものを見つけましたので、ご覧になってみて下さい。

ジョン・ハッセルの1987年のライヴ映像1
ジョン・ハッセルの1987年のライヴ映像2

いかがでしょう?
私の言うトリップ感をご理解いただけましたでしょうか?

この後、80年にブライアン・イーノとのコラボ・アルバム『Fourth World, Vol. 1: Possible Musics』、81年にソロ名義でその続編『Fourth World, Vol. 2: Dream Theory in Malaya』を発表、これを機に彼の名は一躍有名となり、以降、自身のソロ作品と並行して、先述の デヴィッド・シルヴィアン の『Brilliant Trees』(84年)、『Alchemy: An Index of Possibilities(邦題:錬金術)』(85年)を始めとして、ピーター・ガブリエルの『Birdy(サントラ)』(85年)、『Passion(The Last Temptation of Christ)(サントラ)』(89年)、ロイド・コール [ Lloyd Cole ] の『Mainstream』(87年)、ティアーズ・フォー・フィアーズ [ Tears for Fears ] の『The Seeds of Love』(89年)、スティーナ・ノルデンスタム [ Stina Nordenstam ] の『And She Closed Her Eyes』(93年)、ホリー・コール [ Hally Cole ] の『Dark Dear Heart』(97年)、また、1990年の808ステイト [ 808 State ] とのコラボ「Voiceprint」以降はクラブ系アーチストの作品に顔を出すことも多く、ビョーク [ Bjork ] の「All Is Full of Love」(99年)などでも活躍、さらに、2000年以降は、ハッセルのアルバム『Fascinoma
』のプロデュースを担当(ほぼ共作)したライ・クーダー [ Ry Cooder ] の作品、ビョークやマドンナ、ベベウ・ジルベルトなどの作品でプロデュースを担当したガイ・シグスワース [ Guy Sigsworth ] のユニット、フル・フル [ Frou Frou ] の1st『Details』、k.d.ラング [ k.d. Lang ] の『Watershed』などにも参加し、ジャンルを超えた幅広い活躍をしています。

ちなみに、ハッセルは1937年生まれですから今年で71歳。

失礼ながら、このお歳でまだまだライヴもこなされているようで、いや〜、お元気で何よりです。

個人的には、またデヴィッド・シルヴィアンの作品で独特のトランペットをお聴かせ願いたいところですが、これだけお忙しいと難しいかも知れませんね。

ま、私はまだ、彼の作品を全て聴いたわけではありませんので、これからゆっくり時間をかけて制覇したいと思います。
/BLマスター

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2008年08月18日

Stop Making Sense(DVD)/Talking Heads

Stop Making Sense/Talking Heads

今日紹介する作品は1984年に劇場公開されたトーキング・ヘッズ [ Talking Heads ] のライヴ映画『Stop Making Sense(邦題:ストップ・メイキング・センス)』 。

本作は、1983年12月にハリウッドのパンテージ・シアターで行なわれたステージの模様を、6台の固定カメラと1台のハンドカメラを駆使してまとめあげられたシンプルなライヴ映画です。

もちろん、いろいろな角度からステージを録ってはいますが、インタビュー映像や、バック・ステージの模様など、ライヴ以外の映像をインサートしたりすることもなく、ただただ忠実にこの日のライヴをまとめているだけの映像です。

恐らく、制作費も比較的安く抑えられていることでしょう。

しかし、この映画、とにかく発想と演出がすごいんです。

私は、当時、大阪心斎橋のパルコ劇場(現クワトロ?)でこの映画を観たのですが、まるで、どこかの公民館で上映されているかのような設備だというのに、映画が始まって数曲目には、生でライヴを観ているかのような錯覚に陥ってしまい、途中で思わず拍手をしてしまいました(笑)。

しかし、面白いことに、スクリーンに向かって拍手をしてしまったのは私だけではなく、観客席のあちらこちらから同時多発的に拍手がわき起ったのです。

ひょっとすると、勘違いな私の拍手に他の観客がつられただけなのかも知れませんが、普通の映画なら人につられて拍手をすることはないでしょうから、それほど臨場感を感じさせる映像だったというわけですね。

言い方を変えれば、カメラが1人の観客として客観的にステージ・パフォーマンスを捉えることに成功したということでしょうか。

ちなみに、この映画の監督は、後に『羊たちの沈黙』で世界的な評価を得たジョナサン・デミ [ Jonathan Demme ] 。
彼は本作で全米映画批評家協会ドキュメンタリー映画賞を受賞、また、この手の映画としては珍しくニューズ・ウイーク誌を筆頭にアメリカの各紙(誌)が選んだ'84ベスト・シネマの一本に選出され、その後の躍進への足がかりを掴んでいます。



さて、ここからは内容を紹介させていただくのですが、どうしてもネタバレしてしまいますので、最初は真っ白な状態で観てみたいという方は本編をご覧になってからお読みください。

ライヴ映画だけにストーリーやオチがあるわけではないのですが、演出と仕掛けがこの映画の見せ場ですので、そういう見方の方が面白いかもしれませんからね。


まず、映画が始まると、無音状態でデヴィッド・バーン [ David Byrne ] の影が映し出され、アコースティック・ギターとラジカセを持って現れマイクの前へ、そして、おもむろにラジカセのスイッチを押し、そこから流れるチープなリズム・ボックスの音に合わせてアコギ一本で「Psycho Killer(サイコ・キラー)」を演奏し始めます。

しかし、バーンの立っている舞台は、まるで何のスケジュールもない日にステージ後ろのカーテンをひき忘れたかのような無愛想なもので、本来、隠すべき足場やバケツなどが丸見えです。

また、ガランとしたむき出しの舞台はあまりに広く、満員の観客席と何の飾り気もないステージにギャップを感じてしまいます。

曲の途中で、バーンお得意の奇妙な動きのダンスが挿入されるなど、みどころがないわけではないのですが、もし、私がこのライヴを観に行っていたとしたら、この時点ではあまりの安っぽいライヴに落胆したことでしょう(笑)。

表情まで確認できるわけではありませんが、実際、チラッと映った観客のノリもこの時点では決して良くはありません。

しかし、アートスクール出身の知性派集団のことですから、これだけで終わるわけがありません。

「Psycho Killer」の映像

1曲目が終わる手前で、日本の歌舞伎で舞台装置を操る黒子(くろこ)のような役割のスタッフ(顔こそ隠していませんが、全員黒服です)によってベース・アンプが運び込まれ、曲終わりでベースを持ったティナ・ウェイマス [ Tina Weymouth ] が登場。

2曲目はバーンとティナの2人によって、まるで地味なフォーク・グループのリサイタルように「Heaven」が演奏され、またしても、曲の終わる手前で黒子によってドラム・セットが運び込まれます。

「Heaven」の映像

当然のごとく、3曲目はドラムのクリス・フランツ [ Chris Frantz ] の加わったトリオ編成で「Thank You for Sending me an Angel」が演奏されます。

さすがにドラムが入るとロックっぽくなるもので、この辺りからはバーンのノリも違ってきます(笑)。

「Thank You for Sending me an Angel」の映像

そして、4曲目にはサイド・ギターのジェリー・ハリソン [ Jerry Harrison ] が加わり、オリジナルメンバーの4人で「Found A Job」を演奏。

「Found A Job」の映像

お察しの通り、演奏している後ろでは黒子さんたちがセットを組み立てており、5曲目からは女性コーラス2名とパーカッションの男性が追加。

同時に後ろの足場やバケツを隠すかのように黒いカーテンがひかれ、ジェリーの弾くキーボード・セットも組み込まれます。

この時点でようやくメジャーなバンドのライヴらしい舞台になり、全員で「Slippery People」を演奏。

「Slippery People」の映像

続いてパーカッション・セット、ティナの弾くシンセ・ベースが運び込まれ、サイド・ギターとキーボードの黒人さんが登場、合計9人のパフォーマーによって「Burning Down the House」「Life During Wartime」がノリノリで演奏されます。

個人的には、ここでエイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] の登場とお願いしたかったところですが、演奏自体に不服はありません(笑)。

「Burning Down the House」の映像
「Life During Wartime」の映像

確か、私が思わず拍手してしまったのは、「Burning Down the House」が終わったタイミングだったと思うのですが、気がつけばここまでは演奏を観ながら同時にセットを組み上げる様子も楽しんでいたんですよね。

もし、組み上がったステージ・セットをバックにメンバーが1人ずつ増えていったのだとしたら、思わず拍手をしてしまうほど気持ちが高揚することはなかったはずですからね。

いや〜、見事に引き込まれてしまう演出です。

当然、リハーサルは本番と同じようにステージを組み上げながら行われていると思うのですが、それを考えると黒子さんたちの苦労がわかります。


この後は最後までパフォーマーが増えることはないのですが、8曲目からはステージの後ろにスクリーンが降りてきて、1曲ごとに試行を凝らした演出で演奏を盛り上げてくれました。

時には文字を映し出し、時には舞台を赤く染めてメンバーのシルエットを浮かび上がらせ、時にはステージを本棚の前やマンハッタンに移動させてくれるのです。

「Flippy Floppy」の映像
「Swamp」の映像
「Naive Melody」の映像
「Once in a Lifetime」の映像
「Girlfriend Is Better」の映像
「Take Me To The River」の映像
「Cross-Eyed And Painless」の映像

この1曲ごとの演出は観る者を最後まで飽きさせることなく、友人につき合って観に来ただけの観客の気持ちすらステージに釘付けにしたことでしょう。

ズバリ、この映画を見ずしてライヴの醍醐味は語れない、というほど優れもののライヴ映画ですので、未試聴の音楽好きの方は一度ご覧になってみてください。



ところで、実は私、今でも「ライヴ映像というものは、そのアーチストのファンでなければ100%楽しむことはできない」と考えています。

ライヴというものは、基本的には、レコードやCDなどで既に発表されている曲を中心に演奏されるわけですから、忠実に再現されるにせよ、全く別のアレンジが施されるにせよ、聴き込んでいる方が楽しめるのは当然ですよね。

もちろん、その場のノリ、空気感、演出などの要素はライヴの醍醐味だと思うのですが、各メンバーのキャラクターを知っているからこそ楽しめるという要素も多分に含まれているわけで、やはり、いろんな角度で観ることが出来る分、ファンであればあるほど面白いものだと思うのです。

しかし、本作『Talking Heads - Stop Making Sense』は特別です。

ファンの方が観た方が面白いことは間違いありませんが、恐らく、トーキング・ヘッズの楽曲をあまり知らない方でも、最後まで退屈することなくご覧いただけるはずです。

もし、バンドでライヴを行っておられる方や劇団に参加されている方がご覧になったとしたら、ジャンルが違ったとしても何らかのステージ・パフォーマンスのヒントを見つけることができることでしょう。

また、自らステージに立たない方でも、それらに興味を持っておられる方なら同様に楽しんでいただけるのではないでしょうか。

そういう意味では「フィルム・コンサート」的なものではなく「ライヴ映画」なんですよね。

言い換えれば、よくある「特定のアーチストのライヴDVD」ではなく、「映画のDVD」に近いライヴ映像なのかも知れません。

いや〜、今観てもすばらしいライヴ映画です。


なお、上で紹介したDVDはデジタル・リマスタリングが施されており音質、画質ともにクリア、おまけにワイドスクリーン・バージョンに変更されているので、ビデオ版では観ることの出来なかった部分までも自宅で再現できますよ。
(本作は輸入盤ですが、リージョン・フリーですので、一般的な日本製のDVDプレーヤーやプレステ2などでも観ることができるはずです。)

また、ジョナサン・デミとデヴィッド・バーンの音声解説が追加されている日本盤の『ストップ・メイキング・センス(ニュージャケットバージョン)』も存在しますが、ジャケットが変更されているのと、 8月18日現在、中古盤のみの在庫で少し高いようです。

あと、同じライヴを収録した同タイトルのCD『Stop Making Sense: Special New Edition (1984 Film)』もあるのですが、どうせならこのすばらしい演出を満喫できるDVDを手に入れてご覧いただくことをオススメします。
(注:当時のLPレコードは曲順が違う上、たった9曲しか収録されておりませんでしたが、現行のCDは曲順は同じで16曲収録、サウンドトラック盤扱いになっているようです。)

/BLマスター

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2008年07月02日

The Best of Missing Persons/Missing Persons

The Best of Missing Persons

今日紹介するのは、ミッシング・パーソンズ [ Missing Persons ] のベスト・アルバム『The Best of Missing Persons』。

彼らはアメリカのグループなので、当ブログの趣旨からずれしまうのですが、ニューウェイヴという意味では決して外せない要素をたっぷり持っておりますのでご容赦ください。

ミッシング・パーソンズのメンバーは、元々フランク・ザッパ [ Frank Zappa ] のバック・バンドに在籍した超実力派で構成されています。

ザッパと言えば、数々の奇行が伝説に残るアメリカ音楽界きっての変人として知られていますが、音の方でもかなりの変態ぶりを発揮しており、プログレ、ジャズ、ハード・ロックなどの要素が複雑に絡み合ったテクニカルな楽曲で神様的な支持を集めていたアーチスト。

また、生涯に発表したアルバム数はギネス・ブックに載るほどの驚異的な数で、ザッパ・コレクターの間では「ザッパ貧乏」という言葉があるんだとか(笑)。

彼らは元々、そんなザッパの門下生でしたので、ニューウェイヴにありがちなパンク出身の音楽的知識やテクニックに乏しいグループとはわけが違います。

もちろん、「演奏テクニックに優れた楽曲=良い曲」という公式が成り立つとは限りませんが、ミッシング・パーソンズに限っては、そういった部分も魅力のひとつとなっているのです。

とはいえ、決して小難しい音楽ではありません。

ボーカルの声質や歌い方は好き嫌いの分かれるところだとは思いますが、演奏に関しては、むしろ、キャッチーなポップスに近いニューウェイヴ志向のサウンドですから、「音学」(音の学問的な意味で)ではなく「音楽」として楽しんでいただけると思います。


ミッシング・パーソンズは、1980年に、ザッパ門下生のウォーレン・ククルロ [ Warren Cuccurullo ] (G) とテリー・ボジオ [ Terry Bozzio ] (D) が中心となり、パトリック・オハーン [ Patrick O'Hearn ] (B)、チャック・ワイルド [ Chuck Wild ] (K)、そして、テリー・ボジオの嫁のデイル・ボジオ [ Dale Bozzio ] (V) というメンバーで結成されました。

結成後まもなく、自主制作で4曲入りのEP(ミニ・アルバム)『Missing Persons』を発表、これがインディーズとしてはかなりの好リアクションをみせ、82年に米キャピタルと契約、同年、『Missing Persons』の再発、デビュー・アルバム『Spring Session M』、シングル「Words」「Destination Unknown」「Windows」「Walking In L.A.」と立て続けに作品を発表、楽曲の出来の良さはもちろんのこと、元プレイメイトだったというボーカルのデイル・ボジオのちょっとエッチで奇抜なファッションが話題となり注目を集めました(どんなファッションだったのかは下記のYouTube映像でご覧下さい)。

デビューEPに収録の「I Like Boys」の映像(音のみ)

「Words」のプロモ映像
「Destination Unknown」のプロモ映像
「Windows」のライヴ映像
「Walking in L.A.」のライヴ映像

しかし、デイルのファッションがイロモノ扱いを受けたのでしょうか、2ndアルバム『Rhyme & Reason』(1984年)、3rdアルバム『Color in Your Life』(1986年)と発表するたびにチャート順位を落とし、86年にボジオとデイルが離婚したのを機に解散、その後は各自、著名なアーチストらと交流を持ち、幅広いジャンルで活躍しています。

「Give」のプロモ映像
「Right Now」のプロモ映像
「I Can't Think About Dancing」のプロモ映像

余談ですが、私は当時、上の「Give」のプロモに出て来るテリー・ボジオのテーブル型ドラム「TBX」とウォーレン・ククルロの未来的なダブルネック・ギターに興味を持ち、方々の楽器店や音楽雑誌で調べたのですが詳しいことはわかりませんでした(笑)。
恐らく、日本ではほとんど輸入されていなかったのでしょう(ま、見つかったとしてもかなり高価な代物だったと思いますが…)。
結局、TAMAの四角いエレドラ(テクスター)のパッドをテーブル状に並べて似たようなセットを作りライヴで叩いたのですが(見かけは似ていませんが…笑)、やはり、アマチュアには普通のドラムセットの方が叩きやすいと思います(笑)。


そんなわけで、本作『The Best Of Missing Persons』は、解散後すぐの1987年に発表されたミッシング・パーソンズ活動期の軌跡的なアルバムで、シングルを中心に代表曲が15曲収録されている聴きやすくてお得な作品です。

これ以降のテリー、ウォーレン、パトリックのファンの方も、これ1枚くらいは持っておかれて損はないと思いますよ。

もし、ライヴ盤の方がお好みなら、88年に発表された『Late Nights Early Days』もおすすめです。
ジャケットが1stアルバムに髭を書いたパロディーっぽいデザインになっているのもいい感じなんですが、ライヴ盤だけあって、バカテク・メンバーの熱の入った演奏が楽しめるのが魅力です。

なお、テリー・ボジオは、別名「要塞」とも呼ばれるドラム・セットで知られる超バカテク・ドラマーで、解散後は、先日紹介したミック・カーン [ Mick Karn ] デヴィッド・トーン [ David Torn ] との単発ユニットポリー・タウン [ Polytown ] の他、ジェフ・ベック [ Jeff Beck ] の『Jeff Beck's Guitar Shop』やU.K.の『Danger Money』、スティーヴ・ヴァイ [ Steve Vai ] の『Sex & Religion』、コーン [ Korn ] の『Untitled』、X-JAPANのHideのソロ『HIDE YOUR FACE』などでも活躍しています。
ちなみに、ミッシング・パーソンズの解散後、例のテーブル型のパッドを叩いている姿は見かけたことがありませんので、やはりプロモ用のダミーだったんでしょうね(笑)。

テリー・ボジオのドラムセットのセッティング映像(驚愕!)
コーンのライヴの「I Will Protect You」でのソロパートの映像
テリー・ボジオ・ドラム・クリニックの映像
 (「要塞」がフル活用されています!特に後半がすごい!)

ウォーレン・ククルロは、ラック・ジャンキーと呼ばれるほどのエフェクター・マニアで、まるで業務用冷蔵庫のようなラック(笑)を使用したトリッキーなギター・プレイで有名です。
後にデュラン・デュラン [ Duran Duran ] に参加したことでも知られていますが、自身のソロ・アルバム『Thanks to Frank』ではカジャグーグー [ Kajagoogoo ] のバカテク・スティック奏者ニック・ベッグス [ Nick Beggs ] やポール・ヤング [ Paul Young ] のバンドにもいた個性派フレットレス・ベース奏者ピノ・パラディーノ [ Pino Palladino ] と競演、あと、日本人ではなんと、あの小室哲哉などともライヴで競演しているんですよ。
ちなみに、こちらも解散後、例の未来的なダブルネック・ギターを弾いている姿は目撃していません(笑)。

ウォーレン・ククルロ×小室哲哉の「20th Century Boy」のライヴ映像 (ウォーレンが歌ってます。小室も歌ってますが…)
デュラン・デュラン「Wild Boys」のライヴ映像

パトリック・オハーンは、今ではベーシストとしてより、インスト主体の作品を発表しているニューエイジ系アーチストとして知られており、、ピーター・バウマン [ Peter Baumann ] 主催のプライベート・ミュージック [ Private Music ] やウィンダム・ヒル [ Windham Hill ] から、デヴィッド・シルヴィアン [ David Sylvian ] のアルバムにも参加しているフリューゲル・ホーン奏者マーク・アイシャム [ Mark Isham ] 、エフェクティヴでトリッキーなギター・プレイで知られるデヴィッド・トーン [ David Torn ] 、また、盟友のテリー・ボジオやウォーレン・ククルロなどを招いて数々の面白い作品を発表しています。
個人的には88年発表の『Rivers Gonna Rise』がおすすめですので、興味を持たれた方はぜひ聴いてみて下さい。
なお、彼の楽曲は、日本のドキュメンタリー系テレビ番組などで耳にすることも少なくありませんので、彼をご存じない方でも楽曲を聴けばお分かりになるかも知れません。

パトリック・オハーン「Beauty In Darkness」の映像
パトリック・オハーン「Homeward Bound」の映像

また、デイル・ボジオは離婚後もボジオ姓を名乗り、88年にプリンスのペイズリー・パーク [ Paisley Park Records ] から1stソロ『Riot In English』を発表、いかにもプリンス・ファミリーな曲調のシングル『Simon Simon』がそこそこのヒットとなっています。
その後はプリンスのトリビュート・アルバム『Party O'The Times: A Tribute to Prince』や、マドンナのトリビュート・アルバム『Virgin Voices: A Tribute To Madonna vol. 2』などにも参加、また、昨年には『New Wave Sessions』というアルバムを発表し、ミッシング・パーソンズ時代の曲をリメイクしているそうです。

デイル・ボジオ「Simon Simon」のプロモ映像

余談ですが、デヴィッド・シルヴィアンの元嫁イングリッドもペイズリー・パークからアルバムを発表していたことがあるんですが、そのアルバムといい、ケイト・ブッシュ [ Kate Bush ] の『The Red Shoes』の「Why Should I Love You?」といい、プリンスが少しでも関わった楽曲はすべてプリンス・ファミリーらしい音になっているのが面白いところですね(笑)。

あと、チャック・ワイルドに関しては、残念ながらあまり情報がないのですが、の「Paranomia」のプロモでも知られるマックス・ヘッドルーム [ Max Headroom ] のTVシリーズのサントラなどを手がけていたと聞きますから、この後はTVドラマや映画音楽の方面で活躍しているのかも知れません。
 
なお、ミッシング・パーソンズは2001年と2003年にオリジナル・メンバーで再結成されツアーも行われているようですが、その後、バンドとしての活動は不明です。

それ以外でも、たまに、デイルがミッシング・パーソンズ名義で活動していることがあるそうですが、正式な再結成ではなく、他のメンバーが参加していることはほとんどないとのこと(確かにプリンスやマドンナのトリビュート盤の名義にはミッシング・パーソンズという名前が絡んでいます)。

デイルがいつまでボジオ姓を名乗って仕事をするのかは疑問ですが、もしまた正式にミッシング・パーソンズが再結成されることがあるなら、今度は新曲のたっぷり入ったニューアルバムも聴かせていただきたいところです。
/BLマスター

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2007年10月13日

Skeletons in The Closet(The Best Of)/OINGO BOINGO

Skeletons in The Closet/OINGO BOINGO

ダニー・エルフマン [ Danny Elfman ] というアーチストをご存知でしょうか。

恐らく、彼の名前をご存じなくとも、映画好きの方なら、何度も彼の制作した映画音楽を耳にしているであろう、今やハリウッドでは引っ張りだこの人気映画音楽職人です。

彼が音楽を制作したメジャーどころの映画を例にあげれば、『チャーリーとチョコレート工場』『スパイダーマン』 『スパイダーマン2』『ハルク』『シカゴ』『スパイキッズ』『スパイキッズ2 失われた夢の島』『メン・イン・ブラック』『メン・イン・ブラック2』『レッド・ドラゴン』『PLANET OF THE APES/猿の惑星』『スリーピー・ホロウ』『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『フラバー』『ミッション・インポッシブル』『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』『ダークマン』『ダークマン2』『バットマン』『バットマン・リターンズ』『ザ・フラッシュ』『シザーハンズ』『ディック・トレイシー』『3人のゴースト』『ビートルジュース』『ミッドナイト・ラン』『ピーウィーの大冒険』などなど、数え上げればキリがないほどです。

中でも、私の最も好きな映画監督ティム・バートン [ Tim Burton ] とのつきあいは密接で、『エド・ウッド』以外の長編作品は全てダニー・エルフマンが音楽を担当しており、バートンの代表作の一つ『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』では主人公ジャックの声優まで担当、ジョニー・デップと並んで、まさにバートン監督の右腕とも言える存在となっています。

また、TVドラマやアニメに関しても『世にも不思議なアメージング・ストーリー』や『ザ・シンプソンズ』などのメイン・テーマを手掛けており、お茶の間(アメリカではそう言わないと思いますが…)でも広くその名は知られているようです。

ちなみに、蛇足ですが、映画『アサシン』などで有名な女優ブリジット・フォンダ [ Bridget Fonda ] (ピーター・フォンダの娘で叔母はジェーン・フォンダ)はダニー・エルフマンの嫁です(2003年に結婚したそうです)。


今日、紹介するのは、そのダニー・エルフマンがリーダーを努めたアメリカの個性派バンド、オインゴ・ボインゴ [ OINGO BOINGO ] の初期ベスト盤『Skeletons in The Closet』です。


オインゴ・ボインゴは1972年にテキサスで結成されたミスティック・ナイツ・オブ・ザ・オインゴ・ボインゴ [ Mystic Knights of the Oingo Boingo ] というバンドが前身になっているのですが、このバンドに関してはダニー・エルフマンの実兄で映画監督のリチャード・エルフマン [ Richard Elfman ] がリーダー・シップをとっており、ダニー・エルフマンは74年にリード・ボーカルとして加入しているようです。

その後、リチャードは映画製作のために脱退、1979年からは、ダニー・エルフマンがリーダーを引き継ぎ、新たにオインゴ・ボインゴとして活動を開始、1981年に1stアルバム『Only a Lad』でA&Mレコードからデビューしました。

オインゴ・ボインゴの当初のオリジナル・メンバーは、ダニー・エルフマン [ Danny Elfman ] (V,G,Per)、スティーヴ・バーテック [ Steve Bartek ] (G,Accodion,Per,Vo)、リチャード・ギブス [ Richard Gibbs ] (Key,Torombone,Vo)、ケリー・ハッチ [ Kerry Hatch ] (B,Key,Vo)、ジョニー・”ヴァトス”・ヘルナンデス [ Johnny "Vatos" Hernandez ] (D,Per)、サム・”スラッゴ”・フィリップス [ Sam "Sluggo" Phipps ] (Sax,Clarinet,Vo)、レオン・シュナイダーマン [ Leon Schneiderman ] (Sax,Vo)、デール・ターナー [ Dale Turner ] (Trampet,Trombone,Vo) の総勢8名、その後メンバー・チェンジを繰り返し、1991年にボインゴ [ Boingo ] と改名、1995年のハロウィン・コンサートを最後に解散しています。

初期オインゴ・ボインゴの音を私なりに説明するなら、ディーヴォ [ DEVO ] XTCを足して2で割ったところを想像していただけばわかりやすいのではないでしょうか(笑)。

ダニー・エルフマンのボーカルに関しては、時にディーヴォのマーク・マザーズバーやXTCのアンディ・パートリッジのようであり、また曲によってはBOOWY時代の氷室京介やカーズのリック・オケセイックを思わせる歌い方をするなど、実に多彩な声色を曲によって使い分けています。

デビュー当時の出音の特徴は、ちょうど、パンク・ムーブメントがナリを潜め、時代がニューウェーヴ、テクノ・ポップあたりにシフトしている頃独特のサウンドなんですが、同時にXTCっぽいメロディアスさも兼ね備えており、良い意味でひねくれた、実にイギリスっぽいニューウェーヴィーな風合いを持っているのです。

もちろん、そんなサウンドがアメリカでウケるはずはなく、USチャートを賑わすこともなかったわけなんですが、なぜかロサンジェルスを中心に、ごく一部で、現在でもカルト的な人気を持っており、ボインゴロイド [ Boingoloid ] と呼ばれる熱狂的なファンが存在しているとのこと。

そういった意味ではディーヴォに近い存在なのかも知れませんね。


本作『Skeletons in The Closet』は、デビュー・アルバム『Only a Lad』(81年)、2ndアルバム『Nothing to Fear』(82年)、3rdアルバム『Good for Your Soul』(83年)というA&M在籍時代の3枚から代表的な曲をセレクトした89年発表のオフィシャル・ベストで、オリジナル・メンバーによる独特なひねくれ感とポップ感が同居する、彼らが最も輝いていた時代のメモリアルとも言える作品です。

曲順は以下の通りで、下線が入っている曲に関してはYouTubeから映像をリンクしておきました。

1. Little Girls
2. Private Life
3. On the Outside
4. Nasty Habits
5. Grey Matter
6. Only a Lad
7. Wake Up
8. Insects
9. Whole Day Off
10. Nothing to Fear (But Fear Itself)
11. Nothing Bad Ever Happens
12. Who Do You Want to Be

以降は、85年にMCAに移籍し、『Dead Man's Party』(85年)『Boi-ngo』(87年)『Dark at the End of the Tunnel』(90年)、91年にはジャイアント・レコードに移籍して『Boingo』(94年)(ボインゴ名義)と4枚のオリジナル・アルバムを発表しているのですが、ちょうど、MCAに移籍直後からダニー・エルフマンが映画音楽の方に力を入れるようになったためか、初期に比べれば明らかにパワー・ダウンしているように感じます。

オインゴ・ボインゴはセールス的に決して良い方ではありませんでしたから、知名度や収入の意味では映画音楽に集中する方が正しい選択だったのでしょうね(笑)。

もちろん、見方を変えれば、バンドの成熟に合わせて曲調が落ち着いたと見ることもできるのですが、私の好きなオインゴ・ボインゴはひねくれ感とポップ感が魅力でしたので、後期の作品には物足りなさを感じてしまうのです。

ひょっとすると、映画の仕事が増えるにつれて、徐々に映画音楽とバンドの区別を付けるのが難しくなってきたのかも知れません。

それが証拠に、MCA移籍以降のアルバムに収録された楽曲は、映画の挿入歌として使われることが多くなり、徐々に毒気が薄くなっていきます。


個人的には、ダニー・エルフマンの映画音楽に、大袈裟でコミカル、また、ホラー映画に登場するピエロのような“怖おかしさ”を感じており、まるで移動遊園地の中で童心に帰って無邪気に遊んでいるようなイメージを持っています。

そんな不思議なドリーミーさはもちろん大好きなのですが、あくまでも歌ものであるオインゴ・ボインゴに関しては毒を持ったニューウェーヴィーなポップであることが魅力だったわけです。

彼の歌い方一つ取ってみても、初期はディーヴォのマークやBOOWY時代の氷室京介を思わせる尖り具合があったのですが、後期になると『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のジャックの歌声を思い出させる感情豊かなボーカルに変化しているのです。

この点に関しても、感情の起伏を表現できるほど歌が上手くなったと見ることもできるのですが、やはり、オインゴ・ボインゴらしい尖ったイメージは薄れてしまったように思います。

オインゴ・ボインゴを紹介するにあたり、解散後の1999年に発表された2枚組みのベスト盤『Anthology』を紹介しようかとも考えたのですが、個人的にオインゴ・ボインゴの良さは初期にあると感じましたので、今日は初期ベスト『Skeletons in The Closet』を取り上げさせていただきました。

ディーボ、XTC、カーズ、そして、ティム・バートン映画のお好きな方は一聴の価値アリです。

アマゾンで全曲試聴可能ですので、興味を持たれた方はぜひ聴いてみて下さい。
/BLマスター

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2007年07月27日

The Best of Blondie/Blondie

The Best of Blondie

今日紹介するのはニューウェーブのルーツの一つであるブロンディ [ Blondie ] です。

ここのところ、イギリスで火がついたアメリカのニューウェーヴ・グループを紹介する機会が多いのですが、中でもブロンディは、特に本国アメリカよりイギリスで人気のあったグループで、その後のニューウェーヴに大きな影響を与えているように思います。

個人的なイメージとしては、セックス・ピストルズ [ Sex Pistols ] スージー&ザ・バンシーズ [ Siouxsie & The Banshees ] の関係と、ニューヨーク・ドールズ [ New York Dolls ] とブロンディの関係が非常に似ているように感じています。

イギリスのパンク・バンドの代表格であるピストルズの親衛隊であったスージー・スー [ Siouxsie Sioux ] は、彼らにインスパイアされてバンドを結成、1978年に女性ボーカルのパンク・グループ、スージー&ザ・バンシーズとしてデビュー。
しかし、彼女に影響を与えたピストルズはあっという間に解散し、パンク・ムーブメントは衰退。
スジバンはポスト・パンクの流れの中で徐々にニューウェーヴ化し、独自のスタイルを確立するも一旦解散、最近になって再び再結成されライヴ活動を行っています。

一方、ブロンディは、アメリカのグラム・ロック/パンク・バンドの代表格であるニューヨーク・ドールズにインスパイアされたデボラ・ハリー [ Deborah Harry ] が、1976年に女性ボーカルのパンク・グループ、ブロンディとしてデビュー。
やはり、彼女に影響を与えたドールズはあっという間に解散し、パンク・ムーブメントは衰退。
ブロンディも時代の流れと共に、徐々にニューウェーヴ化し、独自のスタイルを確立するも、一旦解散、最近になって再び再結成されライヴ活動を行っています。

イギリスとアメリカの風土の違いなのか、スージーが「ゴシック寄りのダークなロック」であるのに対して、ブロンディは「ディスコ寄りな踊れるロック」という出音の違いはありますが、同じ時代にパンク・ムーブメントの中で生まれた新種のグループであったことには変わりありません。

また、この2つのグループが後の音楽シーンに与えた影響は計り知れず、一種のカリスマ的な地位を確立していることも同様です。

前置きが長くなってしまいましたが、ブロンディは1974年にニューヨークでデボラ・ハリーとクリス・ステイン [ Chris Stein ] を中心に結成され、76年、ニューヨークのパンク/ニューウェーヴの拠点であったライヴ・ハウス「CBGB」のライヴを経て、同年、1stアルバム『Blondie(邦題:妖女ブロンディー)』でデビュー。

1977年のCBGBでのブロンディのライヴ映像

翌年、2ndアルバム『Plastic Letters(邦題:囁きのブロンディー)』を発表し、英アルバム・チャートでベストテン入り、シングル「Denis(邦題:デニスに夢中)」が2位という好アクションを起こすも、本国アメリカでは人気が今ひとつ、続いて78年に発表された3rdアルバム『Parallel Lines(邦題:恋の平行線)』で、パンクというカテゴリーからディスコ路線のダンサンブルな曲調へと一気にシフトし、英チャート1位、米チャート6位を記録しました。

「Denis」のプロモ映像

この『Parallel Lines』というアルバムは、一発屋として名高い(?)ナック [ The Knack ] の「My Sharona」(79年) を手掛けたことで知られるマイク・チャップマン [ Mike Chapman ] のプロデュースによるもので、ここからシングル・カットされた「Heart of Glass」の大ヒットにより、ブロンディは一躍世界的に有名になりました。

「Heart of Glass」のプロモ映像

ちなみに、この作品以降のブロンディのアルバムは、すべて英チャートで常にベストテン入りするという人気ぶりで、米チャートでは常に50位以内をキープ。
イギリスでの人気のほどが伺えますね。

その後、79年発表の4thアルバム『Eat to the Beat』では、前作のディスコ路線に加えて、レゲエやジャズの要素を取り入れた楽曲などにも取り組み、「Dreaming」や「Atomic(邦題:銀河のアトミック)」といったヒット曲も生まれています。

「Dreaming」のライヴ映像
「Atomic」のプロモ映像

翌年80年には、リチャード・ギア主演の映画『アメリカン・ジゴロ』のサントラから「Call Me」という、ホームランとも言える大ヒットを飛ばしているのですが、この曲に関しては、ブロンディ名義ではあるものの、ジョルジオ・モロダー [ Giorgio Moroder ] とデボラ・ハリーのコラボ曲と思っていただいた方が良いようでしょう。

「Call Me」のプロモ映像

さらに、同年発表の5thアルバム『Autoamerican』から、今やお酒のTVCMで有名なレゲエ調の名曲「The Tide Is High(邦題:夢見るNo.1)」、ポップ・ミュージックとしてのラップの元祖とも言える「Rapture」が大当たりし、さらに人気を不動のものにしています。

「The Tide Is High」のプロモ映像
「Rapture」のプロモ映像

余談ですが、スネークマン・ショーで最も有名な「咲坂と桃内のごきげんいかが 1・2・3」という曲は、この「Rapture」をモチーフにしたもので、同じく、つぶやき系日本語ラップ(笑)の元祖的存在であると思われます。

この後、81年にはナイル・ロジャース [ Nile Rodgers ] のプロデュースでデボラの初のソロ(デビー・ハリー [ Debbie Harry ] 名義)『KooKoo』を発表。
このアルバム・ジャケットとプロモビデオの監督を努めているのは、なんと、エイリアンのデザインでおなじみのH.R.ギーガーということで、個人的に非常にインパクトに残っております。
ただ、セールスの方はイマイチだったようですが・・・。

H.R.ギーガーが監督を務めた「Backfired」のプロモ映像

しかし、ブロンディ自体のセールスは好調であったにもかかわらず、82年発表の6thアルバム『The Hunter』を最後に、ブロンディは解散してしまいます。

「Island of Lost Souls」のプロモ映像

解散の原因は、このようなソロ活動のせいもあったように思うのですが、デボラとともに、ブロンディを支えてきたクリス・ステインが重病を患ったためということで、見た目はエロくて怖そうなイメージのデボラが献身的に介護したというようなことを雑誌で読んだ記憶があります。
なお、後に、クリスは回復し、デボラのソロ・アルバムをプロデュースするなど、相棒として影で支えています。

解散後、デボラはソロとして数枚のアルバムを発表する傍ら、女優として『ヘアスプレー』『ニューヨーク・ストーリー』『フロム・ザ・ダークサイド』など、多くの映画にも出演し、最近でも『死ぬまでにしたい10のこと』や『エンド・オブ・ザ・センチュリー』などに出演しているようです。

その後、ブロンディは1999年になって突如再結成し、17年ぶりのニュー・アルバム『No Exit』を発表、世間を驚かせました。

以降は、2003年に『The Curse of Blondie』を発表、還暦を過ぎた今でもライヴ活動を中心に現役で頑張っており、昨年3月には『ロックの殿堂』入りを果たし、歴史にその名を刻みました。

なお、『ロックの殿堂』の歴代受賞アーチストはこちらでご確認いただけます。

昨年のライヴでの「The Tide Is High」の映像
今年のライヴでの「Atomic」の映像

本作『The Best of Blondie(邦題:軌跡 ザ・ベスト・オブ・ブロンディ)』は、そんなブロンディの数多いベスト盤の中でも、82年までのニューウェーヴ寄りな作品を中心にセレクトしたベスト盤で、あえて初期のパンクの面影を残す楽曲に焦点は当てられていません。

しかし、この1枚の中に、ニューウェーヴという何でもアリなカテゴリーを象徴するかのように、ディスコ、レゲエ、パンク、テクノなどの様々な要素が詰め込まれており、ブロンディというグループの守備範囲の広さを実感できます。

しかも、それだけの幅広い曲調をまとめたアルバムであるにもかかわらず、決して散漫なイメージではなく、ブロンディという一つのカラーにまとまっているのがすばらしいところです。

きっと、これもデボラ・ハリーの個性の強さがあってのことでしょう。

未聴の方も、恐らく、「Heart of Glass」「Call Me」「The Tide is High」「Rapture」くらいはどこかで耳にしておられるかと思うのですが、もう一度じっくりお聴きになられてはいかがでしょう。

とりあえず、アマゾンで14曲中13曲が試聴可能ですので、未聴の方は一度お聴きになってみてください。

確実に、持っていて損のない「殿堂入り」すべきアルバムですよ。
/BLマスター

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2007年07月24日

Nude on the Moon: The B-52's Anthology/The B-52's

The B-52's Anthology

今日紹介するのは、アメリカのニューウェーヴとしてトーキング・ヘッズ [ Talking Heads ] ディーヴォ [ DEVO ] と並んで古株の The B-52's(ビー・フィフティーツーズ)です。

The B-52'sは、1976年にジョージア州アセンズで結成されました。

メンバーは、フレッド・シュナイダー [ Fred Schneider ] 、キース・ストリックランド [ Keith Strickland ] 、リッキー・ウィルソン [ Ricky Wilson ] 、シンディ・ウィルソン [ Cindy Wilson ] 、ケイト・ピアソン [ Kate Pierson ] の5人で、リッキーとシンディーは兄弟、他のメンツも元々は同じハイスクールに通う仲間だったとか。

バンド名の由来については、B-52型爆撃機からとったものとされていることが多いのですが、実は、ケイトとシンディの特徴的な盛り上がった髪型の俗称をB-52'sと呼ぶのだそうで、決して攻撃的な意味から名付けられたわけではありません。
ちなみに、この髪型の俗称はB-52型爆撃機のフロント部分に似ているという意味で名付けられてはいるそうなので、間違っているわけではないのですが・・・。

いずれにせよ、B-52'sは、彼女たちの髪型だけでなく、当時としては時代錯誤な50‘sスタイルの派手な衣装や、007のテーマを思わせるペンペンのギター、何のひねりもない真っ直ぐな音色のオルガン、あいの手のようなフレッドのトーク(叫び? でも、ヘタクソながら、たまにリード・ボーカルをとっています。笑)、チープでキッチュなガレージ系サウンドなど、どこを取ってみても奇抜で奇想天外な唯一無二の個性を持っていました。

ポスト・パンクの流れの中で、彼らのような遊び心満点なアイデア勝負のグループが生まれたことは必然だったのかも知れません。

彼らは、結成間もなく、友人の家でのパーティーや地元のライヴハウスなどでライヴ活動を開始し、77年にはその活動場所を広げてニューヨークへ進出、アメリカのパンク〜ニューウェーヴの拠点であったライヴ・ハウス「CBGB」に出演していたところを、アイランド・レーベルのオーナー、クリス・ブラックウェル [ Chris Blackwell ] に認められ、翌年、同レーベルと契約、79年にはクリス・ブラックウェル自らのプロデュースによるデビュー・シングル「Rock Lobster」と1stアルバム『The B-52's(邦題:警告!The B-52's来襲)』を発表しました。

「Rock Lobster」のプロモ映像
「Planet Claire」のプロモ映像

この1stアルバムは、基本的にはダンスものと言えるのですが、マイナー・コードが多く使われており、エド・ウッドのB級SF映画のサントラに使われていてもおかしくないほど、ある意味、斬新でチープな作りのイロモノ系ニューウェーヴ・サウンドでした。
この時点で、20年以上のキャリアを持つ長寿バンドになることを誰が予測できたでしょう。

個人的には、クリス・ブラックウェルは、レゲエの神様ボブ・マーレーをプロデュースしたことで有名な人物というイメージがあるだけに、どうも違和感を持ってしまうのですが、おかげで単なるパーティー乗りのダンス・バンドにならなかったのかも知れませんね。

しかし、彼らのその奇想天外なスタイルは、本国アメリカではなかなか受け入れられず、むしろ、新しもの好きのイギリスで受け入れられ、そこそこのヒットとなりました。

この後、80年にロキシー・ミュージック [ Roxy Music ] の名盤『Avalon』を手掛けたことで知られるレット・デイヴィス [ Rhett Davis ] のプロデュースで2ndアルバム『Wild Planet(邦題:禁断の惑星)』、81年にミニ・アルバム『Party Mix!』、82年にトーキング・ヘッズ [ Talking Heads ] のデヴィッド・バーン [ David Byrne ] のプロデュースでミニ・アルバム『Mesopotamia』、83年にトム・トム・クラブを手掛けたことで知られるスティーヴン・スタンレイ [ Steven Stanley ] のプロデュースで3rdアルバム『Whammy!(邦題:ワーミィ・ワーミィ)』を発表するなど、毎年コンスタントに作品を発表し、そこそこの人気グループの位置をキープします。

「Private Idaho」の TVライヴ映像
「Mesopotamia」のライヴ映像
「Legal Tender」のプロモ映像
「Song For A Future Generation」のプロモ映像

とはいえ、この「そこそこの人気グループの位置をキープ」というのが、実は難しいことなんですよね。

彼らの音楽性からすれば、ヘタをすればイロモノ扱いを受けてしまうだけに、デビュー早々大ヒットになってしまえば、一発屋で終わってしまったのかも知れませんが、ここまで微妙なB級路線をキープしてきたことが息の長い活動に繋がっているように思います。

そんな時、ここまで音楽的なリーダーシップをとっていたリッキー・ウィルソンが、新作レコーディング中の85年にガンのため急逝。
残った4人のメンバーは、バンド存続が危ぶまれる中、86年、トニー・マンスフィールド [ Tony Mansfield ] のプロデュースにより、なんとか4thアルバム『Bouncing Off the Satellites』を完成させますが、リッキーの死は精神的にも音楽活動的にも影響を与えたようで、約2年の間、活動を休止してしまいます。

「Girl From Ipanema Goes to Greenland」のプロモ映像

しかし、88年には4人で音楽活動を再開し、89年にはレーベルを移籍、元シック [ Chic ] のナイル・ロジャース [ Nile Rodgers ] と、WAS(NOT WAS)のドン・ウォズ [ Don Was ] のプロデュースによる5thアルバム『Cosmic Thing』を発表、そこからシングル・カットされた「Love Shack」「Roam」が英国のみならず、本国アメリカでも大ヒットし、以降はアメリカでも人気が定着します。

「Love Shack」のプロモ映像
「Roam」のプロモ映像
「Channel Z」のプロモ映像
「Good Stuff」のプロモ映像
「Debbie」のプロモ映像

この『Cosmic Thing』の底抜けに楽しいパーティー・ライクなポップ感は、これまでのB-52'sにはなかったものでした。

これまでにもシンセサイザーを多用したり、民族テイストを加味したりと、若干の変化はあったものの、リッキーの持っていた音楽性のおかげか、どこかに怪し気なB級テイストをもったポップ感を持っており、レーベル移籍後の彼らのサウンドとは明らかに違うものです。

そう考えると、この変貌ぶりはちょっと残念な気もするのですが、まったく別物と考えれば、底抜けな明るさも決して悪くはありません。

その後、シンディが脱退したものの、92年に前作と同じくナイル・ロジャースとドン・ウォズのプロデュースにより、同じような路線の6thアルバム『Good Stuff』を発表、94年に映画『フリントストーン~モダン石器時代』のテーマ・ソング「Meet The Flintstones」を手掛け、映画本編にもネオ原始人のふん装で登場し、The B-52'sならぬ、The BC-52'sとして大ヒットを記録、また、99年には、ケイト・ピアソンが、元プラスチックスの佐久間正英、ジュディマリのYUKI、ジャパン [ Japan ] ミック・カーン [ Mick Karn ] らと、単発もののユニット、ニーナ [ NiNa ] を結成し、アルバム『NiNa』を発表、ツアーも行われました。

The BC-52's「Meet The Flintstones」のプロモ映像
フリントストーンの登場シーンの映像「Bedrock twicht」

これ以降もマイペースな活動を継続し、現在でも3人で精力的にライヴ活動を行っているようです。


本作は2002年に発表された2枚組35曲入りのベスト盤で、残念ながら『フリントストーン』のテーマ「Meet The Flintstones」だけが権利関係の問題から収録されていないのですが、それでも、彼らの代表曲をレコード会社の壁を越えて網羅したコンプリート・ベストとも言える内容の作品です。

初期の作品だけでいいや、という方には、アイランド・レーベル時代(リッキーのいた時代)の13曲を収録した、ロブスターのジャケットのベスト盤『The Best of the B-52's』もオススメできますが、本作のディスク1だけでもアイランド時代の楽曲を18曲も収録しており、後のライヴ音源やリミックス曲までも網羅されています。

また、アイランドから移籍後の楽曲をまとめたディスク2のパーティー・ライクなポップ感も非常に元気があって使い勝手がよく、私の経営するバーでは、先日紹介したシュガー・キューブス [ The Sugar Cubes ] と共に、パーティーなどの繁盛時に便利な音源として重宝しています。

この2つのグループ、個人的には出音的に少し似通ったイメージを持っているのですが、なにしろどちらもノリが良いですからね(笑)。
ひょっとすると、シュガー・キューブスがB-52'sの影響を大きく受けているのかも知れません。

怪しくポップな前期と、底抜けに楽しいポップの後期、どちらもB-52'sならではの個性的なポップスであるだけに甲乙つけがたいところですが、爆発的なヒットを生んだ後期しかご存じない方には、ぜひ初期の怪しいポップ感も味わっていただきたいと思います。

この2枚組ベストは持っておいても損はありませんよ。
アマゾンに入れば35曲すべて試聴可能ですので、ぜひ試聴してみてください。
/BLマスター

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2007年07月12日

Greed/Ambitious Lovers

Greed/Ambitious Lovers

今日紹介するアンビシャス・ラヴァーズ [ Ambitious Lovers ] は、NYの前衛ギタリスト、もしくはブラジル系のアーチストのプロデュースなどで知られる、アート・リンゼイ [ Arto Lindsay ] と、スイス出身の凄腕キーボーダー、ピーター・シェラー [ Peter Scherer ] の2人によるユニット。

アンビシャス・ラヴァーズ名義では3枚のアルバムを残していますが、1988年に発表された本作『Greed』は、その中でも最高傑作と誉れの高い名盤中の名盤です。

個人的には、アート・リンゼイ、ピーター・シェラー、それぞれの関わった作品の中でも(私の聴いたことのある作品の中だけですが)最高傑作だと思っているほどのアルバムです。


アート・リンゼイと言えば、一時期、坂本龍一の作品やツアーに参加したことで有名ですが、元々、前衛パンク系バンドのDNAや、フェイク・ジャズとも呼ばれたラウンジ・リザーズ [ The Lounge Lizards ] ゴールデン・パロミノス [ The Golden Palominos ] などの非常にクセの強いグループに在籍し、そのなかでも特に異彩を放っていた変態ギタリストです。

簡単に言えば、ギターでありながらチューニングを一切気にせず、叩いたり蹴ったり引っ掻いたりすることで、効果音発生装置として演奏(?)しているのです。

しかも、彼の愛用のギターは12弦ギターですので、倍音が倍音を生み、複雑な不協和音を発生させます。

もはや、弦楽器ではなく打楽器やシンセサイザー、もっといえば、黒板を引っ掻く音や、金属の棒をコンクリートにぶちまけた音などの生活ノイズの延長とも取れる音色を奏でるのです。

動物の鳴き声ギターでおなじみのエイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] や、タッピングだけでピアノのように両手でギターを弾くスタンリー・ジョーダン [ Stanley Jordan ] もスゴいですが、アート・リンゼイほど前衛的なギタリストは滅多にいません。

チワワ犬に眼鏡をかけさせたようなお顔ですが、顔に似合わずとんでもなくアヴァンギャルドなギターを弾く人物なのです。


一方、相方のピーター・シェラーは、スイスのプログレ・バンド、アイランド [ Island ] で、アンサンブルの中心となる演奏をしていた凄腕キーボーダー。

ソロ名義でも、95年に『Very Neon Pet』という作品を発表していますが、もっぱらプロデューサー、アレンジャーとしての活動がメインとなっています。

日本で、アレンジャーとして有名なところでは、三上博史主演のドラマ『チャンス!』の本編中で、主人公、本城裕二の作った「夢 with you」という曲があるのですが、元々は久保田利伸の曲だったものをピーター・シェラーがアレンジを施して、本城バージョンにしています。

また、名義上はアート・リンゼイのソロ・ユニット表記となっているアンビシャス・ラヴァーズの1stアルバム『Envy』(1984年)では、プロデューサー/キーボーダーとして腕をふるっており、実質的には『Envy』発表の時点で、このコンビが成立していると考えても良いでしょう。
(なお、本作と、3rdアルバム『Lust』(1991年)のプロデュースも、ピーター・シェラーが担当しています。)

1stアルバムに収録の「Locus Coruleus」のプロモ映像


本作『Greed』は、1stアルバム『Envy』から4年後の1988年に発表された2ndアルバムで、前作よりもポップ感と攻撃性を増した非常にパワフルな作品です。

『Envy』はブラジル音楽とロックを、NYの前衛的なニューウェーヴの感覚で結びつけた傑作でしたが、本作は、そこにパンクの攻撃性とファンクのノリを加味し、さらに輪郭をくっきりさせた、玄人ウケする意味でのポップ感溢れる作品です。

ジャンル名で無理矢理わかりやすく説明すると、DNAは「前衛+パンク」、ラウンジ・リザーズは「ジャズ+前衛+アート・ロック」、アンビシャス・ラヴァーズの『Envy』は「ブラジル音楽+前衛+ロック+ニューウェーヴ」でしたが、本作『Greed』は、「ファンク+前衛+パンク+ポップス+ブラジル音楽+ニューウェーヴ」といった要素が混じっており、非常にスリリング、かつ、過激なサウンドです。


ちなみに、アート・リンゼイはNY生まれですが、3歳から17歳までブラジルで過ごしており、ボサノヴァやサンバといったブラジル系の音楽を、若いうちから本場で吸収しているため、彼の作品にはこういった要素もちょくちょく顔を見せます。

アンビシャス・ラヴァーズの自然消滅後は、特に静かなボサノヴァ・タッチのアルバムを多く発表しており、坂本龍一繋がりで、GEISHA GIRLS(ダウンタウンの松本と浜田のおふざけユニット)のアルバムにもボサノヴァ曲を提供しています。(「ノメソタケ」という曲がそれで、アートのソロに収録された曲のバッキングをそのままカラオケ状態で使ったものです。)

もちろん、本場のブラジル音楽のアーチストも多数参加しており、アンビシャス・ラヴァーズのアルバムやライヴに関しても、その力は大いに発揮されています。

とりあえず、下のライヴ映像をご覧下さい。
どちらも本作に収録されている楽曲です。

TV番組での「Copy Me」のライヴ映像
「Admit It」のライヴ映像

なお、アンビシャス・ラヴァーズとしては、私の知る限り2度来日公演を行っているのですが、初回の来日公演はこの映像のメンツで行われました。

本作でも、かなりの衝撃を受けましたが、ライヴもとんでもなく興味深いものでした。

余談ですが、私はこの初回のライヴで、坂本龍一のライヴにも参加した濃い顔のパーカッショニスト(名前は忘れちゃいました。ごめんなさい。)に手が届きそうな距離で観ていたのですが、あまりにも数多く微笑みかけられたため、今でも彼の顔が夢に出てくることがあります(笑)。


ところで、これは本作に限ったことではないのですが、アートの歌い方には2つの顔があります。

一つは、本作の1.、2.、6.のようなパワフルな楽曲で聴かれる、音階を気にせずシャウトするという歌い方、もう一つは、本作のパワフルな楽曲の間に挿入された3.、10.のようなボサノヴァ・タッチの曲で聴かれる、囁くような優しい歌い方(ある意味で脱力系とも言えるのですが…。)です。

言わば、パンキッシュな側面と癒し系の側面という、全く正反対のベクトルにある歌い方をしているのです。

DNAの頃は基本的にシャウトのみ、逆に、アンビシャス・ラヴァーズ以降のソロでは基本的に囁くのみなので、アンビシャス・ラヴァーズの頃がちょうど中間地点と考えることができるんですね。

おかげで、尖ったパンキッシュな楽曲の後に、いきなり癒し系のボサノヴァ・タッチの楽曲、というギャップをより強調することで、両者の持つ良さを引き立ててくれるというわけです。
そう考えると、アルバムとしての構造に関しても優れたものであることがわかります。


あと、念のために付け加えておきますが、アート・リンゼイは、NYの前衛系のアーチスト、ジョン・ゾーン [ John Zorn ] や、ビル・フリゼル [ Bill Frisell ] 、フレッド・フリス [ Fred Frith ] あたりとの親交が深いことで知られています。
しかし、本作は、こういったアーチストと一緒に演っているような難解なものではなく、前衛的な要素をエッセンス程度に使い、わかりやすいポップな作品に仕上げていますので、「前衛」という言葉で食わず嫌いにはならないでください。

ジョン・ゾーンの50歳記念ライヴでの「Locus Solus」の映像(難解でしょ。)

とはいえ、もちろん、決してヒット・チャートの上位に上がるような作りの曲ではありませんが、少しでも楽器を演奏したことのある方なら、非常に興味を惹く作品だと思います。


最後に、アンビシャス・ラヴァーズのアルバムには『Envy=嫉妬』『Greed=強欲』『Lust=淫欲』というタイトルが付けられています。
すでにお察しの方もおられると思いますが、これはキリスト教で言うところの「七つの大罪」のうちの3つですよね。

もし、自然消滅せず、この後もアンビシャス・ラヴァーズとして活動を続けていたとしたら、七つ全てが揃ったのかも知れません。

ちょっと残念ではありますが、本作のような超名盤が残っているのですから、それだけでも幸せです。

アマゾンに入れば、全曲試聴可能ですので、この記事を読んで少しでも興味を持たれた方は、ぜひ、聴いてみてください。

このアルバムは購入しても、まず、後悔されることはないと思います。
/BLマスター


追記:
アート・リンゼイの映像をYouTubeで探していたら、HEY!HEY!HEY!に中谷美紀が出演したときに、バックで演奏している姿を発見してしまいました。
坂本龍一がドラムを叩いている姿も貴重ですが、ダブルネックの12弦ギターを弾くアート・リンゼイの映像も貴重です。
ついでに、坂本龍一とダウンタウンが一緒に映っている姿を見てGEISYA GIRLSも思い出してしまいました(笑)。

HEY!HEY!HEY!での中谷美紀「Mind Circus」のライヴ映像

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2007年07月05日

Mister Heartbreak/Laurie Anderson

Mister Heartbreak/Laurie Anderson

今日紹介するローリー・アンダーソン [ Laurie Anderson ] は、アメリカのアーチスト。
元ヴェルヴェット・アンダーグランドのルー・リード [ Lou Reed ] の現奥方としても知られていますね(1998年結婚)。

1947年シカゴに生まれ、幼い頃からクラシックのバイオリンを学び、一時はシカゴ・ユース・シンフォニー・オーケストラのメンバーを務めたこともあるそうです。
その後、1966年になってニューヨークに移住、本格的に美術史と彫刻を学び学士号を取得、数年間の美術教師をやっていたとか。

72年頃から、現代音楽に属する、少々小難しい感じのパフォーマンス活動を開始し、81年の1stアルバム『Big Science』に収録された「O Superman」で全英チャート2位となる大ヒット、一躍有名になりました。

「O Superman」のプロモ映像

この曲がチャートの2位なんて…と思うような不思議な曲ですが、当時のテクノロジーの中で生起する愛と死について歌う意味深な歌詞を持つ曲で、イギリスでヒットしたのもわかるような気がします。

彼女は、どちらかというとミュージシャンではなく、演劇的なアプローチでアーティスティックなショーを楽しませてくれるマルチな芸術家です。
しかも、決して小難しい”お芸術”ではなく、ユーモアと笑いを含んだ、観ても聴いてもワクワクさせてくれる非常にわかりやすい芸術なのです。

絵画に置き換えて言うなら、絵に興味がない方が見てもわかりやすく面白い「エッシャーのだまし絵」に似ているところがあるように思います。

現代音楽的に言えば、わかりやすいという意味で、ジョン・ケイジやフィリップ・グラスなどと全く正反対に位置するエンターテイメント性の高いアーティスティックな音楽です。

私は、過去に二度、彼女のステージを見ているのですが、ステージに仕込まれた様々な仕掛けとパフォーマンスに魅了され、あっという間の2時間を過ごした記憶が残っています。

ステージの後ろにある巨大なスクリーンの映像とシンクロしたライヴという発想も、当時としては非常に斬新なスタイルだったのですが、他にも曲ごとに様々な仕掛けが用意されていました。

例えば、ローリーの演奏するバイオリンをよく見てみると、ボディーにテープ・デッキの再生ヘッドが付いていて、弓は馬の尻尾の毛ではなく磁気テープを張ったもの、そこに「YES」という言葉が収録されていれば、テープを逆さに”弾く”ことで「SAY」、「NO」は「ONE」へと変化します。
もちろん、テープを動かす速度をゆっくりにすれば悪魔のような低い声で、早く動かせばヘリウム・ガスを吸ったときのようなハイトーンで再生されるというわけです。

他にも、ローリーの着用する白いスーツの袖や胸、足などに、ドラム・マシンのパッド部分がバラバラに仕掛けられており、ダンスをしながら各所を叩くことで、リズムを奏でるというパフォーマスンスも見せてくれました。

また、時には奇妙なマスクを全員が被ってのパフォーマンスや、ステージの上から電話の受話器だけが降りて来て、これをマイク代わりに使ったり、大きなレンズを持ってどでかい顔で歌ったり、演奏者全員にビッグサイズの楽器とビッグサイズのYシャツが用意され、子供がはしゃいでいるように演奏したり、口の中にマイクを仕込み、頭蓋骨をコツコツ叩いてみたり、ネクタイに仕掛けられた鍵盤で曲を演奏したり、クイズ・コーナーのような楽曲があったりと、とにかくバラエティーに富んだステージングで一時たりとも目が離せませんでした。

『Home Of The Brave』のダイジェスト映像を使った「Language is a Virus」のプロモ映像
「Smoke Rings」のライヴ映像

曲と曲の間のMC一つをとってみても、ローリーの声がハーモナイザーを使って野太い男の声のように加工されており、後ろの巨大スクリーンの映像や字幕とシンクロするといった凝りようで、ありがちなロック・バンドのライヴとはひと味もふた味も違っていました。

TV番組出演時のハーモナイザーを使ったトーク映像

もし、今、このライヴがこのままの状態で行われたとしても興味深く観ることができると思います。

これぞ、まさしくニューウェーヴのお手本とも言える一つの形ですね。


今日紹介する『Mister Heartbreak』は84年に発表された彼女の2ndアルバムで、二度の来日公演は本作からの曲が主に演奏されていました。

プロデュースは曲によって、ビル・ラズウェル [ Bill Laswell ] 、ローマ・バラン [ Roma Baron ] 、ピーター・ガブリエル [ Peter Gabriel ] が、ローリーと共同で担当しており、キング・クリムゾンやデヴィッド・ボウイの作品でおなじみの変態ギタリスト、エイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] 、坂本龍一のツアーやトーキング・ヘッズの作品で異彩を放つ変態パーカッショニスト、デヴィッド・ヴァン・ティーゲム [ David Van Theghem ] の他、ゴールデン・パロミノスのアントン・フィア [ Anton Fier ] 、ピーター・ガブリエル、ビル・ラズウェル、ナイル・ロジャース [ Nile Rodgers ] など超豪華な顔ぶれで制作されています。

しかも、最後の曲「Sharky's Night」には、なんと『裸のランチ』で知られる前衛小説家、ウィリアム・バロウズ [ William S. Burroughs ] が朗読でゲスト参加までしているのです。

ちなみに、アメリカ本国でのライヴでは、私の大好きな変態ギタリスト、エイドリアン・ブリューやウィリアム・バロウズなども参加してたようですが、残念ながら、来日公演では二度とも彼らの参加はありませんでした。
とはいえ、二度とも変態パーカッショニスト、デヴィッド・ヴァン・ティーゲムの天才的なパフォーマンスが観れただけでも感動だったのですが・・・。

私にとっては、そんな二度のライヴのせいか、本作がローリー・アンダーソンの最高傑作に位置づけられており、楽曲、参加アーチストなどの点でも思い入れの深い作品となっています。

また、日本語で歌われる「KOKOKU」というオリエンタルな曲も収録されており、よくある西洋人の誤解を含んだ日本の感覚でないところも、うれしいところです。


しかし、基本的に、彼女の作品はすべて歌を聴くという目的のために存在しません。

彼女自身も、メロディーを重要視するような作り方はしておらず、どの曲も詩の朗読のような歌(ラップではありません)に、女性コーラスの印象的なメロディーが断片的に付いている程度。

曲の構成に目を向けてみても「イントロ〜Aメロ〜Bメロ〜サビ〜間奏〜」といったわかりやすい構成ではなく、ほとんどシンクラヴィアで制作された1本調子なバッキングの上に個性的なアーチストの演奏が被さることによってメリハリが付けられています。

そう言う意味では、特に、エイドリアン・ブリューとデヴィッド・ヴァン・ティーゲムが大活躍しているので、この二人による演奏を聴くだけでも損はないでしょう。

「Sharkey's Day」のプロモ映像
(↑ブリューとデヴィッドのファンの方はこの曲は必聴です)
「Excellent Birds:featuring Peter Gabriel」のプロモ映像
(↑ピーター・ガブリエルのファンの方はこの曲が必聴です)

もちろん、彼らの演奏を含めたすべてが、わかりやすくもアート性の高いローリー・アンダーソン作品の一要素なのですが・・・。


恐らく、一度通して聴けば、その不思議な魅力に、アートに興味のない方でも魅了されてしまうのではないでしょうか。

できれば、本作と合わせて、ビデオ作品(ライヴ・ビデオ)の『HOME OF THE BRAVE』をご覧いただきたいところですが、残念ながらDVD化はまだのようで、ビデオは品切れとなっていました。

2000年に発表されたベスト盤『Talk Normal: The Laurie Anderson Anthology』をお聴きになるのも決して悪くはないと思いますが、本作『Mister Heartbreak』を1枚通してお聴きいただくだけでも、私の言う「わかりやすいアート性」を充分にご理解いただけると思います。

既存のロックやポップスとは感覚が違いますが、エイドリアン・ブリュー、デヴィッド・ヴァン・ティーゲム、ピーター・ガブリエル、ローマ・バラン、ウィリアム・バロウズあたりに興味をお持ちの方には特に自信を持っておすすめします。

とりあえずは、アマゾンでの試聴とYouTube映像をご覧になって下さい。

きっと新しい発見が出来ると思いますよ。
/BLマスター

追記:
ローリー・アンダーソンのオフィシャル・ウェブサイトではトップページを開いて放っておくだけで次々に彼女の曲が流れます。(流れる曲はランダムに選曲されます。)
ちょっとしたローリー・アンダーソン専門のジューク・ボックス感覚ですよ。

ぜひ、こちらも覗いてみて下さい。
 ↓
Laurie Anderson Official Website

uknw80 at 18:34|PermalinkComments(10)TrackBack(0)

2007年06月21日

L' Homme A Valise/Mark Goldenberg

L' Homme A Valise/Mark Goldenberg

みなさんは、ずっと頭からイメージが消えることのないTVCMってありませんか?

私にとっては、80年代初頭に見た、サントリー・ローヤルのCMがそれなんです。

このCMには、砂漠のような場所で怪しいサーカス団が火を吹いたり輪を投げたりしている中を、タキシードにシルクハットとマントという出で立ちのアルチュール・ランボーに扮した青年が静かに歩いているという「ランボー編」、アントニオ・ガウディの建築物で、奇妙なお面を被ったバレリーナなどが踊りを見せる「ガウディ編」、そして、ファーブルに扮したおじさんが、虫取り網を持って枯れ木の中を覗き込んでいる「ファーブル編」の3本がありまして、いずれも、まるで夢の中のワンシーンのようなファンタジックなイメージのCMでした。

映像も然ることながら、音楽も不思議なイメージの、奇妙に気持ちのよいもので、とんでもなく大きなインパクトを持っており、今でもしっかりと覚えています。

ちなみに、先日、ふとこのCMのことを思い出しまして、ひょっとして、と思いながらYouTubeで検索してみたところ、「ランボー編」と「ガウディ編」の映像を発見しまして、懐かしさに浸りながら20数年ぶりにじっくりと見ることができました。

サントリー・ローヤルのCM「ランボー編」の映像
サントリー・ローヤルのCM「ガウディ編」の映像

当時、このCMは、私の友人の間でもかなり評判となり、レコードが出ていないかと探しまわったことがあったのですが、その時にはまだ発売されていませんでした。

しかし、よほどインパクトがあったのでしょう。
1985年になって、日本盤のみでこれらの音源を収録したアルバムが発売されたのです。
もちろん、私は発売日にしっかり手に入れました。

それをCD化したものが、今日紹介する本作、マーク・ゴールデンバーグ [ Mark Goldenberg ] の1stソロ・アルバム、『L' Homme A Valise(邦題:鞄を持った男)』です。

先述の3曲に関しては、元々TVCM用に制作された小曲であったため、レコード化の予定はなかったそうなのですが、あまりにも問い合わせが多いため、急遽レコード化の話が持ち上がり、レコード用の尺で再録音されたそうです。

そのため、残念ながらTVCMで流されれたものとは別バージョンとなっているのですが、本作でも充分にCMのドリーミーなイメージを満喫していただけるのではないかと思います。

また、サントリーのCMとしては、ローヤルの他にも「ペンギンズ・バー」というビールのCMも2本担当しており、本作にはそれらも含めて5曲のCM曲が収録されています。

楽曲的には、80年代半ばを象徴するような打ち込み系のサウンドと、ギター(彼の本業)によるインストものなのですが、これがまた、すばらしいんです。

フュージョンでもなければイージー・リスニングでもない無国籍なイメージのジャンルを超越したサウンドで、まさしくニューウェーヴ的な雰囲気なんですね。

電子楽器的な部分を生楽器やおもちゃに替えると、ちょっとペンギン・カフェ・オーケストラのような雰囲気の曲もあって妙になごめたりするのも気持ちいいんですが、どことなくフランスやスペインっぽいムードを感じるのも

しかも、作曲から演奏まで、全曲マーク・ゴールデンバーグ自身の多重録音により仕上げられており、彼の才能のすばらしさを感じていただけると思います。


さて、このマーク・ゴールデンバーグという人物ですが、私の中では、加藤和彦氏の80年代中頃の作品に多数参加しているイメージがあったのですが、この記事を書くに当たって調べてみたところ、ジャクソン・ブラウンの右腕的存在のギタリスト(ナイロン弦が主)として長く活動していたそうで、他にも、リンダ・ロンシュタットやピーター・フランプトン、ポインター・シスターズ、オリビア・ニュートンジョン、シカゴ、ピーター・セテラ、カーラ・ボノフ、シェール、加藤登紀子などのアルバムでも、ソング・ライター、ギタリスト、コンポーザー、そしてプロデューサーとして大活躍しているようです。

英国系ニューウェーヴにかけてはそれなりに知識を持っているつもりの私ですが、これらのアーチストに関しては勉強不足なため、今まで見逃しておりました。

また、自らもクリトーンズやアワー・タウンというグループで活動し、精力的に音楽活動を行っていたようですが、いずれもヒット曲には恵まれず解散しています。

しかし、日本盤でのみ発表されたソロ3作はいずれもすばらしい出来で、外国でも逆輸入の形で流通しているようです。

現在、日本のアマゾンで入手可能なのは、1stアルバムである本作『鞄を持った男』と、3rdアルバム『夢の扉』、そして、唯一のベスト盤『ザ・ベスト・オブ・マーク・ゴールデンバーグ』の3種類ですが、ベスト盤にはペンギンズ・バーで使われたうちの1曲「XANGO」が収録されていませんので(他の4曲は収録されています)、例のサントリーのCMに思い入れのある方は本作を、CMは知らなかったけど興味を持ったという方にはベスト盤がお勧めです。(2ndアルバム『テラ・ノストラ』だけは終売のようです。)

みなさんも、木陰でこれを聴きながら、ローヤルでも飲んでみませんか(笑)。
/BLマスター

uknw80 at 17:09|PermalinkComments(10)TrackBack(2)

2007年05月26日

beneath the rhythm and sound/THE OCEAN BLUE

beneath the rhythm and sound/THE OCEAN BLUE

■93年発表3rdアルバム
この時点で本blogの趣旨に反してる訳なのですが、英80’sNWネオ・アコースティック並び、ギターPOPというジャンルを見事に総括している作品として評価されて然るべきという判断で、御紹介したいと思います。

米ペンシルベニア州ハーシーで、87年に
デイヴィッド・スケルツェル(Vo/guitar)
ロブ・ミニング(drums/keyboards/backing Vo)
ボビー・ミッタン(bass)
スティーヴ・ラヴ(keyboards/sax/backing Vo)
という布陣で結成された、いわゆるネオアコ/ギターPOPバンドであります。

グル−プ名は憶測ですがエコー&ザ・バニーメン5thアルバムの「Blue Blue Ocean」と、4thアルバム名『OCEAN RAIN』からの引用では無いかと察しておりまする・・・。

結成当初はスミザリーンズ(大好き!)等の前座を経て88年にSIREに見出され、89年1stアルバム『THE OCEAN BLUE』(ちなみにプロデューサーはスミスで有名な、ジョン・ポーター)で デヴュー。91年には2ndアルバム『CERULEAN』をリリース。

この2作、或る意味凄い興味深い作品ではあるのですが、サビのフックが無いんですよね。そこが逆に深い感じを醸し出してたりもするのですが・・・。

ここで、1st〜2nd収録曲からの映像を紹介致して措きましょう。
1st収録曲
「Drifting Falling」/のPV
「Ballerina Out Of Control」/ のPV
2nd収録曲
「Between Something and Nothing」/2ndのPV(コレはもろ後期エコバニでありますネ)

■そして本、3rdアルバム。
今作は彼らのアルバム中、或る意味一線を駕した一作です。
これまでのサビの緩さが全く無くなり、どの曲をとってもメロディーの完成度、美しさが素晴らしい出来栄えであります。
いわゆる「青春胸キュン・ネオアコ/ギターPOP」のエッセンスが凝縮され、これ以上変え様の無い″記号″的なそれになっています。
これを一言で言えば・・・、ネオアコ/ギターPOPの″クラフト・ワーク″なのです!

彼らと極似してる存在としてレイルウェイ・チルドレンが挙げられます。
私、個人的にも今作がレイルウェイ・チルドレンの新作だと当時聴かされたら恐らく信じただろうという思いがある位なので、この手を聴いて無い方からしたら、全く同一存在でしょう。
レイルウェイ・チルドレンの方がまだ、「ギターPOP・クラフト・ワーク」を避けようとしてる感がありますが、今作に措いてのオーシャン・ブルーは完璧なまでの「ギターPOP・クラフト・ワーク」でありまして、「そこが」最高に良いのです、気持ち良いのです。はい!。

amazon中古価格600円です。これだけ買うと送料がもったいないですかねぇ(笑)。
合わせて1,000円弱でして、電車賃加算すると、この位で中古屋で投げ売りされてる(のを見てよく悲しんでおります。)のと同一の価格になりますかネ。
中古屋で探す労力を加味するとamazon通販に軍配あがったりすかも?って所ですね。

いずれにしろ、容易に安価で入手出来るものでして、アズテック・カメラニック・ヘイワ−ド等80’Sネオアコースティクがお好きな方には是非とも御一聴して頂きたいところであります。
/星

uknw80 at 17:08|PermalinkComments(6)TrackBack(0)
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