アナーキーインザUK
2006年11月07日
Spunk: The Official Bootleg/Sex Pistols
先月末、今になって、セックス・ピストルズのブートレグ(海賊盤)がリマスター盤として正規の日本盤でCD化されました。
これは、1977年11月に発表された彼らの1st『Never Mind The Bollocks(邦題:勝手にしやがれ)』の数ヶ月前に海賊盤として出回った、デビュー前のデモを初めてCD化(しかもオリジナル・フォーマット)したもので、ボーナストラックとして1976年の「アナーキー・イン・ザ・UK」のストリート・デモなど3曲を追加されています。
本来、この「80's UK New Wave」でニューウェーヴ以前のパンクを取り上げることは筋違いではあるのですが、このあたりでパンクが与えたその後の音楽への影響について書いておきたいと思います。
「パンク」とは何だったのか。
もちろん、パンクの種別や、思想、ルーツについて語るつもりはさらさらありません。
まず、それまでの商業音楽と大きく違うところは、『ヘタクソ』ということです。
歌は当然のこと、楽器の演奏テクニックに関しても一年前に初めてギターに触りました、という程度の演奏能力でも「パンク」という名の下で平気でステージに立っていられたのです。
しかし、社会に対する不満をぶちまけたようなその自由な表現や、ありあまるパワー、ステージ上での安っぽくも過激なストリートファッションは、やはり、今までの商業音楽にはありえなかったことであり、当時の若者の心を?むには充分な要素を持っていました。
恐らく、当時の立派な大人であるリスナーからはかなりの批判があったことでしょう。
そんな中、当時最強のお騒がせバンド「SEX PISTOLS」は特に目立っていました。
わざと放送禁止になるようなキーワードをアピールし、結果的にBBCで放送禁止になることがニュースとなり人々の関心を集めたり、自らジャンキーであることをネタにするといった逆説的な宣伝方法により彼らの知名度は一気に上がりました。
これは、マルコム・マクラレンの行った対マスコミ向けの「売るための戦略」でもあるわけなのですが、こういったマスゲーム的な行為自体がニューウェーヴだったとも言えなくはないでしょうか。
逆に言えば、面白い手法や売り方をすれば、既存の様式にとらわれることなく、ヘタクソだろうが楽器が演奏できなかろうが、自己表現ができ、リスナーにも受け入れられるということが分かったというわけです。
これ以降、パンクに触発され自己表現をしようとする若者や、パンクに触発され別の手法で自己表現しようとする若者たちによって、少数派のリスナーに向けた音楽が数多く生まれました。
それは、過去に出来上がってしまった音楽ジャンル的な様式から考えれば、「雑種」もしくは「変種」とも言えるものであり、多種多様に枝分かれしたその様式は一つのわかりやすいジャンル名にまとめることは困難を極め、結果的に「ニューウェーヴ」(新しい波)という漠然とした名前がつけられました。
言わば「新しければ何でもアリ」なジャンルがニューウェーヴなんですね。
また、テクノロジーが進化することで、楽器の演奏が出来ない者にもその機会は与えられ、奇をてらったファッションと共に成熟していったように思います。
言い方を変えれば、本来ミュージシャンではない人たちの手によって、既存の様式の壁が取り払われたわけです。
この時代、多種多様に増殖したニューウェーヴ・バンドと共に、多くのインディーズ・レーベルが設立され、彼らの手によって育てられたバンドはさらに多くの枝分かれを生み、80年代後期にはジャンルのカテゴライズすら難しくなっていきます。
90年代に入ってからは、いくら新しいものをやっていても「ニューウェーヴ」という言葉は使われなくなってきました。
現代ではすでにオールドウェイヴ化しているにもかかわらず、80年代のこういったバンドを総称して「ニューウェーヴ」と呼んでいることになんだか違和感を感じつつも、この呪縛から離れられない筆者でした。
/BLマスター