アートオブノイズ
2007年11月07日
(Who's Afraid Of ?) The Art Of Noise/The Art Of Noise
今日は、ZTTレーベルの看板ユニット、アート・オブ・ノイズ [ The Art Of Noise ] の84年のデビュー・アルバム『(Who's Afraid Of ?) The Art Of Noise(邦題:誰がアート・オフ・ノイズを…)』を紹介します。
思えば、83年、大学の同級生だった国分寺のロジャーことComo-Lee氏に12inchシングル(ミニ・アルバム?)「Into Battle with the Art of Noise」を聴かせてもらった時の衝撃は非常に大きなものでした。
まるでクラシックのアルバムのようなデザインのジャケットの中に、それまで聴いたことのない、未完成のようにも聴こえる実験的サンプリング・コラージュ作品が収められていたのです。
とはいえ、あくまでもポップス・ベースであるため、まったく小難しい印象はなく、どこかに洒落たユーモアを感じさせてくれる、まさしくアート・オブ・ノイズ(=騒音芸術)と言えるセンセーショナルなデビューでした。
しかし、この時点では、ZTTレーベルが「Video Kills The Radio Star(邦題:ラジオスターの悲劇)」のヒットで名を馳せた元バグルス [ Buggles ] のトレヴァー・ホーン [ Trevor Horn ] と、元NMEの毒舌ライターであったポール・モーリィ [ Paul Morley ] の新レーベルといった程度の情報しか公開されておらず、当のアート・オブ・ノイズに関してもトレヴァー・ホーンの新グループ的な扱いで、実体はほとんどわかりませんでした。
そんな状態のまま、翌年、デビュー・アルバムである本作『(Who's Afraid Of ?) The Art Of Noise』、さらに、ZTTの十八番とも言える12inchシングルを次々に発表(実際のところ、1曲につき何バージョンあるんでしょう?)、そして、唯一行われたTV番組でのライヴにおいてもピエロ風のメイクや当時の本作のジャケット(写真)にあるマスクを被ったまま行われました。
84年のTV番組でのライヴ映像
「Beat Box Version 1」の映像
「Beat Box Version 2」の映像
「Close (To The Edit) Original Version」の映像
「Close (To The Edit) - Version 2」の映像
「Moments In Love」の映像
さらには、85年春にロンドンで行われたZTTのショー・ケース・ライヴにおいて正体を明かすと宣伝しながらも、いざ幕が上がってみれば、アルバムと同テイクのテープをバックに、ジャケットにあるマスクを被った数名のダンサーからなるパフォーマンスが展開されただけで、ファンやマスコミの期待を見事に裏切ったのです。
とはいえ、個人的には歯がゆさを感じながら、このパフォーマンスが、アート・オブ・ノイズの謎めいたイメージをさらに高めることに成功していたように感じます。
しかし、実際のメンバーは、この扱いに不満を感じていたのか、同年秋、ZTTレーベルから離脱し、チャイナ・レコード [ China Records ] と契約、この時、ようやくアート・オブ・ノイズとして初めて姿を現したのが、アン・ダッドレー [ Anne Dudley ] 、J.J.ジェクザリック [ J.J.Jeczalik ] 、ゲイリー・ランガン [ Gary Langan ] の3人だったのです(ゲイリーは87年に脱退)。
当時のインタビューによれば、トレヴァー・ホーンとポール・モーリィはプロモート戦略の面でのコーディネートをしただけで、作曲、演奏、録音に関しては、実際のメンバーである3人だけで行われたとのことで、この話が本当だったとすると、トレヴァーとポールは、セックス・ピストルズ [ Sex Pistols ] やアダム&ジ・アンツ [ Adam & The Ants ] 、バウ・ワウ・ワウ [ Bow Wow Wow ] のプロデュースを行った時のマルコム・マクラレン [ Malclm McLaren ] とヴィヴィアンのような立場だったわけですね。
その後、ZTTのプロモーション術的な束縛から解放された第2期アート・オブ・ノイズは、既存のスタイルのプロモーションに乗って、テレビ出演やライヴ活動を始めるのですが、ポップさを増した楽曲のせいか、はたまた、J.J.のおっさん的ルックスやコメディアン的なパフォーマンスのせいか(笑)、ZTT時代の謎めいたイメージが一気に吹き飛んでしまいました。
考えてみれば、デビュー当時、音に洒落たユーモアのようなものを感じていたのはJ.J.のキャラクターだったのかも知れません。
とはいえ、彼のルックスとパフォーマンスのせいで、時代の先端を突っ走っていた音楽が、イタズラ好きなおっさんにサンプラーという高価なおもちゃを与えて作らせた音楽というイメージに変化してしまいました。
例えるなら、最先端の美術館ですばらしい絵画を見て、さぞかし気難しい芸術家が描いたんだろうと思っていたら、まるで少年のような心を持った山下清画伯(裸の大将)が描いていたというような感覚でしょうか。
ま、それはそれで大好きなのですが、イメージ的にはZTT時代の謎めいたものの方が合っているような気がします。
ジャンルこそ違いますが、そういう意味では、クリストファー・クロスが正体を現した時にも似ていますね(笑)。
恐らく、ZTTレーベルのプロモーション・ラインに乗ったままで正体を現すことがあったとしたら、このような方法はとらなかったことでしょう。
もちろん、夜のヒットスタジオや来日公演で見たJ.J.の陽気さは決して嫌いではないのですが(むしろ大好きです。笑)、そう考えると、トレヴァーとポールのとったイメージ戦略は正しかったのかも知れません。
ちなみに、チャイナ・レコードからは『In Visible Silence』(1986年)『In No Sense? Nonsense!』(1987年)『Below the Waste』(1989年)という3枚のアルバムを発表、その後、数々のリミックス・アルバムは発表されるものの、正式な解散を表明することなく活動を休止、1999年になって再びZTTレーベルから、アート・オブ・ノイズ名義で『The Seduction of Claude Debussy?ドビュッシーの誘惑?』というニュー・アルバムを発表しました。
しかし、この作品ではトレヴァーが音作りの中核として、楽器演奏者ではなかったはずのポールと共に演奏にも加わっている反面、元々実際の演奏者であったJ.J.やゲイリーの名前はなく、アンのみが参加、さらに、ゴドレイ&クレームのロイ・クレーム [ Lol Creme ] までもが参加し、デビュー当時やチャイナ・レコード時代の第2期とも違う形のアート・オブ・ノイズとなっています。
どの時代の作品も斬新なアート・オブ・ノイズらしい要素を持っていることは間違いありませんが、最も実験的で、かつ、ユーモアを感じさせる、その名の通り騒音芸術(=The Art Of Noise)だったのは、間違いなく第1期の頃の作品でしょう。
未聴の方は、ぜひ一度じっくり聴いてみて下さい。
こんなに実験的なのに小難しく感じないのはアート・オブ・ノイズならではですよ。
/BLマスター
2007年03月07日
The Ambient Collection/The Art of Noise
本作『The Ambient Collection』は、1990年にチャイナ・レーベルから発表された、アート・オブ・ノイズ [ The Art of Noise ] のアンビエント・ベスト的内容の作品。
アート・オブ・ノイズは、1983年にZTTレーベルの看板ユニットとして、顔はもちろん、メンバーの素性を一切明かさずにデビューしました。
その謎めいたイメージと、当時最先端の電子楽器を多用した非常に斬新な手法の曲で注目を集め、オーケストラ・ヒットという劇的な音を大流行させています。
しかし、1985年にはZTTレーベルとのトラブル(3人としては覆面ユニットであることに不満があったようです)からチャイナ・レコードに移籍、ようやく、J.J.ジェクザリク [ J.J. Jeczalik ] (Electoronics) とアン・ダッドレー [ Anne Dudley ] (Key)、ゲイリー・ランガン [ Gary Langan ] (Mix) の顔が始めてアート・オブ・ノイズとしてメディアに露出されることとなったわけです。
しかし、ゲイリーは移籍後発表された『In Visible Silence』を最後に多忙のため脱退、その後のワールド・ツアー(来日公演もありました)では、J.J.とアンを中心にゲスト・プレーヤーを招いて行われています。
アート・オブ・ノイズの特徴は、何といってもフェアライトやシンクラヴィアという超高級サンプリングマシン(現在で言えばシンセサイザーというよりもハード・ディスク・レコーダーに鍵盤がついたような機械)による音のコラージュで、まさしく「騒音芸術」と言えるでしょう。
これによる人工的なインダストリアル・サウンドと、クラシックを思わせるオーケストレーションで、実験的かつ、ポップな作品を世に送り出してきたわけです。
本作は、そんなアート・オブ・ノイズの楽曲をキリング・ジョーク [ Killing Joke ] のベーシスト、ユース [ Youth ] によるリミックスで劇的なアンビエント作品になっています。
そう言えば、アン・ダッドレーは、キリング・ジョークのジャズ・コールマン [ Jaz Coleman ] とも『Songs from the Victorious City』というアラブ系のサウンドをフィーチャーした作品を共作しており、ここでもキリング・ジョークとの親交の深さが伺えます。
雷鳴や雨音から始まり、波の音や飛行機の横切る音など、フィールドワーク的な自然音で曲間が埋められ、ラストまで切れ目なく楽曲を繋ぎ合わせている本作は、このアルバム1枚で一つの作品と考えることができ、発想的にはプログレのコンセプチャル・アルバムのような趣も持っています。
しかも、浮遊感のある曲ばかりをセレクトしているため、非常に心地良く聴くことができ、メディテーション、もしくはヒーリング・ミュージックのような効果を感じることも出来るでしょう。
途中では、何度か「Opus 4」の「太陽もない、月もない、朝もない、昼もない」という日本語による意味ありげなボイスがフィーチャーされており(ライヴではこのボイスをドラム・パッドで演奏していました)、我々日本人にとっても興味深いところです。
「Opus 4 and Paranomia」のライヴ映像
「Eye of a Needle」のプロモ映像
Ils remixの「The Art of Love」のプロモ映像
音色的には、いかにも当時のアート・オブ・ノイズ的なサンプリング音がふんだんに使われているのですが、なぜか古くさいイメージはなく、今聴いても充分に堪能できるのではないでしょうか。
これは恐らく、アンのクラシックで培った絶妙のアレンジと、J.J.のサンプリングのセンス、そして、ユースのミックスのセンスの賜物だと思います。
また、アンのクラシック・ライクなピアノ演奏とサンプリングによるストリングス・アンサンブルの活かされた楽曲や、後のアート・オブ・ノイズの再結成時のアルバム『The Seduction of Claude Debussy』などにも通ずる、教会を思わせる混成コーラスをフィーチャーした楽曲も非常に心地良く、ある意味でエニグマ [ ENIGMA ] の『Sadeness』を思わせるスピリチュアルな一面も兼ね備えています。
考えてみれば、アート・オブ・ノイズ自体が元々このような要素も持っていたわけで、そういう意味ではエニグマのルーツの一つはここにあると言っても良いのかも知れません。
本作はアート・オブ・ノイズのオリジナル・アルバムではありませんが、1stアルバム『(Who's Afraid Of?) The Art of Noise!』、以前紹介した『The Best of the Art of Noise』と並んで、ぜひ聴いていただきたい完成度の高いリミックス・アルバムです。
アンビエントものがお好きな方や、アート・オブ・ノイズのオリジナル・アルバムは持っているのだけれど、リミックス・アルバムは聴いたことがないという方には超オススメです。
全体を通して聴かなくてはこの良さは伝わりにくいと思うのですが、とりあえず、アマゾンで5曲目までは聴くことができます。
雰囲気だけでもつかんでもらえるはずですので、興味を持たれた方は一度試聴してみて下さい。
とにかく気持ちいいですよ。
/BLマスター
2006年09月29日
What Have You Done with My Body God?/The Art Of Noise
アート・オブ・ノイズ(The Art Of Noise)のとんでもないボックスセットが発売になりました。
実はまだ、注文すらしていないのですが、ほんとに凄くて、近いうちに必ず買うと決心しました。
アート・オブ・ノイズがデビューしたのが83年、この頃は12inchシングルという、リミックスものや別テイクを収録したレコードが大流行りした時代で、ZTTレーベルは他のレーベルと比べ物にならないくらい、ものすごい数の12inchを発表していたんです。
私はアート・オブ・ノイズの12inchだけでもかなりの数を所有していますが、それでも発表されたものすべてを把握出来ていません。
このボックスは、今年の夏に発表された、ZTT時代における初期の代表作「Beat Box」「Moments In Love」「Close To The Edit」などを収録する、12inchのベスト盤とも言える内容のセットで、1stアルバム『Who Afraid Of The Art Of Noise』からの12inchを主軸に、未発表のデモトラックなどの音源を加えて4枚のCDにまとめ、豪華でアーティスティックなハードカバーパッケージに収められたものです。
ZTTレーベルのファンならずとも欲しくなってしまう究極のセットですね。
「Beatbox」のプロモ映像
「Moments In Love」のプロモ映像
「Close To The Edit」のプロモ映像
「Close To The Edit」のプロモ映像(その2)
初期のマスクを被って行ったライヴ映像
アート・オブ・ノイズというグループの良さは、本来、通常のアルバムだけでは評価しづらく、12inch作品で真価を発揮しているように思います。
特に最初にZTTに在籍している期間の作品(アルバムは1枚だけですが)に関しては、その傾向が強いと思います。
彼らの楽曲は基本的には「歌もの」ではなく、人間の声すらも一つのエレメントとしてとらえており、音色や、曲の組み立て方のみでリスナーを楽しませてくれました。
そんなコラージュミュージックであるにもかかわらず、チャートの上位にまでくい込んだのはさすがとしか言いようがありません。
これらの数々のバージョンは、悪く言えば、フェアライトを使って量産された商業的な作品とも言えるのですが、この頃の他のアーチストの「単なるロングバージョン」や「ダンスミックス」とは違い、あくまでポップミュージックでありながら、カットアップ・コラージュという技術で実験的な作品を増殖させた、まさしく騒音芸術と呼べるサウンドです。
最近ではケミカル・ブラザースやプロディジーら、数々のアーチストの作品でアート・オブ・ノイズのサンプリング音が使われているのですが、ジェームズ・ブラウン、クラフトワークに次いで、世界で3番目にサンプリングされているアーティストがアート・オブ・ノイズだというのも納得ですね。
当時、最先端の斬新な技術も、今や、普通にポップソングの中に盛り込まれていることを考えると、彼らの作って来た芸術作品の、その後の音楽シーンに与えた功績は偉大です。
アート・オブ・ノイズはこれからも数々のミュージシャンの音ネタとして使われ、賞賛の的となって行くことでしょう。
/BLマスター
2006年06月25日
Best of the Art of Noise
アート・オブ・ノイズといえば、当時最新のサンプリング技術を駆使した、まさしく騒音芸術楽団。
数多くの12インチシングルを発表し、1曲に対して多くのバージョンを発表するという手法を産み出したZTTレーベルの看板ユニットでした。
また、かの有名なオーケストラヒットという大流行の音色や、サンプリング音にゲートリバーブを掛けてスッパリ音を切るという技術を産み出したのもAONなのです。
そういう意味では今のポップミュージックに多大な貢献をしているスーパーユニットということも出来ます。
デビューした頃は元バグルスのトレヴァー・ホーンがプロデュースということ以外はまったく秘密の覆面ユニットでしたが、後にZTTレーベルとのトラブルでチャイナレコードに移籍、J.J.ジェクザリクとアン・ダッドレーの顔が始めてメディアに露出されることとなったわけです。
蛇足ですが、その頃に日本でもライブツアーが行われ、夜のヒットスタジオに出演したことも懐かしい記憶として頭に残っています。
アン・ダッドレーという人は実に多才な女性で、「ルック・オブ・ラブ」で有名なABCのファーストアルバムのオーケストラアレンジ(アルバム自体のプロデュースはトレヴァー・ホーン)や、キリング・ジョークのジャズ・コールマンとの中近東系のユニットなどでもその才能を発揮しています。
このベスト盤は1997に発表された、80年代のAONの作品を1枚に凝縮したもので、デュアン・エディのギター・インストのカバー曲「Peter Gunn」や、トム・ジョーンズが歌うプリンスのカバー「Kiss」、Mr.マリックのテーマとして知られる「Legs」のバージョン違いで「Legacy」、トム・ハンクス主演の映画「ドラグネット」のテーマ曲「Dragnet 」のバージョン違いなども収録されており、まさにベスト中のベストです。
歴史的なユニットのベスト盤ですからこれはぜひ持っておきたい1枚ですね。
ちなみに、1999年に古巣のZTTレーベルからトレヴァー・ホーンが参加の上で生まれ変わり、現在はどちらかというとアンビエントハウス的な曲を発表しています。
/BLマスター