キュアー
2007年03月12日
The Top/The Cure
本作『The Top』は、1984年に発表された、キュアー [ The Cure ] のオリジナル・アルバムとしては通算5枚目にあたる作品です。
実は、本作の手前に発表された3枚のシングル「Let's Go To Bed」「The Walk」「The Lovecats」(ファンタジー3部作とも言われ、日本先行発売となった企画盤『Japanese Whispers(邦題:日本人の囁き)』として発表されました。)でキュアーは大きく変貌を遂げています。
個人的な見方ではありますが、それまでのキュアーのサウンドは、ロバート・スミス [ Robert Smith ] の独特のかん高い不安定なボーカルを除けば、イギリスでは比較的多くあった「パンクの流れを汲んだオルタネイティブ系のバンド」の音であり、特徴的なものはあまり見当たりません。
しかし、1982年発表の『Pornography』以降、バンド・サウンドの核ともいえるベーシストのサイモン・ギャラップ [ Simon Gallup ] とロバート・スミスの間に亀裂が生じ一時的に活動を休止(この時、初めて解散説が流れました。)ロバートはスージー&ザ・バンシーズに正式メンバーとして加入、さらにバンシーズのスティーヴ・セヴェリンとシングル「La Ment」を共作するなど、キュアー以外での活動に力を入れています。
3部作の始めに発表された「Let's Go To Bed」に関しても、キーボーディストに転向したキュアーのドラマーのローレンス・トルハースト [ Laurence Tolhurst ] 、セッション・ドラマーのスティーヴ・ゴールディングと制作しており、キュアー名義ではなく [ Recur ] という新バンド名義でリリースするつもりだったそう。
結局、このシングルはキュアー名義で発表されそこそこのヒット、続いて発表された2枚のシングルに関しても、ほぼ、ロバートとローレンスの2人での制作となり、シンプルながらも電子楽器をさりげなくエッセンスとして使ったポップ色の濃い作品となったのです。
中でも、シングル「The Lovecats」は、ペンギン・カフェ・オーケストラの一員で、後期ジャパンをプロデュースしたことでも有名なスティーヴ・ナイ [ Steve Nye ] が唯一プロデュースした楽曲で、キュアーにとっては初の全英チャート1位に輝きました。
そのため、急遽、TV番組でのライヴの話が舞い込み、元ブリリアントのドラマーであったアンディー・アンダーソン [ Andy Anderson ] 、『Pornography』のプロデューサーでもあったベーシストのフィル・ソーナリー [ Phil Thornalley ] 、そして旧友ポール・トンプソン [ Porl Thompson ] を招いてその場をしのぐことになり、結果的には、この人選が本作、新生キュアーの布陣となっています。
「Let's Go To Bed」のプロモ映像
「The Walk」のプロモ映像
「The Lovecats」のプロモ映像
恐らく、この時点で、初期のファンはメジャー指向に変わり果てたキュアーに幻滅したことでしょう。
とはいえ、この3部作以降、キュアーはロバート・スミスの特徴的なボーカルにふさわしい独特の音世界を作り上げることに成功したことを考えれば、決して失敗ではなかったと思うのです。
本作『The Top』は、そんな3部作の翌年に発表されたアルバムで、フィルがデュラン・デュランのアルバム制作のため参加できず、彼以外の先述のメンバーで制作されました。
本作からシングル・カットされたのは「The Caterpiller」たった一曲のみですが、全体としてみれば変貌を遂げたキュアーのカラーが一番色濃く出た傑作だと思います。
84年の来日公演での「The Caterpillar」のライヴ映像
TV出演時の「The Caterpillar」のライヴ映像
ただ、歴代キュアーの作品の中では最もメンバーの入れ替わりが激しかった時期であったため、どちらかと言えば、ロバート・スミスのソロ的な匂いがするのも本作の特徴です。
一度は解散を決意したわけですから、それも仕方のないことかも知れません。
宗教的なイメージのジャケットといい、ヒステリックな音色のセレクトといい、かなりねじ曲がったサイケデリックで、かつ、ゴシック寄りな独自のサウンドを感じ取っていただけるのではないでしょうか。
しかし、そんな中にも「The Caterpillar」や「Birdmad Girl」のようなアコースティック感のあるポップな楽曲や、ロバートらしいちょっと不気味なバラード「Dressing Up」なども存在し、メリハリをつけてくれるところも見事です。
なお、この頃、キュアーとしては唯一の来日公演が行われており、その際アンディーがお酒を飲み過ぎてトラブルを起こし、即刻クビになるという事件が起きています。
ちなみに、アンディーはその後、元オレンジ・ジュースのジーク・マニーカ・バンドやイギー・ポップと仕事をしており、イギーのツアーでも来日しているそうですが、この時は飲み過ぎてはいないようです(笑)。
また、アンディーの代わりとして残りのツアーでドラマーを務めたのは、サイケデリック・ファーズのヴィンス・エリー、その後、元トンプソン・ツインズのボリス・ウィリアムス [ Boris Williams ] が加わっており、さらに、フィルはソロとプロデュース業が忙しくなり、本作1枚で脱退、その後、ジョニー・ヘイツ・ジャズに参加、代わって、サイモン・ギャラップがロバートと仲直りをして返り咲きました。
この頃のメンバーの入れ替わりは凄まじく、記憶も確かではなかったのですが、改めて調べてみるとややこしいものです(笑)。
ちょうど、この頃からロバートがブクブクと太りはじめているのも、こんなメンバーの不安定さからくるストレスで食べ過ぎているのかも知れませんね。
とにかく、メンバー的には非常にイレギュラー、音の方は良くも悪くも大きく変化を遂げた時期の作品であるだけに、逆にかなり面白いアルバムだと思います。
未聴の方にはぜひ聴いていただきたい隠れた傑作です。
アマゾンで全曲試聴可能ですよ。
/BLマスター
2007年01月15日
Join The Dots - B Sides & Rarities 1978-2001 The Fiction Years/The Cure
キュアー [ The Cure ] は、1978年、前身バンドとなるイージー・キュアーを母体として、ロバート・スミス [ Robert Smith ] (V,G)、マイケル・デンプシー [ Michael Dempsey ](B)、ローレンス・トルハースト [ Laurence Tolhurst ] (D,Key)の3人で結成され、何度も解散説が流れる中(実際、何度も解散宣言をしています)、度重なるメンバー・チェンジを重ねつつ、つい最近まで活動していました。
いや、まだ解散していないのかも知れませんが、何せ、「オオカミが出るぞ〜!」みたいな具合なもので、実際のところはよくわかりません。
日本でも「有頂天」というバンドが同じように解散を連発していましたが・・・。
しかし、キュアーほど英国ニューウェーヴという言葉にぴったりフィットするバンドも珍しいです。
パンク、ゴシック、オルタナティヴ、エレクトロニクスなどをうまくエッセンスとして取り込みつつも、どこかアンダーグランドなイメージを残し、独特のかん高いボーカルでその人気をキープする姿勢は見事としか言いようがありません。
できれば、外見に関しても、メイクや髪型と同様に、デビュー当時の体重をキープする姿勢も見せて欲しかったところですが・・・。
ところで、キュアーのベスト盤というのは数多く存在します。
時期こそ違えど、基本的にシングル曲が中心となっているため、収録されている曲に大差はありません。
しかし、自分の好きな時期に焦点を絞ったものや、単純に曲数の多いものを選ぶことができるので、ある意味では嬉しいことですね。
とはいえ、楽曲の好き嫌いというのは人によって違うもの。
今となっては入手困難な、ドーナツ盤のB面に収録されていた楽曲や、コンピレーション盤のみに収録された楽曲などに懐かしさをおぼえ、CDで発売されていないかと探しまわったという方もおられるのではないでしょうか。
今日紹介する、このキュアーのボックス・セットは4枚のCDに、年代別にB面曲を中心に、未発表バージョン、リミックスなど、なんと70曲もの楽曲を収録しています。
しかも、スゴいことに、アルバムに重複している楽曲(バージョン)がほとんどなく、さらに詳細なディスコグラフィーや歌詞、対訳まで載った豪華76ページのブックレットを封入したデジブック仕様になっており、彼らのファンならぜひとも持っておきたい作品です。
結局は、アルバムというものは全体で一つの作品であり、雰囲気や主旨にそぐわない曲は良く出来た楽曲であっても省くことが多いもの。
このボックスは、一つの作品としてはまとまりのないものかも知れませんが、レア・トラックをまとめるというコンセプトの作品としてはかなりのクオリティーだと言えます。
「なぜこの曲をアルバムに収録しなかったのか?」と不思議に思うほど良く出来た楽曲群にロバート・スミス [ Robert Smith ] のB面曲へのこだわりを感じてしまうと思いますよ。
ちなみに、紹介している日本盤ではアマゾンで試聴が出来ないため、全曲試聴可能な輸入盤も同時に紹介しておきます。
輸入盤には対訳や日本語での解説などがありませんが、興味を持たれた方はこちらでぜひ試聴してみて下さい。
輸入盤『Join The Dots - B Sides & Rarities 1978-2001 The Fiction Years』
では早速、それぞれのディスクの解説をしてまいりましょう。
■Disk1 [ 1978~1987 ]
78年から87年までに発表されたアルバムと言えば合計7枚。
この時期は比較的レアな音源が少なく、ほぼシングルのB面曲で構成されているのですが(B面曲であること自体レアですが・・・)、9曲目の「Lament (Flexipop Version)」は英国の雑誌「Flexipop」のおまけに付けられた(恐らく)ソノシート盤に収録された音源で、ロバートと、スージー&ザ・バンシーズのスティーヴ・セブリンの二人きりで録音されロバートのソロ名義で発表されたもの。
なお、この曲は別のテイクが同じくDISK1に収録されているのですが、こちらは82年発表のシングル「The Walk」のB面バージョンです。
■Disk2 [ 1987~1992 ]
このディスクにはドアーズのカバー曲「Hello I Love You」が3曲収録されていますが、14曲目はまったく未発表のサイケデリック・バージョンで、15、16曲目はキュアーのアメリカでの所属レーベルであるエレクトラの歴代ロックの名曲をカバーするというコンセプトのトリビュート・アルバムに収録されたバージョンです。
9曲目の「To the Sky」は『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』に収録されなかったアウトトラックで、フィクション・レーベルのコンピレーション・アルバム『Stranger Than Fiction』にも収録されたものらしいです。
あとは同じく『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』に収録されていた楽曲の別テイクもので、6曲目の「Icing Sugar (Weird Remix)」と、8曲目の「How Beautiful You Are (Clearmountain 7" Remix)」が収録されています。
後者は、フランスでのリリースを念頭にボブ・クリアマウンテンにリミックスを任せたもので、ラジオ向けのサンプラーCDにのみ収録されていた音源です。
■Disk3 [ 1992~1996 ]
この頃は英国だけでなく、米国でも人気が出て来た頃で、キュアーとしては世界的に見て一番セールスの良かった時代と言えます。
それだけにトリビュート・アルバムやサントラ・アルバムなどオリジナル・アルバム以外での活動が多くなっています。
7曲目の「Doing the Unstuck (Saunders 12" Remix)」は『Wish』に収録された曲の未発表バージョンで、マーク・ソンダースによる12inch用にミックスされたもの。
9曲目のジミヘンのカバー曲「Purple Haze」は、93年のジミ・ヘンドリックスのトリビュート・アルバム『Stone Free: A Tribute to Jimi Hendrix』に収録された音源で、8曲目の「Purple Haze (Virgin Radio Version)」はそのリハーサル状態を録音し、ヴァージン・レディオの開局日に流されたという音源です。
キュアーがジミヘンのカバーをするなんて驚きでした。
10曲目「Burn」はブルース・リーの息子、ブランドン・リーの遺作、映画『ザ・クロウ』のサントラの1曲目に収録された音源。
「Burn」のプロモ映像
11曲目のデヴィッド・ボウイのカバー曲「Young Americans」は、英国のラジオ局のチャリティー・アルバム『XFM 104.9』に収録された音源。
12曲目「Dredd Song」はシルベスター・スタローン主演のSF映画『ジャッジ・ドレッド』のサントラのこれまた1曲目に収録された音源。
■Disk4 [ 1996~2001 ]
この時代はオリジナル・アルバムがたったの2枚ということになりますが、未発表バージョンやアウト・トラックは豊富で、1枚のアルバムに対するロバートなりのこだわりを感じさせてくれます。
6曲目の「More Than This」は、TVドラマ『X−ファイル』の映画版『X-ファイル ザ・ムービー』のサントラに収録された楽曲。
7曲目「World in My Eyes」は、デペッシュ・モードのトリビュート・アルバム『For The Masses: An Album of Depeche Mode Songs』に収録されたカバー曲で、キュアー名義となっているものの、ロバート・スミスの単独作品だそうです。
8曲目「Possession」は『Bloodflowers』の収録からもれたアウト・トラック。
9曲目「Out of This World (Oakenfold Remix)」は、同じく『Bloodflowers』に収録された同名曲の未発表バージョン。
10曲目「Maybe Someday (Hedges Remix)」も、同じく『Bloodflowers』に収録された同名曲の未発表バージョンで、プロモーションCDにのみ収録されていました。
11曲目「Coming Up」は、同じく『ブラッド・フラワーズ』の日本盤と豪州盤のみにボーナストラックとして収録された音源。
12曲目「Signal to Noise (Acoustic Version)」は、シングル「Cut Here」に収録された13曲のアコースティック・バージョン。
14曲目「Just Say Yes (Curve Remix)」は、前回紹介したベスト盤『Greatest Hits』に新曲として収録された楽曲の未発表バージョン。
「Just Say Yes」のプロモ映像
15曲目「A Forest (Plati/Slick Version)」は、80年発表の『Seventeen Seconds』に収録されていたシングル曲を新たにセルフ・カバーした未発表曲で、ドラムン・ベース風に仕上がっています。
元曲「A Forest」のライヴ映像
これ以降も映画『バイオハザードII アポカリプス』のサントラなど、最近は映画のサントラへの参加も目立ちましたが、バンドとしては2004年の通算23枚目(ですよね?)にして初のバンド名がアルバム・タイトルとなった『The Cure』を最後にまたしても解散宣言をしており現在のところ活動はしていない(はず?)状態です。
さてさて、今回の解散は本当の本当なんでしょうか?
毎回、騙されつつも懲りずに買ってしまうファン心理です。
/BLマスター
2006年06月26日
Greatest Hits/THE CURE
キュアーというバンドは大変長い間活動しているのですが、活動停止期間が非常に多く、そのたびに解散という言葉が飛び交うので、まるで「オオカミが出るぞ〜っ」的な感覚で、解散話を誰も信じなくなりました。
一昨年にリリースした「本当の解散アルバム」の発表の時ですら誰も驚く人もなく、地味なラスト・アルバムとなってしまったのではないでしょうか?
実は76年に、当時アートスクールの学生であったロバート・スミスを中心に、すでにイージー・キュアーという名前でキュアーの母体をつくっていますので、一昨年の解散が今度こそ本当だとするなら28年もの間活動していることになります。
そんな彼ら(正式メンバーで残っているのはロバート・スミスただ独りですが・・・)の人気を不動のものとしたのはロバート・スミスのスージー&ザ・バンシーズへのギタリストとしての一時的参加であったことは有名でしょう。
その後は音楽的な幅も広がり、屈折したポップ感と、高く不安定なボーカル、イギリスのインディーズ的な陰影のある独自のサウンドで私たちを魅了してくれました。
このベストアルバムは2001年に発表したもので、デビューしてから2000年までの実にキュアーらしいメジャーな曲をまとめてあるので、キュアーを知るには最適なアルバムと言えます。
ただし、輸入盤と国内盤は内容が異なっているため、個人的に大好きな「キャタピラー」が入っていることと、収録曲の多さで国内盤を紹介させていただきました。
/BLマスター