RobertFripp

2009年06月10日

Damage/David Sylvian & Robert Fripp

Damage/David Sylvian & Robert Fripp


今日紹介するのは、2001年に発表されたデヴィッド・シルヴィアン&ロバート・フリップ [ David Sylvian & Robert Fripp ] のオフィシャル・ライヴ・アルバム『Damage(邦題:ダメージ)』。

本作は、2000年発表のヴァージン時代の軌跡的な2枚組アルバム『Everything and Nothing』、2002年発表のヴァージン時代のインスト曲の軌跡的なアルバム『Comphor』と同じく、シルヴィアンがヴァージンを去る際に置き土産的に残していったアルバムの一つです。

実は、この『Damage』というアルバム、同じタイトルで1994年に数量限定で発表されているのですが、どちらも1993年12月のロンドン公演の模様を収めた作品でありながら、それぞれ違った個性を持っているため、ジャケットをリニューアルしただけのリイシュー作品というわけではありません。


Damage/Robert Frippまず、1994年発表の『Damage』(限定盤)(写真左)の方は、フリップとデヴィッド・ボットリル [ David Bottrill ] が共同でプロデュースした作品であり、シルヴィアンは藤井ユカやラッセル・ミルズ [ Russell Mills ] らと共にアート・ディレクションを担当しているものの、サウンド面の編集、加工作業には関与していません(※以降、フリップ版『Damage』と表記)。

ちなみに、デヴィッド・ボットリルは、シルヴィアン&フリップのスタジオ・アルバム『The First Day』をシルヴィアンと共同でミキシング/プロデュースを担当したクリムゾン関連の裏方的人物で、演奏の方でもサンプリング・パーカッションやコンピューター・プログラミングで関与、また、エンジニアとしても活躍しています。
ま、YMOで言うところの松武さん的なポジションの人ですね(笑)。

そして、藤井ユカはシルヴィアンの昔の彼女で、多くのシルヴィアン作品でカバー・アートや写真を担当するアーチスト、また、ラッセル・ミルズはシルヴィアンと共にインスタレーションを行ったり、シルヴィアン作品のカバー・アートを担当したりしているアーチストで、シルヴィアンらも招いて自らの名義でニューエイジ系のCD作品もリリースしています。

つまり、フリップ版『Damage』は、サウンド面がクリムゾン一派、カバー・アートはシルヴィアン一派によって制作されているわけですね。


そして、今回紹介している、2001年発表の『Damage』の方はシルヴィアンの単独プロデュースによるもので、フィリップは一切関与していません(※以降、シルヴィアン版『Damage』と表記)。

もちろん、音源自体はどちらもシルヴィアン&フリップ名義のライヴを録音したものですから、演奏には2人とも参加しているわけですが、加工する人間が変わると出てくる音の印象まで変わっちゃうんですよね。

簡単に説明すると、フリップ版の方はギタリスト的な目線でプロデュースしたようなサウンドで、ギターのエッジが鋭く音量も大きめ、また、ドラムの空間処理がギターに比べるとかなり深めで音が遠く、どちらかというとライヴの臨場感が高め、これに対して、シルヴィアン版の方は第三者のプロデューサー的な目線でプロデュースしているようなサウンドで、ボーカル、ギターも含めて全体的にフラットなバランスで、フリップ版に比べればドラムの音量は大きめながら、残響が短めに処理されているためかライヴの臨場感は低めです。

つまり、フリップ版はギターが大きめでエコーが深めのライヴ感溢れるサウンド、シルヴィアン版はバランスを重視した一発録りのスタジオ・ライヴ・レコーディング・アルバムのようなサウンドという感じでしょうか。

とはいえ、2枚を比較すれば…というレベルの話でして、どちらも同じロンドン公演をまとめたライヴ・アルバムであることには変わりありません。

ま、出音に関しては好みの問題なんでしょうが、ファンの方は両者をじっくり聴き比べるという楽しみ方をするのも面白いと思います。


あと、収録曲と曲順に関しても違いがあります。

収録曲数はどちらも12曲ながら、曲の並びも微妙に違っており、フリップ版に収録されている「Darshan」に代わって、シルヴィアン版には「Jean The Birdman」が収録されています。

「Jean The Birdman」と「Darshan」はどちらもシングルで発表している楽曲ですから、セールス的に考えれば両方収録していても良さそうなものですが、個人的には、この違いこそが2種類の『Damage』の個性を象徴しているような気がします。

→シングル「Jean the Birdman
→シングル「Darshan

「Jean The Birdman」は、スタジオ・アルバム『First Day』の中でも最もボーカル・パートの比重が大きい曲であり、最もポップな曲であると言って良いでしょう。(あくまでもこの2人にしてみればポップという意味で、メインストリーム系のポップとは別モノです。念のため…。笑)

これに対して「Darshan」は、アルバム中、最も収録時間が長く(『First Day』では17分17秒、フリップ版『Damage』では10分47秒)、ボーカルが比較的単調なのに対して、インストゥルメント・パートの比重が大きいため、必然的にギターの遊びどころ(みせどころ)も多い曲です。

つまり、シルヴィアン版は、最も長くて重たい楽曲を省き、代わりに最もボーカルと歌メロを重視した楽曲を収録することで、”歌モノ”であることを強調した作りになっているわけですね。

ちなみに、本作(シルヴィアン版『Damage』)の曲順は以下の通り。
例によって、曲タイトルに下線がついているものはYouTube映像をリンクしてありますので、興味を持たれた方はクリックしてご覧ください。

1. God's Monkey
2. Brightness Falls
3. Every Colour You Are
4. Jean the Birdman
5. Firepower
6. Damage
7. Gone to Earth
8. 20th Century Dreaming (A Shaman's Song)
9. Wave
10. Riverman
11. Blinding Light of Heaven
12. First Day


David Sylvian & Robert Fripp/Live in Japanなお、1995年に、93年10月の東京中野サンプラザ公演を収録した『David Sylvian & Robert Fripp Live in Japan(邦題:シルヴィアン&フリップ ライヴ・イン・ジャパン)』(写真左)というオフィシャル・ライヴ・ビデオ(未DVD化)が発表されているのですが、曲順に限って言えば、7曲目の「Exposure」を省き、12曲目の「Darshan」を「Blinding Light of Heaven」と入れ替えれば上のシルヴィアン版『Damage』とまったく同じです。

→VHSビデオ『シルヴィアン&フリップ/ライヴ・イン・ジャパン

フリップ版『Damage』では、アルバム・タイトルとなっている「Damage」を1曲目に持ってくることで、テーマをより明確なものにする意図があったのかも知れませんね。


最後になりましたが、この時のワールド・ツアーのメンバーは、シルヴィアン、フリップに加えて、前年のドラムレス・ツアーにも参加したスティック奏者のトレイ・ガン [ Trey Gunn ] 、シルヴィアンのツアーにも参加したことのある変幻自在のギタリスト、マイケル・ブルック [ Michael Brook ] 、また、ドラムに関しては『The First Day』に参加したジェリー・マロッタ [ Jerry Marotta ] がピーター・ガブリエル [ Peter Gabriel ] のツアーに同行していたため、代打としてパット・マステロット [ Pat Mastelotto ] が参加しています。

個人的には、ビートのしっかりしたマロッタのドラムが気に入っていたのですが、ライヴということを考えればマステロットのややルーズなドラム・ワークも悪くはないと思いました。

ま、さすがに、周りがクリムゾン一派で固められているので、『The First Day』同様、クリムゾンにシルヴィアンが加入したようなサウンド・イメージが強いのですが、どちらの『Damage』も、フリップの参加したシルヴィアンのソロ『Gone To Earth』から「Gone To Earth」「Wave」「River Man」、また、マイケル・ブルックの参加したレイン・トゥリー・クロウ [ Rain Tree Crow ] から「Every Colour You Are」を収録しているため、シルヴィアンの色もしっかり出ており、むしろ、スタジオ・アルバムの『The First Day』よりも2人のバランスが取れているような気もします。

未聴の方は、ぜひ手に入れて聴き込んでみて下さい。

なお、どちらを購入するか悩んでおられるのでしたら、シルヴィアン・ファンの方には本作、シルヴィアン版『Damage』を、クリムゾン・ファンの方にはフリップ版『Damage』を、さらに、熱狂的なファンの方には両方を手に入れられることをオススメします。

ところで『The First Day』のライナーによれば、シルヴィアン&フリップはこれ以降も可変的ユニットとして活動を継続していくということで、フリップ曰く「自由に呼吸し成長し続ける有機的なユニット」、シルヴィアン曰く「共に精神的成長を重ねていく場」と表現していたそうなんですが、私の知る限り、93年のライヴ以降、(それぞれの作品を含めて)2人の名前が同時にクレジットされた新作はありません。

そろそろシルヴィアン&フリップの新作をお願いできないものでしょうか?

そして、その際にはエイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] の動物ギターもチラッと混ぜ込んでくださると嬉しいんですが…(ちょっとした私の夢なんですけどね〜笑)。
/BLマスター


uknw80 at 00:15|PermalinkComments(5)TrackBack(0)

2007年01月30日

The First Day/David Sylvian & Robert Fripp

Sylvian Fripp/The First Day

本作『The First Day』は、93年に発表された元ジャパン [ JAPAN ] のフロントマン、デヴィッド・シルヴィアン [ David Sylvian ] と、キング・クリムゾン [ King Crimson ] のフロントマン、ロバート・フリップ [ Robert Fripp ] の共同名義の作品。
ちなみに、本作制作時はキング・クリムゾンも2度目の解散中で、厳密に言えば、この時点では元キング・クリムゾンということになります。

そもそもの彼らの出会いは、85年のシルヴィアンのカセット作品『Alchemy: An Index of Possibilities(邦題:錬金術)』(現在はCD化されています)、86年の2ndアルバム『Gone to Earth』にフリップ氏が参加したことに始まります。
ちなみに、この2つの作品は85年に録音されたもので、同じ時期に制作されたものだそうです。
このアルバムで、フィリップはほぼ全編でフリッパートロニクス(フリップの言うところの自身が開発したギター×ディレイなどのエフェクトによる装置のことですが、ま、エフェクティブなギターと思って下さって結構かと思います)を弾いており、また数曲で作曲にも関与、それ以降は何らかの形で共同作業を行おうという意向をお互いに表明していました。

フィリッパートロニクスのデモ演奏の映像

その後、キング・クリムゾンの再々結成を思い立ったフリップは、シルヴィアンを新ボーカルとして迎えた新生クリムゾンを想定し、シルヴィアンにラブコールするも断られ、代わりに、対等な関係で別ユニットとして実現したのがこの シルヴィアン・フィリップ だったのです。

もし、このユニットの存在がなく、新生クリムゾンのボーカリストがシルヴィアンだったらどういうことになっていたのでしょう。

私の知る限り、クリムゾンのコアなファンの方はジャパンというバンドをミーハー視しておられる方が多く、逆に、ジャパンの初期のファン層はクリムゾンというバンドを小難しく感じている、もしくは、シルヴィアンのコアなファンは叙情的でポエティックなイメージがありプログレ指向なクリムゾンとは結びつかない、という感覚を持っておられ、そういう意味では、ミス・マッチなイメージがあって当然です。

恐らく、双方のファンからは受け入れられず、自由に演れなくなったシルヴィアンはほどなく脱退、そして、またしてもクリムゾンの解散という構図が私の頭の中には浮かびました。

これは、初期ジャパンのミーハーなイメージを引きずったものであり、もし、シルヴィアンのデビューがソロになってからの『Brilliant Trees』であったなら、もう少し話は違っていたのかも知れませんが・・・。

しかし、本作『The First Day』は、結果的にフリップが意図したところのシルヴィアンを迎えた新生クリムゾンとでもいうべき内容となっており、両者の個性が巧く融合された非常に興味深い作品となっています。

シルヴィアンサイドから見れば非常にポップで技巧的であり、クリムゾンサイドから見れば叙情的で有機的な楽曲となっているように感じるのです。

本作が、クリムゾン名義でもシルヴィアンのソロ名義でもないところが違和感のないところで、セールス的な話は別として、作品としてはかなり成功していると思います。

「Jean The Birdman」のプロモ映像

ところで、この作品、実は面白い作曲法がとられているんですよ。
通常であれば、作曲→リハーサル→録音→アルバム発売→ライヴツアー 、となるところを、作曲&リハーサル→ライヴツアー→録音→アルバム発売→ライヴツアーという順になっています。

つまり、一度目のシルヴィアン・フリップのツアーではまだ実験的な状態で行われており、その後、本作が制作されてから、改めて本格的なツアーが行われました。

一度目のツアーは92年初頭に、シルヴィアンとフリップ、そしてその後新生クリムゾンに加入したトレイ・ガン [ Trey Gun ] というトリオで(すなわちドラムレスで)行われており、その後、ピーター・ガブリエルの作品やツアーにも長く参加しているドラマー、ジェリー・マロッタ [ Jerry Marotta ] や、シルヴィアンの元嫁のイングリッド・シャヴェス [ Ingrid Chaves ] 、デヴィッド・ボットリル [ David Bottrill ] 、マーク・アンダーソン [ Marc Anderson ] などを迎えて本作が制作されました。

チャップマン・スティックちなみに、トレイ・ガンは、フリップ主催のギタリスト・セミナー「ギター・クラフト」の生徒だった人。
これ以降の新生クリムゾンを始め、フリップの関連した作品にはかなり顔を出している、言わばフィリップの右腕的なアーチストで、大きな指板にギターとベースの弦を張ってハンマリング奏法(指で弦を叩く)で弾くという楽器、チャップマン・スティック(左の写真)の奏者です。

二度目のツアーは、93年後半に、一度目の3人に加えて、シルヴィアンの作品やツアーにも参加しているエフェクティブでトリッキーなギターで有名なマイケル・ブルック [ Michael Brook ] 、マロッタがピーター・ガブリエルのツアーに参加していたため、なぜか代役ドラマーに西海岸系のスタジオ・ミュージシャン、パット・マステロット [ Pat Mastelotto ] を迎えて行われました。

なお、この模様はフリップ・バージョンである『Damage: Live』、シルヴィアン・バージョンである『Damage』という2枚のライヴアルバムと、『ライヴ・イン・ジャパン』というライヴ・ビデオとして、オフィシャルで発表されています。

「God's Monkey」のライヴ映像
「Blinding Light Of Heaven」のライヴ映像
「Damage」のライヴ映像

これらのライヴ作品には、本作『The First Day』には収録されなかった楽曲や、シルヴィアンの『Gone to Earth』で共作した楽曲なども含まれており、ファンにとってはかなり面白いものとなっています。

興味を持たれた方は、本作とあわせてこちらのライヴ作品も聴いてみられてはいかがでしょう。
/BLマスター

uknw80 at 17:36|PermalinkComments(4)TrackBack(2)
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