mickkarn
2007年08月22日
Bestial Cluster/Mick Karn
今日紹介するのは、元ジャパン [ Japan ] の変態ベーシスト、ミック・カーン [ Mick Karn ] が1993年に発表した3枚目のソロ・アルバム『Bestial Cluster』です。
眉毛を生やすようになってからは初のソロ・アルバムですね(笑)。
一応、念のため付け加えておきますが、ここで言うところの変態とは、一般的なバンドにおける常識的なベース・ラインを奏でるベーシストではなく、ミック以外には考えられない超個性的なベース・ラインを奏でるベーシストであることを表現しているわけで、、決してミックを変態呼ばわりしているわけではありません(変わり者であることは間違いないと思いますが… 笑)。
ミックのベース・ラインの特徴は、ベース界のロールス・ロイスとも言われるウォル [ Wal ] のフレットレス・ベース(ウォル側からの申し出による希少なアフリカ産チューリップ・ウッドを使った特注品)によるファットな音色もさることながら、ウネウネしたどこか中近東〜オリエンタルな匂いのする独特の音階を奏でるところでしょう。
本来、ベースの役割とは、バンド・アンサンブルの中で、低音部分とリズムを担当する影の力持ち的存在なわけなんですが、ミックのベース・プレイの場合は、それに加えて独特のメロディー・パート的な要素が加わります。
この独特のメロディー・ラインは、ひょっとすると、彼がギリシアのキプロス島出身であることや、元々楽典的な知識を持ち合わせていなかったことなどが複雑に絡み合って生まれたものなのかも知れませんが、それにしても不思議な音階です。
80's UK New Wave的な見地から他のフレットレス・ベース奏者と比べるとするなら、元ブランドXのパーシー・ジョーンズ [ Percy Jones ] や、ポール・ヤング・バンドのピノ・パラディーノ [ Pino Palladino ] あたりがやや近い雰囲気ですが、彼らは楽典的な基礎がしっかりしているためか、どちらかというとジャズ〜フュージョン寄りなプレイに聴こえてしまいます。
恐らく、この2人はコード理論的にもしっかりしたテクニカルな演奏をしているはずですから、ミックのように耳だけで楽曲に合うフレーズを探ったり、ベースで作曲したりしているわけではないのでしょう。
悪く言えば、ミックは非常にアバウトな感性で演奏するベーシストなのです。
ジャパン在籍時代も、とりあえず曲の雰囲気がつかめるデモテープを持ち帰り、それに合わせて持ち前の「耳」と「勘」だけでフレーズ作りを行っていたのではないでしょうか(私の勝手な想像ですが)。
しかし、そのおかげで、既存のスタイルに縛られることのない唯一無二な個性を持つベース・フレーズが生まれているわけですから、決して悪いことではなかったのです。
いや、むしろ、ミックのもともと持っていた感性を、音楽理論で抑え込んでしまうことがなかった、と言った方が正しいのかも知れません。
いずれにせよ、彼に任せておけば、放っておいてもミック・カーンとしか言いようのないベース・フレーズが生まれてくるはずなのです。
ミック・カーンは、ジャパン在籍時代の82年に他のメンバーに先駆けてヴァージンから1stソロ・アルバム『Titles』、87年に2ndアルバム『Dreams Of Reason』を発表しています。
ソロ以外の活動としては、81年にゲイリー・ニューマン [ Gary Numan ] との事実上の共作『Dance』、84年に元バウハウス [ Bauhaus ] のピーター・マーフィー [ Peter Murphy ] と結成したユニット、ダリズ・カー [ Dari's Car ] 、その他、同じく元ジャパンのスティーヴ・ジャンセン [ Steve Jansen ] にリチャード・バルビエリ [ Richard Barbieri ] 、矢野顕子や、ウルトラヴォックス [ Ultravox ] のミッジ・ユーロ [ Midge Ure ] 、キング・クリムゾン [ King Crimson ] のビル・ブラッフォード [ Bill Bruford ] 、ケイト・ブッシュ [ Kate Bush ] 、ジョン・アーマトレーディング [ Joan Armatrading ] 、詩人の血、ノーマン [ No-Man ] などとのセッション・ワークをこなしています。
ゲイリー・ニューマン「She's Got Claw」のプロモ映像
ケイト・ブッシュのバックで演奏するミック・カーンのライヴ映像
ソロ・ツアー時の「Dalis Car」のライヴ映像
ミックは、そんなセッションの中で、デヴィッド・トーン [ David Torn ] という最高の相方を見つけます。
トーンはループ・ギターなどの空間系のトリッキーなギター・プレイを得意とする、これまた超個性派の変態ギタリストで、そんな二人の組み合わせは、まさしく「鬼に金棒」「デヴィッド・シルヴィアンに坂本龍一」的な関係なわけで、1+1=2ではなく、無限大に変えてしまうほどの名コンビ。
本作『Bestial Cluster』はそんな名コンビの良さが最大限に引き出された、ミックのソロの中でも特にすばらしいアルバムです。
しかも、それを支える参加メンバーは、ミックと共にJBK(他にもいろんな名義で活動しています)でも活動している、ミックのクセを熟知したスティーヴ・ジャンセンとリチャード・バルビエリという、これまた名コンビ。
言わば、デヴィッド・シルヴィアンのいないジャパンにデヴィッド・トーンが参加しているわけですね。
このメンツで制作されたアルバムは他にも何枚かあるのですが、ミック・カーンの個性が最大限に引き出されているという点では本作の右に出るアルバムはないでしょう。
今、ミックのアルバムでオススメを1枚だけ挙げるとするなら、私は間違いなく本作を選びます。
さて、肝心の内容の方ですが、1曲目の「Bestial Cluster」は、それまでのミックのソロには見られなかったファンキーでノリノリのインスト曲で、珍しく部分的に歪んだ音を使っています。
ドイツのTV番組出演時の「Bestial Cluster」のライヴ映像
この当時はトレース・エリオット [ Trace Elliot ] というメーカーのベース・アンプを愛用しており、「ウォルのベースとこのアンプさえあれば、エフェクトは要らないよ」というような発言をしていたはずですので、このオーバードライブ機能を使ったのではないかと想像します。
また、それ以外の曲も非常にミックらしい雰囲気が出ています。
特に、個人的にお気に入りなのが6曲目の「Saday, Maday」と2曲目の「Back in the Beginning」。
これらの曲に関しては「これぞミック・カーン!」とも言うべき独特のウネウネしたベース・ラインを聴くことができ、レイン・トゥリー・クロウ [ Rain Tree Crow ] で抑えられていたミックらしさが一気に爆発したようにさえ感じられます。
しかも、前作『Dreams Of Reason』では控えられていたミックのボーカルも充分に楽しんでいただけるのです。
一聴すると難解なイメージの曲もなくはないのですが、全体を通して聴けば、ストーリー性すら感じさせてくれるすばらしい完成度だと思います。
ミック・カーンに関心を持たれた方は、本作だけは絶対に外さないで下さい。
「これぞ、まさしくミック・カーン!」といえる傑作中の傑作です。
ちなみに、前2作はジャパン時代の契約の延長だったのか、大手ヴァージンからのリリースでしたが、本作からドイツのCMPレーベルに移籍、しばらくはトーンと共にこのレーベルに腰を据え、アルバム・セールスに縛られることなく、のびのびと活動しており、次作『Tooth Mother』でもミックらしさを満喫していただけると思います。
また、本作の発表以降も、ソロとJBKでの活動の傍ら、UKやミッシング・パーソンズ [ Missing Persons ] のテリー・ボジオ [ Terry Bozzio ] 、ジャコ [ Jakko ] 、小林明子 [ Holi ] 、ジュディマリのYUKI、B-52'sのケイト・ピアソン [ Kate Pierson ] 、四人囃子やプラスチックスの佐久間正英、ルナシーのSUGIZO、一風堂の土屋昌巳、ビビアン・スー、シンプリー・レッド [ Simply Red ] の屋敷豪太、半野喜弘などなど、数えきれないくらいの有名どころとセッション・ワークをこなし、その後も相変わらず彼へのオファーは尽きないようです。
SUGIZOのライヴに出演したミックの映像
ミック・カーンのインタビュー映像
最近のソロでは、本作の頃ほど個性を発揮しきれていないのが残念なのですが、それでも、控えめながらしっかりとミックらしさが出ているところはさすがです。
恐らくミックは、これからも旧友デヴィッド・シルヴィアンと一緒に仕事することはないと思うのですが、できることなら、彼らの今の音で、(ジャパン時代の楽曲を再演するような再結成ではなく)再びレイン・トゥリー・クロウのような再結成を見せていただきたいと思います。
それがもっぱらの私の夢です。
/BLマスター
2007年04月17日
Door X/David Torn
本作『Door X』は、1990年に発表されたデヴィッド・トーン [ David Torn ] のソロ名義のアルバムです。
本作は、なぜかウィル・アッカーマンやジョージ・ウィンストンなどでおなじみのウィンダム・ヒル・レーベル [ Windham Hill Records ] からリリースされており、当時、本作をタワー・レコードのロック・コーナーで探し回っても見つからず困り果てたことを思いだします。
結局、店員さんに探してもらい、ウィンダム・ヒルのコーナーで見つけた時にはその意外さに驚いたのですが、調べてみれば、この頃のウィンダム・ヒルはニューエイジ系の音楽にも精通していたようで、本作はその中でもかなりアバンギャルドなもののようです。
デヴィッド・トーンのギタープレイは非常に特徴的で、独特のフィードバックとエフェクト使いによる「ループギター」と言われる奏法により、まるでシンセサイザーのパッド系の音色のような浮遊感のあるエフェクティブな音色を奏でます。
ちなみに、「ループギター」という名称は、多種多様なエフェクターを用い、通常のコードワークを主にしたギターではあり得ないエフェクティブな音色を奏で、楽曲において幅広い役割を持つギタープレイのことで、この手の音の一部分をループして同じ箇所を何度も再生するだけでもアンビエント系の楽曲になることからこの名で呼ばれています。
彼のギター・プレイは、こういった音色の他にも、ピンク・フロイドのデイヴ・ギルモアを思わせるクリーントーンもあり、これもまた気持ちよいのですが、「ループギター」というプレイにおいては世界的に第一人者であり、まさしく唯一無二な存在と言っても過言ではないでしょう。
彼は、元ジャパンのメンツや、キング・クリムゾンのメンツなどとも非常に親交が深く、これらのバンドの枝分かれした数々のバンドやユニットでもその才能を発揮していることでも有名です。
私の個人的な(勝手な)彼の位置づけとしては、ロバート・フリップ [ Robert Fripp ] とエイドリアン・ブリュー [ Adrian Belew ] 、そしてデイヴ・ギルモア [ David Gilmore ] 、ビル・フリゼル [ Bill Frisell ] という四角形の中の中心に位置し、エイドリアン・ブリューと並んで最も敬愛する変態ギタリストになっています。
本作『Door X』は、そんな彼のソロ・アルバムの中で、個人的に最高傑作と感じている作品で、すべての楽曲において彼の変態ギターを堪能できる秀作です。
なお、昨年10月に紹介した『The Collection』はCMPレーベルでのベスト盤であるため、本作『Door X』の楽曲は収録されておりません。
このアルバムの参加アーチストは、盟友とも言える元ジャパンの変態フレットレス・ベーシスト、ミック・カーン [ Mick Karn ] を始め、同じく数々の作品で共演しているキング・クリムゾンのタコ足ドラマー、ビル・ブラッフォード [ Bill Bruford ] 、布袋寅泰のツアーにも参加したマルチ・キーボーダー、アントニー・ウィドフ [ Antony Widoff ] 、スムース・ジャズ界の貴公子と呼ばれるイケメン・トランぺッター、クリス・ボッティ [ Chris Botti ] など、一癖も二癖もある個性的なメンツで、ジャズやプログレ、ブルース、ニュー・エイジとも取ることの出来る摩訶不思議な音を構築しています。
このような表現で説明すると、いかにも小難しそうなイメージを持たれるかも知れませんが、ウィンダム・ヒルからリリースされているにもかかわらず半数以上は歌ものですし、それなりに音楽を聴いていらっしゃる方なら決して退屈することのない面白いアルバムで、決してテクニックご披露大会的な作品ではありません。
はっきり言って、トーン自身が歌うボーカルは特に上手いわけではないのですが、それでも伸びのある特徴的なハイトーンは味わい深いものがあります。
しかし、聴きどころは何といってもトーンのギターワークと、それを取り巻く個性のキツい参加アーチストの競演です。
特に、ジミヘンの名曲をカバーした「Voodoo Chile」は本作の最大の見せ場で、トーン独特のループギターと、どこかブルージーながらサスティーンが長く気持ち良いソロ、さらに、ミックの変態ベースやブラッフォードのタコ足ドラムなどが、それぞれの個性をしっかりと主張し合いながら演奏している様は非常にエキサイティングです。
さらに、同じメンツで演奏される「Promise」ではAORチックなメロディーのバックに、やはりそれぞれの個性のキツい音が重なり合い、独特の不思議な音を聴かせてくれます。
残念ながら、本作はアマゾンでも試聴できませんし、本作に収録された楽曲をYouTubeで発見することもできませんでした。
しかし、彼のプレイしている映像は存在しますので、この機会に紹介しておきます。
デヴィッド・トーンによるスタインバーガーのデモ演奏の映像
ミック・カーン「Daris Car」のライヴ映像
デヴィッド・トーンがお好きな方はもちろんのこと、ミック・カーンやビル・ブラッフォードあたりがお好きな方にはぜひ聴いていただきたいトーンの最高傑作だと私は思います。
/BLマスター
追記:
あと、本来はこのブログで紹介すべきではないのかも知れませんが、DTMや多重録音で音楽を作っておられる方にオススメしたいのが、デヴィッド・トーンのサンプリングCD『DAVID TORN - Pandora's Tool Box』です。
これは、デヴィッド・トーンのエフェクティブでトリッキーなループギターを全70トラックも収録したサンプリング音源で、お手持ちのサンプラーやハードディスク・レコーダーに取り込むことで、彼の特徴のある音色をあなたの楽曲の中に加えることができます。
クリムゾンやジャパンの系列に属する音楽を作っておられる方にはぜひ使っていただきたい貴重な音源です。
ちなみに、このパッケージのカバーアートは、盟友ミック・カーンの彫刻をモチーフ使ったもので、ここでも彼らの親交の深さがうかがえますね。
このサンプリングCDのデモサウンドは下記で聴くことができますので、興味を持たれた方は一度聴いてみて下さい。
↓
DAVID TORN Pandora's Tool Box(Q Up Arts社デモリンク)
このサンプリングCDはこちらで購入できます。
↓
DAVID TORN - Pandora's Tool Box
2007年02月15日
Beginning to Melt/Jansen/Barbieri/Karn
本作『Beginning to Melt』は、ジャパン[ JAPAN ] の再結成と言われた91年の レイン・トゥリー・クロウ [ Rain Tree Crow ] 解体後、93年に デヴィッド・シルヴィアン [ David Sylvian ] 以外のメンバーが再び集まって制作された作品です。
この作品は、元ジャパンのスティーブ・ジャンセン [ Steve Jansen ] (D)、リチャード・バルビエリ [ Richard Barbieri ] (K)、ミック・カーン [ Mick Karn ] (B) により設立されたミディアム・レーベルから発表された1枚目のアルバムで、発表当時は英国国内での通信販売とミック・カーンのツアーでの販売のみ(なぜか来日時の販売はありませんでした)、日本ではリットー・ミュージックからの通販のみという非常にレアなものでした。
後にジムコ・ジャパンからブックレット付きで再リリースされ、一般のCDショップでも手に入るようになったのですが、私のように急いで通販で高く購入した方はちょっと悔しい思いをしたのではないでしょうか。
本作には3人に加えて、彼らとの親交も深く、また、シルヴィアンのソロ作品やツアーにも参加している デヴィッド・トーン [ David Torn ] (G) とロビー・アセト [ Robby Aceto ] (V,G) 、リチャードの奥方 スザンヌ・バルビエリ [ Suzanne Barbieri ] (V)、そして、驚くことに、ジャパンの『Gentlemen Take Praloids(邦題:孤独な影)』のツアー後脱退したギタリスト、ロブ・ディーン [ Rob Dean ] が参加しています。
ロブの参加は、6曲目の「Ego Dance」のみではありますが、この曲に関しては完全にシルヴィアン以外の4人だけで制作されており、もし、この頃までオリジナル・メンバーでジャパンというバンドが継続されていたなら、この曲のようなバッキングにシルヴィアンのボーカルが乗っていたのかも知れません。
アルバム全体のトーンとしては、レイン・トゥリー・クロウの延長線上にあるように感じるのですが、3人が同時に参加している曲は3曲のみで、それ以外の曲に関しては3人のうちの1人か2人にゲストが参加することで完成されており、曲によってはレイン・トゥリー・クロウよりも本作の方がポップなものもあります。
レイン・トゥリー・クロウでは、シルヴィアンの意向で封印されていたミックの特徴的な変態ベースも、本作では数曲で少し控えめながあらしっかりと聴くことができますし、ややデジタル臭くなった感はあるものの、リチャードらしい浮遊感のあるシンセの音色も活きています。
スティーヴのドラムに関しては、中期ジャパンからドルフィン・ブラザーズ [ Dolphin Brothers ] までの電気的処理の施された音(コンプレッサーがきつめにかけられたドラム音)ではなく、シルヴィアンのソロ作品やレイン・トゥリー・クロウの時のような、アコースティック感のあるジャズ寄りなプレイなので、ジャパン時代の雰囲気はありませんが、手数(てかず)の多いテクニカルなプレイはまさしくスティーヴです。
さらに、元ジャパンのメンツの作品ではおなじみとなった変態ギタリスト、デヴィッド・トーンのループ系のギターも効果的に使われており、後のJBKへと繋がっています。
クレジットによれば、1曲目のインスト曲「Beginning to Melt」は、ジャンセン、バルビエリ、カーンの3人だけでプレイされており、12分弱にも及ぶアンビエント感たっぷりの独特のサウンドは、レイン・トゥリー・クロウに収録されていてもまったく違和感のないほどの秀作です。
2曲目の「The Wilderness」は、バリビエリ夫妻によるオイスターキャッチャーズ [ The Oystercatchers ] というユニットに、スティーヴのパーカッションとスティーヴ・ウィルソン [ Steve Wilson ] のアコースティック・ギターが加わった楽曲。
スザンヌの声は美しいものの、これと言った特徴が感じられないのでインパクトには欠けますが、これはこれで悪くはなく、よくあるポップスとは違ったアーティスティックなイメージです。
なお、この楽曲は、後のバルビエリ夫妻のユニット、インディゴ・フォールズ [ Indigo Falls ] のアルバムにも収録されました。
ちなみに、このアルバムにもミック、スティーヴは参加しています。
3曲目のインスト曲「March of the Innocents」は、スティーヴとデヴィッド・トーンだけで制作されているようで、どちらかと言えば、トーンのソロ・アルバムに収録されていそうな雰囲気の楽曲です。
4曲目の「Human Age」は、レイン・トゥリー・クロウ解体後、ジャンセン、バルビエリ、カーンの3人は、ロビー・アセトをボーカル兼ギターとして迎えた新バンドを結成する予定があったそうで、恐らくはそのバンドのプロトタイプと思われる曲です。
このアルバムの中ではもっとも歌ものらしい作りで、メリハリも効いています。
5曲目の「Shipwrecks」は、ミックとデヴィット・トーンだけで制作されており、中では最もアンビエント〜ニューエイジ色が強い楽曲です。
地味な印象はありますが、後のCMPレーベルにおけるミックとトーンの共作に通ずる実験的な要素がたっぷり含まれているので、それらと合わせて聴くのも面白いと思います。
6曲目「Ego Dance」は、先述のロブ・ディーンがゲスト参加した元ジャパンの4人だけで制作された楽曲で、インスト曲ながら、かなりポップな出来映えです(もちろん彼らなりのポップさですので、踊れるような楽曲という意味ではありません。)。
3人の個性がうまく表現されており、個人的には大好きな楽曲です。
この3人が同時に演奏する1曲目と3曲目、そして、この曲だけでも本作を聴く価値はあると思います。
ちなみに、ロブはジャパンを脱退後、ミックと共にゲイリー・ニューマン [ Gary Numan ] の『Dance』というアルバムでもギタリストとして参加しており、その後はイラストレイテッド・マン [ Illustrated Man ] や、ショー・クラブ [ The Slow Club ] といったオーストラリア系のアーチストと共に結成したバンドを作っていましたが、本作以降はクレジットにその名前を見つけることはなくなりました。
残念ながら、現在の消息は?めておりません。
最後の「The Orange Asylum」は、リチャードとデヴィッド・トーンによる実験的なアンビエント曲で、浮遊感のあるリチャードのシンセと、同じく浮遊感のあるトーンのループ・ギターの組み合わせが幻想的な音世界を作り上げています。
ジャンセン、バルビエリ、カーンの3人(+多くの作品に参加するデヴィッド・トーン)で作った作品は、シルヴィアンのソロに比べればとかく地味な印象を持たれがちですが、それぞれの個性が強烈であるためアンサンブルが非常に面白く、インストものでも飽きることなく聴くことができます。
ジャパン・ファンだった方や、ジャンセン、バルビエリ、カーンに興味を持たれた方、シルヴィアンのソロ作品が好きな方にもぜひ聴いていただきたい作品です。
残念ながら、このアルバムに収録された楽曲の映像はYouTubeで発見することはできませんでしたが、アマゾンに入れば5曲目まで試聴することができます。
始めは地味な印象かも知れませんが、聴き込めば聴き込むほどに良さが伝わってくると思いますよ。
/BLマスター
2006年12月05日
Under the Monkey Puzzle Tree/Holi
この Holi って誰?と思う方も多いことでしょう。
実は、昔のTBS系テレビドラマ『金曜日の妻たちへ』の主題歌「恋におちて」で有名な日本人歌手、小林明子その人なんです。
彼女は、カーペンターズのボーカル、カレン・カーペンターに声が似ていること(ほんとに似ています)に兄でプロデューサーのリチャード・カーペンターが着目、80年代後半にリチャードとのコラボレーションを行っているそうです。
それがきっかけとなったのか、国外での活動が増え1991年には渡英、以前からファンであったJAPANのメンツとコンタクトを取り、スティーヴ・ジャンセン、ミック・カーン、リチャード・バルビエリらと共に作り上げたアルバムが94年に発表された本作『Under the Monkey Puzzle Tree』というわけです。
歌詞は全曲英語で書かれており、英国盤以外発売されていないようです。
また、小林明子名義ではなくホリ [ Holi ] と名乗っているため、一般的には知られていない作品になってしまいましたが、これはこれでなかなかの秀作です。
若干、英語の教材並みに発音が奇麗すぎるような気もしますが、さほど気になることはないでしょう。
楽曲については基本的に全曲小林明子自身が作詞作曲しているため、デヴィッド・シルヴィアンの書いたジャパン的なメロディーラインとは違います。
しかし、さすがにバッキングが全曲ジャパンだけあってJBK的な色は出ており、ファンなら思わずニヤッとしてしまう部分も多く、ポップス的な意味では非常に興味深い内容だと言えます。
ジャパン関連の作品を多数お持ちの方は、懐かしいシンセの音をたくさん見つけることも出来ますよ。
プロデュースはスティーヴ・ジャンセン&ミック・カーン、写真はジャパンの写真集も撮っているフィン・コステロ [ Fin Costello ] 、参加アーチストは、彼女自身がボーカル、キーボード、ドラム、パーカッションをこなし、プログラミング、ドラム、パーカッション、コーラスがスティーヴ・ジャンセン [ Steve Jansen ] 、ベース、クラリネット、サックス、コーラスにミック・カーン [ Mick Karn ] 、シンセサイザーのリチャード・バルビエリ [ Richard Barbieri ] に加えて、コーラスでリチャードの奥方スザンヌ・バルビエリ [ Suzanne Barbieri ] 、ギターでミックとも親交の深いクリムゾン一派のジャッコ・ジャコスジク [ Jakko Jakszyk ] 、同じくギターでシルヴィアン作品にも参加しているフィル・パーマー [ Phil Palmer ] 、3曲のみアコースティック・ベースで、シルヴィアン作品やドルフィン・ブラザーズにも参加したダニー・トンプソン [ Danny Thompson ] があたっています。
このメンツって、完全にジャパン・ファミリーですよね。
ちなみに、彼女はこの後、同じくスティーヴ・ジャンセンのプロデュースによる小林明子名義のアルバム『Beloved』を発表し、本作の7曲目「Lonely Swan」の日本語バージョンを収録しています。
また、ブライアン・イーノのアルバムに詞(日本語詞)を提供し、ソロボーカリストとしても参加するなど、日本以外での活動が活発になり、 95年には英国の永住権を取得したそうです。
それ以降、2003年には『A Song For You~Carpenters anthology~』というオーケストラをバックにした、クラシカルなテイストのカーペンターズのカヴァー集を発表、そして、2005年になってHoli名義での2ndアルバム『Dreamescape』が発表されたそうですが、残念ながら未聴のため、こちらの参加アーチストやプロデューサーについては不明です。
本作では、ミック・カーンの変態ベースを堪能するとまではいきませんが、それでも特徴的な3人の音は楽しむことができると思います。
コアなジャパン・ファンの方にはぜひ一度聴いて頂きたい1枚です。
アマゾンで5曲目までは試聴可能ですので、とりあえず1曲目だけでも聴いてみて下さい。
/BLマスター
2006年11月16日
The Collector's Edition/Mick Karn
本作は、1996年に発表された、このブログではおなじみの元ジャパンの変態ベーシスト、ミック・カーン [ Mick Karn ] がドイツのCMPレーベルに移籍してからのベスト盤的内容で、本来ミュージシャンが持っていて当たり前の音楽的知識を身につけてからのミックを知るには持ってこいのアルバムと言えるでしょう。
これまでに紹介したミック・カーンの記事の内容とかぶるのですが、彼はジャパン在籍時代にはコード進行的な知識は一切持っておらず、逆にそれが功を奏したのか、ジャパンの3rdアルバム『Quiet Life』でフレットレス・ベースに持ち替えてからと言うもの、爬虫類を思わせるミック独特のウネウネベース奏法が生まれ、特に個性派アーチストたちから引っ張りだことなりました。
まさしく「ベースが歌う」という意味を感じ取って頂けるベースラインを奏でるミック・カーンは、かなり希少な個性派ベーシストの一人です。
ジャパン以外で他のアーチストの作品に参加したのは、ジャパン在籍時代のゲイリー・ニューマンの『Dance』という作品が最初で、ウルトラヴォックスのミッジ・ユーロや、バウハウスのピーター・マーフィーとの『Dari's Car』、キング・クリムゾンのビル・ブラッフォード、UKやミッシング・パーソンズ、VAIで知られるテリー・ボジオ、そして、ジャパン解散後はほとんど相方と化している同じく個性派ギタリスト、デヴィッド・トーンらとのセッションで徐々に本来ミュージシャンが持つべき音楽的知識を身につけて行ったのです。
そのせいもあるのか、最近の作品では、昔のミックらしいウネウネベースフレーズが聴けなくなって来たのが残念なのですが、さすがに『The Collector's Edition』と銘打った本作ではその存在感あるプレイを充分に堪能してもらうことができます。
ちなみに、このアルバムでもほとんどの楽曲にトーンが参加しており、サウンド的には、先日紹介した同じくCMPでのベスト盤的内容のデヴィッド・トーン『The Collection』と姉妹作品的な感覚もあるのですが、さすがにそれぞれのソロ名義だけあって、どちらも各自の個性が発揮された楽曲を選んでおり、同じ曲は収録されていません。
それぞれのソロアルバムだけでなく、他のアーチストの作品や単発もののユニットにペアで参加し異彩を放っている二人だけに、どちらも非常に興味深い内容で、既存のポップソングに興味がなくなって来たという方にはぜひ聴いて頂きたい作品です。
1.「Little Less Hope」は『Tooth Mother』からの一曲で、SEの後、いきなりミックらしいウネウネのベースと、トーンらしいトリッキーなギターを聴くことが出来る、マイナー進行ながらポップな楽曲です。
この曲ではミックの低いボーカルを聴くことも出来ますよ。
2.「Bestial Cluster [Alternative Edits]」は『Bestial Cluster』の一曲目に収録されたパワフルなタイトル曲のバージョン違いで、いつものミックのベース音とは違ってかなり歪んだ個性的な音を使っています。
ミックのソロライヴでは一曲目に演奏され、のっけからノリノリ、インストながら大変ポップに仕上がっており、アート系のサウンドが苦手な方にでも自信を持ってお勧めできる分かりやすい楽曲です。
「Bestial Cluster」のJBKでのライヴ映像
3.「Bandaged by Dreams」は、テリー・ボジオ、デヴィッド・トーンとの共作『Polytown』からの一曲で、シンプルな編成ながら異彩を放つ楽曲。
『Polytown』の中では比較的メロディアスな曲ながら、このアルバムの中ではかなりアート寄りなので一般ウケはしないかも知れません。
しかし、この3人の個性のぶつかり合いは、単なる足し算では終わらないところがミソ。
4.「Feta Funk」は、ミックお得意の中近東っぽいサウンドがクローズアップされた『The Tooth Mother』からの一曲。
これまた、ミックのよく使う奏法のリバース・ベースも多用され、ナターシャ・アトラスの雰囲気のあるボーカルが変拍子の楽曲を引き立てています。
5.「Liver and Lungs [Alternative Mix]」は『Bestial Cluster』に収録された曲のバージョン違いで、デヴィッド・リーブマンのソプラノ・サックスがフューチャーされた、これまた変拍子かつ、ムーディーな楽曲。
ベースが歌っているという表現がぴったり当てはまります。
6.「Saday, Maday」は、同じく『Bestial Cluster』からの一曲で、サックスやボーカルパートはあるものの、基本的に頭に残るメロディーラインはミックのベースがほとんど。
やはり、異国情緒漂うミックらしいドラマティックな楽曲です。
スティーヴ・ジャンセンのドラミングもかなりいけてます。
7.「Corridor」は、マイケル・ホワイト、マイケル・ランバート、デヴィッド・トーンとのユニット『Lonely Universe』からの一曲。
トランペットのせいかフリージャズ的な要素も多分に含んでいますが、やはりミック×トーンのコンビ芸のすばらしさを痛感できる秀作です。
8.「House of Home」は、アンディー・ラインハルトの『Jason's Chord』からの一曲で、
アンディーの美しいピアノにミックとトーンが巧い具合に自分たちの個性をかぶせ、ほっと落ち着ける、ある意味で牧歌的な雰囲気を作っています。
9.「Drawings We Have Lived」は、今作唯一の未発表曲で、旧友リチャード・バルビエリも参加する現代音楽的な楽曲。
デヴィッド・トーンのループ・ギターが非常に心地良く響きます。
10.「Red Sleep」は、再び『Polytown』からの一曲で、テリー・ボジオのドラミングがすばらしい楽曲です。
比較的落ち着いた楽曲において、まるでドラムソロを叩いているようなドラミングと、滑らかなミックのベース・フレーズの対比は特にすばらしく特筆ものです。
11.「There Was Not Anything But Nothing」は、『The Tooth Mother』の最後に収められた楽曲で、旧作『Dreams Of Reason』を思わせる吹きもの系が中心のエピローグにふさわしい曲です。
ドラムは入っていませんが、ミックらしい重たさが感じられ、なかなかの秀作です。
ただ、さすがに彼のソロ名義のプロモやライヴ映像を探すのは難しいので、このアルバムに収録していない楽曲で、ジャパン以外の映像を数曲ピックアップしておきます。
元LUNA SEAのSUGIZOライヴでの「Sons of Pioneers」の映像
ミックのソロライヴでの「Dalis Car」の映像(トーンも参加)
JBKのライヴでの「Plaster The Magic Tongue」の映像
土屋昌巳のライヴでの「Sea Monster」の映像
イタリアの歌姫アリーチェのライヴに参加した映像(スティーヴも参加)
以前のミックのインタビューで「ヴァージンにいた頃はセールスも良くはなく、アルバム制作において完全な自由はなかった。しかし、CMPに移籍してからは、こんなボクでも稼ぎ頭だからね。やりたいことをやらせてもらえるのさ。」という風なことを言っていました。
小さいレーベルならではの、フットワークの軽さが活かされたというわけですね。
ぜひ、自由でのびのびしたミック・カーン・ワールドを堪能して下さい。
/BLマスター
2006年10月24日
The Collection/David Torn
デヴィッド・トーンはセッションミュージシャンとしても有名な、知る人ぞ知る、唯一無二なループ系のギターを弾く変態ギタリストです。
ちなみにループ系ギターというのは、多種多様なエフェクターを用い、通常のコードワークを主にしたギターではあり得ないエフェクティブな音色を奏でることで楽曲において幅広い役割を持つギターで、この手の音の一部分をループして同じ箇所を何度も再生するだけでもアンビエント系の楽曲になることからループ系という名称で呼ばれています。
私が彼の名を知ったのは、デヴィッド・シルヴィアンの初のソロライヴでのことで、その弦楽器としてのギターの使用範囲を遥かに超越した見事なプレイは、私の脳裏にくっきりと焼き付き、以来、彼の参加作品を買いあさるようになりました。
その後、ジャパンのシルヴィアン以外のメンバーと行動を共にするようになり、ミック・カーンのソロや、ミックも参加するビギニング・トゥー・メルト、JBKなどのアルバムにもかなりの部分で参加、キング・クリムゾンのビル・ブラッフォードやトニー・レヴィン、元ミッシング・パーソンズのテリー・ボジオらとのセッションでも変態ギタリストぶりを発揮しています。
中でも特にミック・カーンとは親密で、アルバムやツアーはもちろんのこと、数々のセッションで共に参加し、盟友ぶりを見せています。
今回紹介するアルバムは1998年に発表された作品で、ドイツのレーベルCMPからリリースされた80年代〜90年代の彼のセッションから代表的な曲を一枚につき1曲づつ収録したベスト盤的な内容のものです。
ある意味で、CMPレーベルのカタログ的な作品なので、こういった曲がお好きな方には非常にお得感もあるのではないかと思います。
1.「Shofar」は、94年に録音されたトーンのソロ『Tripping Over God』からの1曲で、全てトーンのギターの音だけで構成されたアンビエントな小曲です。
2. 「Jason and Martha」は、92年のAndy Rinehartのアルバム『Jason's Chord』からの1曲で、盟友ミック・カーンも参加しているわりにはアバンギャルドさがなく、しっとりと聴かせる落ち着いたボーカル入りの楽曲。Kurt Wortmanのドラム、パーカッションが民族的な響きで小気味良い味を出しています。
3. 「Thundergirl Mutation」は、ミック・カーンの名盤『Tooth Mother』からのド派手な1曲。これはまさしく変態ベース×変態ギターを象徴するすばらしい楽曲で、非常に音数の多いGavin Harrisonのドラムや、地味ながら雰囲気作りに貢献しているリチャード・バルビエリのシンセサイザー、中近東寄りな女性ボーカルまで、見事にコンビネーションを聴かせる一番のオススメ曲です。
4. 「Rope Ladder to the Moon」は、マーク・ナウシーフとMiroslav Tadic(ごめんなさい、読めません)の『Snake Music』からの1曲で、生楽器だけで構成されたジャズ〜ニューエイジ寄りなボーカル作品。インプロ(即興演奏)的な要素も感じ取ることができ、興味深い楽曲です。
5. 「Zavana」は、マーティー・フォーゲルの89年の作品『Many Bobbing Heads, at Last ...』からの1曲で、ニューヨーク系(ジョン・ゾーンのような)のフリージャズ的なインプロ曲。
アコースティック楽器の中にあって、トーンのエフェクティヴなギターが馴染んでいるのが不思議ですが、何よりアート指向な側面を感じさせてくれるアバンギャルドな楽曲です。
6. 「Snail Hair Dune」は、トーンが、ミック・カーン、テリー・ボジオと組んだ93年のPolytownという3ピースのユニットからの1曲で、究極の変態プレイヤーが3乗になるとこうなるのかと驚かされた楽曲です。意外にもそれぞれ見せ場を作り、その掛け合いによって成り立っているのでゴチャゴチャ感がなく、新しいフリージャズとでも言うべきシンプルでアバンギャルドなインプロ大作です。
7. 「Passenger」は、トーンがマイケル・ランバート、マイケル・ホワイト、そしてミック・カーンと組んだ88年のLonely Universeというユニットからの1曲で、実験的な要素を多分に盛り込んだニューエイジ的な楽曲。ミックのリバース・ベース(逆回転系の音色)が実に気持ちよく響きます。
8. 「Drowning Dream」は、92年のミック・カーンの傑作中の傑作『Bestial Cluster』からの1曲で、スティーヴ・ジャンセン、リチャード・バルビエリも参加し、無国籍な雰囲気のアバンギャルド・ポップスといった趣の楽曲。ボーカルもミックが担当しています。
9. 「Tiny Burns a Bridge」は、95年のトーンのソロ『What Means Solid, Traveller?』からの1曲で、これも全てトーン1人で制作した中近東的なものと、ブルージーなものが同居する不思議な楽曲です。
10. 「Kids」はマーク・ナウシーフというドラマーの83年の作品『SURA』からの1曲で、かなり中近東寄りな(というか、本編はそのもの)楽曲です。部分的に環境音楽的なパーツとジャズ的なパーツがコラージュされているところが粋ですね。
11. 「Merciful」もマーク・ナウシーフのユニットDarkの88年の作品『Tamna Voda』からの1曲で、やはり中近東っぽい雰囲気(シタールのような奏法の部分もあります)のあるインプロ的なアコースティック・ギターの上にトーンらしいエフェクティブなギターが絡みます。
12. 「Nursing Emphysema」は、ウェス・マーティンの93年の作品『Three Pound Universe』からの1曲で、ピンク・フロイドでギルモアのギターの代わりにトーンが弾いているところを想像してもらえるとわかりやすいと思います。落ち着いたプログレっぽい歌ものの名曲ですね。
デヴィッド・トーンは、92年に聴神経腫を患い、現在でも右の耳に聴覚障害を持っているのですが、それでも頭の中で出来上がったステレオ感のある音を想像することが出来るそうで、それ以降も実に完成度の高い作品を残し、現在では他のアーチストのプロデュース業もこなしています。
好き嫌いのはっきり分かれる作品ですが、興味を持たれた方は聴いてみられてはいかがでしょう。
アマゾンで5曲目まで試聴することが出来ます。
/BLマスター
追記:
トーン氏の闘病の様子について、ブルースターさんがこちらの記事で詳しく書いておられます。
彼のプレイに関して興味を持たれた方はぜひご覧になっていただきたいと思います。
2006年10月04日
Dreams Of Reason/Mick Karn
この作品は87年発表のジャパン解散後初のソロ、ミック・カーンにとっては2枚目のソロアルバムです。
このアルバムの目玉は、何といってもデヴィッド・シルヴィアンが2曲もボーカルで参加していることでしょう。
ジャパン解散時からミック・カーンとシルヴィアンの不仲説が飛び交い、解散の原因になったとまで報じられた2人ですが、解散後、この2人が一緒にアルバムにクレジットされたのは、この『Dreams Of Reason』と、ジャパンの事実上の再結成作品『Rain Tree Crow』のみです。
また『Rain Tree Crow』ではシルヴィアンの意向でミックの特徴的な変態ベース・フレーズが抑えられており、本来のミックらしいプレイとシルヴィアンの歌を同時に聴くことができるのは、このアルバムのみなんです。
前作『TITLES(邦題:心のスケッチ)』のLPではA面がインストもの、B面が歌ものと分けられ、単品の楽曲をまとめた作品集的なアルバムでしたが、この『Dreams Of Reason』はまるで1枚のコンセプチャル・アルバムのように作られています。
わかりやすく言えば、アラカルト料理と、コース料理の違いですね。
また『TITLES』はベースのフレーズにこだわり抜いた作品であるため、ベーシストのソロらしい「くどさ」を感じるところもあったのですが、この作品ではベースのフレーズ作りだけにこだわらず、アルバム全体の雰囲気を重要視しているのか、バランスよくミック・カーンらしいエッセンスを散りばめてあるように感じ、プレイヤーがアーチストになった瞬間がこの作品と言えるような気がします。
まず、プロローグ的な「First Impression」では、重たいベースフレーズと少々民族的なパーカッションとドラムが入り、徐々にブラスセクションやシンセサイザー、ピアノなどが重なって行き、これから始まるミック・カーン・ワールドの予兆を感じさせてくれます。
続く「Language Ritual」も、1曲目と同じライン上にあるリズム体の上に、ミックの吹くオーボエ(?)やサックス、サウンド・ロゴ的なピアノなどが絡むという展開で、まるでサスペンス系の映画のサントラのような印象です。
そして、シルヴィアンがボーカルを担当し、シングルカットもされた曲「Buoy」。
このアルバムの中では一番ポップなこの曲にリバース・ベース(テープを逆回転させたようなアタック感のない音)を持ってくるセンスはさすがですね。
また、この楽曲は、ジャパン作品やシルヴィアン作品の色はあまり感じさせることなく、あくまでもミック主導型の作品であることを強く感じました。
4曲目の「Land」はLPで言えばA面最後の曲で、ジャパンの未発表曲だったリチャード・バルビエリのインスト曲に似たイメージの、これもまた映画のサントラ風の小曲(とはいえ4分半はあります)。
ここまでは、「Buoy」を除いて、ミックの特徴的なベースは控えめで、彼のもう一つの担当楽器でもある、サックスやオーボエなどの吹きもののアンサンブルに重点を置いているように感じます。
5曲目「The Tree Fates」はお待ちかね、やっとミックの変態ベースが聴ける楽曲で、ボーカルを入れてもおかしくないくらいのドラマティックな展開の秀作です。
6曲目「When Love Walks In」はシルヴィアンの歌うもう一つの楽曲で、個人的にはこの中で一番好きな作品です。
どちらかと言えば地味な印象のある曲ではありますが、ミックのベースやシルヴィアンのボーカル、曲の中での強弱の付け方やバッキングの音色、どれをとっても非常にバランスがよく、ミックのコーラスも活きています。
7曲目はタイトル曲の「Dreams Of Reason」は、吹きもの系のアンサンブルをメインにした4分弱の小曲で、まさしくこのアルバムを象徴する1曲です。
最後にこのアルバムを飾るのはエンディングにふさわしい、パイプオルガンに聖歌風のコーラス隊が絡むホラー映画のサントラのような楽曲「Answer」。
彼の彫刻作品をご存知の方ならわかる、ミックらしい作品です。
ミック・カーンの彫刻作品のサイトはこちら
ミックの彫刻作品をバックにしたインタビュー映像
以上のようなストーリー性すら感じる作品がこの2ndです。
ミックの個性的な変態ベースを堪能したい方にお勧めするなら『TITLES』や『Bestial Cluster』、ミック・カーンという1人のアーチストを知りたい方にはこの『Dreams Of Reason』か『The Tooth Mother』をお勧めします。
なお、このアルバムに収録される楽曲の映像がありませんでしたので、代わりにいくつかミックのベースプレイを堪能出来る映像をピックアップしました。
興味を持たれた方はぜひご覧下さい。
TV番組でのJAPANのライヴ映像
JBK(シルヴィアン以外のJAPANのメンバー)のライヴ映像
元LUNA SEAのSUGIZOライヴでのミックの映像
土屋昌巳のライヴでのミックの映像
彼のベースにハマってしまうとなかなか抜け出せませんよ。
私は、もう普通のベースでは満足出来なくなってしまいました。
/BLマスター
2006年10月03日
The Very Best Of JAPAN (DVD)
今年、ジャパンの後期の映像作品が日本版(リージョン2)で発表されました。
これまで、ジャパン(JAPAN)関連のオフィシャルで発表された映像ソフトは実に数少ないんです(ブートではかなりの数が出回っています)。
発表された年の順に紹介すると、83年に発表の前年の解散ツアーの模様を収めたビデオ『OIL ON CANVAS』が意外なことに一番最初の作品となります。(同時にレーザーディスクでも発売されています)
あれだけミーハー的に人気があったというのに、解散までオフィシャル映像作品の発売がなかったのは不思議なことです。
この作品は、単なるライヴビデオではなく、英国ハマースミス・オデオンでの解散ツアーの映像に薄く霧がかかったようなフィルターをかけ、中国の軍隊や風景やタイ、ビルマ(現ミャンマー)などのオリエンタルな風景を挿入したイメージビデオ的なものです。
恐らくは、挿入したオリエンタルな映像と画質を合わせるためにフィルターをかけたものと思われますが、そのために発売当初から非常に画質の悪い作品で、評判はイマイチでした。
そんな作品でも、それまで高い値段で出回っていた、まるで裏ビデオのような画質のブートものに比べれば雲泥の差です。
まだ眉毛のないミック・カーンの「カニ・ウォーク」と呼ばれる奇妙な動きや、土屋昌巳のアクティブで陶酔しきった動きと対照的に、デヴィッド・シルヴィアンの落ち着いた歌唱、リチャード・バルビエリのまるでミシンで縫い物をしているかのような寡黙なキーボードプレイ、スティーヴ・ジャンセンの腕だけが小刻みに動くジャストタイミングなドラムプレイを鑑賞出来るのは、ファンにとって最高の喜びでした。
「Sons Of Pioneers」のライヴ映像
「Gentlemen Take Polaroids」のライヴ映像
「Swing」のライヴ映像
続いて84年に発表されたのが、ヴァージン時代のプロモ集『INSTANT PICTURE』で、これには、アルバム『Gentlemen Take Polaroids(邦題:孤独な影)』と『Tin Drum(邦題:錻力の太鼓)』から7曲のプロモを収録されました。
とはいえ、『OIL ON CANVAS』からのライヴ映像やオリエンタルな風景を使ったものも多く、目玉は「Gentlemen Take Polaroids」「Swing」「Night Porter」「Visions Of China」のプロモ映像が見れるということだけでした。
「Gentlemen Take Polaroids」のプロモ映像
「Swing」のプロモ映像
「Night Porter」のプロモ映像
「Visions Of China」のプロモ映像
その後、2001年に悪名高いアリオラ・ハンザがDVDで初期〜中期の作品のプロモ集を発表しましたが、これも、すべて70年代の作品ということもあって画質はイマイチで、スタジオライヴ風のプロモが多いため、あまり出来はよくありませんでした。
「Life In Tokyo」のプロモ映像
「Quiet Life」のプロモ映像
「I Second That Emotion」のプロモ映像
以上が去年までのジャパンというバンド名義で販売したオフィシャル映像作品のすべてです。
驚くことに、たったこれだけなんです。
今年発表された、この『The Very Best Of JAPAN』というDVD作品は上の3作品からプロモのおいしいところ取りをし、『OIL ON CANVAS』とまとめたものであり、画質が良くなっているということもありませんし、特に新しく追加された曲もありません。
すべてを持っている方からすれば、DVD化されたことにより曲ごとにチャプターを飛ばせたり、コンパクトに収納できるといったことくらいしかメリットはないと思います。
しかし、我々ファンからすればこれは貴重です。
ジャパンファンで、ライヴ未体験の方には特にお勧め出来る逸品です。
ライヴで動いている後期ジャパンの映像を見れるDVDはこの作品だけなんですから。
また、当時の『OILON CANVAS』のビデオが1万円以上、『INSTANT PICTURES』が 5800円であったことを考えれば、この内容で3000円弱であることは驚きです。
何といってもすべて20年以上前の映像ですから、画質がそれなりに悪いのは仕方ありません。
それでもくたびれたVHSビデオ映像よりはよっぽどマシですから、映像作品をお持ちでないジャパン・ファンの方はぜひ割り切ってご覧下さい。
他にもまだまだ発売されていない映像はたくさんあるはずなので、ヴァージンさん、小出しにしないでそろそろ残りの映像もオフィシャルで発表して下さいよ。
もう、ブートで買ったりしませんから・・・。
/BLマスター
2006年08月05日
DANCE/GARY NUMAN
このアルバムはゲイリー・ニューマンのソロ名義になっていますが、ジャパンのベーシスト、ミック・カーン(Mick Karn)との共作といっても過言ではないでしょう。
それはこのアルバムを聴いてもらえばわかることなのですが、それまでのゲイリー・ニューマンの作品とはかなり毛色の違うものになっています。
というのも、かの変態フレットレス・ベーシスト、ミック・カーンの圧倒的な存在感のあるウネウネしたベースフレーズがほぼアルバム全体に染み渡り、ある意味では、このアルバムが発表される1年前に出た、ジャパンの「Gentlemen Take Polaroids(邦題:孤独な影)」のアウトテイク(アルバム未収録曲)かと感じるほどリズムが変化しているのです。
ゲイリーの使用するシンセサイザーに関しても、愛用のアープ・オデッセイはもちろん使っているものの、デヴィッド・シルヴィアンが好んで使っていたシーケンシャル・サーキットのプロフェット5や、リンドラムもかなりの曲で使用され、しかも、7曲目の「Boys Like Me」のみではありますが、ギタリストとして、当時ジャパンを脱退したばかりのロブ・ディーン(Rob Dean)までゲスト参加していて、まるで「GARY NUMAN+JAPAN」といった感覚のアルバムです。
とはいえ、一聴してゲイリーの音色とわかるあの独特のシンセの音はどの曲を聴いても健在ですのでご安心を・・・。
2004年の「Night Talk」のライヴ映像
あと、歌詞においても変化が見られ、それまでの夢見がちな歌詞とは一転し、当時の大失恋の痛手からか、現実的でアンハッピーな内容となっています。
言わば、幻想アンドロイドがヨーロピアン・ダンディーに変身したといった趣です。
また、何度も言うようですが、当時のミック・カーンの変態ベースフレーズは解放弦を多用しているため、それぞれのヴォーカリストのキーに合わせることができなかったと考えられます。
そのため、ダリズ・カーではピーター・マーフィーの声を活かしきれなかったのではないかと思うのですが、このゲイリー・ニューマンとのコラボに関しては非常にうまく合っているように感じます。
彼の爬虫類を思わせる粘りのあるヴォーカルスタイルは、低いキーにおいて線は細いながらシルヴィアンの声と似たところもあり、ミック・カーンとの相性が抜群に良いのです。
このアルバム以降、それまでワンパターンだったゲイリー・ニューマンの曲調は幅が広がり、この次に発表された「I,Assassin」ではこれまた個性的なフレットレス・ベースで定評のあるピノ・パラディーノ(ポール・ヤングの1stなどで有名)らの力を借り、ファンキーなサウンドアプローチをするようになったのは、ミック・カーンとのコラボに新境地を見いだした結果なのではないでしょうか。
このアルバムには他にも、ゲイリーと以前から親交の深いクイーンのドラマー、ロジャー・テイラーや、バイオリンでナッシュ・ザ・スラッシュがそれぞれ3曲づつ参加しており、曲調の幅を広げるのに一役かっています。
ミック・カーンの変態ベースのファンの方にはぜひぜひ持っておいてもらいたい作品です。
/BLマスター
2006年07月20日
The Waking Hour/Dalis Car
JAPANのミック・カーンとBAUHAUSのピーター・マーフィーがそれぞれのバンド解散後の1984年に結成し、たった1枚のアルバムを残して決裂してしまった幻のバンドがこの「ダリズ・カー」です。
実は、LINN DRUMというリズムマシーン担当で、ポール・ヴィンセント・ローフォードという人も正式メンバーとして参加しているのですが、あまり有名でないためか上の2人のユニットとしてとらえられることが多いようです。
ミックもピーターも大好きな私の感想としましては、ミック・カーンの1stソロアルバム「TITLES」のアウトテイクに、ボーカリストとしてピーターが参加しているといった雰囲気です。
勝手に私が推測するに、ミックの当時の演奏を考えると、まったくの独学でベースを覚えたため大変個性的なメロディーを奏でることで有名なのですが、実は、このフレーズには、解放弦から突然ハイポジションに飛ぶというような弾き方が多いので、カポタストでも取り付けない限り移調ができないんです。
たまたまジャパンではデヴィッド・シルヴィアンの音域にピッタリ合っていたため、ミックとしても気にせず解放弦を使いまくってフレーズを作っていたのですが、その手法ではピーターの広い音域には対応できなかったんだと思うんです。
さらに、ミックのフレットレス・ベースはデヴィッド・Jのそれと違い、中近東寄りなメロディーを奏でるリード楽器的な役割も果していますから、ピーターにすればバウハウス時代とずいぶん勝手が違うはずです。
しかも、ピーターは殆ど楽器が弾けませんし(簡単なギター程度)、ポールはリズムプログラミング専門ですから、曲作りにおいてミックの独壇場となるのは当然のことでしょう。
それゆえ、ピーターは本来の自分らしい音域で歌えずかなりのストレスだったのではないでしょうか?
ミックとしては、音楽理論的なことがまだわかっていない時代のことで、なぜピーターが求めている音域で歌えないのかわからなかったのかも知れません。
しかし、このアルバムが決して悪い出来というわけではなく、むしろ、その緊張感が伝わってくる唯一無二な傑作なのです。
「Dalis Car」の奇妙な中近東寄りなポップ感とピーターの緊張感のある低いボーカルや、「His Box」や「The Judgement Is The Mirror」の呪術的ですらある曲作りは特筆ものです。
美しい「The Judgement Is The Mirror」のプロモはこちらで観ることができます。↓
The Judgement Is The Mirror
ベースとボーカル以外はすべてプログラムされた無機的なものであるにもかかわらず有機的に聴こえるこの作品は、ミックとピーターならではの傑作です。
未聴の方はぜひお聴きになってみて下さい。
ゾックッとしますよ。
/BLマスター
追記:
2007年10月23日現在、上に紹介した盤は品切れ中のようですが、下記のUS盤(同内容)は販売中でした。
お探しの方は、下記の盤もチェックしてみて下さいね。