早稲田大学 梅永研究室

早稲田大学教育学部教育心理学専修 梅永雄二のブログです。

 5月20日(土)に標記のWAMSADDセミナーを早稲田大学16号館で開催しました。
 今回の講師は、就労移行支援事業所「エンカレッジ早稲田」で統括所長をされている高橋亜希子先生と株式会社リコーの障害者人事を担当されている中村万里子先生のお二人にお願いしました。

 セミナーの主要なテーマを「高機能ASD者の就労」にしぼり、私梅永が「高機能ASD者の就労上の課題」を説明した後、高橋先生には「高機能ASD者の就労支援の実際」を、そして中村先生には「高機能ASD者を雇用の実際」について講義をお願いしました。

 高橋先生のお話は過去に何度か伺ったことがありますが、これほど高機能ASD者の特性を考慮した就労支援は今までに聞いたことがないというほど専門的な支援をされています。
 学歴は高くとも対人関係やコミュニケーションが苦手な高機能ASD者の就労においてキーとなることは「経験を通して、気づく」「社会でのルール・マナーを学ぶ」そして「人を頼り、相談するスキルをつける」などはまさにライフスキルそのものだと感じました。

  高橋さん
   就労移行支援事業所「エンカレッジ早稲田」の高橋先生

 一方、受け入れ側の企業として株式会社リコーの中村先生は、高学歴だけれどコミュニケーションが苦手な高機能ASD者の職場での仕事風景を動画で見せていただきました。
 動画に出演されている高機能ASD者の同僚上司の人たちが、「最初はどのように関わっていったらいいのかわからなかった」というとまどいのあるコメントだったものが、極めた高い能力を所持していることがわかり、徐々に同僚として尊敬されていく様子がとても感動的な講演でした。

  中村さん
   株式会社リコーの中村万里子先生

 今回のセミナーには、北は北海道の釧路、南は九州の佐賀から就労支援機関だけではなく、企業の方々も参加され、関心の高さが伺えるセミナーでした。

 4月24日(月)に東京市ヶ谷のアルカディア(私学会館)において、発達障害者の運転免許取得に関する全国研究会が開催されました。

  運転免許つばさプラン全国研究会

 参加者は北は岩手から南は熊本までの自動車教習所経営者、管理者と外部から宇都宮大学の齋藤先生、栃木県鹿沼市のNPO法人CCV理事長の福田先生および私の3人の計21人でした。  
 この会の主催校であるKDS(鹿沼ドライビングスクール)のスーバーヴァイザーをさせていただいている関係で、私が「知的ボーダーライン者」に関する話をした後、CCVの福田先生がお話をされたのですが、KDS(鹿沼自動車教習所)との連携に感嘆させられました。  
 ちなみに「つばさプラン」会則の目的に「発達障害者のための運転免許取得支援という特別な支援を多くの自動車教習所が、質の高い合理的配慮として実施することで発達障害者の就労や社会参画を促し、共生社会の実現に向けて....」と書かれていますが、実際に自動車運転免許取得に必要な学科試験の勉強をCCVで指導され、スムーズにKDSへ移行されるシステムは素晴らしいものでした。  
 また、KDSのコーディネーターの方の事例発表も、IQは高いものの不安が強い高機能ASD者の方に寄り添った個別の支援がなされ、学校教育や就労支援にも通じるものと感じました。

 少子化により自動車運転免許取得希望者が減ってきており、その結果自動車教習所も年々減少しているとのこと。しかしながら、全国に1,246校(令和3年段階)もある自動車教習所の中で発達障害者に特化した支援がなされているところが20校にも満たないというは寂しい限りです。
 今後発達障害者の免許センターにおける本免試験においても大学受験のように「試験時間の延長」や「別室受験」といった合理的配慮がなされるような活動もしていかなければならないと考えた研究会でした。

  2023年度第1回WAMSADDセミナーを以下の要領で開催いたします。

   2023.05.20開催.pptx-3 (1)_page-0001

 今回は高機能ASD者の就労に絞って、「就労上の課題」「実際の就労支援」、そして高機能ASD者を雇用した「企業における対応」という流れで進めていく予定です。
 近年、高学歴ではあるものの発達障害がゆえに就職活動そのものに困難を抱えている人たちが数多く相談に来られています。
 また、何とか就職できたとしても職場における(音、視覚刺激、においなどの)感覚刺激のために仕事に集中できない、実行機能の弱さのために仕事のプランニングや優先順位付けがうまくできない、そして何より職場の同僚上司とのコミュニケーションがうまく取れずに人間関係に支障をきたしてしまう人たちが多い現状です。
 今回のセミナー講師の一人である就労移行支援事業所「エンカレッジ早稲田」の高橋亜希子所長は、私が話を伺った支援者の中で、もっとも素晴らしい支援を高機能ASDの人たちにされています。
 もう一人の講師である株式会社リコーの中村万里子さんは、東京障害者職業センターと早稲田大学共催で実施してきた発達障害就労研究会である「ESPIDD勉強会」に毎回参加され、現在有名大学出身である発達障害者の雇用を担当されています。
 お二人ともTEACCHの構造化や高機能ASD者の特性に合わせた極めて専門的な支援をされているので、就労支援関係者のみならず発達障害児・者に関わる方々は極めて参考になる講義となるものと思います。
 奮ってご参加のほど、お待ちしています。

↑このページのトップヘ