中公新書から出ている本の名前です。タイトルを見ただけで、著者の深層心理が垣間見られるような気がします。私だったら、「23区23様」なりなんなりのタイトルにします。格差という言葉を使っていることから見て、著者は最初から東京23区に対して上下をつける気でいるような気がします。

   著者は東京大学工学部都市工学科卒業、東京大学大学院都市工学科修士課程修了、以下経歴は省略しますが、この本以外にも、「東京23区ランキング青版」「東京23区ランキング赤版」という本を出しています。何が何でも東京23区に上下のランクを付けなければ気が済まないかのようです。

   下町のしがない高校ばかりを選んで勤め上げた私としては、この本の内容にいささか意義を唱えたいところがあります。しかし、すべての区についての知識はありませんし、すべての国ついて吟味しようという気もありませんので、おそらく著者の家庭環境や生い立ちから見て全く知識が乏しいはずの、「足立区」についてだけ考えてみます。

   すると浮かび上がって来るのは、著者は、他人がまとめあげた統計上の数字のみを材料に判決を下しているのであって、足立区について実はまるで知識がないという事実です。果たして著者、足立区内を歩いてみたことはあったのでしょうか。恐らく、足立区を知るために足立区を歩いたことは一度もないのではないでしょうか。ひどい言い方をするなら、東大出らしい頭でっかちの独りよがりが見えて来るのです。平気で「格差」とか「ランキング」という言葉を多用するところを見ると、あるいは典型的な偏差値世代なのでしょうか。いや、私より一つ若いだけなのですから、そんなことはありますまい。個人的な資質の問題なのでしょう。

   これは統計が出ているのですからやむを得ないのですが、足立区が23区中でトップの座を占めているのは、というより、最下位の座を占めているのは、①管理職についている人の割合(港区の4分の1) ②研究者や技術者の割合(大田区の半分弱) ③大卒者の割合(千代田区の3分の1) ④所得水準(港区の3分の1)そしてこちらは本当に数がトップということで、⑤犯罪の数(ただし自転車も無断借用と言った軽微なものが多い)のだそうです。

   私がこの本を読んで一番欠けていると思ったのは、それではどうすれば問題解決の道が開けるのかという方策なり提案です。読売新聞の書評では、「我が区に対する愛情を再確認できるような作りになっている」とあるのですが、それぞれの区に対する分析、それも他人の調査を拝借しての分析に著者なりの先入観から書いた思い込みのようなものがちりばめられているに過ぎないような気がします。それは、足立区のある問題について書かれた部分を見れば明らかです。

   著者は236ページに、「見栄っ張りな東京でも本音で暮らせる区」という項目を立て、「社会の規範を踏み外してしまっても、本音でしっかり叱ってくれるまち」だと書いていますが、いったい何を根拠にそんなたわごとが言えるのでしょう。著者の頭の中には、下町というのはそういうところだという勝手な思い込みがあるように思います。それは、葛飾区には寅さんのような人が沢山住んでいると思うのと同じくらいの馬鹿げた夢想になります。そんな立派な区なら、犯罪率NO.1の区になるずがないではありませんか。

   236ページに書いてあるのは、10代妻の割合も23区内でトップだということです。そして、離婚率は23区中6位に留まってはいるものの、一度離婚した後に再婚しない割合は2位、女性だけに限ればトップだとあります。母子世帯、父子世帯の割合も一番多いという結果になります。この原因として、一人親の世帯が入居できる公営住宅の割合が23区中トップであることと関係があるかもしれないというのですが、そんな理由で再婚をしない人がいるはずがありません。さすがに著者も他の区を例に取って、必ずしもそうとは言い切れないかもしれないが、と言い訳はしていますが。

   この本にはあまり値打ちがないと私が考えるのは、たとえば足立区に問題があるとして、著者にはその問題の原因とは何か、今後どういう方策がとれるかという考察をする気がないということです。いわば、今やテレビでおなじみの「〇〇散歩」番組のように、それらしい部分を引っ張り出して見せている、至ってお気軽な本に過ぎないのです。   

   足立区にヤンママが多いのは、進学率が低いことと相関関係があるはずです。著者は調査対象としていませんが、高校中退者もおそらく23区トップなはずです。学校という場を離れてから数年たつと、概ね女性は結婚する気になります。低学歴者の中には、いわゆる「できちゃった婚」のケースも多いものと推察できます。また、女性の初体験年齢も、他の区と比べたら、低年齢になっているはずです。つまり、足立区にヤンママが多く、また精神的に未熟なまま結婚してしまうために、結局は離婚につながるケースが多いと判断すべきです。

   所詮この本は、23区の現状を、上っ面だけさっと撫でたに過ぎません。その意味では、ほぼ無価値です。ただ、この本を土台として、更に自ら問題意識をもって深く突っ込んで行く意思と知識を持ち合わせている人にとっては、それなりの手がかりを与えてくえるかも知れません。しかし、この本を読み終えた人の感想は、概ね「既に予想済みの内容だ。新鮮味はない。」ということになるのではないでしょうか。そういう底の浅ささを持った本だというのが私の正直な感想です。また、一部の区に対しては、あそこには絶対に住みたくないという気持ちを起こさせる恐れがあるという意味で、罪深い本であることも確かです。