よろめくように自陣に戻り、待ちわびていたエミリーとタッチを交わす。リングに飛び込んだエミリーは小川をクローズラインで薙ぎ倒すと、次いで向かってきた真田もヨーロピアンアッパーで迎撃した。
「まだまだ!」
ダウンしていた小川の片手を掴んで起き上がらせると、引っ張りながらショートレンジクローズラインを喰らわせる。つないだ手を放さずさらにもう一発。倒れたところをカバーするも、カウント2で返された。
「それなら!」
エミリーは回復する間を与えずコーナーに上る。ダイビングヘッドバッドをお見舞いしようとコーナーを蹴るが、すかさず起き上がった小川は飛び込んできたエミリーの腕を取ると、高角度の脇固め――『クロウバー』を極めながらマットにねじ伏せた。
「終わりです!」
「ぐうっ…!」
手練れのサブミッションは簡単には脱出させてくれない。危ういところで美沙がカットに入り、何とかギブアップを免れた。
「逃がしません!」
なおも追撃しようとしてくる小川をミリタリープレスで頭上に打ち上げたエミリーは、落下してくる無防備なところにヨーロピアンアッパーをぶちかましてカウンターを喰らわせる。ダウンを奪うが追い打ちする気力はなく、コーナーに戻って美沙とタッチを交わした。
「任せるのです!」
威勢よく飛び出す美沙。同じく交代した真田をスパインバスターで迎撃すると、頭もとに構え、右上の手袋を投げ捨てる。
「美沙の妙技を味わえなのです!」
両手を交差させるとロープに走り、ピープルズエルボーをお見舞いする。だが、真田は間一髪転がってかわすと、ヒジをマットに打ち付け痛みでうずくまる美沙の顎を右ヒザで打ち抜いた。
「カバーっス!」
エミリーのカットは間に合わない。決着かに見えたが、美沙は意地を見せて2.9カウントで肩を挙げた。
「しぶといっスね……!それなら!」
狙いを定めた真田は、美沙の横をすり抜けコーナーに走る。そこから飛び掛かりざま、側頭部に蹴りをかませば必殺技の『斬馬迅』が完成するが、それだけはさせるかと後を追ったエミリーが、コーナーの頂点で真田を捉えた。
「ち、ちょっ…!?」
「でいやああぁぁっ!!」
腰に手を回し、雪崩式のバックドロップで強引に投げ捨てる。激しくマットに叩きつけられ、ぐったりと横たわる真田を横目に、パートナーの小川を抑えにかかった。
「決めて!美沙!」
絶好のお膳立てに、美沙は再びピープルズエルボーの構えに入る。今度は左腕の上袋を脱ぎ捨てると、ロープに走り、今度こそ真田の胸元にヒジを投下した。
「カバーなのです!」
足を抱えながらレフェリーを呼び寄せる。
「ワン……ツー……ス…!」
決着まであと0.1秒。だが、すんでのところでエミリーの手を抜け出した小川がカットに成功する。
「ごめん、美沙!」
エミリーはミスを取り返そうと再び小川に組みかかり、ともに場外に転がり落ちる。すでに必殺技を2回も放っている美沙は決め手を欠き、見よう見まねで葛城のバズソーキックを試みた。
「喰らえ、なのです!」
ヒザ立ちの真田にキックを放つが、付け焼刃の打撃は易々と見極められあっさりと回避されてしまう。体勢が崩れたところに真田のその場跳びヒザ蹴りを喰らい、フラフラと尻餅をついてしまった。
「まだまだっスよ!」
意識朦朧で身体を起こしかけた美沙に狙いを定め、真田はランニングニースマッシュで顎をかち上げる。さらにコーナーを駆け上がると、ヒザの2連発を喰らい反失神状態の美沙目がけ、『斬馬迅』をお見舞いした。
意図の切れた人形のように崩れ落ちる美沙。すかさず真田が足を抱えると、ほどなくして3カウントが数えられた。