Three Birds~レッスルエンジェルス 三馬鹿珍道中~

レッスルエンジェルスを題材にしたプロレス文ブログです。アメプロ好きにしか分からないネタも混じりますが、無害です。

NO MORE SATSUBATSU!!

というわけで、スリーバーズは以上で完結です。
ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
某葛城さんが主人公のせいでいつも殺伐としていたROAとは違い、
異本的に楽天家の富沢たちの明るい雰囲気になったのではと思います。

さて、明るいお話もできたし……、
次は思いっきりSATSUBATSUするぞ!!
――というわけではないのですが、このお話はROAと、
現在予定しているROAⅡをつなぐストーリーでした。
富沢らの行動がROAに及ぼした影響とは?
葛城早苗の復帰は?
そしてあのレスラーが衝撃の〇〇〇ターン!?

こそこそと書き溜めているところですが、
できれば隔日くらいで定期的に更新していきたいので、
もうしばらくお待ちいただければと思います。
広島東洋カープのこいのぼりが終わるころには開始できたらと思っています。
とりあえず、旧ROAの方でサイドストーリーを一本。
そのあとにROAを再始動するつもりです。


コメントレスです
・鏡様の悲鳴かわいいw
>全編通して唯一のやられシーンで、ついつい素の悲鳴を上げてしまう鏡さんでした。

第10部「Learn To Fly」その8(終)

「うぅぅ~……ありがとう、永原、金井~」
 レフェリーに促され立ち上がると、3人で横並びになって堂々と両腕を掲げる。初戦からの大波乱も、観客たちは拍手で健闘を称えた。
「そんな…」
 一方のリング下、右腕を庇うように押さえながら、栗浜が呆然と呟く。そこに、パートナーの2人が近寄ってきた。
「いった~。あのジャーマン娘、どんだけぶん投げるんだっての」
 後頭部にこぶを作った神楽が顔をしかめる。その背後から、逃げ出したくなるような殺気が襲い掛かってきた。
「亜魅さん、これは一体どういうことなのかしら?」
 タオルで拭ったのだろうか、ところどころ黒い塗料が付着している顔を引きつらせながら、鏡が低い声で話す。びくりと身を震わせ、栗浜は両腕を前に出して弁解する。
「あ、あの……悪いのはあのピンク髪のアイドルで、私はただチームのためにと…」
「言い訳は無用ですわ。私に恥をかかせ、しかも一回戦負けとは……どうやら、お仕置きが必要みたいですわね」
「ひっ」と悲鳴を上げながら、なぜか身体を隠す素振りを見せる栗浜。
「あ~あ、ご愁傷様。つうか、今度はちゃんと猿ぐつわ噛ませといてよね。この前はひ~ひ~うるさくて、まともに眠れなかったから」
「分かりましたわ。そうそう、ちょうど蝋燭も切れていましたし、帰りに買っていかないといけませんわね」
「ゆ、許してください、お姉さま!もう二度とこんな失態は…!」
 両脇を抱えられ、無理やり引きずられていく栗浜。悪意に満ちた鏡の禍々しい笑みに、富沢らどころか、観客も唖然としていた。
「な、何あの連中。ってか、最後まで目立ちやがって…」
 憎々しげにつぶやく富沢。「まあまあ」と落ち着かせた永原が、ニッと笑いかけた。
「忘れてない、レイ?私ら、まだ試合あるんだよ」
「へ?あ、そっか、トーナメント戦だったっけ」
 完全燃焼し、すっかり忘れてしまっていた。次の試合、武藤めぐみを擁する「ジェネレーション・ネクスト」と、相羽率いる「CBT」のどちらかとの準決勝があるのだった。
「もう、しっかりしてよ、レイちゃん」
 金井にまで注意され、富沢は恥ずかしそうに頭をかく。
「うっし、ここまで来たら、決勝行くぞ!龍子さんまで倒して、優勝しちゃうぞバカヤロー!!」
 右腕を突き出す富沢に合わせ、永原と金井も腕を挙げる。彼女たちのこぶしには、越後に託された白い鉢巻が握られていた。

「はうぅ~、もうダメ…」
 痛む身体に鞭打って、シャワーを浴びた富沢は床に敷かれた布団の上に突っ伏す。一足先に転がっていた永原と金井と頭だけ突き合わせて、ふかふかの毛布に飛び込んだ。
 身体が鉛のように重い。クタクタだったが、久しぶりに味わう心地よい疲れだった。
「結局、ベスト4止まりだったね…」
 金井の言う通り、結局、準決勝で当たったジェネレーション・ネクストには完敗してしまった。鏡らとの一戦で、気力も体力も底をついていた富沢らに新進気鋭のエリート集団を止める手立てはなく、開始5分弱で早々にフォール負けを喫した。
「っていうか、あいつらチートだよ。武藤は前やったから知ってたけど、あのスイレンって子、マジでデビュー2年目なの?」
「草薙みことさんの妹でしょ?んで、武藤さんに鍛えられてんだから、そりゃ強いよ」
 幼い顔立ちには不似合いな豪快な投げ技と、武藤仕込みの空中殺法で、試合を忘れて魅入ってしまうほどの凄まじい身のこなしだった。
「仕方ないよ。あの子たち、ROAのトップグループじゃん。私たちじゃ敵いっこないよ」
「まあそうだけど…。けど、んなことお構いなしでぶっ潰す龍子さんも大概だよね。まさか自分たちから呼んどいて、チャンピオンからスリーカウント取るとか」
 迎えた決勝は、龍子、石川、小川のWARS陣と、武藤、ディアナ、スイレン草薙のジェネレーション・ネクストの対決だった。一進一退の攻防は30分近くに及び、龍子がプラズマサンダーボムで、ROA王者の武藤からピンフォールを奪った。
 WARSファンからしてみれば、文句なしの劇的な幕切れだっただろう。しかし敗れた武藤は大荒れで、閉会式もボイコットしていた。
「なんか今度、ROAでシングルやらせろって、武藤さんが要求したらしいよ。でも、さすがにタイトル戦じゃないだろうけど」
「いや~、あいつの性格じゃ、意地でもタイトル懸けるんじゃないの。ま、武藤の話なんてどうでもいいよ~」
 富沢はくぁっと大きく欠伸をする。急に睡魔が襲ってきて、すぐにまぶたが落ちてしまいそうだった。
 充実していた、と思う。今日だけではなく、越後と特訓に明け暮れた1ヵ月間。仕事への不安も、自分への嫌悪もなく、ひたすら「打倒ビューティフル・ピープルを合言葉」に、苦しい練習に耐え抜いた。日々真っ白に燃え尽きるような毎日だったが、おかげで、頭の中をリセットすることができた。
 これまで、どれだけプロレスに集中できていなかったのか。周りの評価を気にし過ぎ、自分のパフォーマンスよりも他のレスラーの評価を気にしていた。大好きだったはずのプロレスに、いつしか苦手意識を持っていた。
 だが、もう吹っ切れた。龍子にぶちのめされ、永原とケンカし、それでどん底まで落ちることができた。あとは、這い上がるしかなかったのだ。
「ねえ、永原、金井」
「ん~?」
「なに?」
 億劫そうに返事を返す二人。富沢はもう一度欠伸をし、ぼんやりと天井を見つめたまま続けた。
「多分、明日になったら言えなくなっちゃうと思うから話すんだけど、私、二人に嫉妬してたんだ」
「どうしたの?急に」
「永原はカオスさんに認められてWWCAに行ったり、金井はグラビアが人気で、お仕事いっぱいだったりしてさ。私が新女クビになって、巻き込んで辞めさせたはずなのに、いつの間にか私だけがまた取り残されて、凄い焦ってた。なんでこいつらだけって、すごい自分勝手なこと思ってた」
 永原と金井はなにも言わず、富沢の告白に耳を傾けている。
「『永原は試合、金井はビジュアル、私はマイク』ってよく言ってたけど、そうすれば、永原みたいに活躍できなくても、金井みたいに可愛くなくても大丈夫なんだって自分に言い聞かせてただけな気がする。だけど、それじゃダメなんだってようやく気づいた。私、今度からは二人に追いつけるように頑張る。だから、これから迷惑かけるかもしれないけど、また仲良くしてくれる?」
 顔を見合わせた永原と金井はフフッと笑い合うと、富沢の両手を握った。
「もちろんっしょ」
「よろしくね、レイちゃん」
 両手にぬくもりを感じ、富沢は恥ずかしそうに笑う。
「でも、今でも、私が二人に負けないこと……ううん、世界中のどんなレスラーにだって負けてないことがあるんだよ」
「え~、なになに?」
 もったいぶった口調に、金井は身を起こして尋ねる。
「それは……ね…」
 小さな声で呟く富沢。だが、それ以上言葉は続かず、すーすーという寝息が聞こえてきた。
「ありゃりゃ、レイちゃん寝ちゃった?」
「一日二試合だったからね。さすがのレイもダウンか」
「え~。話の続き気になったのに~」
「私たちも寝よ。明日、また聞けばいいよ」
 不満そうにぶーぶー言いながらも、同様にすぐに寝息を立て始める金井。間もなく永原も寝入ってしまったようだった。
(寝たか…)
 富沢は悪戯っぽく舌を出すと、仰向けに身体を転がして、熟睡している親友たちを見つめる。本当は寝たふりだったのだが、二人とも気付かなかったようだ。
「恥ずかしくて、面と向かってたら言えないよね。『世界で一番、二人のことが大好きだ』なんて」
 小さく笑う富沢。「おやすみ」と囁くと、今度こそ瞳を閉じた。


 鳥になった夢を見た。
 私は飛ぶのが下手くそで、少し羽ばたいてはすぐに地面に落ちてしまう。
 転がってばかりいて、もう、二度と飛べないんだって思った。
 だけど、どこかから現れた二匹の鳥が、私の翼を支えてくれた。
 初めはちょっとずつ。だんだん、高く舞い上がった。
 私たちの目の前には、雲一つない真っ青な空が広がっていた。

第10部「Learn To Fly」その7

「お姉さま、私に代わってください」
 栗浜がエプロンから身を乗り出す。息絶え絶えの富沢を見下ろした鏡は、冷笑を浮かべてタッチを交わした。
「あなたごとき、お姉さまの手を煩わせる必要はありません」
 意識朦朧の富沢にまたがると、頬を張って、失神寸前の敵をせせら笑う。
「趣味の悪い鉢巻。こんなものを付けて強くなれるのなら、苦労しません」
 越後から送られた鉢巻きをむしり取ると、マットに投げ捨て、ブーツの底で踏みにじる。純白だった鉢巻きはたちまち汚れ、栗浜は小悪魔めいた笑みを浮かべる。
「あらあら、すっかり汚らしくなってしまいました。でも、あなたにはお似合い…」
「お~ま~え~!!」
「ひぅっ!?」
 凄まじい殺気に、思わず飛びずさる栗浜。鉢巻きを握りしめたこぶしをわなわなと震わせ、富沢がゆらりと立ち上がる。
「越後先輩からもらった大切な鉢巻きを…!絶対、絶対許さない!!」
「あ、ありえない……なぜ立ち上がれるのですか!?」
 一瞬、救援を求めるべきか迷う。だが、交代したばかりで逃げ出すのもバツが悪い。富沢はもう限界寸前なのだ。鏡と神楽の力を借りるまでもない。
「これで終わりです!」
 その場で回転し、ローリングエルボーを繰り出す。捉えたかに見えた瞬間、富沢の姿が視界から消える。巧みに身を翻した彼女は、伸ばされた栗浜の腕を脇固めに捕えながらグラウンドに引きずり込むと、瞬く間に変形のクロスフェイス――「レイベルロック」を完成させた。
「あううぅぅ!?」
「タップしろ~~!!」
 ハンマーロックで片腕を制しつつ、フェイスロックを極める複合の関節技。たちまち形勢が逆転し、まさかの大金星の予感に観客が立ち上がる。
「た、助けてください!お姉さま!!」
 こらえきれず、泣き叫んで助けを求める栗浜。その声を聞く前に飛び出していた神楽は一瞬にして距離を詰めると、無造作に右足を振り上げ、富沢の顔面を打ち抜いた。
「――ッ!?」
 痛烈な一撃に、富沢は軽々吹き飛ばされる。
「悪いね。私らが一回戦負けなんてありえないからさ」
 ニヤリと笑う神楽。だが、すぐにその顔から余裕が消える。
「な…!?」
「でやあああぁぁ!」
 リングに飛び込んだ永原が、神楽に投げっぱなしのジャーマンを喰らわせたのだ。凄まじい背筋力で投げ飛ばされた神楽は、マットでバウンドすると勢い余って場外に転落する。
「どうだ!」
 勝ち誇る永原だったが、総毛立つようなおぞましい気配を感じ、ハッと振り返る。
「お痛が過ぎますわよ、永原さん」
 影のように背後に張り付いていた鏡は、無防備な永原の腹部にトーキックを浴びせると、前かがみになった彼女の頭を脇の下に捕まえる。片足を振り上げて勢いをつけると、高速DDTで頭からマットに突き刺した。
「ちづるちゃん!」
 パートナーが沈められ、金井が慌ててリングに入る。がむしゃらに突っ込むも、簡単に捕まえられ、背後を取られてしまう。
「押さえていてください、お姉さま!」
 腕を覆うアームカバーの内側に手を差し入れた栗浜は、隠していたカプセルを口に含む。それを奥歯で噛み潰すと、口の中にどろりとした液体があふれ出た。
(そのロリータフェイスをぐちゃぐちゃにしてあげます!)
 口をすぼめると、ブラックミストを噴出する。大人気アイドルに恥をかかせてやるつもりだったのだが、
「きゃうん!?」
「か、鏡お姉さま!?」
 普段の姿には似合わない、可愛らしい悲鳴を上げながら鏡が倒れる。直撃する寸前で金井が回避したため、鏡に誤爆してしまったのだ。
 思わず目を奪われてしまう妖艶な美貌を真っ黒に染めた鏡は、もんどりうってリング下に落ちる。呆然としていた栗浜に、金井がチンブリーカーをお見舞いする。
「あぐっ!?」
 顎を押さえ、ふらつく栗浜。千鳥足でリング中央に吸い込まれるように歩いていく先には、神楽の蹴りで片方のまぶたが腫れ上がった富沢が待ち構えていた。
「でえぇ~いッ!!」
 再び右腕を捕えてグラウンドに引きずり込むと、瞬時にレイベルロックを完成させる。先ほど攻撃された腕をまたもや痛めつけられた上に、鏡と神楽はともにリング外。10秒も耐え切れず、栗浜は半泣きでマットを叩いた。
「ギブアップ!ギブアップです!!」
 一心不乱に極めていた富沢は、レフェリーに引き剥がされ、ようやく決着がついたことを悟る。腰が抜けたようにぼんやりとへたり込んでいるところに、金井と永原が抱きついてきた。
「やった!やったよ、レイ!」
「私たちの勝ちだよ!」
 2人とも感極まっているのか、瞳に涙が浮かんでいる。余裕を見せて笑おうとした富沢だったが、知らず知らずのうちに自分の目からも涙が零れ落ちていた。

第10部「Learn To Fly」その6

 チームで最も実力の劣る金井だが、彼女も越後の特訓を受け、ずっと頼もしくなっている。同じくらいの体格の栗浜が相手なら十分戦えるようだ。
 3分近く一進一退の攻防を繰り広げ、両者共にびっしりと汗をかいている。そろそろ交代かと富沢は手を伸ばしかけるが、参戦権のないはずの鏡がいつの間にかリングに入っている。
「金井…!」
 忠告するも時すでに遅く、鏡は金井の背後から一撃を浴びせる。レフェリーに注意されいったんエプロンに戻るも、すぐに栗浜とタッチを交わし、再びリングに上がった。
「ちょっとちょっと、反則じゃん!」
 抗議しようとする富沢に見せつけるように、鏡は金井をリング下に落とす。すかさず神楽が襲い掛かり、軽い身体を振り回して場外フェンスに叩きつけた。
「きゃんっ!?」
 お気に入りのアイドルの窮地に、客席から罵声が響く。ようやく気づいたレフェリーが神楽を注意し、金井をリングに上げさせた。
 ぐったりした金井を転がした鏡は、余裕の笑みを浮かべて彼女の顔にヒジを押し当てながらカバーに入る。カウント2で返されると、関節を制しつつ抵抗できないように動きを制しながら、長座姿勢に座らせる。
「ふふっ、永原さんと違って初々しい肌触りですわ。趣味ではないけれど、これはこれで魅力的ですわね」
 コスチュームの隙間から差し入れた手を這わせながら、鏡が妖艶に笑う。「おおぉっ!?」という会場のざわめきに気を良くした彼女は、さらに大胆に金井に身を寄せる。
「怖がることはありませんわ。私に身も心も委ねればいいのですわ」
 息の荒い金井の耳元で囁く鏡。耳元に息を吹きかけられ、金井がビクビクと身を震わせる。
「やばっ…、出たよエロ殺法…」
 冷や汗を流す富沢。ウブな金井はこういった類の攻撃にめっぽう弱く、すでに陥落寸前になってしまっている。反則負け覚悟で妨害すべきか――。迷っている間に、隣から大声が飛んだ。
「こら――ッ!美加!!しっかりしろ――!!」
 声の主は永原。顔に両手を当ててメガホンにし、ビックリするくらいの声量で叫んでいる。少し前まで鏡と対面することすら恐れていた彼女が、懸命に声援を送っている。
「ちづるちゃん…」
 金井もやっと我にかえったようだ。すっかり骨抜きにしたと、無防備に伸ばされていた手に噛り付くと、鏡が怯んでいる間に必死にロックから抜け出した。
「ちづるちゃん、おねがい!」
 飛び込むようにタッチを交わす金井。永原は躊躇なく鏡に突っ込むと、これまでの恨みをぶつけるようなショルダータックルを叩き込む。もんどりうって倒れたところをすぐ引き起こすと、今度はフロントスープレックスで再びマットに沈めた。
「いっくよー!」
 天井を指差し、観客に手拍子を求める永原。背筋の強さを活かして鏡をぶっこ抜くと、滞空ブレーンバスターで頭上に固定する。10秒以上は経過しただろうか。ようやく鏡をマットに叩きつけると、すかさず足を抱えてカバーした。
「ワン……ツー…!」
 あと一歩のところで返されてしまうが、気落ちすることなくすぐさま次の攻撃に移る。立ち上がろうとする鏡の後ろに陣取ると、両腕を広げてジャーマンスープレックスを放つタイミングを探る。
「鏡!」
 声に反応し、頭を下げる鏡。乱入した神楽が延髄切りで、永原に一撃を浴びせた。
 援護に入ろうとした富沢と金井をエプロンから叩き落とした神楽は、永原をコーナーに振り、ダッシュ攻撃を仕掛ける。次いで栗浜が串刺しエルボーをかまし、鏡も続こうと駆ける。
「させない!」
 繰り出された腕を前転して回避する永原。勢い余ってコーナーに突っ込んだ鏡に、お返しとばかりに富沢と金井が襲い掛かる。それぞれ串刺しクローズラインとヒップアタックを喰らわせると、ここぞとばかりに組みついた永原が、今度こそジャーマンスープレックスホールドを炸裂させた。
「ワン……ツー…!」
 あと1秒。しかし、栗浜が素早くカットに入り、ピンフォールには至らない。スタミナ切れの永原に代わってリングに入った富沢は、倒れた鏡に駆け寄り、得意技の変形クロスフェイスを仕掛けようとする。が――、
「調子に乗り過ぎですわ!」
 早く仕留めたいと焦り過ぎたか、逆に腕を取られる。首の前で交差するように両腕を捕まえられると、瞬く間にキャメルクラッチの体勢に持ち込まれた。
「がはっ…!?」
「何もできないまま帰るのは可愛そうだと見せ場を差し上げましたが、もう充分ですわ。このまま、ご自分で首を絞めて落ちなさい」
 冷徹に告げると、背中の上に腰をおろし、強引に上体を反り上げる。身体が千切れてしまうのではないかという痛みに、富沢は悲鳴を上げる。
「レイちゃ……きゃっ!?」
 カットに入ろうとした金井と永原も、栗浜と神楽の妨害を受けてしまったようだ。リング中央でがっちり極められ、絶望的な状況に陥ってしまう。
(ヤバい――マジで壊れる…!)
 本気で仕留めに来ているのだろう。これまで以上にえぐい角度でロックされ、悲鳴すら上げられなくなってしまう。
「ヒュー……ヒュー…」
 気道を塞がれ、不自然な呼吸音をさせる富沢。紅潮していた顔がやがて蒼白になり、抵抗の気配が消え失せる。続行は不可能と判断したレフェリーが、試合終了の合図を怒ろうとゴング係を振り返る。
「ダメ――ッ!!」
 レフェリーの手が振り下ろされそうになった時、神楽を振りほどくことに成功した永原が、飛び掛かって鏡を突き飛ばす。ようやく解放された富沢は、激しく咳き込み、酸素を求めた。

第10部「Learn To Fly」その5

「ただいまより、WARS認定ユニット最強トーナメント戦を行います。まずは1回戦第1試合――『スリーバーズ』対『ビューティフル・ピープル』を行います!」
 対戦する6人が出そろい、リングアナがそれぞれのコールを行う。ビューティフル・ピープル組は他のメンバーを制し、鏡が前に出る。それを見た永原は、自ら先鋒を買って出た。
「行ける?」
「大丈夫……だと思う」
 まだ緊張気味だったが、越後に渡された鉢巻に手をやり、意を決したように頷く。富沢と金井は素直にエプロンに立ち、ゴングを待った。
「試合開始!」
 レフェリーの声と同時、永原は積極的に前に出る。自ら手を差し出すと、鏡は意外そうな顔をしつつも組み合った。
「ん…!」
 手を合わせた途端、腕関節を極められそうになるもなんとか踏ん張る。徐々に体勢を立て直していくと、逆にロープ際まで押し込んでいく。
「ブレイク!ワン、ツー…!」
 素直に身体を離す永原、隙を狙い、鏡がこぶしを振るってくるも、予期していた彼女はアームホィップでカウンターを喰らわせた。
「なかなか、やりますわね」
 WWCA遠征で鍛えられ、関節技対策もできているのだろう。好きなようにあしらわれた前回と違い、確かな成長を感じさせた。
「作戦の練り直しですわね。神楽さん、代わって下さるかしら?」
「ちょっと~、1回戦は鏡だけで楽勝だと思ってたのに~」
 コーナーに身体をもたれかけさせ、気だるげに戦況を眺めていた神楽は不服そうに声を挙げる。めんどくさそうにするもタッチされると仕方なくリングに入った。
「私が行く」
 それを見た富沢は自分からタッチを求める。「へぇ?」と、バカにしたような笑みを浮かべる神楽を睨み、颯爽とリングに躍り出た。
「いい加減、私らに絡むの止めなよ。どーせボコボコにされるだけじゃん」
「言ってろっての」
 それ以上無駄口は叩かず、慎重に間合いを測る。タックルに行くもガードされ、ヘッドロックをかけられたままマットに押し付けられる。馬乗りでパンチを打ち込まれるも、身体をよじって避けると、そのまま脇固めに捕える。完全に極める前に脱出されてしまったものの、余裕の態度を改めさせるのには成功したようだ。
 舌打ちし、一瞬たじろぐほどの殺気を放つ神楽。だが、肩をすくめると、すぐにそれを打ち消した。
「何よ、可愛くなくなっちゃって」
 そう言うと、エプロンに控える栗浜と交代する。拍子抜けしていた富沢だったが、同じように金井とタッチを交わした。
「お疲れ、レイ」
 エプロンに戻ると、永原が声をかけてくる。わずかしか動いていないのに額に浮かんだ汗を拭い、富沢は一息ついた。
「くっそー、何だよあいつら、全然本気じゃないじゃん」
「仕方ないよ。あの人たち、優勝する気満々だもん。1回戦はなるべく、体力温存したいと思うし」
「私たちは眼中にないってか、悔しいなぁ」
「まあまあ、油断してくれた方が勝ちやすいんだし、試合に集中しよ」
 永原の言葉に頷きながらも、富沢は対角線上のエプロンで談笑している鏡と神楽を、憎々しげに睨みつけた。

第10部「Learn To Fly」その4

 迎えた決戦の日。揃って会場に到着した富沢たちは、緊張の面持ちで控室へと向かう。その道すがら、待ち構えていたのか、鏡が物陰から姿を現した。
「ごきげんよう。てっきり逃げ出すものかと思っていましたわ」
 身を固くする永原を庇い、富沢は一歩前に出ると、気後れすることなく鏡を睨みつけた。
「いい加減、私たちを甘く見てると痛い目会うからね。この1ヵ月間死に物狂いで特訓してきたんだから」
「あらあら、威勢がいいことですわね。でも、特に変わったようには見受けられないけれど」
「んな、マンガじゃあるまいし、たかが1ヵ月でムキムキになるわけないじゃん。変わったのはここだよ、ここ」
 言いながら、富沢は自分の胸を叩く。
「もうあんた達にビビったりしないし、試合を投げたりもしない。勝つまで絶対諦めないんだから!」
 富沢が威勢よくまくしたてるも、鏡はフンと鼻で笑う。
「口ではなんとでも言えますわ。せめて、楽しませてくださいまし」
 隠れた永原にウインクし、美しい長髪をたなびかせて背を向ける鏡。その背中に富沢はい~っと歯を剥いた。


「うっし、とうとう決戦だよ。気合入れてこー!」
 トーナメントに参加しているのは全部で8チーム。富沢たちは初戦で鏡が率いる「ビューティフル・ピープル」と対戦し、もし勝ち進めば、武藤めぐみを擁する「ジェネレーション・ネクスト」か、相羽らの「CBT」と相対することになっていた。
 しかし、正直に言えば次戦など構っていられない。優勝候補の一つである「ビューティフル・ピープル」からまさかの大金星を挙げる。そのために越後の厳しい指導に耐えてきたのだ。
「大丈夫、永原?怖いようだったら私が鏡の相手するけど…」
 どうやらまだ苦手意識を克服できていない永原に尋ねるも、彼女は首を横に振った。
「ううん、平気。試合が始まったら気にしないようにするから」
 コスチュームに着替えながら永原は気丈に笑う。強がってはいるが、不安は大きいだろう。富沢はキャリーバッグをごそごそと漁り、真っ白な布を取り出した。
「永原、金井。これ」
 それは、出発前に越後が託してくれた、彼女が試合時に愛用している純白の鉢巻だった。「お前たちはよく頑張った。弱気になったら、これを見て、苦しかった特訓を思い出せ。気持ちで負けるなよ」。そう言って、三人分渡してくれたのだ。
「……うん」
 少しは元気を取り戻したか、永原は大きく息を吸い込むと、鉢巻きを締めて頬を叩いて気合を入れる。
「よしっ…!行こう、レイ、美加!」
「「おう!」」
 全員で右手を重ね合わせ、声を揃えて出陣する。富沢にとっては先の龍子戦に続くこれまでのプロレス人生を懸けた大勝負だが、この間のような気負いはない。なぜなら今回は、仲間がいてくれる。
 かつてない一体感を覚え、富永はスポットライトに躍り出た。

第10部「Learn To Fly」その3

「金井には電話しておいたぞ。もう遅いから、今日は泊まっていけ」
「どうも」と口にするものの、富沢は心ここにあらずといった様子で、ずっとぼんやりしている。嘆息した越後は、彼女と距離を置いて腰かけた。
 5年間、先輩後輩の関係を続けてきた。彼女の様子を見れば、大体の事情は分かる。確か、今日は永原がWWCAへの遠征から帰国するはずだ。にもかかわらず、富沢が一人でいるということは、おそらく喧嘩でもしたのだろう。いつもならこちらなどお構いなしに、一方的に愚痴を重ねるはずだが、それもできないほど精神的に参っているようだった。
 こんな時、他のレスラーならうまく悩みを聞いてやれるのだろうか。たとえば、六角だったら、晩酌でもしながら本音を引き出すのかもしれない。理沙子だったら、相手が話し出すまで辛抱強く待つのだろうか。
 だが、自分にはそれができない。気落ちしている富沢をもう一度横目で見ると、越後は誰ともなしに話し始めた。
「なあ、富沢。お前、自分が新女に入団した時のこと、覚えてるか?」
 返事はないが、構わず話し続ける。
「私はよく覚えてるよ。お前たちを初めて見た時、厄介そうなのが合格したと思ったんだ。一人は、終始喋りっぱなし。一人は口を開けば『ジャーマン、ジャーマン』。一人はすぐ泣きだす。初めてできた後輩が、こいつらなのかとずいぶんイラついたもんだ」
 言葉とは裏腹に、越後は楽しげに見える。
「いつになったら成長するかと思えば、5年経ってもお前らはあの時のままだ。お前はうるさいし、永原はジャーマン馬鹿で、金井は泣き虫。私はお前らに振り回されっ放しで、いい加減にしてくれと思ってたよ」
「だが…」、言葉を切り、越後は天井を仰いだ。
「いなくなると、それはそれで寂しいもんだ。正直に言うと、私はお前らに新女に復帰して欲しいと思っている。一人でも戻りたいという奴がいるなら、私が一緒に社長に頭を下げてやる。たとえそれが、お前一人だけだったとしても」
 顔を隠しているため、表情は分からない。だが、富沢の肩が震えているのは遠目にも分かった。
「今日はもう休め。そして明日、何でもいいからあいつらと話せ。私も着いていってやるから、遠慮なんかするなよ。お互い腹の底見せ合って、スッキリすればいいさ」
「……す…」
「ん?」
「ありがとう……ございます…」
 正解を出せたかはわからない。だが、ちょっとは力になれたと、越後はそっと胸をなでおろした。


 翌日、金井と越後が連絡を取り合い、それぞれ問題人物を引きつれてくる。導かれた富沢と永原は、互いに気まずそうに視線を逸らした。
 金井も越後も何も言わず、2人が話すに任せる。
「あ、あのね…」
 先に口を開いたのは永原。しかし、被せるように富沢が話し出した。
「あのさ、勝手に試合組んだのはゴメン。それは私が悪いし、永原が怒るのも当然だと思う。あと、『弱虫』って言っちゃったのも反省してる。両方、ゴメン」
 唇を噛み締める富沢。永原の機先を制し、また話し始める。
「確かに、永原の気持ち考えてなかった。だけどあいつら、私たちのことを『負け犬』って呼んだんだよ。永原のこと、『心が折れてる』って言ったんだよ。私のことを悪く言われるのは構わないよ。だけど、永原や金井の悪口言われるのはムカつく。ムカつく!すっごいムカつく!!」
 張りのある大声で天に向かって叫ぶ富沢。あまりの声量に、永原らは目を丸くして驚く。
「あいつら、何も知らないくせに。永原がどんだけジャーマンに情熱持ってるのか、金井がプロレス強くなりたいって頑張ってるのか。そんな奴らに2人のこと悪く言われて、我慢できなかったんだ」
 俯く富沢。顔を上げた時、その瞳には涙が浮かんでいた。
「私、あいつらを見返したい。私と、永原と、金井で。私たちは『負け犬』なんかじゃないって証明したい。だから……だから、一緒に戦って!」
 越後は腕組みし、金井は胸の前で両腕を組み、固唾を呑んで状況を見守る。熱弁を受けた永原は、一歩足を踏み出した。
「レイは……いつもそうだよ。自分のことばっか話して、私の言い分なんて聞いてくれなくて。ホント……自分勝手!」
 負けじと叫び返す永原。やはり仲直りは無理かと諦めかけた時、彼女はそっと富沢の腕を握った。
「そんな一方的に喋られたら……私が謝るタイミングがなくなっちゃうじゃん…」
「……永原…」
「レイの言う通りだよ。私、鏡さんとまた戦うのが怖いんだ。だけど、レイに『弱虫』って軽蔑される方がもっと怖い。だから…」
 大きく息を吸い込み。永原は意を決したように笑う。
「私、戦うよ。レイと一緒に。私たちで、あの人たちを倒そう!」
「ながはらぁ…」
 こらえ切れなくなったか、富沢はとうとう泣き出してしまう。駆け寄った金井とともに、三人は人目をはばからず、抱き合ったままワンワンと大泣きした。
「お、お前ら……いい加減にしろ」
 周囲の視線を感じ、越後は強引に三人を引き剥がす。てへへ、と照れ笑いを浮かべる富沢たちを見て、やれやれとため息を吐いた。
「どうやら、もう完全復活したみたいだな。私の出番もこれまで…」
 と、富沢が「え~」と能天気な声を出しながら顔を上げた。
「何言ってんスか。せっかくこうして三人そろったんだから、昔みたいに練習見てくださいよ。やっぱ、ウチらのコーチは越後先輩だけですもん」
「……っ」
 富沢たちのまっすぐな視線に、越後は思わず言葉を詰まらせる。例え所属は異なれど、彼女たちは全く変わっていない。自然体で、素直で、愚直で。長所と短所を使い分けられない不器用な奴ら。
 できることなら、守ってやりたかった。彼女たちが退団すると明かされたとき、社長に猛抗議したが実らなかった。今度こそ、力になれる。
「し、仕方ないな」
 頬を赤らめながら、越後はにやけてしまわないように表情を引き締める。
「来月の試合までという条件なら、面倒を見てやる。だけどな、手加減は…」
「いえ~い!了解もらったぜいっ♪ってわけで、景気づけに今日は越後先輩のおごりで。永原と金井はなに食べたい?」
「んー、最近がっつりいってなかったから、しゃぶしゃぶ食べ放題とか?」
「あ、いいね♪まだちょっと赤いお肉をこうやってゴマダレにつけて…」
「あれ?金井ってゴマダレ派なの?私は断然、ポン酢派なんだけど…」
 先ほどの感動ムードが嘘のように、火がついたように話し始める富沢たち。呆気にとられる越後を見向きもせず、今日の夕飯のメニューを言い争っている。
「お~ま~え~ら~…!!」
「ゴン」と、3つ続けて鈍い音が響く。久しぶりに拳骨をお見舞いした越後は、鬼コーチの顔になっていた。
「甘ったれるな!本気で鏡たちに勝ちたいのなら、飯なんて食う暇あるか!いいか、お前らがコーチしてくれって頼んだんだからな。途中で嫌とは言わせないぞ…!」
「ふえっ?い、いや~…あれは勢い余ったっつうか、話の流れというか…」
「うるさい。サッサと着替え持って、私の家に来い。今日はオフだからな。思う存分新女の道場を使わせてやるぞ」
 この場に竹刀がないのが、不幸中の幸いだった。もし彼女が得意の凶器……もとい、指導道具を持っていれば、さらにヒートアップしていたことだろう。
「往復1時間で来れるな?1分遅れるごとに腕立て50回やらせるからな」
 唖然としている富沢らを睨み、腹の底からの大声で一喝する。
「返事!!」
「「「は、はい!」」」
 昔のクセで、直立不動で応える三人。「ぼさぼさするな!」とさらに叱責され、半泣きであたふたと駆け出す。
「まったく、レイのせいだからね!」
「ちょっ……あれはお世辞でおそう言わなきゃなところだったじゃん!」
「ふええぇ~ん!私、来週雑誌の撮影入ってるのに…」
 小さくなる背中を見送り、越後は嘆息しながら腕組みをする。
「さて、あいつらが帰ってくる前に金おろしてくるかな。しかし、この辺りに良い店あったか?」
 ブツブツと呟く越後。自然と、顔がほころんでしまうのが自分でも分かった。

第10部「Learn To Fly」その2

 富沢が姿を消してから5時間、金井は富沢の名前で埋め尽くされた携帯の発信履歴を見つめ、フウと溜息を吐く。ダメもとでもう一度鳴らしてみるが、案の定、富沢は電源を切ってしまっているようだった。
「レイちゃん、帰ってこないね」
 呟くも、返事はない。永原は部屋の隅っこで膝を抱えたまま、身じろぎひとつしていなかった。
「大丈夫だよ。レイちゃんもちょっとムキになっちゃっただけだと思うし。『お腹すいた』ってひょっこり帰ってくるよ」
 重い沈黙に耐えかね、誰ともなしに言葉を続ける。それでも、やはり永原は相槌を打たなかった。
 警察に相談するべきだろうか。でも、能天気な富沢のことだから、そのうち帰ってきそうな気もする。どうするべきかしばらく迷い、結局、永原の隣に体育座りをして並んだ。
 コチコチと壁時計が秒針を刻む音だけが響く。こんな静かな夜を過ごすのは2人と出会ってから初めてだと、金井はなんとなく思った。
「私が……悪いのかな」
 前置きなく話しかけられ、金井はびくりと身体を震わせる。視線は床に落としたまま、永原は続けた。
「私だって悔しいよ。でも……本当に恥ずかしくて、鏡さん見ると、体がすくんじゃうんだ。WWCAでレベルアップしてきて、今なら前より戦えるとは思う。だけど、それでも敵わなかったら、今度こそ自信失くしちゃいそうで…」
 よっぽどのトラウマなのだろう。これほどまでに弱気な永原は今までに見た記憶がなかった。
「私は、レイちゃんが悪いと思う。ちづるちゃんが出たくないのなら、無理やり誘っちゃいけないと思うから」
 珍しく自分の意思をはっきり口にする金井。驚いたように顔を上げる永原を見つめ、金井は「でも」、と言葉をつづけた。
「『マイク以外は取り柄ない』ってちづるちゃんの言葉も良くなかったと思う。確かに、レイちゃんは練習嫌いだし、マイクパフォーマンスで目立つの好きだけど、試合で負けるの一番気にしてたのって、レイちゃんだったんじゃないかな。ちづるちゃんは知らなかったと思うけど、この前レイちゃん、WARSに参戦して、龍子さんといい勝負したんだ。龍子さんにも褒められて、『これで永原だけに負担かけなくてすむね』って、すごい嬉しそうだったよ」
 金井は悲しそうに笑う。
「私たち、最近変だったよ。お仕事は増えたけどみんなイライラしてて、一緒にいる時間も減っちゃって…。ちづるちゃんやレイちゃんがどう思ってたかはわからないけど、私は寂しかった。フリーになりたての時はやっていけるのかどうか不安で、泣きたくなったけど、もっと楽しかったな」
 そこまで言うと、金井はペロッと舌を出した。
「勝手なこと言ってごめんね。私がただそう思うってだけだから、気にしないで。でも、私たちのこれからのこと、一回考えなきゃだと思う。レイちゃんが帰ってきたら、みんなで相談しようね」
 諭すような優しい口調に、永原は小さく頷いた。


 玄関のチャイムが鳴り、越後は壁にかかった時計を睨む。短針は10と11の間を指示していた。
「誰だ、こんな時間に…」
 ブツブツと悪態を吐きつつ、ドアスコープから外の様子を窺う。よく見知った女の姿に怪訝そうに眉をひそめるが、鍵を開けて扉を開いた。
「……こんばんは」
 富沢だった。肌寒い季節だが、薄いパーカーを背負っただけの部屋着姿で、いつもうるさいくらいに感じていた笑顔も影を潜めている。しばらく沈黙し、先を促すも、富沢は固く口を噤んだままだった。
「……入れ」
 仕方なく、部屋の中に招き入れる。横を通り過ぎる際、青ざめた彼女の横顔をちらりと盗み見た。

第10部「Learn To Fly」その1

「レイちゃん、最近ご機嫌だね」
「んっふっふ~♪そう?」
 WWCA参戦を終えた永原がアメリカから帰国すると聞き、金井とともに空港にやって来た。永原はテレビ収録に定期的に参戦することはできなかったものの、ダークマッチには頻繁に顔を出し、多くの実戦をこなしてきたらしい。元から三人の中では最も実力派だったが、さらに腕を上げたに違いない。
 以前なら嫉妬したかもしれないが、今は頼もしく思える。WARSへの再参戦、そして鏡らとの再戦が決定したことは、驚かせてやるために秘密にしていた。
「あ、ちづるちゃんいたよ。お~い、こっちこっち!」
 飛び跳ねる金井に気付いた永原が、キャリーバッグを引っ張ってこちらに向かってくる。心なしか、一回りがっしりしたように見える彼女は、満面の笑みで久しぶりの抱擁を交わした。
「ただいま~。会いたかったよ、美加、レイ!」
「お帰りなさい。ちづるちゃんいなくて寂しかったよぉ」
「おっす、おかえり!」
「10時間も飛行機乗っててもうクタクタだよ~。早く家に帰って、美味しい日本食食べたい!」
 言葉とは裏腹に、明るい声で笑う永原。渡米前は少しギクシャクしていたが、どうやら、もう気にしている様子はなかった。


「でさでさ、向こうではエミリーさんに仲良くしてもらったんだ」
「あ~、元ROAだもんね。参戦しといてよかったね」
 家に引き返し、永原の土産話に耳を傾ける。あちらでは、ROAに在籍していたこともあるエミリー・ネルソンが世話役になってくれたらしい。
「なんかね、ROA復帰したいみたいで、今の団体の様子とか教えてくれって言われてさ」
「へ~、また日本に来るの?」
「はっきりは言ってなかったけどね。でも、氷室さんや葛城さんが懐かしいって言ってたよ」
 そろそろ切り出してもいい頃だろう。富沢は「あのさ」と前置きし、話し始めた。
「私この前WARS出たじゃん。そん時、龍子さんに来月の興行も出ろって誘われてさ、永原も金井も出るっしょ?」
 帰国したばかりの永原はもちろん。全く知らなかった金井も驚いたようだ。
「え、そうだったの?すぐ言ってくれればよかったのに」
「いや~、びっくりさせてやろうと思ってさ」
「もちろん出るよ!向こうでどれだけ強くなれたか、すぐ試してみたいもん!」
 二つ返事で了承する永原。富沢は言葉を選びながら続けた。
「それで、さ。呼ばれたのって6人タッグ戦のトーナメントなんだ。んで、私たちの1回戦の相手ももう決まってるんだけど…」
「へぇ、誰々?」
 やや躊躇って、富沢は告げた。
「ビューティフル・ピープルの人たちなんだけど…。ほら、鏡さんたち」
「え……?」
 途端に、永原の顔が曇る。まずいと感じ、必要以上に饒舌になってしまう。
「ほ、ほら。私らいつも負けっぱなしじゃん。今度こそぶっとばしてやろうと思ってさ。大丈夫、永原はあっちでパワーアップしてきたし、私だってこの間、龍子さんに鍛えられてめっちゃ強くなったんだから。私、あとちょっとで龍子さんをタップ…」
「い……や…」
 目を見開いた永原は、悪夢を振り払うかのように首を振る。
「いや。絶対いや。あの人たちがいるなら、私出たくない」
 瞳には恐怖の色がありありと浮かんでいる。これほど弱気な永原を見るのは初めてだった。
「ま、待ってよ。もう出るって言っちゃってるし。つうか、復讐するいいチャンスじゃん。この恨み晴らさでおくべきか、でしょ?」
「私、出ないよ。同じ目に合ってないレイは分かんないだろうけど、私、死ぬほど恥ずかしかったんだから。またあんなことされるなんて絶対嫌だからね!」
「待ってよ、永原が私たちの切り札なんだよ。私と金井だけじゃ勝てっこないって。ほらほら、前にも言ったじゃん。金井がビジュアル担当で、私がマイク担当。んで、永原が試合担当だって…」
 何とかして、翻意させようと手を尽くすが、永原は頑なに拒む。
「絶対やだ!そんなに出たかったら、他の人誘って出ればいいじゃん。舞ちゃんとか、那月ちゃんとか、葉月先輩とかに声かけてみたら?私は絶対出ないから!」
「私たちで戦わないと意味ないでしょ!永原の弱虫!」
「な…!」
 言い過ぎてしまったか。弁解するより早く、永原が言い返してくる。
「勝手なこと言わないでよ!鏡さんと試合したことないクセに!」
「ないよ。ないけど、悔しいじゃんか。いっつもあいつらにやられっぱなしでさ。今度こそやり返してやろうよ!」
「そんなこと言って……結局、私が試合させられるじゃん!」
 言い争いが始まり、金井はおろおろとうろたえる。なんとか仲裁しなければと思うが、弱気な彼女はどうすることもできなかった。
「いつもそうだよ。調子いいことばっか言って、自分は何も努力しないで……レイなんて、マイク以外は取り柄ないクセに!」
「え…」
 瞬間、場の空気が凍る。相手が言い返してこず、不思議に思った永原が視線を向けると、富沢は茫然としたまま言葉が出ないようだった。
「……私…そういうふうに思われてたんだ」
 無意識のうちに口をついてしまった罵倒に、永原本人も驚いている。「ち、違…」。弁明しようとするも、ショックを受けている富沢の顔を見ると、何も言えなくなってしまった。
「あ……あはは…。ごめん、そうだよね。喋り以外はダメダメな奴に指図されたら、そりゃあムカつくよね…」
 無理やりひきつった笑みを浮かべ、富沢は途切れ途切れ話す。見る見るうちに瞳に涙が浮かんでいるが、決してこぼすまいとしているようだった。
「ごめん、ごめんね。私、頭冷やしてくるよ」
 そう言うと、わき目も振らず家を飛び出していく。
「レイちゃん!」
 慌てて追いかけていく金井の後姿を、永原は呆けたように見つめていた。

さらば羊子…!

ひつじこ――!!(後述)
コメントレスです
>エーイチさん

どもーです。お察しの通り、三馬鹿のお話は次部が最後の予定です。
パワーアップし、鏡らとの決戦に息巻く富沢。
しかし、散々辱められた永原との間に亀裂が…!?
ラストまでお付き合いいただければ幸いです。


STR様に再び素敵テキストをいただいたので、公開させていただきます。
華やかなデビューを飾るはずが、どうしてこうなった!?(確信犯)
ともかく、全キャラクターを動かされているSTR様には頭が下がります。
せめて羊子はオーソドックスにしようと思いつつ、
結局かき回し役にしてしまうのでした。
以下、頂いたテキストのコピペです。


◇◆◇ 0 ◇◆◇

Wrestle Angels PBeM

Episode1 天使轟臨 ~Angels Flying in the Supercell~

〔ストーリー〕

西暦20X1年、夏――

渾然となって馳せ巡る数多の運命の輪は、まだ見ぬ未来へとただ一心に突き進む

歴史を人間が作るのか、人間がたどった轍それそのものが歴史なのか?

されど一度、四角いリングの魔性にとらわれたならば、もはや引き返すことは叶わぬのだ

少女たちの流す汗も、涙も、すべては闘いのキャンバスを彩る画材にすぎぬのであろうか――

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■VT‐X(ヴォルテックス) SIDE■
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◇◆◇ 1 ◇◆◇


<<ドキュメント『災禍の中心に立つ~プロレスラー・十六夜美響の12ヶ月~』>>

<VT‐X道場外観>

NA(ナレーション):
福岡県某所にある、女子プロレス団体【VT‐X(ヴォルテックス)】の道場。
 全国的な知名度は新女やWARSなどに及びもつかない新興団体だが、九州では最も大きな勢力を持っている。

<某マンション入り口>

「あら。……ご苦労なことね」

彼女は、VT‐Xの大黒柱といえるスター選手。
《十六夜 美響》。
このいっぷう変わった名を持つ女性には、ありがたくないニックネームがついている。

<道場へ向かう車内>

テロップ:
『災厄の女神』と呼ばれることについてはどう思いますか?

「そうね、特に否定しようがないわ。私の周囲で、そういったことが多発したのは事実だし」

NA:
『災厄の女神』。
プロレスラーなら、こうした凄みのあるキャッチコピーをつけるのは、普通のことだ。
でも、彼女の場合は、違う。

<イメージ映像>

NA:
プロレス入りして以来、周囲に事故やケガが頻発した。
いくつかの団体が潰れたのも、彼女が災いを呼んだためだ、と言う者もいる。
彼女は災厄を操ることが出来るのだ、という者さえいる。

<道場へ向かう道>

テロップ:
『災厄』はコントロール出来る?

「フフッ。客観的に検証出来ない物事は、『信じる』か『信じない』かの二択しかないわ」
「だからそう信じたい人は信じればいいし、そうでない人はそれで仕方がないわね」

テロップ:
最近は『災厄』の様子は?

「これといってないようだけれど、さぁ、いつまた表に出てくるか、分からないわ」
「…………」

<イメージ映像>

NA:
災厄の持ち主と称されたことで、彼女は根無し草のプロレス人生を送ってきた。
そんな美響が、みずから団体を起こした。
それがVT‐Xである。
不安はなかったのだろうか。

<VT‐X道場>

「不安は、もちろんあるわ」
「でも、だからといって何もしない人生なんて、退屈過ぎるでしょう?」
「私の傍に集ってくるような人間は、皆、覚悟の上のはず」
「だから、不安はあえて考えないようにしているわね。……あらあら、もうおしまいかしら?」
(目の前でトレーニング中の若手外国人選手がへたりこんだのを見て、英語で何やら話しかける。すると選手は、また歯を食いしばって再開した)

テロップ:
彼女には何と?

「やめてもいい、代わりはいくらでもいる、とね」

<VT‐X道場・リング上>

NA:
災厄がどうとか言わなくても、リングの上には危険がいっぱいだ。
危険な受け身を取ったりしなくても、ほんのささいな油断やミスが、即、重大な事故につながる。
人間の身体は、想像以上に、もろい。
だとすれば災厄とは、誰しもが持っているものではないのか。

「フフッ、そういうロマンティックな思考は、嫌いではないけれど」
「誰だって、意図せず他人を傷つけてしまうことはある」
「災厄のせいにして済むのなら、その方がいいのかもね」

NA:
しかし、まさに『災厄』そのものとしか思えないような出来事が、我々の目の前で起こった。……


◇◆◇ 2 ◇◆◇


『その時』のことについて、〈オースチン・羊子〉の口は重い。

「――魔が差した、って所ですかね」

道場中央の天井から吊るされたロープ。
腕力のみで昇るためのものだが、実質十六夜のみが用いるもので、かつて羊子も挑戦したものの、とうてい無理であった。

が、この時はなぜか、出来るような気がしたのである。

いや、理由は探せばないではない。
近々、練習生を対象としたプロテストが行なわれると聞いている。
これに合格しないと、VT-Xのリングには上がれないのだ。
入団テストではいまいちな出来だっただけに、またもしくじるわけにはいかない。

(……他の連中も、頑張っているし)

たとえば〈ルーチェ・リトルバード〉。
英語しか話せないこともあり、多少英会話が出来る羊子にいつもベタベタしてくる。
海外のリングには既に上がっているらしいが、VT-Xで闘うためにはテストに合格せねばならない。
今回は苦手の面接の類はなく、スパーリングのみということもあって、基礎体力を身につけることに余念がないようだった。
『ヨーコ、一緒に合格しよう!』
『えぇ、もちろん』

素直な子(といってもルーチェの方が年長だが)なので、仲良くしておくにしくはない。

一方、やはり練習生の〈安宅 留美〉。
羊子とは……非常に、非っ常~~にウマが合わない。
顔を合わせれば口喧嘩、いや取っ組み合いの喧嘩に発展することもザラであった。

「Rumi no Manuke! Sukatan!! Boke!!」
「てめぇっ、英語風に言ったって無駄なんだよっ!!」

最初の頃はそれなりに止めていた先輩レスラーたちだが、最近では

――まぁ、こいつらはこれでいいか。

といった感じで、だいたい好きにやらせるようになってきた。
大概はどっちもゼェゼェと疲れ果てた所で、真壁あたりがまとめて竹刀でブチのめし、ハイおしまい……となるのがパターン。


「落ちろ! テストどころか人生からも落ちろ!」
「てめぇこそ落ちろ! どん底まで落ちろや!!」

……まぁ、そんな仲である。



とにかく、そんな同期たちに負けじと、羊子は練習に集中していた。
先日の【WARS】の一件では、ライブならではの醍醐味は体感できたが、実力不足は明らかだった。

――もっと、鍛えないと。

そんな最中、例の十六夜ロープが目に入ったのである。
それを握り、昇り始めたのは、ある種の運命であったのだろうか?

(おっ……結構いける……!)

以前チャレンジした時はてんでダメだったが、今回はわりと昇れる。
そして、半ばぐらいまで昇った時――
何の前触れもなく。
ブチン、と嫌な音がした。

「――――――――ッッ!!」

一瞬、身体が軽くなった気がした。

その直後襲ってきたのは、息がつまるような、強烈な衝撃。

(……やっちまった)

そのまま、意識は朦朧となっていった……



 ▼ 日本 福岡県某所 某病院

気づいた時は、病院にいた。
幸い、命に別状はなく、肩と足を痛めたのみ。
とはいえ、しばらくは安静にするしかない。

『……張り切り過ぎちゃったわ』

見舞いに来たルーチェには、そんな風に微笑んで見せた。

『…………』
『ルーチェも気をつけて。ケガしちゃ、元も子もないってね』
『……分かった。ゆっくり治して。私、ヨーコの分も頑張るから』

笑ってみせたが、自分でも引きつった笑みなのは自覚できた。



「もう、十分なんじゃないか?」

そんな言い方をしたのは、所属している芸能事務所『Ωプロダクション』のプロデューサーである。

「……プロレスなんて、やめろって言う訳?」
「そうは言わないけど……もっと、違うやり方があるんじゃないかな」
「…………」
「何もこんな本格的な所でなくても、もっとライトなプロレスもあるだろう?」
「……っ、オレは……」

――《永沢 舞》に勝ちたい。

そのためだけに、プロレス入りを目指した。
アイツに勝ったら、即やめてやるつもりだった。
しかし今は……

――やめたくない。

「まだ、オレは……プロレスを、やめたくない」
「……そうか。それなら止めないけど。しばらくはちゃんと休んでくれよ」
「イヤだね。他の奴らは、もうデビュー間近だってのにっ」
「おいおい……現状を考えろよ」
「…………」

確かに、今からリハビリに入って、復帰して。
そこからまた身体を作り直して、プロテストを受けて。
そうしてやっとデビュー……
気が遠くなる。

「……まぁ、もう少し考えてみろよ。時間はたっぷりあるし」
「はっ……そりゃそうだ」

…………

一人になると、流石に気が滅入った。
これまでのことが全て無駄だったような、馬鹿馬鹿しいような……

(……考えてみれば、永沢も、そんなに悪い奴じゃなかった……)

(リングの上で鼻フックかけてやって……フガフガ言いながら「ごめんなひゃい」って謝ってきたら、まあ許してやっても……)

(……やっぱり許せねー……)

「……はぁ……」

そんな風に落ち込んでいる所に、戸惑ったような顔の看護師がやってきた。

「すみません、オースチンさん、ですよね?」
「え? えぇ……」
「あの、病室の外に、これが……」
「…………っ」

鉢植え。
お世辞にもお見舞いには向いていないシロモノである。
そのうえ、見覚えのあるきったない字で、温かいメッセージが残されている……

 『もう戻ってくんな、バーカ』

「…………ッッ!!」

オースチン・羊子は激怒した――



そして彼女が出した結論は、

「……マネージャーに転向?」

キョトンとなるプロデューサー。

「そう。マネージャー」
「いや……だったら、もうプロレスを続ける意味ないんじゃないか?」

プロレスに詳しくないプロデューサーにとっては、なんでマネージャーなど? と疑問しかないのであろう。

「そうじゃなくて――」

一般的なマネージャーと異なり、プロレスにおけるマネージャーとは、リングにおける登場人物の一人である。
レスラーをマネジメントするのが仕事ではなく、試合に帯同して対戦相手や観客を煽ったりするのが役目だ。

「うーん……それならケガが治ってなくても出来るんだ?」
「そう、そういうこと」

半ばは嘘である。
マネージャーとて、乱闘に巻き込まれたりして痛めつけられる可能性は少なくないのだ。
が、さしあたっての方便としては妥当であろう。

「分かった。とりあえず会社にはそれで通してみるけど……危ないことはやめてくれよ?」
「はいはい、こんなケガしちゃったら、もう無茶はできないって」

もちろん嘘である。
足の調子がよくなり、歩けるようになるや、さっそく羊子は『マネージャー活動』を開始した――



 ▼ 日本 福岡県某所 VT‐X道場

VT-X内には、良からぬ空気が漂っていた。
羊子のケガは事故だが、あんな頑丈なロープが途中で切れるなど、ありうることだろうか?

――災厄。

十六夜美響がその身に集めるという、災い。
これは、その影響ではないのか。

――そんなバカな。

と笑い飛ばせる人間はいなかった。
実際、これまで十六夜が所属してきた団体では、しばしばこうした『説明できない』アクシデントが起きてきたのだから。
しかし、VT-Xにおいては、旗揚げ以来、こうした事態は皆無だった。
ゆえに人々は、忘れかけていた。
災厄の噂を。
いや、忘れようとしていただけだったのかも知れない。

当の十六夜は、例の『一兆円トーナメント』(結局はバトルロイヤルに変更されたが)に参戦するため、【JWI】に遠征中。
彼女が不在なのだから、これはあくまでただの事故。
いや、それは関係なく、彼女が属する団体に災厄は舞い降りる……
そんな不穏な話が飛び交ったのは、無理もないことであったろう。

だが、そんな空気も、羊子の『復帰』で多少は変わったようであった。

『調子はどう?』
『ヨーコ! もう出てきて大丈夫なの?』

松葉杖で道場に現れた羊子に、ルーチェは目を丸くした。

『まだ肩がマズいんだけど、歩き回る分には大丈夫だし。じっとしてたら鈍っちゃうしね』
『っ、そうなんだ……』

しばらくはリハビリがてら、マネージャーとしてやっていくことを告げる。

「でも、あんまり無理しないでね~?」
「……まだ、先は、長いから……」

痛々しいが気持ちは萎えていない羊子の姿に、神塩や伊達ら先輩たちの気持ちも上がったことであろう。



 ▼ 日本 福岡県 キャナルシティ博多

キャナルシティ博多で行なわれた、団体をPRするためのイベント。
ここでは留美が好き勝手に吹きまくり、観衆を煽ってみせていた。

「俺はスター候補じゃねぇ、スーパースター候補なんだよ。そんな俺サマがデビューしてやるんだ、ありがたく思え!」

オマケとばかりにノリノリで一曲、大変なブーイング。
無反応よりよっぽどマシではあろうが。

「――相変わらずヒドい歌ね」

控え室に戻った留美に、率直な感想を浴びせてやる。

「っ! てめぇ……何の用だ? 引退したんじゃなかったのかよ。デビュー前に引退たァ斬新だけどな」
「……フン。おあいにく。もうしばらく居残ってやることにしたわ。……マネージャーとしてね」
「ケッ。悪徳マネージャーかよ。せいぜい、もっと重傷負わないように大人しくしてるんだな」
「そうね……そうするわ」
「……っ」
「あぁ……それと」
「あァ?」
「……お見舞い、ありがとう」
「…………」



そして、ルーチェと留美のデビュー戦の時が訪れた。

 ▼ 日本 福岡県 大牟田市文化体育館

まずはルーチェの国内初陣……

◆◆ ルーチェ・リトルバード国内デビュー戦 ◆◆

 〈ルーチェ・リトルバード〉(VT-X)

 VS

 《伊達 遥》(VT-X)

『ルーチェのセコンドにも付いていい?』
『うん、もちろん――』

こうして、ルーチェwith羊子のコンビが、初陣に挑んだ――

もとより、伊達の圧力は尋常ではない。
ルーチェの突進にも動じることなく、打撃をいなしていく。
途中、羊子がリングサイドに上がって挑発するなどしたが、チャンスを作るまでには至らない。
最後は豪快なキャプチュード一閃、3カウントを奪ってみせた。

 ×ルーチェ VS 伊達○
 (9分48秒:キャプチュード→体固め)

『っ、ゴメン、せっかくヨーコが応援してくれたのに……っ』
『ドンマイドンマイ。こんなこともあるって』

――よし、客の呼吸は掴めた。

“肩慣らし”は終わった。
次が、“本番”である。


◆◆ 安宅留美デビュー戦 ◆◆

 〈火宅 留美〉(VT-X)

 VS

 《獅子堂 レナ》(VT-X)


「大変ねェ。セコンド、ついてあげようか?」
「お前だけは絶対いらねー超いらねーー」

当然のように羊子の誘いを断る留美。
もちろんそれは織り込み済みである。

大ブーイングに包まれながら入場する留美。さすがにふてぶてしい。
が、いざ試合となると、さしもの留美も思うように動けず苦戦していた。
しかし、獅子堂の容赦ない打撃を味わい、追い込まれるうちに、次第に落ち着いてきたらしく、パワーと打撃を生かして反撃にかかる――

――が、この時、羊子が動いた。
ひそかにリングサイドに来ていて、レフェリーのスキを狙い、留美にパウダーをぶちまけたのである。

「!? て、てめぇ……ッ!!」

そこを見逃すほど獅子堂甘くはなく、打点の高いドロップキックが顔面にヒット!
大歓声とともに、そのまま3カウント……と思いきや。
羊子はレフェリーにもパウダーを食らわせ、反則裁定が下り留美の勝利となった――

 ○火宅 VS 獅子堂×
 (14分29秒:反則)

『デビュー戦勝利おめでとう! 一生の思い出になったでしょ、ス~~パ~~スタ~~~……候補さんっっ!!』

と羊子がマイクで煽るや、場内どっと沸いた。
もとより留美は怒り心頭、真っ白な顔で羊子を追い回したが、それがまたウケもしたのであった。

かくして、羊子の新たな“闘い”が始まった……

……が、それもあっさり吹き飛ぶかもしれない暗雲が、VT-Xに立ち込めつつあった。







<名古屋レインボープラザ・外観>

NA(ナレーション):
【JWI】の名古屋大会。
十六夜美響は、いわゆる『一兆円バトルロイヤル』に参戦した。

<名古屋レインボープラザ・リング上>

NA:
次々と猛者たちが脱落していくなか、最後に残ったのは2人。
JWIの《南 利美》、そして《十六夜 美響》である。
勝った者が、《ビューティ市ヶ谷》が持つ『JWI認定世界最高王座』への挑戦権と、『副賞』一兆円を手にするのだ。

<試合前インタビュー>

「一兆円を手に入れたら? ……フフッ。どうしようかしらね」
「九州ドームを買い取って常設会場に? それも悪くないかも知れないわ」
「まぁ、貰ってから考えるとしようかしら」

<名古屋レインボープラザ・リング上>

NA:
最後に立っていたのは、十六夜だった。

「挑戦権は有難く頂くわ。でも――」

NA:
一兆円は要らない。
その代わりに、ベルトと共に賭けて貰うものがある。

「私が勝ったら――ビューティ市ヶ谷! 貴方に、うちの団体に移籍して貰うわ。
 その賭け代に、一兆円は安くはないでしょう?」

 <<<――――オーーーッホッホッホッ!!!>>>

高笑いと共に花道に現れるた市ヶ谷は、たちどころに快諾。
それどころか、

 <<<ケチなことは言いませんわ! この団体ごと、持っておゆきなさい――万が一、いいえ600億が一、勝てたならば!!>>>

NA:
十六夜美響。
ビューティ市ヶ谷。
VT-XとJWIの命運は、この2人の危険な闘いに、ゆだねられた――
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