「ほらほら、どうしたの!?逃げてるだけじゃ勝てないわよ!?」
「くっ……!」
執念深い右足狙いに葛城は防戦一方になってしまう。一度暴かれた弱点を見逃すほど南はお人よしではない。だからこそROA史に残る長期政権を築いてきたのだ。
一瞬も気の抜けない緊張感に額から滝のように汗が流れた。
「遅い!!」
お株を奪うタックルで南は葛城の足首を指に引っ掛ける。バランスを崩した葛城はしたたかにマットに体を打ちつけた。
「――ッ!!」
横半身から倒れあばらに鋭い痛みが走る。しかしそれよりも鋭い激痛が右足を駆け抜けていた。
「アグァッ!?」
くるぶしを踏みつけられ、葛城はおとがいをそらして悲鳴をあげる。足蹴にした場所を支点に、南はその足をあらぬほうへと曲げていく。焼け付く鉄棒を足首に押し当てられているような痛みが襲い掛かってくる。
呻きながらも、腹筋を使って上半身を持ち上げると、パンチで南を殴りぬけようとする。しかし無理な姿勢からのこぶしは簡単にかわされ、逆に南にシングルレッグボストンクラブを成功させてしまった。
南は右足首を脇の下に挟み込み、体重をかけ二つ折りにならんばかりに背中を折り曲げていく。足と体幹、戦闘に重要な両部へのダメージを与える効率的な技だ。さらに腰を落とした南は右腕で葛城のヒザを抱え込み、いっそう遠慮なく絞り上げる。
マットに爪を立て、葛城は脂汗を滲ませ這い進む。ようやくボトムロープを掴み、レフェリーの静止を聞いたころには顔面蒼白になっていた。
南はいったん技を解き、離れると見せかけ後ろ足で葛城の足を蹴り飛ばす。さんざん痛めつけられた箇所を攻撃され、挑戦者は苦痛に顔をゆがめた。
ロープを掴みなんとか立ち上がろうとする葛城の足裏を背後から蹴り飛ばして再び寝転がらせる。リング中央まで引きずり足四の字を仕掛けようとするも、コーナーに目をやるとにやりと笑む。
「そうだ…」
チームを組んでいたこともある葛城には彼女のその笑いが決して好ましくないものであることを悟る。意図がつかめないまま、とにかく阻止しようとするも反撃は弱々しい。南は笑みを浮かべたまま、葛城の足を引っ張りコーナーまで連れて行くと自らは場外に下った。
「なにを……ぐあアァッ!?」
南は葛城の足を振り上げ、振り子のように反動をつけてコーナーポストに叩きつける。鈍い音が会場に響き渡り、観客の身をすくませる。今までにない衝撃に大きな悲鳴をあげる挑戦者に南の笑みがますます深くなった。
休む暇を与えずもう一度。先ほどを超える鈍痛に葛城は声も無く悲鳴をあげる。南が身を離す気配を感じ、ようやく拷問が終わったかと安心しかけるが、コーナーポストを愛おしそうにさする王者の姿にサァッと血の気が引いていく。
「や……やめろ………止めてくれ!!」
南は葛城に目を向けるとにっと微笑む。今までの加虐心に満ちた行動からは想像できないほどの無邪気な笑いが逆に底知れぬ不気味さを放つ。何も言わず、微笑をたたえたまま、葛城の足をポストに巻きつけていく。形は足四の字、普段は自分の足を入れる部分をポストに代え、擬似的にこの古典技を再現する。
「やめ……アアァアァァッ!!?」
葛城の懇願を遮り、南はジャンプして、全体重を挑戦者の足にのしかける。硬いポストが脂肪のないしなやかな足に噛み付き、生身の人間では決して与えることのできない刺激を葛城の痛覚へ送り込む。
葛城は目を見開き、口の端からつばを飛ばしながら悲鳴をあげ続ける。正視に耐えない残酷な光景に、家族連れの多くは幼い子供の目を覆った。
息が続くまま、葛城は絶叫をほとばしらす。無意識のうちにカギ爪のように折りたたんでいた指で頭をかきむしると、思わず引き抜いてしまった髪の毛が指にまとわりついた。
「ウフフ……フフ」
肉が痛み、骨がきしむ感触に南は冷え冷えする妖艶な笑みを浮かべる。彼女が体現しているのは真に純粋な暴力。レフェリーが止めに入るまでのたっぷり5秒間――与えられた猶予を心から満喫した。
「アハハハ……ハ――ハッハッハ!!」
場外フロアに着地した南は天を仰いで爆笑する。その背後、リングに横たわる葛城は、胎児のように体を丸め、嗚咽を漏らしながら右足を抱きかかえた。
「くっ……!」
執念深い右足狙いに葛城は防戦一方になってしまう。一度暴かれた弱点を見逃すほど南はお人よしではない。だからこそROA史に残る長期政権を築いてきたのだ。
一瞬も気の抜けない緊張感に額から滝のように汗が流れた。
「遅い!!」
お株を奪うタックルで南は葛城の足首を指に引っ掛ける。バランスを崩した葛城はしたたかにマットに体を打ちつけた。
「――ッ!!」
横半身から倒れあばらに鋭い痛みが走る。しかしそれよりも鋭い激痛が右足を駆け抜けていた。
「アグァッ!?」
くるぶしを踏みつけられ、葛城はおとがいをそらして悲鳴をあげる。足蹴にした場所を支点に、南はその足をあらぬほうへと曲げていく。焼け付く鉄棒を足首に押し当てられているような痛みが襲い掛かってくる。
呻きながらも、腹筋を使って上半身を持ち上げると、パンチで南を殴りぬけようとする。しかし無理な姿勢からのこぶしは簡単にかわされ、逆に南にシングルレッグボストンクラブを成功させてしまった。
南は右足首を脇の下に挟み込み、体重をかけ二つ折りにならんばかりに背中を折り曲げていく。足と体幹、戦闘に重要な両部へのダメージを与える効率的な技だ。さらに腰を落とした南は右腕で葛城のヒザを抱え込み、いっそう遠慮なく絞り上げる。
マットに爪を立て、葛城は脂汗を滲ませ這い進む。ようやくボトムロープを掴み、レフェリーの静止を聞いたころには顔面蒼白になっていた。
南はいったん技を解き、離れると見せかけ後ろ足で葛城の足を蹴り飛ばす。さんざん痛めつけられた箇所を攻撃され、挑戦者は苦痛に顔をゆがめた。
ロープを掴みなんとか立ち上がろうとする葛城の足裏を背後から蹴り飛ばして再び寝転がらせる。リング中央まで引きずり足四の字を仕掛けようとするも、コーナーに目をやるとにやりと笑む。
「そうだ…」
チームを組んでいたこともある葛城には彼女のその笑いが決して好ましくないものであることを悟る。意図がつかめないまま、とにかく阻止しようとするも反撃は弱々しい。南は笑みを浮かべたまま、葛城の足を引っ張りコーナーまで連れて行くと自らは場外に下った。
「なにを……ぐあアァッ!?」
南は葛城の足を振り上げ、振り子のように反動をつけてコーナーポストに叩きつける。鈍い音が会場に響き渡り、観客の身をすくませる。今までにない衝撃に大きな悲鳴をあげる挑戦者に南の笑みがますます深くなった。
休む暇を与えずもう一度。先ほどを超える鈍痛に葛城は声も無く悲鳴をあげる。南が身を離す気配を感じ、ようやく拷問が終わったかと安心しかけるが、コーナーポストを愛おしそうにさする王者の姿にサァッと血の気が引いていく。
「や……やめろ………止めてくれ!!」
南は葛城に目を向けるとにっと微笑む。今までの加虐心に満ちた行動からは想像できないほどの無邪気な笑いが逆に底知れぬ不気味さを放つ。何も言わず、微笑をたたえたまま、葛城の足をポストに巻きつけていく。形は足四の字、普段は自分の足を入れる部分をポストに代え、擬似的にこの古典技を再現する。
「やめ……アアァアァァッ!!?」
葛城の懇願を遮り、南はジャンプして、全体重を挑戦者の足にのしかける。硬いポストが脂肪のないしなやかな足に噛み付き、生身の人間では決して与えることのできない刺激を葛城の痛覚へ送り込む。
葛城は目を見開き、口の端からつばを飛ばしながら悲鳴をあげ続ける。正視に耐えない残酷な光景に、家族連れの多くは幼い子供の目を覆った。
息が続くまま、葛城は絶叫をほとばしらす。無意識のうちにカギ爪のように折りたたんでいた指で頭をかきむしると、思わず引き抜いてしまった髪の毛が指にまとわりついた。
「ウフフ……フフ」
肉が痛み、骨がきしむ感触に南は冷え冷えする妖艶な笑みを浮かべる。彼女が体現しているのは真に純粋な暴力。レフェリーが止めに入るまでのたっぷり5秒間――与えられた猶予を心から満喫した。
「アハハハ……ハ――ハッハッハ!!」
場外フロアに着地した南は天を仰いで爆笑する。その背後、リングに横たわる葛城は、胎児のように体を丸め、嗚咽を漏らしながら右足を抱きかかえた。
憎しみ合いは悲しみの連鎖を生むだけなのです。
偉い人は言いました「右の頬を打たれたらニヤニヤして『気持ちいいな〜』と言いなさい」と。
まあYAMATOムーブは置いとくとして、もうね、ちょっかい出されたからといってリンク外せ的なあれやこれやに付き合う気はないのですよ。
広大な海に小さな石を投げたところで海は異物をも優しく包み込むだけなのです。
僕の心は海よりも広大なので、笑って許してあげようと思います。
ROAはPONさんを応援しております
拍手レスです
>STRさん
>南さん極勝ですねわかります
ありがとうございますありがとうございます。(舌打ちしながら)
しかしどうして南さん勝利だと思うのかさっぱりわかりませんわ。
ここは奇跡の大勝利!ヤッターカッコイイで葛城さん主役の面目躍如しか考え付きませんでしたわ。(俯きながら)
>シンさん
>最近溜めてたけど、やっと「足掻け…!」まで読み終わったぜ。俺は葛城さんの勝利を信じるぜ! 2発目の左ハイで右足壊して、長期欠場してる間に氷室が暗黒面に堕ちると予想するぜ。
>そしていつの間にか拍手内が優香の話になっていたぜ。プロレス雑誌の並びが読み仮名順だったらROAには入団してなかったのね。WARSにいたかもしんないなw
ありがとうございますありがとうございます(舌打ちしながら)
葛城さんが勝つとか…(笑)しかしダークサイド堕ちはいいところ!
この世界にはJWIがないためROAが一番上に来たらしいですよ。WARSの優香も見てみたかったですが…
偉い人は言いました「右の頬を打たれたらニヤニヤして『気持ちいいな〜』と言いなさい」と。
まあYAMATOムーブは置いとくとして、もうね、ちょっかい出されたからといってリンク外せ的なあれやこれやに付き合う気はないのですよ。
広大な海に小さな石を投げたところで海は異物をも優しく包み込むだけなのです。
僕の心は海よりも広大なので、笑って許してあげようと思います。
ROAはPONさんを応援しております
拍手レスです
>STRさん
>南さん極勝ですねわかります
ありがとうございますありがとうございます。(舌打ちしながら)
しかしどうして南さん勝利だと思うのかさっぱりわかりませんわ。
ここは奇跡の大勝利!ヤッターカッコイイで葛城さん主役の面目躍如しか考え付きませんでしたわ。(俯きながら)
>シンさん
>最近溜めてたけど、やっと「足掻け…!」まで読み終わったぜ。俺は葛城さんの勝利を信じるぜ! 2発目の左ハイで右足壊して、長期欠場してる間に氷室が暗黒面に堕ちると予想するぜ。
>そしていつの間にか拍手内が優香の話になっていたぜ。プロレス雑誌の並びが読み仮名順だったらROAには入団してなかったのね。WARSにいたかもしんないなw
ありがとうございますありがとうございます(舌打ちしながら)
葛城さんが勝つとか…(笑)しかしダークサイド堕ちはいいところ!
この世界にはJWIがないためROAが一番上に来たらしいですよ。WARSの優香も見てみたかったですが…
再び睨み合う両者。今度はタックルにはいかず、葛城はそろそろと腕を伸ばす。南もそれに応じ手四つに組み合った。単純な筋力では南が勝る。見る見るうちに挑戦者が押し込まれていく――が。
「フッ…」
王者の重心が必要以上にかけられたのを察知し、すぐさまいなすように身をかわす。南のバランスを崩し、スムーズな動作でアームドラッグを決めた。
「っと…?」
らしくない技に南がかすかに驚きの様子を見せる。続けて、葛城はフライングメイヤーで王者を長座座りにマットへ投げ出す。間髪いれず正面に回る動作に、南は全身が総毛立つのを感じた。
「ハッ!」
気合一閃。鞭のようにしなる葛城の右足が眼前に迫る。全く容赦のない蹴りに、南は面食らいながらも間一髪身をかわす。凄まじい空圧が顔を叩き、切り取られた髪が何本か宙を舞った。
「あぶなっ……!」
直撃していれば顔面がぐしゃぐしゃになっていただろう。その威力もそうだが、一瞬たりとも躊躇わなかった精神にも薄ら寒い思いがする。それ以上追撃される前に身を転がして人間兵器から離れた。
「ちょっと、マジでシャレになってないわよ。ルーキーじゃないんだからちゃんと技の加減くらい覚えなさいよ」
「悪い」葛城は淡々と応える。「力を抜きすぎたようだ。本当は、お前の首を吹き飛ばしているはずだった」
「………可愛くないやつ」
悪びれずに嘯く葛城に眉をしかめる。それでも余裕の笑みをたたえたまま、王者は舌なめずりする。
「あんたがそう来るなら、私にも考えがあるわよ…」
先ほどと同じようにロックアップ。やはり、葛城はぎこちないながらもアームホイップを繰り出す。誰に鍛えられたかは知らないが、少しはプロレス技を覚えてきたようだ。南を起き上がらせるとロープへ振り、ショルダースルーを仕掛けようと頭を下げる。実に基本に忠実な、あまりに素直すぎるコンビネーションは王者にとって格好の的に他ならなかった。
「甘いわよッ!!」
南は叫ぶと右腕を葛城ののど元にねじこみ強引に引き倒す。のど仏を握りつぶすように押さえ込み、脳へと続く血流をせき止める。仰向けに倒れた上に馬乗りになると、さらに体重をかけて締め上げていく。
おおっぴらな反則に葛城は目を白黒させ、必死に引き剥がそうともがく。
「カ……ハ…」
かすれた吐息が漏れる。見る見るうちに顔色が赤く、そして青く変色していく。
「チョークだ!1、2、3、4…」
反則負けぎりぎりの5カウントで南は腕を放す。圧迫されたのどを押さえ身悶える葛城は、久しぶりに許された呼吸にぜえぜえとあえいで酸素をかき集める。
「ガハッ……く…そ…、ふざけやが……ガァッ!?」
毒づきかけたところでまたも気道をふさがれる。今度は先ほどよりもさらに容赦なく、死の危険を感じるほどの力で呼吸を止められる。酸素の供給を断たれた脳は機能を低下させ、ぼろぼろと意識が霧散し始めた。
「ァ……ァ…」
ほとんど白目をむきかけたとき、ようやくレフェリーが強引に南を引き剥がす。警告を受け、「まだ5じゃないでしょ?」と皮肉げに返す王者が視界の端に見えた。
ひゅーひゅーと不気味な呼吸音を引きずって葛城は距離を置こうと力なく這い進む。その後退は休息をとるための戦略的な一面もあったが、それよりも南という巨敵への恐れからくる衝動的なものの比重が大きかった。執拗なチョーク攻撃には闘志を上回る明確な殺意の色が垣間見えた。試合ではなく決闘だったらあのまま敗北していたかもしれない。
改めて王者の冷酷さと力を見せ付けられ、恐怖心がむくむくと蘇る。初対面のときに植えつけられた傷口が再び開き始めていた。
「どこ行くの?」
囁くような小さい声にも葛城はびくりと反応してしまう。見上げると、抜け目ない毒蛇が冷たく輝く瞳でこちらを見下ろしていた。
「くっ……!」
苦し紛れに、葛城は仰向けの体勢から、半身ひねって右足での蹴りを繰り出す。しかし、中途半端な攻撃は簡単に受け止められてしまった。
「甘い甘い……って、あれ?」
右足を受け止めた南が怪訝そうに眉をしかめる。ソックスに包まれた足をしげしげと見やり、ふと首を傾げた。
「何か変ね。感触が…おかしいわ」
――まずい――
葛城は腕立て伏せの要領でプッシュアップしつつ、余った左足で南をけり払い、前転して立ち上がる。怪我を悟らせないためのとっさの行動だったが、あまり見せないあわてた様子はいっそう南の興味を惹きつけてしまったようだ。
後期の視線に葛城は分厚いテーピングが巻かれた右足を後ろに下げる。
「やけに自信満々だと思ったら、何かあるのね――その右足に」
新たに身に着けた超高速の左ハイキック――持ちうる最強にして最速の一撃だったが、軸足の右足が無ければその威力は半減してしまう。いつか負傷を気付かれるにしろ、できるだけ後伸ばししておきたかったが…。
(早すぎる…!)
まだ試合は始まったばかり。南は少しもダメージがないというのに。
葛城はぎりりと奥歯を噛み締める。描いていた青写真は早くも黒く塗りつぶされてしまった。
「フッ…」
王者の重心が必要以上にかけられたのを察知し、すぐさまいなすように身をかわす。南のバランスを崩し、スムーズな動作でアームドラッグを決めた。
「っと…?」
らしくない技に南がかすかに驚きの様子を見せる。続けて、葛城はフライングメイヤーで王者を長座座りにマットへ投げ出す。間髪いれず正面に回る動作に、南は全身が総毛立つのを感じた。
「ハッ!」
気合一閃。鞭のようにしなる葛城の右足が眼前に迫る。全く容赦のない蹴りに、南は面食らいながらも間一髪身をかわす。凄まじい空圧が顔を叩き、切り取られた髪が何本か宙を舞った。
「あぶなっ……!」
直撃していれば顔面がぐしゃぐしゃになっていただろう。その威力もそうだが、一瞬たりとも躊躇わなかった精神にも薄ら寒い思いがする。それ以上追撃される前に身を転がして人間兵器から離れた。
「ちょっと、マジでシャレになってないわよ。ルーキーじゃないんだからちゃんと技の加減くらい覚えなさいよ」
「悪い」葛城は淡々と応える。「力を抜きすぎたようだ。本当は、お前の首を吹き飛ばしているはずだった」
「………可愛くないやつ」
悪びれずに嘯く葛城に眉をしかめる。それでも余裕の笑みをたたえたまま、王者は舌なめずりする。
「あんたがそう来るなら、私にも考えがあるわよ…」
先ほどと同じようにロックアップ。やはり、葛城はぎこちないながらもアームホイップを繰り出す。誰に鍛えられたかは知らないが、少しはプロレス技を覚えてきたようだ。南を起き上がらせるとロープへ振り、ショルダースルーを仕掛けようと頭を下げる。実に基本に忠実な、あまりに素直すぎるコンビネーションは王者にとって格好の的に他ならなかった。
「甘いわよッ!!」
南は叫ぶと右腕を葛城ののど元にねじこみ強引に引き倒す。のど仏を握りつぶすように押さえ込み、脳へと続く血流をせき止める。仰向けに倒れた上に馬乗りになると、さらに体重をかけて締め上げていく。
おおっぴらな反則に葛城は目を白黒させ、必死に引き剥がそうともがく。
「カ……ハ…」
かすれた吐息が漏れる。見る見るうちに顔色が赤く、そして青く変色していく。
「チョークだ!1、2、3、4…」
反則負けぎりぎりの5カウントで南は腕を放す。圧迫されたのどを押さえ身悶える葛城は、久しぶりに許された呼吸にぜえぜえとあえいで酸素をかき集める。
「ガハッ……く…そ…、ふざけやが……ガァッ!?」
毒づきかけたところでまたも気道をふさがれる。今度は先ほどよりもさらに容赦なく、死の危険を感じるほどの力で呼吸を止められる。酸素の供給を断たれた脳は機能を低下させ、ぼろぼろと意識が霧散し始めた。
「ァ……ァ…」
ほとんど白目をむきかけたとき、ようやくレフェリーが強引に南を引き剥がす。警告を受け、「まだ5じゃないでしょ?」と皮肉げに返す王者が視界の端に見えた。
ひゅーひゅーと不気味な呼吸音を引きずって葛城は距離を置こうと力なく這い進む。その後退は休息をとるための戦略的な一面もあったが、それよりも南という巨敵への恐れからくる衝動的なものの比重が大きかった。執拗なチョーク攻撃には闘志を上回る明確な殺意の色が垣間見えた。試合ではなく決闘だったらあのまま敗北していたかもしれない。
改めて王者の冷酷さと力を見せ付けられ、恐怖心がむくむくと蘇る。初対面のときに植えつけられた傷口が再び開き始めていた。
「どこ行くの?」
囁くような小さい声にも葛城はびくりと反応してしまう。見上げると、抜け目ない毒蛇が冷たく輝く瞳でこちらを見下ろしていた。
「くっ……!」
苦し紛れに、葛城は仰向けの体勢から、半身ひねって右足での蹴りを繰り出す。しかし、中途半端な攻撃は簡単に受け止められてしまった。
「甘い甘い……って、あれ?」
右足を受け止めた南が怪訝そうに眉をしかめる。ソックスに包まれた足をしげしげと見やり、ふと首を傾げた。
「何か変ね。感触が…おかしいわ」
――まずい――
葛城は腕立て伏せの要領でプッシュアップしつつ、余った左足で南をけり払い、前転して立ち上がる。怪我を悟らせないためのとっさの行動だったが、あまり見せないあわてた様子はいっそう南の興味を惹きつけてしまったようだ。
後期の視線に葛城は分厚いテーピングが巻かれた右足を後ろに下げる。
「やけに自信満々だと思ったら、何かあるのね――その右足に」
新たに身に着けた超高速の左ハイキック――持ちうる最強にして最速の一撃だったが、軸足の右足が無ければその威力は半減してしまう。いつか負傷を気付かれるにしろ、できるだけ後伸ばししておきたかったが…。
(早すぎる…!)
まだ試合は始まったばかり。南は少しもダメージがないというのに。
葛城はぎりりと奥歯を噛み締める。描いていた青写真は早くも黒く塗りつぶされてしまった。
場内に一歩足を踏み入れた途端、爆発のような声援が巻き起こる。今までにない大歓声に思わず面食らいながらも、葛城は厳しい相好を崩さず入場する。
「初めに入場しますは――ROA王座への第一挑戦者――」
あまりの歓声の大きさに一度アナウンスの中段を余儀なくされる。声援の間をぬうように挑戦者の名前がコールされた。
「葛城早苗!!」
トップロープに片足を乗せて筋を伸ばす。贅肉もかけらも無い均整のとれた長い足は美しいがその実、とてつもない凶器でもある。研ぎ澄まされた日本刀にも似たそれが彼女の命運を握っていた。
新たな入場曲に観客はいっせいに拍手からブーイングへと様変わりする。
磨きこまれたベルトを高々と掲げ、絶対王者が堂々とした足取りで花道を進んできた。
「続きまして、ROA王者――『ザ・リッパー』南利美!!」
すっかりおなじみとなったコールを受け、南は満足気に目を細める。緊張の無いいつもどおりの振る舞いで決戦の場に足を踏み入れた。
こちらを無視し柔軟を続けている葛城に一瞥をくれるとコーナーに上がり再びベルトを持ち上げる。好き嫌いにかかわらず、彼女の実力を疑うものはいない。文句のつけようのない堂々としたたたずまいにこのときばかりはブーイングも小さくなった。
コーナーを降り、あらためて対戦相手と睨み合う。敵の眼前にベルトを付きつけネームプレートに刻まれた「南利美」の名を見せ付けると、葛城は煩わしそうにそれを跳ね除けた。
早くもヒートアップする両者の間にレフェリーが慌てて割り込む。悪意の滲む笑みを投げかけ南はコーナーへ下がる。葛城はしばらくの間彼女の背をにらみつけていたが、促され仕方なく後ろに下がる。
「60分一本勝負――反則は犯さず、正々堂々勝負するように」
初めから従うはずはないと分かりきっているため握手は省く。タイムキーパーに合図を送り、ゴングを鳴らすように命じた。
「試合開始!!」
死闘は、葛城のタックルで幕を開けた。
レフェリーの掛け声を遮るように飛び出し、地面をなめるように低く、低く走る。捉えたかに見えた刹那、すんでのところで南は後ろに飛びずさり、挑戦者の牙は空を切った。
「………」
捕まえたかと思ったがやはりそこまで甘くは無いようだ。にやりと笑う南を睨み、再び向かい合う。今度は四つ組みにいくと見せかけもう一度トライ。しかし再びかわされ、間髪いれずに腕を伸ばすもこちらもあと一歩のところで回避された。
一度ごとに観客からため息と、励ましの歓声が届く。――頑張れ、もう少しで届くぞ。しかし、葛城の表情は徐々に強張っていく。
外から見れば紙一重の差かもしれなかったが、葛城の目に映る紙はあまりにも分厚かった。いくらタックルを打ってみても組み付いている姿がイメージできない。それどころか次第に体勢を整えていく南にカウンターの恐怖さえちらついていた。
そんなはずは無いと自分に言い聞かせる。グラウンドならともかく、得意分野で負けてたまるか。半ば意地に突き動かされるまま、葛城は反射的に四度踏み出す。
今度は確かに南の身体を捕らえる。だが、南のわきの下に頭を差し入れた途端、頭に激痛が走った。
「ぐがッ……!?」
「なにそれ?ふざけてるの?」
南が涼しい顔で挑戦者をサイドヘッドロックで締め上げる。激痛に耐え切れず、葛城は思わず片ヒザをついてしまう。こめかみに杭をねじ込まれているようで、苦悶の声を抑えきれない。
状況を打破しようと、南のわき腹にヒジをいれなんとか立ち上がる。背中に手をあて、ロープに振ろうとするも南はそれを許さず、いっそう絞め上げを強くすると強引に葛城をマットにねじ伏せた。
「あぐっ…!」
うつぶせになる背に体重をかけ、執拗にヘッドロックをかけ続ける。南のペースを嫌い、強引に葛城が抜け出そうとしたところで素早く足を絡めとりヘッドロックからフェイスロックへ移行する。開幕早々のSTF狙いに驚いた葛城は必死の形相でロープに逃れた。
「ブレイク!」
レフェリーの忠告に王者は素直に従う。普段ならカウント4まで粘ることもしょっちゅうだったが、その必要はないとタカをくくっているのか。睨む葛城からクリーンに身を離した。
「………」
軽く舌打ちしつつ立ち上がる葛城に南はもうちょっとだったと身振りでアピールする。笑みすら浮かべている王者に比べ、挑戦者は緊張が抜けきっていない様子だった。
「初めに入場しますは――ROA王座への第一挑戦者――」
あまりの歓声の大きさに一度アナウンスの中段を余儀なくされる。声援の間をぬうように挑戦者の名前がコールされた。
「葛城早苗!!」
トップロープに片足を乗せて筋を伸ばす。贅肉もかけらも無い均整のとれた長い足は美しいがその実、とてつもない凶器でもある。研ぎ澄まされた日本刀にも似たそれが彼女の命運を握っていた。
新たな入場曲に観客はいっせいに拍手からブーイングへと様変わりする。
磨きこまれたベルトを高々と掲げ、絶対王者が堂々とした足取りで花道を進んできた。
「続きまして、ROA王者――『ザ・リッパー』南利美!!」
すっかりおなじみとなったコールを受け、南は満足気に目を細める。緊張の無いいつもどおりの振る舞いで決戦の場に足を踏み入れた。
こちらを無視し柔軟を続けている葛城に一瞥をくれるとコーナーに上がり再びベルトを持ち上げる。好き嫌いにかかわらず、彼女の実力を疑うものはいない。文句のつけようのない堂々としたたたずまいにこのときばかりはブーイングも小さくなった。
コーナーを降り、あらためて対戦相手と睨み合う。敵の眼前にベルトを付きつけネームプレートに刻まれた「南利美」の名を見せ付けると、葛城は煩わしそうにそれを跳ね除けた。
早くもヒートアップする両者の間にレフェリーが慌てて割り込む。悪意の滲む笑みを投げかけ南はコーナーへ下がる。葛城はしばらくの間彼女の背をにらみつけていたが、促され仕方なく後ろに下がる。
「60分一本勝負――反則は犯さず、正々堂々勝負するように」
初めから従うはずはないと分かりきっているため握手は省く。タイムキーパーに合図を送り、ゴングを鳴らすように命じた。
「試合開始!!」
死闘は、葛城のタックルで幕を開けた。
レフェリーの掛け声を遮るように飛び出し、地面をなめるように低く、低く走る。捉えたかに見えた刹那、すんでのところで南は後ろに飛びずさり、挑戦者の牙は空を切った。
「………」
捕まえたかと思ったがやはりそこまで甘くは無いようだ。にやりと笑う南を睨み、再び向かい合う。今度は四つ組みにいくと見せかけもう一度トライ。しかし再びかわされ、間髪いれずに腕を伸ばすもこちらもあと一歩のところで回避された。
一度ごとに観客からため息と、励ましの歓声が届く。――頑張れ、もう少しで届くぞ。しかし、葛城の表情は徐々に強張っていく。
外から見れば紙一重の差かもしれなかったが、葛城の目に映る紙はあまりにも分厚かった。いくらタックルを打ってみても組み付いている姿がイメージできない。それどころか次第に体勢を整えていく南にカウンターの恐怖さえちらついていた。
そんなはずは無いと自分に言い聞かせる。グラウンドならともかく、得意分野で負けてたまるか。半ば意地に突き動かされるまま、葛城は反射的に四度踏み出す。
今度は確かに南の身体を捕らえる。だが、南のわきの下に頭を差し入れた途端、頭に激痛が走った。
「ぐがッ……!?」
「なにそれ?ふざけてるの?」
南が涼しい顔で挑戦者をサイドヘッドロックで締め上げる。激痛に耐え切れず、葛城は思わず片ヒザをついてしまう。こめかみに杭をねじ込まれているようで、苦悶の声を抑えきれない。
状況を打破しようと、南のわき腹にヒジをいれなんとか立ち上がる。背中に手をあて、ロープに振ろうとするも南はそれを許さず、いっそう絞め上げを強くすると強引に葛城をマットにねじ伏せた。
「あぐっ…!」
うつぶせになる背に体重をかけ、執拗にヘッドロックをかけ続ける。南のペースを嫌い、強引に葛城が抜け出そうとしたところで素早く足を絡めとりヘッドロックからフェイスロックへ移行する。開幕早々のSTF狙いに驚いた葛城は必死の形相でロープに逃れた。
「ブレイク!」
レフェリーの忠告に王者は素直に従う。普段ならカウント4まで粘ることもしょっちゅうだったが、その必要はないとタカをくくっているのか。睨む葛城からクリーンに身を離した。
「………」
軽く舌打ちしつつ立ち上がる葛城に南はもうちょっとだったと身振りでアピールする。笑みすら浮かべている王者に比べ、挑戦者は緊張が抜けきっていない様子だった。
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