ロストロポーヴィチ
ゴリデンヴェイゼル(Гольденвейзер, 1875-1961)の名は、ロシア出身のピアニストの略歴を見ていると必ずと言っていいほど名教師として登場する。


教師は現代から見た結果であり、次にロシアの作曲家たちの伝記を読むと、今度は同時代人としての彼のピアニスト、作曲家としての姿が見えてくる。


また、文豪レフ・トルストイ(Лев Толстой, 1828-1910)と親しく、彼が家を出るとそれに従い、最期を看取った。

トルストイはこのペンで、生涯で最後の言葉を、一九一〇年にアスタポヴォの小さな鉄道駅で横たわりながら、死を目前に書いた。この日、十一月六日の寒い朝に、その場所で窓を開けて、戸外に静かに集まっていた人々に、「レフ・ニコラエヴィッチ・トルストイが、たった今、亡くなりました」と告げたのがゴリデンヴェイゼルだった。

ドミトリ・パパーノ「回想・モスクワの音楽家たち」音楽之友社、2003年、156頁

4276217911回想・モスクワの音楽家たち
高久 暁; 原 明美
音楽之友社 2003-10-01

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後に、「トルストイの傍らで(Вблизи Толстого)」という回想録も残している。



19世紀末、ロシア銀の時代の作曲家の多くがそうであるように、ピアノ曲を多く残している彼であるが、今回は、ピアノ三重奏曲 ホ短調 Op.31 を採り上げることにしたい。

"一楽章形式の主題と変奏"と説明が加えられたこの大作は、チャイコフスキー(Tchaikovsky, 1840-1893)の同じ編成の名作、とりわけ同じように長大である第二楽章をイメージさせるものになっている。

まず、ピアノの独白があり、ヴァイオリンがそれに続き、チェロが応答するこの作品は、チャイコフスキーと同様に、亡き人を偲ぶために作られたものであるがゆえに、叙情と回想に彩られた変奏が続く。故人との間の様々な想い出とエピソードが散りばめられた変奏は、聴いていて全く冗長さを感じさせない。


B000006BB8Goldenweiser: Piano Trio in Em Op31; Catoire: Piano Trio in Fm Op14
Mstislav Rostropovich
Russian Revelation 1998-04-21

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当ブログがいつもお世話になっている高橋健一郎札幌大学准教授も指摘するように、ロシアには、親しい人を偲ぶための作品としてピアノ三重奏曲を書くという伝統が確立している。

ニコライ・ルビンシテインのためにチャイコフスキーが書き、
ダヴィドフのためにアレンスキーが、
チャイコフスキーのためにラフマニノフが書き残した。



この曲は、ラフマニノフの想い出に捧げられている。







以前から採り上げたかったのだが、なかなか時間が取れず、書けなかった。ちなみに、紹介したCDのカップリングは、カトワールの同編成の作品(Op.14)でこれまた大変美しい作品である。

追記(8月3日):すっかり興奮してしまい、演奏家を書くのを忘れてしまった。
ヴァイオリン:レオニード・コーガン(Kogan, 1924-1982)
チェロ:ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Rostropovich, 1927-2007)
そして、ピアノは作曲家自身である。

なんと贅沢な組み合わせだろう。


Goldenweiser
Tolstoy