

先日,都庁内の会議室において,都庁の建築系職員向け(都庁全体で700名ほど在籍)の製図試験対策講習会が開催され,その講師を依頼されました.製図試験対策の話はもちろん,実例を通じた建築計画の考え方,一級建築士を目指すことの意義やこの国の建築士資格制度,また,10年先を見据えた建築士の在り方についてご説明させて頂きました.これまでの一級建築士試験は,極端ないい方をすれば,合格さえしてしまえば後はどうなってもいいと考えられていた.受験指導する側もとりあえずは合格してしまって,その後のことは後で考えればよいと指導してきたのも事実です.その結果,この国の建築士資格制度はメチャクチャになものになってしまいました.そして,耐震偽装事件に端を発し,現在,すさまじいピッチで建築士資格制度改革が進んでいる.その内容も,国が決めたルールを前線にいる一級建築士が無条件に従うといった形で動いている.実際,これまでもこの国の建築業界はそういう形で歩んできた.国だって業界の最前線に立つ建築士からの意見を求めようと懸命にパブリックコメントを募集している.しかしながら,建築士達のナマの声は一向に集まらない.ぶっちゃけ,ほとんどの建築士が自分達の資格制度や,建築業界のあり方について無関心のままでいる.僕自身だって,ウラ指導という活動をしていなかったら,無関心な建築士の1人だったことでしょう.建築士試験に合格させることは,もちろん大切なことだけど,もう一歩踏ん張って,10年先の建築業界のあり方を考えているような建築士を育んでいけたらいいなって思っています.
本当にこのまま建築士資格制度が進んでいったら,この国の建築士は食べていけなくなってしまう.僕達が大学を卒業した頃は,無給でもいいから建築を学びたいという意識をもっていた.建築のスキルさえ身につけることができれば,後は,自然と道が開かれるものと信じていたからだ.ただ,ぶっちゃけ現実は違った.そういった現状を見たり,聞いたりしている今の建築学科の学生達の考え方は僕達のときとは違う.就職の一番人気は,大手ゼネコンの時代からディベロッパーの時代へと変わりつつある.まあ,それもそうだよなあって思う.実際,ディベロッパーと仕事をしていた時は,羨ましく思っていた時期もあった.設計事務所の倍以上の収入をもらいながら,アゴで設計事務所をこきつかえるんだから...
おそらく,10年後,この国の設計事務所は深刻な労働力不足に直面することになるであろう.また,資力や営業力がなければ,設計事務所を経営していくことが困難な時代となっていくであろう.現在,この国の設計事務所全体の95パーセントが,従業員数3名以下の事務所だ.だからこそ,今,建築士に求められているものは,「自分がよくなれば,まわりをよくできる.」という発想ではなく,「まわりをよくしていけば,自分もよくなれる.」という発想なんだ.
僕は教育的ウラ指導という活動を通じて,日本全国に建築士の知り合いができた.みんな,いろんな立場で建築業界に携わっている.行政に携わっている建築士,大手ゼネコン,組織事務所,ハウスメーカーに勤務している建築士,自ら設計事務所なり,構造事務所や,工務店を経営している建築士,一級建築士の資格をとった職人さん達もいる.彼らが一級建築士試験に合格した後も情報交換したり,時には,直接会って食事したり,お酒を酌み交わしたり.そういった方達と1日でも早く,10年先の建築業界のあり方を提言していける体制を築き上げたいと考えています.