舞監@日誌 since 2005

大阪在住、舞台監督・CQ塚本修(ツカモトオサム)の日記です。 観劇の感想や舞台用語の解説、たまに日々の出来事や劇団ガンダム情報も書いてます。 コメント・トラックバックは承認制ですので、すぐには反映されません。非公開希望の方はその旨お書き添え下さい。返信用アドレスも基本的には非公開にいたします。

2014年07月

【舞】くじら企画『夜、ナク、鳥』+大竹野正典映像資料鑑賞会「夜会」

ac3972ff.jpgくじら企画の最終公演『夜、ナク、鳥』が終わりました。
450名もの方々にご覧頂き幸いでした。
もちろん初演時の倍近い動員数です。
命尽きても大竹野が施した演出を丁寧に踏襲しながら、5年間で7作品を再演いたしました。
『夜、ナク、鳥』は2002年に福岡で発覚した、女性看護師4人による連続保険金殺人事件を題材に、大竹野が終生こだわり続けた家庭或いは家族喪失者が持つ心の闇を色濃く打ち出した作品で、初演は2003年4月、9劇団が集い催された「ラフレシア円形劇場祭」で、会場は南港に建てられた直径15mほどの円形野外劇場であった。
劇場と言っても、中央に位置する直径9mの舞台に屋根は無く、舞台の周囲に3段で設えた円形の客席の頭上のみビニール屋根を施した造りで、降雨時に出演者は全身に雨を被り、土砂降りになると科白の声が聞き取れないほどになる。
初演の上演は劣悪の環境の中で決行された。
しかし、この作品が世に認められ、岸田戯曲賞の最終選考に残り、同年のOMS戯曲賞の佳作受賞に導いた。
もちろん、これまでの追悼公演と劇集成の出版記念公演でも、再演の声が挙がった作品で、野外公演の可能性も検討された。
しかし野外公演の特性上、照明の効かない日中の公演が不可能な上、悪天候では上演中止となる場合もあり、来て頂くこと自体が目的の追悼公演や出版記念公演とは相性が合わず、劇場内で再演しようにも野外ならではの独特の演出があり、再演を最後まで見送った作品であった。
最終景でナースキャップにエタノールを注ぎ、火を着けて燃やす演出は、消防署管轄の解除申請の許可を得るのが難しく、詳細を記した綿密な資料と、それらの安全性を説明する手間を要した。
最終的に、ナースキャップからエタノールが零れない容量内で、安全で速やかに消火できる工夫を施すことが、最低限の必要条件とされた。
エタノールは僅か30mlが限度であった。
初演ではビン1本に満タン(150ml)のエタノールを注いでいたので、中央のテーブル盤面の全域にまで流れ出し、照明が消えると青い炎がテーブル全体を包み、それはそれは美しいかった。
敢えて言う、本当に凄かった!
劇場内では今回の炎が関の山である。
舞台美術とも相談し、テーブルの木製天板と金属板の間に発火防止の防炎シートを挟み、速やかに炎を消すために金属製の大型消火蓋を製作して貰った。
終演時にこの蓋で炎を消火する事を消防署で命じられ、図らずも野外で適わなかった完全暗転がアイホールでは可能となり、炎が消えた刹那、劇場内は闇に支配される。
冒頭は、まだ客入れの照明が明るい中、無言電話のベル音が鳴るところから始まる。
開演時、役者は既に四方の通路にスタンバイし、出番でない時も常に劇場内に居るようにと演出指示がある。
円形舞台で多用される演出に、役者をひと所に留まらせず、常に移動させることで役者同士の立ち位置が観客から重なることを避け、観客の視界を容易に確保できる演出法があり、この方法をベースに演出を着ける人が多く、使い慣れない円形舞台では安直ながら最も効果的である。
しかし大竹野演出は真っ向からこれを否定した。
一見、普通の会話劇のように作劇されているが、会話劇では表情が視認できないのは命取りになる。
観客が役者の表情を全て追いかける必要がないように、別のアプローチから作品を組み立てる。
まず観客に舞台を見せる事を辞め、その場で起こっている会話や事件を様々な方向から覗き見る目撃者になって貰う。
目撃者なので、全ての役者の表情まで視認する必要がない。
眺めるように目撃して頂ければ、必要な情報が全てカバーされるよう台詞が構成されている。
もちろん役者はそれぞれに演技をするので、座った座席により受け取る作品のイメージが違って来る。
これは面白いと思った。
見る角度により表情を変える芝居になっているのだ。
常に劇場内に居ることを強いられた役者たちは、出番でない時も観客の視線に晒されることになり、初演のラフレシアは円形にテントが張られて居るので、さながら鳥籠のようであり、そこから出ることを禁じられた出演者は、文字どおり籠の鳥となった。
アイホールでは、時間と予算の関係から、四方囲みの客席を採用し、鳥籠の再現までには至らないが、観客の視線に晒されるのに変わりはない。
保険金目当ての2件の夫殺しを描くのに、2つの事件を同時に進行しながら見せられるよう、ちょっとした仕掛けを施している。
2つの事件には実際には1年以上の時間差があり、これをタイムラグを埋めるため最初の被害者であるイケガミの夫を、妻にだけ見える幽霊にしてしまい、同時性を意識しながら2つの事件を進行させる。
結果的にイケガミの回想シーンのように描かれる殺人も、次なる事件にオーバーラップさせることで、より高い臨場感を獲得し、舞台に緊張感を張り巡らせる。
物語は終盤まで時間軸に添って進行し、このまま終了するかに思わせ、最終景の直前、4組の男女が回廊を廻りながら、後戻りの出来ない新たな殺人計画に赴く直前の場面で、最後にヨシダが吐く台詞が実に良く書けている。
共犯者の男に、次のターゲットにする看護師へ、毎日数十回の無言電話を掛けるよう要請する。
ここで初めて時間軸を遡り、冒頭のあの無言電話へと観客を引き戻す。
同時に次なるターゲットの登場は、新たな犯罪の始まりをも予兆させている。
過去とも現在とも取れるよう、巧妙に台詞を操っている。
実に上手い。
最も印象的なラストシーンでは、ヨシダがイシイに命じてナースキャップに火を放つ場面が、ヨシダに命じられてイシイが夫を殺すメタファーにも思え、怖ろしくも美しいシーンに仕上がった。
心の闇に唯一残った献身の象徴であるナースキャップに火を放ち、闇の中に妖しく燃える青い炎は、闇に抗う最後の小さな灯火となり、それもやがて消され広大な闇に全てが支配された時、夜ナク鳥の鳴き声が闇の中で悲しく響く。
これは完全暗転の適うアイホール用に、新たに追加した演出で、初演にはなく劇場で演るに相応しいエンディングであった。


【告知】
大竹野正典劇集成第郡が出版され、全三巻が揃いました。
くじら企画は、大竹野正典劇集成の出版に併催して、3回の出版記念公演を催して参りましたが、全集の完成と共に定期公演は終了となります。
今後の公演予定がなくなったので、ようやく完成した戯曲集を世に広め、販売するための最大の場を失いました。
全集の出版までは漕ぎ着けたものの、今後の販売促進に見通しは暗く、売れ行きも危ぶまれます。
そんな折り、昨年西成区にオープンしたパシフィックシアターから、素晴らしい提案を頂きました。
パシフィックシアターの協賛の下、9月より毎月2回、未確定の木曜日に「大竹野正典映像資料鑑賞の集い」を催すことになりました。
約2年を掛けて、大竹野が残した映像資料を、全て上映する企てです。
比較的最近の作品は、編集の上DVD化して販売しておりますが、1900年代の作品はホームビデオや固定カメラで記録用に録画された映像がほとんどで、画像も暗くノイズや画質の難もあり、とても販売できる代物ではありませんが、鑑賞は何とか可能ですから、大竹野家秘蔵のお蔵出し映像を、全て上映いたします。
大竹野作品を未だ体験されてない方に、是非ご覧頂きたく、上映するだけでなく解説や親睦会を併催し、出演者や関係者と直に話す機会を設け、作品に対するより深い理解を目論んだ長期上映会です。
しかも、前日までにメール予約すると、初回を無料、2回目以降は100円引きの特典付きです。
現在、9/11(木)19時から『サラサーテの盤』(於OMS、犬の事ム所1994.10)初演版、9/25(木)19時から『ドアの向こうの薔薇』(於OMS、犬の事ム所1996.8)初演版を、それぞれ上映することが決まりました。
近々、年内の上映日と上映作品が決定します。
乞うご期待!
以下、『夜会』のデータです。
奮ってご参加下さいませ。


大竹野正典映像資料
鑑賞の集い
「夜会」

会場:パシフィックシアター
開演:19:00(開演の15分前に受付開場)
内容:上映会+解説&トーク+親睦会
料金:600円(当日のみ)
予約特典:前日までのメール予約で、初回無料、2回目以降100円引き。

主催:くじら企画(仮)
協賛:パシフィックシアター
予約・問合わせ:eizo.shiryo@gmail.com

【ご案内】くじら企画『夜、ナク、鳥』&大竹野正典劇集成

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大竹野正典劇集成<>出版記念公演
くじら企画 最終公演
『夜、ナク、鳥』
作/大竹野正典
@伊丹アイホール
[1]7月19日(土)18:00〜
[2]7月20日(日)13:00〜
[3]7月20日(日)17:00〜
[4]7月21日(月祝)11:00〜
[5]7月21日(月祝)15:00〜※各回アフターイベント有り
[1]アフタートーク/ゲスト小堀純・深津篤史
[2]アフタートーク/ゲスト浦部喜行
[3]中日小宴会
[4]アフタートーク/ゲスト広瀬泰弘
[5]千秋楽打ち上げ
料金/
前売・予約:3000円
当日/3200円
中高生/1000円(要学生証)
※劇場で劇集成をご購入頂いた方は2500円

皆さま、お久しぶりです。
久々にブログを更新しました。
昨日、ウイングフィールドにて大竹野正典劇集成<>の出版記念パーティがありました。
受賞作を中心に最後の活動母体となった「くじら企画」期の戯曲8本を掲載した<>巻、二十代から三十代の「犬の事ム所」時代の秀作6本とエッセイ・寄稿文を編集した<>巻に続き、最終巻となる<>巻では「犬の事ム所」初期の作品3本に加え、他劇団への書き下ろし戯曲3本と公演チラシ・パンフレットに書いた文章、多くの舞台写真を採録いたしました。
初期作品からは二十代とは思えぬほどの作家として揺るぎなき視座を獲得していた事実に驚かされることでしょう。
3年を費やし、ようやく全三巻の出版を終え、全集の御披露目となりました。

醒めない<夢>の恐怖、笑いと毒が交錯する、幻影の家庭劇
大竹野正典の原点がここに在る(第郡、帯より)

内容/
「大竹野正典劇集成」完結に寄せて
・二階の人々
・笑箪笥
・一家団欒
・愛の棲家
・ダイヤモンドヘッド
・極めてガンダム〜玉造編
解説「大竹野正典の秘かな愉しみ」
公演チラシ・パンフレットの言葉
写真ギャラリー
お礼のことば

定価/2300円(税別)


5年前の海の日、尊敬する劇作家で演出家の大竹野正典氏が海水浴中の水難事故で亡くなり、その後有志が中心となり3回の追悼公演を催し、改めて氏の遺した戯曲の素晴らしさに触れて参りました。
これらの戯曲をこのまま埋没させてはならない。
そんな漠然とした思いだけで大竹野正典の戯曲集の出版を思い立ち、多くの方に働きかけ、編集者の小堀純さん、版元となってくれた松本工房さんの多大なる尽力で、大竹野正典劇集成全三巻の発刊が決まり、2012年7月に第鬼、昨年2013年7月には第挟と、毎年大竹野氏の命日に合わせ刊行して参りました。
毎年の出版に併催して出版記念公演を企画し、いよいよ本年の第郡をもって全集の完結となり、今回の出版記念公演が事実上くじら企画の最終公演となります。

くじら企画が最終演目に選んだのは、国内の戯曲賞での最高峰と名高い岸田國士戯曲賞の第48回最終候補作品に選出され、同年第11回OMS戯曲賞佳作受賞作品となりました戯曲『夜、ナク、鳥』で、大竹野正典の名を一気に全国へ知らしめた作品でもあります。
何度も再演の話が持ち上がりながら、なかなか実現に至らなかったのは、初演が2003年ラフレシア円形劇場祭への参加作品で、会場が野外円形劇場であり、劇中の最も象徴的な場面に野外劇ならではの演出で、舞台上にエタノールを撒き、これを発火させるシーンがあるため、一般の劇場では再演不可能と言われておりました。
それは劇場内で焚火をするに等しい行為ですから、劇場の許可と消防署の認可を簡単には得られない為です。
昨年の出版記念公演で、『ドアの向こうの薔薇』をウイングフィールドで終えた時、どうしても最終公演は『夜、ナク、鳥』を再演したいと、くじら企画は劇場再演難関の公演に向け動き始めました。
演劇ホールでなければ到底理解が得られぬ出火を伴う演出で、円形劇場の再現が可能、発火時に安全な高さを有すること。
この作品を劇場で再演するなら、関西では伊丹アイホール以外にはなく、アイホールほど『夜、ナク、鳥』に相応しい劇場はないとの結論に至りました。
幸いにもアイホールから限りなく初演に近い再演の許可を頂き、いよいよ最も難関と思える消防署の解除申請に取り掛かりました。
裸火や危険物持込みの解除申請は、30年の舞台監督経験からも手慣れた事柄で、追加事項や変更のない限り、通常1回の申請で済むのですが、前例のない大きな発火に対する解除申請に、再三の追加資料の要求と出頭を求められ、説明のため三度(内1回は舞台美術同行)の出頭は初めてで、ようやく申請書類の受理に至りましたが、最終的な許可は劇場に舞台装置を設えたのち、消防署員の立ち会いの下、実際に発火シーンを実演し、完全に安全性が認められなければ許可されず、実は今のところ仮認可なのです。
その辺りの結果がどうなったかも含め、この公演をお楽しみ頂ければ幸いです。
大竹野演出を丁寧に再現した、くじら企画の公演をご覧頂く最後の機会になるかと思います。
是非ご高覧頂きたく、お見逃しのなきよう、ご予約お願いいたします。

詳細は、くじら企画HP
http://www5c.biglobe.ne.jp/~kujirak/
チケット予約
PC→https://tickt.corich.jp/apply/54583/
携帯→http://tickt.corich.jp/apply/54583/
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