芝居屋さんプロデュース
別役実作品80年代
『トイレはこちら』
作/別役実
演出/田口哲
出演/田口哲・日枝美香L
添え唄/天満の哲
@音太小屋A
12/11(金)19:00〜
12/12(土)14:00〜、17:00〜


田口さんに請われて久しぶりに芝居屋さんの舞監をする。
二人芝居で別役氏得意の不条理劇は、観客にその真意は判らずとも、とても面白く喜ばしいささやかな1時間であった。
演者二人が良いのは言うまでもない。
しかし80年代に別役氏が描いた作品世界はメタファーに満ち溢れ、それに気付かずに終わるのはあまりに惜しいので少々解説しておきたい。

中央にベンチ、横に街灯の明かり、その前にみかん箱が在り、その上に首吊り用のロープが吊られている。
ここは音太小屋を出て右の道を進んだ先にある公園がモデルなのだと田口氏は言う。
普段は書かないが舞台進行を記す。
上手から女が人形を抱いて登場し、ベンチに人形と荷物を置いて、線香を灯しラジカセから葬送曲を流す。
女が自殺しようとすると男が登場し、商売を始めようとする。
訊けばトイレの場所を教えて100円を貰うのだと女に話す。
女はそんな商売は成り立たないと言う。
タバコを1本、男に貰って女が一口タバコを吹かすが、男はタバコは吸わないのだと言う。
自分はガンになりたくないので吸わないが、他人がガンになるのは構わないのでとタバコを持ち歩き、タバコを振る舞うのだ。
いよいよ首を吊ろうと、ラジカセのスイッチを男に頼むとラジカセが壊れて音楽が流れない。
代わりに葬送曲を唄えと頼む女。
葬送曲の代わりに「君が代」を唄う男。
唄いながらトイレを催し始める男。
それを見て女はトイレを促すが、しかし実際はトイレは存在せず、男の商売は実在しないトイレを教える詐欺であった。
仕方なく自宅に戻る男。
帰りがけに女に商売の代理を頼む。
上手く行くはずないと思いながら、ベンチに座っていると、衣裳を換えた男が登場し、トイレの場所を訊ねてくる。
こっちだとトイレを示すと、ありがとうと礼を述べ100円を女に渡して男は下手に去る。
自殺を止めて、正しい道を説くことに生き甲斐を見いだす女。
ここで芝居は終わる。

別役作品は様々なメタファーが施され、80年代には物品税の撤廃と消費税の導入が決まり89年から施行されました。
80年代の中盤は、消費税導入が決まるかどうかの動乱期でした。
またコンピューターの名前がマイコンからパソコンへと移行された時期で、自宅にPCを措く家庭がボチボチ出始めた時期で、87年の調査ではインターネットの普及率が日本で10%に達する。
インターネットが広まり始める時期ですね。
トイレの場所を教えて儲けるのは、情報がお金を生む予兆であり、しかもその情報が本当か嘘か解らないのにお金を払わされるインターネットに警笛を鳴らす作品でもあります。
当時は日本専売公社が経営するタバコ販売が85年にJTへと代わり、TVで頻繁にCMが流された時期でもあり、ガンになる可能性はあるが、国民が吸えば吸うほどタバコ税が徴収され日本が儲かる仕組みが確立され、女性の愛煙家が爆発的に増加した時期であった。
劇中でも女にタバコを吸わせる場面が挿入される。
更に得体の知れない物品税、のちの消費税をどこかオカシイと感じながらも、導入されて払わされる日本人の姿を描いている。
言うまでもなく男は国家、女は国民のメタファーである。
国民は首を吊るほど窮しているのに、更なる税制を押し付ける日本の姿を見事に映し出した作品です。
ラストでトイレを訊ねた男がすんなり100円出す姿は、未来の日本人の別役なりの予見であり、これも見事に的中させています。
この作品を見た誰もが100円を払う訳ないと思いながら、その実すでに払わされているのです。
葬送曲に君が代を唄わせる、女性にタバコを吸わせる等、別役の皮肉に溢れた一作でした。