99e179fd.jpg悪い芝居 Vol.11
明日のための紛失劇
『キョム!』
作・演出/山崎彬
@精華小劇場

まず、設定が面白い。
路上生活者の救済に、取り壊しの決まった小劇場を貸し与えられ、そこで暮らすことになった彼らは、屋根のある小劇場の舞台でも、相変わらずブルーシートで作ったテントや、廃材や粗大ゴミで造った荒ら屋で暮らしている。
そんな設定の中で、仲間の一人が何者かに滅茶苦茶に鈍器で殴打され撲殺される。
殺人事件が起こったあとの劇場に、容疑者が一堂に集められ、刑事がやって来るところから芝居は始まる。
回想シーンを挟みながら、事件のあらましを説明しつつ裁判仕立てで犯人を探る前半と、真犯人による犯行が起こるまでを丹念に描いた後半により構成された物語である。
と言うと刑事ドラマか推理小説のように感じるかも知れないが、後半を単なる回想劇にしない工夫があり、後半こそが現在の現時点、つまり今であり、前半は後日起こるであろう物語であることが明かされて行く。
この作品は後半こそがテーマであり、それを過去の問題ではなく、現在の問題として提起する仕掛けが非常に上手く新しい。
だが、この作品の本質は、劇中で描かれる社会問題ではなく、人間の、自分自身の存在意義にある。
もちろんホームレス問題もホームレス差別も、とても重要な社会問題である。
どんな環境にあれ、どのような人物であれ、人が人として存在した、生きた証を、この世の中に如何にして残すのか?
この作品は問題提起しているのだ。
それがしっかり伝わったなら、この作品は成功と言える。
もちろん物語はそこに収束して行くのだが、ラストはもっとたたみかけるように終わりたい。
高校生が娘の死を告げに来てからが長い。
全てを描く必要はない。
最もインパクトの強い場面の印象を薄れさせることなく、スピーディーに終わらせたい。

後半より頭角を表す路上生活者のリーダー格である北川大輔が非常に良い。
その巨体で作品を包み込むように、作品全体を支えている。
彼が代表を務めるカムヰヤッセンも、関西では類を見ない劇団なので、是非とも関西公演が望まれる。