岐阜農林高校(岐阜県)
『掌(たなごころ)〜あした卒業式〜』
作者/岐阜農林高校演劇部
出典/創作
演出/福島侑子

これほど素晴らしい作品が、高校演劇から生まれることを賞賛したい。
舞台は明日卒業式を迎える農業高校体育館の舞台、頭上には国旗が掲揚され、舞台中央に大きな演台が一つ置かれ、大黒が閉められている。
被災地を想定したエチュードを何度も繰り返し、幾多のシーンを作り上げ、そのほとんどを削除して構成された作品だと言う。
主人公は掌、登場人物たちの手のひらである。
手のひらには心がある。
手の心を「掌(たなごころ)」と言う。
掌は心なので思い出を持つ。
この作品は1年間の手の記憶を追いながら、エピソードを紡いだ構成で描かれる。
夜中の体育館に潜り込んだ男女4人は、卒業を待たずして退学し、母親の実家に引っ越した友達・明日香を待っている。
卒業式の前日に、明日香を交えてこっそりと卒業式をしようと考えたのだ。
だが当の本人は現れず、次々と珍客が訪れる。
ぶどうの精、うしの精、きゅうりの精が現れて、欠かさず手入れをしてくれた「手」に、出産する仔牛を取り上げてくれた「手」に、感謝を述べる。
これらの場面では大黒が開かれ舞台転換し、舞台は屋外となり大人数が右往左往し、動きのある場面が展開される。
静的場面と動的場面の移り変わりはスムーズで、コントラストが見事である。
文化祭では、ねぶた祭りをモチーフにした、素晴らしい演舞が披露される。
しかしこの文化祭の日、明日香は母親と実家に引っ越さねばならず、演舞を終えるや否や走り去る明日香を追って、駅に向かうクラスメートたち。
駅に立つ、花の咲かない桜の木を、卒業式に一緒に見る約束をして、明日香は母親の実家のある東北へと向かうのだ。
明日香の家はきゅうり農家である。
ここから先はきゅうりの精のモノローグにより語られる。
地震のこと、津波のこと、泥水に流される畑のこと、逃げる明日香のこと。
周りに広がる死体のこと、様々な物と、生き物と、生活と、街と、発電所の死体があったこと。
そしてそれ以降、明日香との連絡は途絶えてしまう。
これより一気にラストを迎える。
音響に関しては、命の音を示すタイコの響き、銀河鉄道を思わす踏切と列車の通過音が効果的に使われ、劇中に繰り返し挿入される2曲の歌は、サイモン&ガーファンクルの、奇跡が起これば恋人が戻って来ると、帰らぬ恋人を思う歌「スカボローフェア」と、松任谷由美の、愛と夢をくれた君を遠い春のようにずっとずっと待っている歌「春よ、来い」で、奇跡が起これば遠くに居る明日香が来ることを連想させ、果たしてラストシーンで窓から桜の花吹雪が舞い落ちるのだ。
照明は桜の花びらの降らしモノを照明で照らしたい。
ラストの場面は大黒に一旦戻し、音楽の入りと共に開ければより効果的であろう。
劇中に繰り返し使われる台詞「おそいよ、明日香」が、諦めや怒りから次第に感謝や喜びに転じて行く構成も素晴らしく、ラストシーンを忘れ難い名場面にしている。