HPF2016
淀川工科高校
『カノン』
作/野田秀樹
演出/柴田純
@シアトリカル應典院

今年の淀工は野田秀樹2000年の作『カノン』に挑む。
最近のHPF出場校の中でも出演者・スタッフワーク・演出がバランス良く、完成度の高い作品を見せてくれる演劇部の一つだ。
舞台美術は舞台中央に円形のメイン舞台、その両側は奥の二重舞台に繋がる曲面のスロープで、二重舞台の最奥に開閉する4枚の障子戸が設えられ、シルエットを浮かばせるスクリーンとなる。
淀工が最も得意とする舞台美術の構成で本作も演出されている。
初回でも安心して見ていられる安定感と、及第点以上の完成度は見事である。
暗転処理も素晴らしく、学内で大道具を組んで暗転中の動きまで入念に稽古されているのが窺え、大人数の登退場と舞台上の動線が上手く交通整理されている。
セオリー通りの照明は美しく、あらゆる場面に対応でき如才がない。
場面によってはシーリングを全く使用せず、シーリングの使い方をよく心得ている。
色遣いはアングラ色が強いが脚本には合致しており、正にお手本にすべき照明であるが、少しばかり冒険があっても良い。
想像以上の照明プランを見てみたい。
音響の選曲センス、効果音の選択、きっかけの取り方、劇場外で出来る作業は完璧に近い。
拝見した初回は音のレベルが大きく、両サイドのスピーカーに近い客席両端では音楽・効果音ともにセリフの声以上に音量が大きく、残念なことにセリフが聞き取れない。
音響のmaxレベルはスピーカーに最も近い座席で、minimumレベルはスピーカーから最も離れた座席でレベルを採るのがセオリーだが、淀工が知らない筈はないので時間的にサウンドチェックが出来なかったのであろう。
28日の本番には修正済みと思われる。
本作は野田秀樹の前世紀に培った様々な技法を集大成したような脚本で、野田秀樹のエッセンスが至る所に見受けられる。
ストーリーラインは平安時代を描いた芥川龍之介の「偸盗」を忠実になぞりながら、それの意味するモノは1960年代から72年あさま山荘事件までの学生運動とその鎮圧を図る公安警察との闘争の顛末である。
60年安保闘争から70年安保闘争へ向けて真の自由を求め加熱する学生運動は、60年代の終わりには全共闘や過激派による学園紛争へと発展し学生運動は最盛期を迎える。
国家権力を行使して学生運動の鎮圧を図る公安警察は、68年の三億円強奪事件を期に学生運動のアジトを根絶やしにすべくローラー作戦に出る。
三億円事件は犯人逮捕に至らぬまま時効を迎えた未決事件で、諸説ある犯人説の中に公安の自作自演説があり、学生運動鎮圧のためのローラー作戦を行うに当たり、三億円事件を大義名分に用いたと言う説で、盗まれた三億円には保険が掛けられていて、その保険会社も更に海外の保険を掛けてあるため、結果的に日本国内では誰一人も損をしなかった事件で、事件後に発見されたケースの中身は見事に空っぽで、最初から空だったのではとの噂が立った。
野田秀樹はこの説を劇中で上手く処理している。
かくして勢力の弱まった学生運動は次第に鎮火を始め、70年安保では反対運動も盛り上がらないまま収束し、いよいよ統括と称して仲間のリンチ殺人を行った連合赤軍の山岳ベース事件を経て、72年に山荘に人質を捕って立てこもり銃撃戦に至る、連合赤軍あさま山荘事件へと繋がる。
当時13歳で中学二年の私も、連日テレビで見たあさま山荘の映像を鮮明に覚えている。
68年に日大・東大全共闘結成・超高層ビル霞が関ビル完成・川端康成ノーベル文学賞・三億円事件。
69年は東大安田講堂事件・東大入試中止(68年から一連の東大紛争)・赤軍派結成・大菩薩峠事件。
70年には日米安保条約・大阪万博・よど号ハイジャック事件・三島由紀夫割腹自決。
71年に連合赤軍結成・72年まで続く山岳ベース事件。
72年に札幌オリンピック・あさま山荘事件。
高度成長第二期(65〜73年)の真っ最中にある日本を照らす光と陰を見るようで、世界的な祭典の裏側に世界的な大事件が起きている。
お互いを打ち消すかのような現代の明暗をハッキリと分かつ70年付近の日本は、非常に強烈かつ刺激的で興味深い。
野田秀樹も自らの原風景は60年代に在ると言う。
書き出すとキリが無いのだが、野田作品を紐解くのはそれほど難しくない。
作品のほとんどが何らかかの事件か歴史的事実や人物のメタファーであり、多くはどの時代にも通じる普遍的なテーマを軽快で巧みな言葉遊びに乗せて、幾通りにも解釈できるように創作されている。
しかし作品の端々にたくさんヒントが散りばめられていて、何作か野田作品を体験した観劇者なら何を取っ掛かりにしても必ず作者の言わんとすることに行き着く筈である。
本作ならドラクロワの名画「」から、或いは「じゆう」と「じゅう」の言葉遊びから、その時代に在るはずのない小道具や舞台美術、パンフレットの「60年代」と言うキーワード、等々。
話は変わるがパンフレットを見ると淀工は2月に大谷高校と合同で後藤ひろひと大王の『FOLKER』を演ったそうじゃないか!?
何故、誰も教えてくれない?
見たかったなぁ。